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インタビュー

「from ARGONAVIS」発のリアルバンド“GYROAXIA”がメジャーデビュー! Vo.小笠原 仁さんにミニアルバムの制作秘話や楽曲への想いを聞く

 2022年2月23日,ボーイズバンドプロジェクト「from ARGONAVIS」発のリアルバンド・GYROAXIAメジャーデビューミニアルバム「Freestyle」が,ユニバーサルミュージック Virgin Musicよりリリースされる。

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 GYROAXIAは,「from ARGONAVIS」に登場する5つのバンドのうちの一つで,実力主義のミクスチャー系ロックバンドだ。これまでプロジェクトの一環として,メンバーのキャラクターボイスを務める小笠原 仁さん(Vo.旭 那由多役),橋本真一さん(Gt.里塚賢汰役),真野拓実さん(Gt.美園礼音役),秋谷啓斗さん(Ba.曙 涼役),宮内告典さん(Dr.界川深幸役)によるリアルバンド活動が行われていたが,このたびついにメジャーデビューすることとなった。

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 4Gamerでは,メジャーデビューミニアルバム「Freestyle」発売を記念して,ボーカルを務める小笠原 仁さんへのインタビューをお届けしよう。各曲に込められた想いや,メジャーデビューという新たな一歩について掘り下げているので,ぜひ最後まで読み進めていってほしい。


「旭 那由多というキャラクターを “ひとりのアーティスト”として表現しました」(小笠原さん)


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4Gamer:
 まずはGYROAXIAのメジャーデビューが決まったときのお気持ちをお聞かせください。

小笠原 仁さん(以下,小笠原さん):
 声優として活動しているなかでは想像もしなかったことでした。何がどうなっていくんだろうって先行きが見えないからこその期待もありますが,GYROAXIAはまだまだ若い……若すぎるくらいのバンドです。荒波のなかで,自分たちがどういうふうに戦っていけるのか,新たな挑戦をどうやっていけるかということを,信頼のおけるチームの皆さんと考える毎日が始まったなと思っています。

4Gamer:
 メジャーデビューへのプレッシャーや,これまでとアプローチを変えたことによって,何か感じられた部分はありましたか。

小笠原さん:
 二次元コンテンツから出てきた音楽ユニットは,今の時代,そんなにうがった目で見られる云々はないと思うんですが,やはりプレッシャーは感じています。メジャーデビューのCDを出したら,これまでのファンの方以外の目に触れる機会が必然的に多くなると思うので。

 だからボーカリストとしてもっと成長したいって欲求がありましたし,REC(レコーディング)ではもっとやれることを増やして,那由多には合わないと勝手に封じ込めていた表現を引っ張り出そうと試みました。

 実際にやってみたら,「これいいじゃん。ちゃんとキャラクターだし,このほうが深みがあるじゃん」という気付きを得られたりもしました。そういう作業は今までにない時間だった気がします。歌唱という表現の側からお芝居を見直したというか。

4Gamer:
 結果的に,キャラクターの表現において多角的なアプローチができたわけですね。封じ込めていた表現を引っ張り出したということでしたが,レコーディングにはどのように臨まれましたか。

小笠原さん:
 これまでの楽曲はTVアニメーションの劇中歌だったり,アプリ(「アルゴナビス from BanG Dream! AAside」)なら1曲ごとに制作秘話などのエピソードがあったりと,それぞれが作品の内容と紐付いた分かりやすい役割があったんです。だから今までは役者として「ああいうストーリーだから歌い方はこうしよう」という組み立て方をしていました。

 今回のアルバムではほぼそういうものがないので,自分のなかの旭 那由多というキャラクターを“一人のアーティスト”として表現しました。彼が実際にアーティストとして存在していたら多彩な表現を使うだろうし,いったん自分自身の制限を解いて,やっていいことを増やそうと。

4Gamer:
 歌に関してはこれまでも “制限”のようなものはそこまで感じてはいなかったのですが,それをさらに打ち破ったということでしょうか。

小笠原さん:
 たしかに,今までもけっこう好き放題していたんです。というかそうしないと,GYROAXIAの楽曲は歌えないので(笑)。僕はカラオケでも全力で歌うんですけど,そうやって自分自身として歌うのと,那由多として全力で歌うものには,絶対に違いがないとおかしいじゃないですか。僕は那由多みたいな壮絶な過去を背負っていないし……。

