フランス最大のアナログゲームの祭典
「Festival International des Jeux 2026」(以下,FIJ2026)が,フランス南部の町・カンヌで2026年2月27日から3月1日まで開催された。
アナログゲームイベントの規模としては,世界最大級であるドイツ「SPIEL Essen」や,アメリカ「Gen Con」に次ぐ世界第3位。フランス語圏を中心に各地からパブリッシャやボードゲームデザイナーが集った。一般客向けの試遊・販売の場としてはもちろん,業界関係者同士の商談の場としても世界から注目を集めるイベントだ。
FIJ2026会場。外観にはAsmodeeやGigamicの作品が満載。キービジュアルのカラーは昨年の青から一転,明るい黄色に
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公式アナウンスによると,来場者数は3日間で10万人以上。昨年の11万人には及ばなかったものの,それでもイベントは大きな盛り上がりを見せた。一時は入場制限がかかる光景も見られたほどだ。
加えて,業界関係者5800人,ジャーナリストやインフルエンサー460人が集った。そのほか,会期中は世界的なボードゲーム賞
「As d'Or」(以下,アスドール)の表彰式や,世界最大のテストプレイイベント
「Nuits du Off」(以下,オフナイト)も開催された。
カンヌ市街にあふれるFIJ2026関連広告。イベントポスターはもちろん,「Take Five」の紹介も
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入場制限のため外に列が伸びる。販売エリアは地下にあるため,中の人数が一定になるように制限している
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最大手Asmodeeのブースはさらに拡大。TCGでは新顔も
会期中は大小350ブースの出展者が集い,新作をはじめ多くの作品を楽しめた。大手ブースでは世界最大級のアナログゲーム企業Asmodee(アスモデ)をはじめ,Gigamic(ギガミック)やiello(イェロ),Hachette(アシェット)グループといったフランス大手パブリッシャ,Ravensburger(ラベンスバーガー)をはじめとするドイツのパブリッシャなどが出展していた。
販売ブースが集まる会場ホール地下1階の様子
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TRPG関連の販売ブース。昨年は2階にあったが今年は地下1階に移動
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今年は,最大手のAsmodeeブースが,大幅に敷地を拡大していたのが印象的だった。もともと会場3ホールのうち,1ホールの半分を占める巨大ブースを構えていたが,今年は2ホールにまたがる出展となっていたほどだ。
会場ホール1階のAsmodeeブース。「宝石の煌き(Splendor)」「HEAT」などおなじみの作品が満載だ
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会場2階のAsmodeeブースでは,作品の当たるルーレットなども行われていた。奥にはハズブローやUNOなどのブースが見える
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そのほか,屋外の特設ブースではカードゲーム専用ブース「TCG VILLAGE」が敷地を拡大し,フランスで大きく成長しているTCG市場の勢いを感じさせる光景となっていた。
「ポケモンカードゲーム」や
「ONE PIECEカードゲーム」「Star Wars: Unlimited」などおなじみの顔ぶれに加え,今年はLeague of Legendsのカードゲーム
「Riftbound」の対戦ブースが登場した。
TCG VILLAGE。中では「Riftbound」をはじめとする作品の試遊ができた
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日本からの参加も増加
今回注目したい動きとして,日本からの出展・参加が増えたことがあった。世界的には大きな存在感を持ちながらも,日本では知名度がそこまで高くなかったFIJであったが,今年はこれまで以上に,日本発作品やクリエイター,業界関係者の来場が見られた印象だ。
昨年,一昨年のGen Conに参加していた高橋宏佳氏ら「Japan Pavilion(Pavilion Japonais)」は,もちろん今年も出展していた。出展にあたっては,FIJ2026事務局より「日本のゲームをとても評価しているが,これまでアジアの出展者が少なかった。出展を歓迎したい」と期待を寄せられていたという。
Japan Pavilionでは高橋宏佳氏(左)ら「妄想ゲームズ☆」の作品を販売。作品のイラストレーター・NONNKI氏の作品集も好評だったという。2024年のアスドール大賞受賞者,宮野華也氏(右)も新作の展示を行った
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クリエイターでは,
「キャットと塔」作者のたきざわまさかず氏が初参加。フランスでの取扱いパブリッシャである「Unfriendly Games」にてサイン会を行った。会場には作品ファンが多く集い,大盛況の様子だった。手作りのファングッズをプレゼントしてくれる来場者もいたという。
