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バンダイナムコのロケーションVR施設「MAZARIA」(マザリア)が「VR」を屋号に冠しない理由とは? コヤ所長&タミヤ室長にインタビュー
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印刷2019/08/13 12:00

インタビュー

バンダイナムコのロケーションVR施設「MAZARIA」(マザリア)が「VR」を屋号に冠しない理由とは? コヤ所長&タミヤ室長にインタビュー

 商用エンタメVRの最先端となっているバンダイナムコアミューズメントの「VR ZONE」。お台場に始まり,新宿,大阪から日本全国へ展開,さらに世界への進出を果たしてきた流れのなかで,池袋のサンシャインシティに新たに「MAZARIA」がオープンした。
 「アニメとゲームに入る場所」と銘打たれたMAZARIAだが,これまでのVR ZONEの展開とはどのように違い,何を目指しているのだろうか。バンダイナムコのロケーションVRを牽引する2人,コヤ所長こと小山順一朗氏と,タミヤ室長こと田宮幸春氏に話を聞いた。

小山順一朗氏(左)と田宮幸春氏(右)
画像集 No.006のサムネイル画像 / バンダイナムコのロケーションVR施設「MAZARIA」(マザリア)が「VR」を屋号に冠しない理由とは? コヤ所長&タミヤ室長にインタビュー

「MAZARIA」公式サイト


4Gamer:
 本日はよろしくおねがいします。
 MAZARIAがオープンしてから1週間が経ちましたが,手応えとしてはいかがでしょうか。

※インタビュー収録日は7月中旬。

小山氏:
 オープンまでの準備不足もあり不安はあったのですが,サンシャインシティに来た方がそのまま「なんだか新しい施設ができたらしい」という感じでMAZARIAにも足を運んでくださっている,というひとつの流れがありますね。事前に予約を頂いている方よりも,そちらのほうが多いくらいです。

4Gamer:
 事前の宣伝が少なかったというのはこちらも感じたのですが,何が原因だったのでしょうか。

小山氏:
 宣伝素材が作れなかったんです。ざっくり言えば,MAZARIAの内装が仕上がらなかったんですよね(苦笑)。だから「こんな施設なんです!」という写真が撮れなくて……。

田宮氏:
 PVも完成したのはオープンの2日前だったんですよ。正面にLEDウォールがありますが,こちらも最終的な確認が終わったのが内覧会の最中でして。本当にギリギリまでいろいろ作っていました。

小山氏:
 結果としてサイレントローンチになってしまいました。

画像集 No.007のサムネイル画像 / バンダイナムコのロケーションVR施設「MAZARIA」(マザリア)が「VR」を屋号に冠しない理由とは? コヤ所長&タミヤ室長にインタビュー
田宮氏:
 ここから盛り上げていかないといけないなと感じています。
 ただ,予想外だったこともありまして,VR ZONEは歌舞伎町でしたが,MAZARIAは池袋だということもあり,スタートからお子様にたくさんご来訪頂いているんですよね。
 新宿ではファミリー客の比率は2%くらいでしたが,池袋だとオープン直後の3連休では10%くらいがファミリーでした。少なくともVR ZONEの5〜6倍には増えています。それもあって,MAZARIAはVR ZONEとちょっと雰囲気が違うなと感じています。

4Gamer:
 当初の予定より子供の客が多い感じですか。

田宮氏:
 ファミリー層もサブターゲットとしては想定していましたが,これほどなのか……という状況ですね。新宿とは明白に違う雰囲気になっています。

小山氏:
 サンシャインシティって,いろんな理由で人が来る場所なんですよね。水族館やプラネタリウム,ショッピングモール,レストラン街など,そうした目的で訪れた人が,LEDウォールの演出にひかれて入ってくる……そんな流れですね。
 新宿のVR ZONEはニュースで取り上げられることが多く,「TVCMを見て来た」という人もたくさんいました。しかしMAZARIAは「ここをどうやって知ったの?」と聞くと,「サンシャインシティに来たらポスターがあった」とか,「池袋駅で見た」とか,「水族館が混んでたからちょっと来てみた」というケースが多かったですね。

田宮氏:
 やはり地の利ですね。その価値は本当に実感しています。
 でも現状に留まらず,「MAZARIAを目的に」来るというところをパワーアップさせていく必要があることも認識してます。


「VR」という言葉では集めきれないお客


4Gamer:
 新宿のときは「VR ZONE」という名前でしたが,今回は「MAZARIA」ということで,施設名に「VR」という単語が出てきません。これにはどういう意図があるのでしょうか。

小山氏:
 VR ZONEは最先端好きの人と,いわゆる「リア充」をメインターゲットにしていたんです。これはちゃんと当たったんですが,問題もありまして,彼らはリピーターになってくれなかったんですよ。
 なので,“この層のみ”をターゲットにするのは限界があるな,というのがVR ZONEで我々が得たひとつの教訓でした。

4Gamer:
 確かに,「リピーターを増やすのが課題」というのはVR界隈でもよく耳にします。

田宮氏:
 実際,最先端のものを次々に楽しむタイプの人たちに,「VR」という言葉は刺さりましたし,もてはやされもしました。この段階においては「VR ZONE」という屋号にも意味があったんです。
 しかし,もう関東圏では「VR」という言葉でそういう人を集められる状況ではなくなったのかなと。