 だから今までは“那由多の歌”という表現をするにあたり,一番大きな根っこのモチベーションを必ず入れ替えることを自分に課していたんです。

 僕が自分自身として歌を歌うとき,「歌うのが好きだな」「この曲かっこいいな」なんて想いがあるんですけど,那由多の場合はそういう気持ちはもちろん,根っこのモチベーションには怒りや悔しさ,どうしようもなく燃えてる感情があると思うんです。だからこそああいう曲が書けるし,ああいうパフォーマンスができるってことじゃないかなと。これまではその根っこの“入れ替え作業”をしていました。

 キャラクターコンテンツとしての歌に関しては,僕は絶対間違ってないし,いいパフォーマンスをするために一番いい方法を取れていた自信はあります。

4Gamer:
 ですが今回は,あえてその部分を変えたと。

小笠原さん:
 メジャーデビューに関しては,キャラクターよりもリアルバンドの僕らが見える割合が多いのかなという印象がありました。

 今回は自分で作っていた“那由多というキャラクターを出力するためのプロセス”に,もう少しだけ自分のエゴや自由さ,いろいろな選択肢を取り入れて,もっと“生”が感じられる味わいにしたかったんです。すごく噛み砕いた言い方をしてしまうと,初めてこのアルバムの曲を聴いた人には,キャラクターソングっぽいと思われないものにしたかったところもあります。北岡さん(音楽統括プロデューサー)の考えもずっとそうだったと思います。

 ただもちろん,これからもキャラクターを背負っていくことは変えないつもりだし,変えてしまったら僕はたぶん,GYROAXIAのパフォーマンスができなくなってしまうと思います。

4Gamer:
 今回のアルバムを一足先に聴かせていただいて,個人的に一番感じたのは“完成感”でした。これまでも素晴らしい楽曲ばかりでしたが,このアルバムはことのほか洗練されたイメージがあって。もしかしたらそれが,目指していたメジャー感のようなものかもしれませんね。

小笠原さん:
 うれしいです。

音楽統括プロデューサー・北岡那之氏(以下,北岡さん):
 より実在の“アーティスト感”が出ましたよね。

4Gamer:
 そうです,そうです。

小笠原さん:
 今までのRECで,自分が「ボーカルワークは良かったけど,今のは那由多じゃなかったかも」と感じたときは,もう1回寄せて歌ってもいいですかとお願いしていました。でも今回はそういうことを一切しなかったんです。何かもう,根っこが同じであれば那由多に聴こえるだろうし聴こえてくれと。実際自分で聴いてみて,ちゃんと那由多だと感じられたので良かったなという気持ちです。


小笠原さんが語る,
GYROAXIAデビューミニアルバム「Freestyle」全曲解説


4Gamer:
 今回リリースされるミニアルバムのコンセプトについてお聞かせください。

北岡那之プロデューサー(写真は以前のインタビュー記事より
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北岡氏:
 GYROAXIAが(作中で)「ライブ・ロワイヤル・フェス」の優勝者となり,勝者がゆえの強者感をこのアルバムで表現したかったのが一つです。

 あとはやはりメジャーということで,よりキャラクターコンテンツから飛び出したような音楽性ですね。キャッチーさを追求するというよりは,音楽的に多彩なアプローチでアルバムを1枚作りたいと思いました。

 「DANCING PARANOIA」以外は,このアルバムのための完全書き下ろしとなっています。

4Gamer:
 続いて,アルバムに収録された全5曲のお話を詳しく伺っていきたいと思います。

Freestyle
作詞:山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)
作曲・編曲:山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)/山岸竜之介

小笠原さん:
 この曲は初めて山中さん(THE ORAL CIGARETTESの山中拓也氏)に書いていただいたんですが,最初にデモで聴いたとき「なるほど,こっちの一面のGYROAXIAか」と,いい意味でスッと入ってきました。サビでは今までどおりに力強い那由多が感じられましたし,とはいえ歌詞を見ると,これまでの那由多ではあまり見せてこなかった,官能的な部分があったりするんです。

北岡氏:
 アルバム表題曲であるこの曲は色気が1つのテーマとなっています。今までの小笠原さんの歌唱より,さらに新たなアプローチをしてほしいとは話していました。

GYROAXIA「ONE」
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小笠原さん:
 GYROAXIAで最初にリリースしたアルバム「ONE」でメインの方向性としていたのが,「MANIFESTO」とか「WORLD IS MINE」といった感じの,ゴリゴリに攻めたロックサウンドでした。でもそっちじゃなくて,ダンサブルな「GETTING HIGH」「LIAR」に近い楽曲がこのメジャーデビューアルバムの表題曲になることで,やれることを増やしていいし,自由にやっていいんだってあらためて思いました。

