プレイレポート
[プレイレポ]インド発の「Fishbowl」が描く,コロナ禍で誰もが感じていた“孤独”と“不安”。ある21歳が過ごしたロックダウンの1か月間を体験する
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開発のimissmyfriends.studioは,Rhea Gupte氏とPrateek Saxena氏の2人によるチームで,インド・ゴアを拠点に活動している。
また本作は,ソニー・インタラクティブエンタテインメントがインドの有望な開発者やコミュニティを支援する「PlayStation India Hero Project」に選出されており,リリース前から「SXSW Sydney 2024」ゲーム部門でWINGS Awardを受賞するなど,注目を集めていた。
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本作は,コロナ禍における初期のインドを舞台に,21歳のアロとして過ごす1か月を描いている。
パステルカラーのドット絵で綴られるのは,あの時,誰もが多かれ少なかれ抱いていた“孤独”と“不安”,そして“つながり”の記憶である。本稿では,本作が伝えてくれたそんな「思い」をお届けしよう。
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家族と遠く離れた街で,奪われる日常
時は2020年の春先。コロナ禍の影響で始まったロックダウンにより,主人公のアロは引っ越してきたばかりの街で,自室にこもって過ごすことになってしまう。
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そんな折,故郷にいるアロの母親は,亡くなった祖母・ジャジャの遺品を整理すると言い出した。
大好きだったジャジャの遺品をそのまま捨ててしまうのはよくない……そう感じたアロは,捨てられるはずだった品々を自分の部屋へと送ってもらうのだった。
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山のように届いた箱を開けると,そこには祖母との思い出がたくさん詰まっていた。久しぶりに再会した,懐かしいおもちゃの金魚鉢(フィッシュボウル)と,その中にいるしゃべる金魚パプレットとの「おはなし」が,凍てついたアロの心を少しずつ溶かしていく──というのが,物語の導入だ。
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本作のゲームプレイは,在宅ワークである「動画編集」と,日々の生活を繰り返しながら物語を読み進めていくというもの。「B-roll」や「グラフィック」「画像」など,素材をリアルタイムで仕分けていく動画編集の仕事は,それなりに単調で,かといって適当にやるとミスするような「仕事」らしいさじ加減だ。
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上司のアイリスやメグゾーノからほめられても,彼女たちの言葉はおそらく新人を気遣うものでもあり,どこか「空転した言葉」にも思える(実際スジは悪くないのかもしれないが)。正直なところ,これを1か月繰り返すのは,ゲームとしてはかなり作業感が強い。
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また,シャワー,トイレ,歯磨き,掃除,洗濯,料理,食事,洗い物……といった「生活」をするためには,何ステップものボタン入力を必要とする。なかなかに大変だが,実行するとアロの精神状態を示すゲージをわずかに回復できる。
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筆者はゲームを進めていくなかで,これまで遠い存在に感じていた「風呂キャンセル勢」「食事キャンセル勢」などの心情をうっすらと理解できてしまった。
そして,実際にキャンセルして物語だけを進めようとも考えたのだが,それもできなかった。理由は日々起こる出来事によって,アロの精神ゲージがどんどん削られていくためだ。
これで自己放任までさせてしまったら,彼女があまりにも可哀想ではないか。
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結局はコツコツと生活のルーチンをこなしていったのだが,この「気が滅入るような繰り返し」こそが,ロックダウン中に作者たちが感じていたものなのだろう。
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日々の作業とは別に,祖母の荷物整理は1日に1箱ほど行える。知育玩具や組木細工を思わせるパズルを解くと,アロと祖母の思い出がひとつずつ紐解かれていく。
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パズルの難度は,プレイヤーが仕事などで疲れているときでも苦労せずに解けるような,優しい配慮が感じられるもの。パズルを解く達成感がメインではなく,祖母との思い出の品をひとつひとつ手に取る感触こそを大切にしているように感じた。
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画面越しに届く友人たちの声とスパイスの香り