そのほか,今年もフランス将棋連盟が出展し,ねこまどの
「どうぶつしょうぎ」を販売していた。
サイン会中のたきざわまさかず氏。右手のバッジがファンからプレゼントされたファングッズだ
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フランス将棋連盟ブース。「どうぶつしょうぎ」の販売のほか,対局などを行っていた
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さらに,会期中に行われたイベント「From the Workshop to the Podium: Asia Reinvents the Game」ではアークライトの鈴木健右氏,Patrick Flanagan氏が登壇。「アジアは今後,ボードゲームの主要な消費市場になっていくのか」というテーマに対して,日本のボードゲーム市場の特徴や,ゲームマーケットにおける同人カルチャーなどについて語った。動画は現在
YouTubeで確認できる。
イベントの様子。「アジア地域のボードゲーム市場としての可能性」や「同人文化のユニークさ」がテーマとして取り上げられていた
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日本発作品は,今年も各所で見られた。ほかの海外イベントでも見かけるオインクゲームズ作品や,林 尚志氏の
「ボムバスターズ」「横浜紳商伝(Yokohama)」,梶野 桂氏の
「DNUP」,戸塚中央氏の
「Sweet Lands」などだ。
オインクゲームズ「亜熱帯日本」「Petiquette」や林 尚志氏「Yokohama」
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Asmodeeブース内の梶野 桂氏「DNUP」エリア。そのほか会場内で体験用のミニサイズ版が配られたりもした
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戸塚中央氏「Sweet Lands」。日本ではうちばこやから出版されている
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オフナイトには4000人が参加
世界最大のテストプレイイベント,オフナイトは今年も開催された。イベント閉会後の会場で夜通し開催される,世界にも類を見ない催しだ。参加費・出展費無料のこのイベントには有名無名問わず,多くのボードゲームデザイナーが作品を出展し,実際に製品化される作品も少なくないという。
オフナイト入場を待つ来場者たち。外はすっかり暗いというのに長蛇の列ができていた
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今年も4夜連続で開催され,延べ4000人という多数の参加者が集った。日本最大のテストプレイイベント,フォアシュピールの最高記録が1日約700人であったことを考えても,イベントの巨大さを感じていただけるだろう。
また,今年の会場では日本人来場者の参加も見られた。感想を尋ねてみたところ,そのスケールや熱量に感動する声も多かった。
出展される作品は多種多様だ。すでにアートワークまでできているものもあれば,手書きカードで遊ぶ作品もあった。筆者らは一般参加日に訪れたが,試遊テーブルはほとんど埋まっており,例年通りの盛り上がりだった。会場ではドリンクや軽食の提供もあり,ゆっくりとテストプレイに興じる参加者の姿が見られた。
オフナイト一般参加日の模様。なかなかテーブルが空かないほどの盛況ぶりだった
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アスドール大賞は「Toy Battle」が受賞。2人用ゲームの人気強く
世界的なボードゲーム賞であるアスドールの大賞は,おもちゃの部隊を操って争う2人用対戦ゲーム
「Toy Battle」が受賞した。イタリア出身のAlessandro Zucchini氏とPaolo Mori氏の作品だ。プレイ時間は15分程度とライトだが,ユニークな能力を持つ8種類のキャラクターに加え,舞台となるマップも8種類と豊富で,さまざまな戦略を楽しめる。
表彰式の様子。壇上で話しているのが「Toy Battle」作者のPaolo Mori氏
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「Toy Battle」。戦略性はもちろん,1プレイ15分という短さで繰り返し遊べるのもうれしい
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今年のアスドールでは大賞に加え,子供向け部門(Enfant)でも
「L’Île des Mookies」が受賞するなど,2人用ゲームが目立った。昨年,フランスでは2人用ゲーム
「Jeux à deux」が,大きく流行した背景がある。4部門中2部門での受賞は,それを受けた結果と言ってよさそうだ。
現在も2人用ゲームは,大手パブリッシャの通販サイトで一大カテゴリとして扱われるといった影響が見られ,今後こうした傾向が続くかどうかが注目される。
そのほかの部門では,中級者向け部門(Initié)で
「Zénith」,上級者向け部門(Expert)で
「シヴォリューション(Civolution)」が受賞した。
Zénithは3つの種族を操り,太陽系の惑星をめぐって支配権を争うゲーム。カートゥーン調のアートワークが特徴的な作品だ。