 実際,RECの現場で北岡さんに方向性を相談したときには「いったん全力でやってもらっていいですか」とおっしゃっていただいたんです。全力で色っぽくして,ダメだったら削りましょうと。逆にもう,GYROAXIAのRECは全力でやってしまっていいんだなと思ったし,そのあとの楽曲の指針にもなりました。

 なので僕がこの曲のREC中に気にしていたことは,そんなになかったかもしれないです。曲のグルーヴを感じて,ここは激しく,ここは静かに色っぽく……みたいに,やりたいことをとにかく突っ込んで,それを微調整していきました。

4Gamer:
 これまでのイメージも踏襲しつつ,新たな挑戦を感じられる楽曲ですよね。具体的に歌詞やメロディで印象に残っている部分はありますか?

小笠原さん:
 個人的に,「革命の Freestyle/まだ鳴り響くFreestyle/始まりの音が」という歌詞にすごくグッときました。メジャーデビューで新天地に一歩足を踏み入れた那由多にとっての“初めての音”は,今は憎んでいる父親(世界的に成功した日本人バンド,SYANAのVo.伊龍恒河)の音楽なのか,それとも自分が最初に作った歌なのか……新たなスタートの1曲目でありながら,彼のルーツに思いを馳せられるなと。

 ここはこの曲の全体をとおして唯一,色気じゃなくて“inside me”な感じというか,エモさみたいなものが表現できたらと思いながら歌いました。

4Gamer:
 たしかに「始まりの音」というキーワードは,いかようにも解釈できますよね。

小笠原さん:
 そうなんですよ。彼にとっての始まりの音って何だろう? ですし,始まり自体がどこを指してるのか? という考え方もできます。今までGYROAXIAを応援してくださった方にとってもそんなふうに感じられるだろうし,すごくいいなと思いました。

 もちろん曲全体の歌詞も,今までのジャイロの色をしっかりと残しながら新たなエッセンスが加わっていて……上からな言い方かもしれませんが,山中さんの技術や理解がすごいなと。それを感じて,あらためて感激しました。

4Gamer:
 先ほどこのアルバムに「洗練されたイメージ」があったとお伝えしましたが,とくにこの曲にそれを感じました。ジャイロが一段上に進んだ感じというか。

北岡氏:
 山中さんには作曲だけでなく,楽曲プロデュースという形でも参加していただいたんですよね。レコーディングミュージシャンからエンジニア,ミックス周りも山中さん側に組んでいただいたところもあるので,そう感じられたのもあるかもしれません。あと実はこの曲は,ジャイロの楽曲で初めて小文字が使われたタイトルなんですよ。

4Gamer:
 たしかにそうですね! 今までタイトルの英単語はすべて大文字でしたが,何か理由があるのでしょうか。

北岡氏:
 曲名で時系列が分かったらいいなと思ったんです。「小文字が使われるようになったのはジャイロのあの時期だよね」みたいな。

小笠原さん:
 めちゃくちゃ分かります! その感じ。

北岡氏:
 今まで制作の方には,曲を作っていただく前に「大文字で」と指定させていただいたんですけど,DOESさんの「火花散ル」で日本語タイトルを初めて出したあとは,とくに指定をしないでいたんです。そうしたら今回,「Freestyle」はこの表記がいいと。それがうまくハマるなと思ったんですよね。ちなみに2曲目の「DANCING PARANOIA」はこのアルバム制作前に作られた曲でしたし,「NEW ERA」はもともとすべて大文字でした。

4Gamer:
 そこまでこだわっていたんですね……。でもたしかに「Freestyle」という単語自体は,小文字が入ったほうがおさまりのいい感じですよね。

北岡氏:
 そうなんです。

小笠原さん:
 「最初のころのジャイロの曲名って全部大文字だよね」みたいなことをファンが言うって,すごくリアルバンドっぽくていいですよね。

4Gamer:
 これはまた新たに解釈が捗りそうな話ですね。

DANCING PARANOIA
作詞:吾龍
作曲・編曲:神田ジョン

4Gamer:
 この曲はメジャーデビューのお話が出る前に作られたとのことで,すでにライブでも2回演奏されていますね。

北岡氏:
 初披露が札幌公演(2021年9月26日「GYROAXIA LIVE 2021 -火花散ル-」),2回目が先日の合同ライブ(2022年1月2日「ARGONAVIS 1st LIVE -始動-」)でしたね。実はこの曲の基になるdemoは,「GETTING HIGH」と同じ時期にアプリ用の曲として作っていたんです。