そんなアロの孤独を支えるのは,スマホに頻繁にかかってくるビデオ通話だ。親友のひとりズー(ズアリ)は学校の先生で,白斑症(インドでは偏見がまだまだ根強いという)を抱えつつも,家庭が貧しい生徒たちの授業料を確保するためにがんばっている。
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もうひとりの親友キー(キア)は,山岳地域で羊飼いたちを手伝っている。実家は医者で,コロナ対応の最前線にいるというが……。
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アイリスは動画制作会社「シタラLLC」の上司だ。キラキラした世界を垣間見せてくれると同時に,クリエイターを支える仕事の現実も語ってくれる。
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そしてヌーアはアロが暮らす部屋の大家だ。社会活動家で翻訳家,Wikiの編集者でもある。彼女の話題は飼っている猫の話など,他愛もない話が多いが,この状況では,そんな話こそが貴重なのかもしれない。
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彼女たちとの会話を手がかりに,入り組んだ謎を解き明かすこともないし,インド社会のコロナ禍が多角的に浮かび上がるわけでもない。
ただ,ミクロな視点で語られるとりとめのない出来事は,あの時期のプレイヤーの記憶とも重なってくる。気づけば筆者も,家族や知人,大切な人をしばしば思い浮かべていた。
そして,食事のシーンも強い印象を残す。スパイシーな卵炒め「ブルジ」に,香ばしいパン「パラタ」。サクサクの「マトリ」に米を干したお菓子「ポハ」。氷を浮かべた「ライムシャルバット」など,さまざまな料理が登場する。
筆者はインドの料理に詳しくないため,見慣れぬ料理名が出てくるたびに調べては,その味を想像していた。欲をいえば,料理のビジュアルや味わいを,作中でも描いてほしかったところだ。
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ひとつ気になったのは,本作はびっくりするほど男性キャラが登場しないこと。意図的に排除しているわけではないのだろう。シタラLLCの社員にはパートナーと育児を分担している母親もいるし,男性の存在自体が否定されているわけでもない。
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ただ,彼らはまったく姿を見せないし,アロの部屋に荷物を届ける配達員に至るまで,その傾向が徹底されている。現実の社会と照らし合わせると,やや極端に感じるかもしれない。
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インドという社会的・宗教的背景を踏まえれば,これは女性やマイノリティが安心して暮らせる,クリーンな環境への願いを込めた表現とも受け取れる。
一方で,開発期間の長さも影響したのか,現在の価値観からは少しだけ距離が生まれているようにも思えた。もっとも,これはあくまで筆者が日本に住んでいるからこその感覚かもしれないが。
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ドット絵の表現については,往年のゲームにあったような,制約の中での職人的な熱意やこだわりとは異なり,まだまだ作り手の趣味性の範囲にとどまっている印象を受ける。
また,筆者のプレイ環境や,隠しパラメータなどが影響しているのかもしれないが,選択肢が表示されているのに,実際には選択できるセリフが限られているケースが散見された。
アロが思っていても言えないセリフなのか,選択できない社会への皮肉なのか,ただの不具合なのかも判然としないので,やはりゲーム内での説明が不足しているように思う。
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そんな未完成さはフレッシュさとも受け取れるし,それを含めて,本作の個性ともいえるかもしれない。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントが本作を「India Hero Project」に選出したのは,インドのコロナ禍をドラマチックに脚色せず,「退屈さ」も含めて誠実に描ききろうとしていたからこそではないだろうか。
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言葉を選ばずに言えば,探索の面白さや気づきの面白さには欠けるし,30日という繰り返しは人によっては間延びして感じるだろう。
個人的には,物語後半では生活部分をある程度は省略するなど,映画的な「編集」はあってもよかったように感じている。
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それでも,あの日々と同じように「ただそこにいて,時間を過ごす」こと自体に意味があり,だからこそ気づけることもある。そう感じられたことこそが,本作をプレイした意義なのかもしれない。Rhea Gupte氏とPrateek Saxena氏,今の2人にしか作れなかった作品を,そっと記憶に留めておこうと思う。
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