一方,シヴォリューションは文化・技術を進歩させ,文明の発展を競うシミュレーションゲームとなっている。22ものアクションを駆使することで幅広い戦略が可能なことも魅力で,日本ではホビージャパンが販売している。
表彰式で流れたシヴォリューションのデモ映像。「アクションは22しかありません」という紹介に重量級ゲーマーたちの笑いがどっと沸いた
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候補作には受賞作も含め,以下がノミネートした。12作品のうち5作品は日本語版がすでに発売,もしくは予定されている。これを機に作品に触れてみるのもよいだろう。
アスドール大賞,受賞・ノミネート作品
| 作品名 |
デザイナー |
パブリッシャ |
日本版発売予定 |
| Toy Battle |
Alessandro Zucchini,Paolo Mori |
Repos Production |
未定 |
| Flip 7(邦題:フリップ7) |
Éric Olsen |
Catch Up Games |
Engamesより販売中 |
| Rebirth |
Reiner Knizia |
Lucky Duck Games, Mighty Boards |
未定 |
子供向け部門,受賞・ノミネート作品
| 作品名 |
デザイナー |
パブリッシャ |
日本版発売予定 |
| L’Île des Mookies |
Florian Sirieix |
Le Scorpion Masqué |
未定 |
| Archeo |
Adrien Pédron,Thomas Favrelière |
Gigamic |
未定 |
| La Valse des Fantômes |
Wolfgang Dirscherl,Wolfgang Lehmann |
Schmidt Spiele / Drei Magier |
未定 |
中級者向け部門,受賞・ノミネート作品
| 作品名 |
デザイナー |
パブリッシャ |
日本版発売予定 |
| Zénith |
Grégory Grard,Mathieu Roussel |
Playpunk |
未定 |
| First Rat(邦題:ファーストラット) |
Gabriele Ausiello,Virginio Gigli |
Pegasus Spiele |
ホビージャパンより販売中 |
| Take Time(邦題:テイク・タイム) |
Alexi Piovesan,Julien Prothière |
Libellud |
CMON JAPANより販売中 |
上級者向け部門,受賞・ノミネート作品
| 作品名 |
デザイナー |
パブリッシャ |
日本版発売予定 |
| Civolution(邦題:シヴォリューション) |
Stefan Feld |
Grail Games,Deep Print Games |
ホビージャパンより販売中 |
| Arcs |
Cole Wehrle |
Leder Games |
CMON JAPANがクラウドファンディングにて日本語版製作(募集終了) |
| Fourmis |
Renato Ciervo,Andrea Robbiani |
Cranio Créations,Intrafin Games |
未定 |
開始前の表彰式会場。映画祭にも使われる大ホールがファンや業界関係者で埋め尽くされる
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表彰式はコメディアンやインフルエンサーなど来賓のトークも交えて進む。観客席から笑いがあふれる場面も多くあった
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25周年を迎えた「ミラーズホロウの人狼」。特別版や新キャラクターを発表
世界700万部を超える「人狼ゲーム」の人気シリーズ,
「ミラーズホロウの人狼」の発表25周年にちなんだ記者会見も開催された。日本ではホビージャパンから販売されている作品だ。会見では作者のPhilippe des Pallières氏とHervé Marly氏が,今後の新作として9月に発表される「ミラーズホロウの人狼」25周年特別版を発表した。
注目は,14年ぶりに追加される4人の新キャラクターだ。会見ではそのうちの1人「Le Marionnettiste(人形使い)」が紹介された。人狼に襲われた際に,人形を身代わりにできるという強力な能力を持つ。ただし,それ以後はトラウマで身振り手振りしかできなくなってしまう,というデメリットもついてくる。
Philippe des Pallières氏(左)とHervé Marly氏(右)。ボードに描かれているのが新キャラクター「人形使い」だ
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続けて,作品の誕生秘話も語られた。ユニークだったのは制作当初,Asmodeeに作者らが作品を持ち込んだ際のエピソードだ。社長とテストプレイをしたところ,社長が1ターン目で村人に処刑されてしまい,「権威のある人間が真っ先に処刑されるなんて,こんなゲームは売れない」と断られてしまったという。ほかにも「最初の100部は村の子どもたちと手作りした」など,数々のエピソードが語られた。
会場の敷地内には,「ミラーズホロウの人狼」のパッケージアートをあしらった電車が登場。電車の中で作品にちなんだ脱出ゲームを遊べた。電車はフランス国鉄が提供する本物だ。開場直後から大人気を博し,連日入場チケットは売り切れていた。