小笠原さん:
 個人的にも存じ上げていた神田ジョンさんの曲ができましたよって聞いたとき,マジか! という喜びとともに,「これはギター2人が大変な目に遭ってしまう」と思いました(笑)。結果的にはリードギターの橋本真一くん(里塚賢汰役)と,ベースの秋谷啓斗くん(曙 涼役)がそうなったんですが。

 ファンの方の間でも,とくにライブで好まれている「GETTING HIGH」や「LIAR」と同じカテゴリの新たな,かつ正当進化した楽曲です。なのでデモを聴いたときからライブで披露するのが楽しみでした。ただやっぱりGYROAXIAの曲は,あの……どこで息継ぎすれば? っていう,ボーカロイドかなと思うくらいの難しさがあるんです(笑)。

4Gamer:
 すさまじい高速ラップがありますよね。

小笠原さん:
 曲を作ってくださる方が違っても,やっぱりジャイロの音楽はこうなんだなと。でもこの曲を録ったのがちょうど「BREAK IT DOWN」とか「BURN IT UP」のあとだったので,ああ,久しぶりにこの感じがきたな! と気合が入りました。自分の血圧を上げ,心拍数を上げ(笑),最初からフルテンでRECに臨みました。

 メッセージとしては,若干くだけた感じの「WORLD IS MINE」という印象があります。言っていることは,今までどおりの旭 那由多の強いメッセージというのは変わらないけど,それがこういう賑やかなサウンドに乗っているのが,新たな切り込み方ができそうだなと思いました。

4Gamer:
 具体的に印象的なフレーズなどはありますか。

小笠原さん:
 この曲のなかでは,2-Bのラップの「G×Y×R×Oが斬り込んだOn this stage」のところが一番好きです。ここを聴いたとき,ライブでメガホンを持って観客に向けて宣誓している絵が浮かんできたんです。すごくかっこいいなと思いましたし,そのイメージは実際のライブパフォーマンスにも活きていると思います。楽器隊の消費カロリーも非常に高い曲なので,みんな並々ならぬこだわりを持って演奏してくれてます。

4Gamer:
 ライブで初めて聴かせていただいて,ついにこんな難度の曲をやるようになったんだなと思いました。実際に歌ってみていかがでしたか?

小笠原さん:
 しんどいです(笑)。ボーカルも死ぬ思いをしながら歌ってました。ジャイロには自分のなかで「超えなきゃいけない課題曲」が毎回あって,一番最初が「SCATTER」でした。その次が「LIAR」で,そのあと少しおいて「火花散ル」になって,そのあとにこの「DANCING PARANOIA」がきたなと。これらの曲たちは,もっと練度を上げていきたいって思ってます。

 でも初めて札幌ライブで歌ったとき,演出がめちゃくちゃ良かったんです。自分でもあとから配信で観たんですが,ミラーボールが効果的に使われていて,「うわ,照明かっこよ!」って。ステージの演出も含め,あらためてジャイロはいろんな方に支えていただいているなと思いました。

4Gamer:
 どれもそうですが,とくにこの曲はライブで“映え”ますね。

小笠原さん:
 全パート目立つポイントがありますし,かっこいいですよね。あとこの曲では真野拓実くん(美園礼音役)が,1-Bの歌詞の「超新星爆発!」という部分を練習中いつも一緒に言ってます。何か好きらしくて。

4Gamer:
 では次のライブで注目しましょう。

小笠原さん:
 ライブのときも言うかは分からないですけど,「『超新星爆発』好きなんだよな〜」ってずっと言ってます(笑)。

Existence
作詞:Hayato Yamamoto/JAKAZ
作曲:MEG/Naoki Itai 編曲:MEG

小笠原さん:
 これは僕が歌詞の変更をごねた曲です(笑)。別のところでもお話ししたんですが,最初にデモを聴いて,すごく好きな曲だと思ったんです。「IGNITION」とか「FAR AWAY」系統の,旭 那由多ってキャラクターをより深く掘り下げる曲だなと。だからやりがいがあるなと思ってドキドキワクワクしてました。

 なかでも一番気に入ったのが,サビの「ナニモノかなんてどうでもよかった The rest/ただ挑んで 挑んで」の部分だったんです。父親を超えたい,超えてやるという一心で音楽をやってる彼が「ナニモノかになるこだわり」に触れるのって……彼のキャラクター性から言えば,絶対にセリフとして出てこないはずなんです。

 サビのメロディに乗ってこの言葉がくるのが本当に好きだし,いいなと感じて,家で涙ぐみました。デモの仮歌もめちゃくちゃ良かったんですよ。

小笠原さん:
 仮歌がすごく良くて,普通に外を歩くときのBGMとしてずっと聴いてました。それでRECに入る前,北岡さんに「『Existence』のデモすごく良かったです,歌詞も……」と伝えたら,「実は一箇所だけ歌詞を変えるか迷ってる」と。

 どの部分か聞いたら,よりによってその一番刺さった部分で。代わりに考えてらした歌詞もすごく良かったんです。「でも……! あれが……好きなんですっ……!」と訴え続けたら,変更はなしになりました(笑)。

4Gamer:
 そうだったんですね。歌詞の変更を検討されたのはなぜですか?

北岡氏:
 キャラクターを考えると,やっぱりちょっと内面が出すぎているかなと思いまして。2パターンの歌詞を用意してコンテンツチームでも話し合いました。解釈として誤解を招かないのは変更しようとしているほうだなと思ったのですが,元の歌詞も決して間違ってるわけじゃないし,表現する人の意志を尊重したい……ってことで,変更しないことになりました。

小笠原さん:
 アーティストとしての彼の本心じゃなくて,人間としての本心が見える瞬間って,今までの曲のなかでもそう多くはなかったので。基本的にはアーティストとしての顔が見えるべきなので当たり前なんですけど,この曲のその部分は,そういう意味でもすごく味わい深いと思いました。

 あと,この曲はサウンドもすごく好みでした。儚いけどちゃんと力強くて,足元はおぼつかないけどちゃんと前に進んでる感じというか。ラスサビの最後に,1サビや2サビとまた違ったメロディとフレーズがドンって入ってくるんです。「自分自身が 信じ続ける限り/その灯 (ひ) は消えない/My existence」っていう。

 その言葉で一気に,今までのように力強いメッセージを伝えるジャイロに引き戻される感覚があって。すごくいい流れが感じられるすてきな曲だなと。

4Gamer:
 こうしたお話を聞くと,キャラクターコンテンツの歌として実にこだわりぬいて作り込まれていることに驚きます。ジャイロの曲へのこだわりや想いは,キャラクター個人の歌ではなくバンドであるから,という部分もありますか?

小笠原さん:
 仮歌を聴いて歌詞と譜割が入りきったら,あとはインストをずっと聴く作業に入るんですけど,そこで「今,この音をあのキャラが弾いてるんだ」とか,ほかのパートのメンバーのことを考えるというのはたしかにしています。この曲もライブで演奏するのが楽しみです。聴いてくれる皆さんも,一発で大切な曲になってくれるんじゃないかって思います。

Dawn
作詞:SHiNNOSUKE(ROOKiEZ is PUNK’D/S.T.U.W)
作曲・編曲:冬真

小笠原さん:
 これは,Fantôme Irisのリアルバンドでサポートメンバーを務めていた冬真さんに作曲と編曲をしていただきました。最初にデモを聴いて思ったのは,「ああ,冬真さんにとっての我々GYROAXIAはこういうイメージなんだな」ということでした。その感覚がすごくうれしかったです。

 おそらく制作側からもいろいろオーダーはあったとは思いますが,僕が練習で歌ってみたとき,これまでのジャイロの曲の感覚とまったく同じでストンと入ってきて。冬真さんがジャイロのことをすごく分かってくださっているのが音から伝わってきたんですよね。

 僕自身は今までに音楽経験がほとんどない人生だったので,なかなか得られない感覚だったと思います。こういうこともあるんだっていう初めての感覚,気付きが大いにありましたね。

 歌詞のほうもSHiNNOSUKE(ROOKiEZ is PUNK'D, S.T.U.W)さんが書いてくださっているだけあって,泥臭くもずっとチリチリと燃えて煮えたぎっている旭 那由多像がしっかりと出ているなと思いました。歌詞の表現でいえば,どう歌うかを一番考えた曲かもしれません。