「ミラーズホロウの人狼」のビジュアルをあしらった電車が登場。この中で「人狼」脱出ゲームが行われていた
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SNCF特設スペースや歴史展示も充実。来年は40回目の開催
特設ブースではさまざまな催し,展示が用意された。フランス国鉄は鉄道にちなんだ体験スペースを開放し,実際に高速鉄道(TGV)で使われているシートで,アスドール受賞作をプレイできた。これは昨年に続き2回目の催しで,最終日まで席が埋まる人気ぶりを見せた。
SNCF特設スペース。実際のシートで遊べるだけでなく,壁には車窓が描かれ旅行気分が味わえる
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ほかにも,ウォーゲームの歴史に関するパネル展示や,歴代のアスドールの系譜をたどる展示が行われた。
ウォーゲーム展示ではホビー作品にとどまらず,2世紀にわたるその歴史を紹介。アスドール展示では,フランスの漫画「バンド・デシネ」の作家Martin Vidbergの漫画とともに,アスドールの歴史をたどる内容となっていた。
昨年展示されたTRPGの歴史に続き,今年も見ごたえ抜群だった。貴重な作品や資料が集まるのも,長い歴史を持つFIJならではの魅力と言っていいだろう。
ウォーゲーム展示。19世紀に実際の軍事演習に使われた「Kriegspiel」などにも言及した骨太の内容だった
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アスドール歴史展示。アスドール作品で遊べるコーナーも設置されていた
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そして,来年2027年は初の開催から40回目となることが,閉会後プレスリリースにて告知された。サプライズや新企画を盛り込んだ記念回となることが早くも発表されている。会期は2027年2月26日から28日。40回の節目にどのような催しが用意されるのか,続報に注目したい。
気になる作品たち
最後に会場で見かけた気になる作品をたどっていきたい。
公園からの眺めがよくなるよう高いビルを建設する「Bella Vista」。視覚的な高さが重要なゲームだ
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自然災害から動物を守る協力ゲーム「Animal Rescue Team」。3Dコンポーネントの造形が細かい
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「Questions de Générations」のブース。「HITSTAR」に続く,世代×クイズの流れを感じる
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スパイとなって世界をまたにかけて鬼ごっこをするゲーム「Red Notice」
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ボードに置かれた墓石を手に取りながら謎を解き明かす「Les Secrets de Warden Keene」
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「Polaroid」。場に出された写真の順番を語られたストーリーに沿って思い出すパーティーゲーム
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「Carnuta」ブース。アートワークが鮮やかなAsmodeeのゲーム
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「Koi」はその名の通り,鯉になってトンボやカエルを捕まえるゲーム。ランダムな天候がゲームの流れを左右する
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ダイスとカードを駆使してキャラを戦わせる「Kouba」。手番ではダイスをたくさん振れて楽しい
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巻き寿司のゲームなので「マキさん(Makisan)」。巻き寿司を袋から引いたり,裏返したりして同じ色を4つ並べると勝ち
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著者紹介:
Im Karton
海外アナログゲームイベントを訪ねて旅する3人組。読み方は「イム・カートン」。これまでに世界最大のアナログゲームイベントであるドイツ「SPIEL Essen」(シュピールエッセン)をはじめ,アメリカ「Gen Con」(ジェンコン),フランス「Festival International des Jeux」などを訪問。「Essen Spiel Guidebook 2023」「Gen Con Guidebook」に続き,2025年はFIJに行きたい人向けのガイドブックを「FIJ Cannes Guidebook」を刊行。
Omochicard
Im Kartonメンバー。海外イベント訪問時は旅行の計画や日本へボードゲームを送る宅配便の発送などを担当。海外ボードゲームが大好き。好きなボードゲームは「アーク・ノヴァ 新たなる方舟」や「Kemet: Blood And Sand」。