4Gamer:
 具体的にはどのようなことですか。

小笠原さん:
 那由多が曲作りをしている映像が,ずっと脳裏に浮かんでたんです。明け方の薄暗い部屋で,パソコンか紙に向かってずっと何か書いてる姿が。でもうまく行かなくてシャープペンを破壊したり,いったんヘッドフォンを外して,にゃんこたろうを膝に乗せたりしてる姿が見えました(笑)。

 この曲には今のご時世の閉塞感からの解放や,夜明けというメッセージも込められているんです。それが,何もかもうまくいかないいら立ちを1人で感じてる那由多と重なりました。そうした受け止め方を,1-Aからサビの直前までの表現の土台にしました。

 「FAR AWAY」を録ったときも“脳内GYROAXIA”における那由多1人の時間は長かったんですけど,「Dawn」がこれまでで一番長くなったかもしれないです。でも「待ち望む明日照らす/wating for sunrise」で窓が少し明るくなってきて,サビに入ってバンドのメンバーが現れるみたいな。

4Gamer:
 とてもよく伝わります。

小笠原さん:
 彼の魅力は,暴君でやりたい放題だと見せかけて,実は自由度が低いところだと思うんです。何かを表現するために音楽でしかできない,全然自由じゃないキャラクターだというところが僕はすごく好きなんです。

 話が少しさかのぼりますが,そういうなかでアルバムの表題曲が「Freestyle」というタイトルだったのを見て,これはちょっと面白い表現ができそうだなと思いました。本当に不自由なキャラだけど,そのキャラがやる自由さって何だろうと。

 実は「Dawn」にも「get freedom」って言葉があるんです。これは彼の怒りの表現というよりも,手に入れたいけどどうにもならない焦燥感みたいなものなのかなと思い,ボーカルで表現しようと思いました。結果的に自分がやりたかったことはできたかなと思いますし,僕が込めたニュアンスを,曲を聴いた方が新たな那由多の表現として受け取っていただけたらうれしいです。

4Gamer:
 タイトルどおり,夜明けの時間に聴きたくなりますね。ちなみに,この曲のように作詞者と作曲者が異なる場合,歌詞と曲はどちらが先に作られているのでしょうか。

北岡氏:
 曲が先ですね。今までにも歌詞が先だったことはないんですよ。基本は曲ができたあと,そのイメージに合わせて歌詞を作っていただいています。

NEW ERA
作詞・作曲・編曲:TAKE(FLOW)

4Gamer:
 そしてラストは「NEW ERA」です。この曲はまずタイトルを聞いて,「MANIFESTO」「WORLD IS MINE」という“宣言”を経て,ジャイロがついに“新しい時代”(「NEW ERA」の訳)を作ってしまうのか……と思いました。

小笠原さん:
 このタイトルにふさわしい曲だし,TAKE(FLOW)さん,すごいなってあらためて思いました。

北岡氏:
 TAKEさんが,これまでにASH(ASH DA HERO)さんがジャイロの曲で書かれた歌詞を引用してくださってるんですよね。

小笠原さん:
 めっちゃ研究したとおっしゃっていました。ジャイロのエッセンスがたくさん散りばめられていて,すごく愛を感じました。これはSNSでも触れたんですけど,デモを聴いて最初に思い浮かんだのが,富士急の「JUNCTION A-G」ライブ(2021年5月)だったんです。

 とくにイントロとサビのギターサウンドで,あのときの夕暮れを思い出して……エモい曲だって思って,すぐ北岡さんに感想を言いにいきました。僕,ジャイロのなかで一番好きかもしれないですって。それくらい自分のなかに思い起こされる感情が多かったです。

 それでいよいよRECだというタイミングに,TAKEさんがSNSで「この曲は去年の『JUNCTION』のことを思いながら書きました」とコメントしていて,本当に驚いたんです。



4Gamer:
 それは驚きますね!

小笠原さん:
 そんなにフィーリングが通じ合うことあるんだ!? って思いました。TAKEさんはRECにもディレクションで立ち会ってくださったんですが,歌い終わりの間奏あたりでイメージを話してくださったんです。

 「ここでね,日が暮れて雲が流れるじゃん」と言われて,「いや分かる! 流れてる! 雲!」ってなりましたし,「雲間から夕日が差してるじゃん」と言われたら「差してる! 横からスモークが焚かれて橋本真一くんがシルエットになってるわ〜!」となりました(笑)。

 そういえばRECでブースに入ったとき,空調が効いてなかったんです。ガタガタ震えるほどじゃないけど,寒いから空調をつけようとしたんです。でもふと,「JUNCTION」のとき肌に感じた空気の温度に似てるかもって思って,そのまま最後まで歌いました。あの空気感を思い出せるかなって。

4Gamer:
 涼しい風が吹いて,気温が少し下がった感じですね。

小笠原さん:
 音楽って感情やイメージを伝えるみたいな概念があるのは理解していたんですけど,こんなにもはっきりと共有できるんだと,その感動が凄まじかったです。だからこそ歌に関しても,迷いは一つもなかった気がします。「JUNCTION」のあの空気を思い出しながら,夕日を思い出しながら一つ一つの言葉に表現を込めて……。

 だから“新時代を作るぜ”って曲ではあるけど,やっぱり原点はあの日の気持ちみたいな作り上げ方ができました。たぶんTAKEさんが最初に作ろうとした雰囲気よりも,さらにパワフルになったんじゃないかと思います。

4Gamer:
 力強い曲ですよね。歌詞やサウンドで具体的に好きな部分はありますか。

小笠原さん:
 ジャイロの曲では初めてだと思うんですけど,「NEW ERA」はサビに入って最初に聴こえる音が那由多の声じゃないんです。「灯して 灯して 心の明かりを 歌声響かせ」のあと,サビの頭が歌じゃなくて楽器隊の演奏なんです。その感覚がすごく好きで。

 「響かせ〜」のあと「はいお前ら!」となって,メンバーの音のあとに「I cause a revolution」へつながる感じが,良い〜!!!!!!! ……と,デモをもらってから数か月ずっと思ってます。

4Gamer:
 なるほど。

小笠原さん:
 バンドでは普通にあることだと思うんですが,那由多がサビの頭を仲間に託すことがファン目線で見てもすごくいいし,演じている者としても,「そんな……お前!」と頭を抱えました。ギターとベースとドラムが作り上げたサウンドが,さっきも言っていた「JUNCTION」でお客さんを巻き込んだ熱狂の嵐みたいな感覚を想起させてくれて。音楽ってすごいなって思いました。

ARGONAVIS LIVE 2021 JUNCTION A-G(2021年5月30日)
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4Gamer:
 先ほどジャイロ初期,中期みたいな話がありましたが,初期の彼らだったら出てこなかった曲かもしれませんね。

小笠原さん:
 今だからこそ,より味がある曲になるんだろうなって思います。「NEW ERA」はとくにそうかもしれない。

4Gamer:
 これもライブでの披露が楽しみな1曲ですね。

小笠原さん:
 いやー,楽しみですね! やっていて自分で勝手に痺れてそうだな(笑)。


GYROAXIA初の実写MV「Freestyle」
〜今後の夢について


4Gamer:
 この記事が出るころには公開されている,「Freestyle」の実写MVについてお聞かせください。実写MVはGYROAXIAとしては初ですよね。

小笠原さん:
 はい。メンバーみんなもあまりない経験だったので,試行錯誤しながら撮影しました。でも本当に映像のプロの方たちはすごいなと思いました。

4Gamer:
 それはどういったところですか。

小笠原さん:
 いろいろと撮影したものを,あとでつなぎ合わせてエフェクトを付けるなどの工程を経て作品が組み上がってくると思ってたんです。でも,撮影した映像をその場で確認した時点で,何かもうクオリティ的に出来上がってるんです。すごく寒い倉庫で撮ったんですが,カメラ外ではみんなでダウンコートを着て温まりながら,「本当にすごいね!」と感じ入ってました。

 GYROAXIAは今までに楽曲,ボイスドラマ,ゲーム,アニメ……といろいろなかたちで表現させていただいてきましたが,実写MVは初めてなので,この形態で伝えられるバンドのイメージをすごく考えました。リアルバンドのGYROAXIAが世に出すかっこいい姿が,バシッと伝わる作品になっているんじゃないかと思います。

4Gamer:
 今回のアルバムもそうですが,もう本当にいわゆる普通のアーティストというか,バンド感がありますよね。音楽専門チャンネルで流れていてもまったく違和感がない感じです。何も知らずにMVを見て,バンドとしてファンになる方も生まれるんじゃないでしょうか。

小笠原さん:
 初見の方にはもちろんですし,今までGYROAXIAを応援してくださっていた方にとっても,見ごたえの塊なんじゃないかなと思います。僕らも撮影のときはキャラクターとしての意識ももちろんあったんですけど,とにかく「かっこよくいこう!」みたいなその一心で。とにかくいい瞬間をカメラにたくさん収めてもらうつもりで挑みました。たくさんの方に喜んでいただけたらうれしいです。


4Gamer:
 メジャーデビューという新たな一歩を踏み出したGYROAXIAですが,あらためてこれからの夢や目標をお聞かせください。

小笠原さん:
 この「from ARGONAVIS」プロジェクトで,他のバンドと一緒にリアルバンドとして活動させていただいて,チームの皆さんにも恵まれ,すてきな曲をたくさん作っていただいてきました。僕たちの活動がもっともっと広く知れ渡ってほしいと,すごく純度高く思っています。

 コンテンツとしてのライブももっとしていきたいですし,対バン形式など新たなアプローチでのライブもしてみたいし,いわゆる外部のフェスだとか,ライブイベントにもどんどん出ていきたいです。メディアミックス作品の歴史から見ても,メジャーデビューってあまりない事例だと思うんです。

 かっこいい言い方をさせていただくと,この道のパイオニアとして恥じない,堂々とした活動をしていきたいと思ってます。あと,ちょっとやりたいなと思っているのはGYROAXIAのアコースティックライブです。

4Gamer:
 いいですね。以前にライブの1コーナーとしてはありましたが,さらにいろいろな曲を聴いてみたいです。

小笠原さん:
 伊藤くんと日向くん(ArgonavisのVo.伊藤昌弘さんとGt.日向大輔さん)がアコースティックツアーをやってましたけど,あの2人はもう経験が飛び抜けているので(笑)。あそこまでの公演数とか曲数はできなくても,ジャイロのアコースティックライブはやってみたいです。

 それと,初めてワンマンライブをやらせていただいた新宿BLAZE(2020年9月「GYROAXIA ONLINE LIVE -IGNITION-」)で,この状況が落ち着いたらぜひ有観客ライブをしたいです。この密かな想いが,隣で聞いてくださってる北岡Pの記憶に留まればいいなと(笑)。

「GYROAXIA ONLINE LIVE -IGNITION-」(2020年9月12日)
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4Gamer:
 そうですね。ではせっかくなので,北岡さんからも今後の目標をお話しいただけますか?

北岡氏:
 声出しライブは早くやりたいですね。これはもう,ライブやイベントに関わるすべての人が感じていることだと思います。あとは入り口がたくさんあるのがメディアミックスのいいところなので,GYROAXIAにはアーティストとしても,キャラクターとしてもたくさんの方に愛されてほしいです。

 すごく具体的な目標でいえば,バンドとしてはドーム公演です。やっぱりドームができるバンドは夢ですね。あとはフェスも含め,コンテンツ外のアーティストさんたちのバンドと対バンしたいですね。そのチャンスがあるラインまできていると思うので。

4Gamer:
 おっしゃるとおりですね。今後を楽しみにしています。

北岡氏:
 活動はなかなか大変なのですが(笑)。演者さんにかかる負荷がすごいんですよね。

小笠原さん:
 そんなことないですよ!

4Gamer:
 でもきっと,やりがいはありますよね。

小笠原さん:
 やりがいの塊ですよ! そもそも同じ役をこんなにいろいろな角度からやらせていただくことなんてないし,それだけで幸せです。曲もかっこいいし!

4Gamer:
 これからの活動も期待しています。それでは最後に,読者に向けてメッセージをお願いいたします。

小笠原さん:
 GYROAXIAがついにメジャーデビューということで,新たな挑戦の機会をたくさんいただいたので,僕らもそれを恐れず,毎回いろいろなことにチャレンジしていけたらと思います。

 メディアミックスプロジェクト発のバンドという存在の面白さは,この作品の大きな武器だと思っているし,それを絶対忘れたくはありません。どこまでも虚構だけど現実。創作だけど本物みたいな,そういう不思議な世界にお客さんを巻き込んでいく活動ができればと思っています。

 作品やキャラクター,音楽としっかり向き合いつつ,これまで応援してくださった方はもちろん,初めて知ってくださる方にも一発で「おっ,あいつらかっこいいじゃん!」と思ってもらえるような奴らになっていきたいです。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。ここまで読んでくださってありがとうございました!

4Gamer:
 ありがとうございました!

――2022年1月27日収録

「from ARGONAVIS(メディアミックスプロジェクト)」公式サイト

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