小山氏:
 「VR=最先端」という図式が成り立たなくなってきたんですよね。

田宮氏:
 最先端を楽しむ人は,どうしても「1回やってみたからもう満足」となりがちで,そこも厳しいところです。

小山氏:
 数字を見ますと,2018年から「VR」という言葉の認知は急激に上がっています。でもロケーションVRを実際に体験したという人は6%に留まるんですね。このことからも,もう「VR」という言葉ではウリにならないというのがはっきりと見て取れます。
 つまり「VR」という言葉で集められるお客はもう集めきったな,と。これは海外でも同じことを感じました。「VR」という概念が浸透した,とも言えるんですが。

田宮氏:
 良いことでもあるんですけどね。

画像集 No.008のサムネイル画像 / バンダイナムコのロケーションVR施設「MAZARIA」(マザリア)が「VR」を屋号に冠しない理由とは? コヤ所長&タミヤ室長にインタビュー
小山氏:
 「VR ZONEのことは知りつつ,実際には来ない人」についても,その類型を調べているんです。データによると,こういうタイプの人は,金曜の夜には会社や友人との飲み会,土曜は昼まで寝て,午後は遊びに出かける。家事は週末にまとめてこなす。そういう行動パターンの人が多い。
 そうなると「遊びに出かける」にあたっても「予定」が必要になるんです。1人で行くのではなく,友達と一緒だったりカップルで遊びに行ったりしますから。そして,予定を組むにあたって口で説明できない場所は,選択肢から除外されてしまいます。
 つまり,遊びに行く先が「遊園地」や「動物園」なら話は早いんです。それが何かも分かりやすいですし。
 でもVRになると,それが何かは分かってはいるんですが,「最新のゲームセンター」という印象になりがちです。そうなると「自分向けじゃないな」という判断がされてしまうんです。

4Gamer:
 なるほど。そうなると「興味はあるけれど,行かない」ということになりますね。

小山氏:
 そうなんですよ。実はそういう人は,「VR体験」そのものに興味があるわけではないんです。
 特に女性だとゲームに対して苦手意識がある人が多く,「ゲームは1人で遊ぶもの」「ゲームは男が遊ぶもの」という意識を持っている人もまだいるんです。
 でも,ドラゴンクエストやマリオカートということになるとまた話は変わってきます。そういうゲームを「彼氏と一緒にはしゃいで遊べる」ということだ,全然食いつきが変わってくるんですよ。実際,VR ZONEではPVを見てもらうと反応がまるで変わる,ということはよくありました。

4Gamer:
 「一緒にはしゃげる」というのが大事なわけですね。

小山氏:
 そうです。そこでMAZARIAは,アトラクションである,という面を強く押し出しています。一日中はしゃげて遊べる場所という印象を持ってもらおう,と。
 MAZARIAが「非日常を体験できる」「アニメとゲームに入れる」ということをコンセプトにしている反面,「VR」という言葉を表に出していないのには,こういう背景があります。

田宮氏:
 体験してもらえさえすれば,その後の満足度が高いことは分かっているんですよ。VR ZONEでも,その中に入ってしまえば「ゲームは嫌い」と感じている人であっても,ワイワイ楽しんで頂けています。なので「どうやって興味を持って来店してもらうか」は,VR界隈共通の課題となっていると言えます。
 そこで来てもらうための手法として,「VRだけど,違うもの」という目的づけをしたものがMAZARIAで,これが今回の大きなチャレンジですね。

4Gamer:
 新規顧客の開拓という面に関してですが,MAZARIAに設置されたLEDウォールに出てくるキャラクターやゲームが,かなりレトロというか,いわゆる“若者”には分からないものが多いと感じたのですが,これは何かを狙ってのことでしょうか。

入り口の壁には新旧さまざまな作品のキャラクターが登場する映像が流れている
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小山氏:
 実はですね,あれは若い方にもウケてまして。20代の人にとっては,ドット絵のキャラクターって,かわいくて親しみが持てるアートなんですよ。
 例えばスライムひとつとっても,フルポリゴンで表現されたスライムだと「難しそう」という印象を与えてしまうんですが,これがドット絵だと「自分にもできそう」になるんですね。

4Gamer:
 それは面白いですね。

小山氏:
 もちろんドット絵だからといってゲームが簡単かといえば全然そんなことはなくて,それこそ僕らの世代だと「じゃあ,超魔界村とかやってもらおうか?」とか考えちゃいますけど(笑)。それはともあれ,最先端のCGを駆使したほうが「難しそう」という印象を与えがちなのは間違いないです。
 なので今回はアートとしてのドット絵,8bit調という形で発注しています。各種キャラクター,いわゆるIPものも,版元に頼んで作ってもらいました。

4Gamer:
 確かに「Minecraft」以降,若い人もドット絵という表現に慣れてますし,Nintendo Switchでドット絵を使ったインディーズゲームを楽しんでいるという人も増えています。

田宮氏:
 1周回って新しい表現になっている印象はありますね。あとやはり「Minecraft」の影響は強く感じます。

4Gamer:
 ドット絵に感じるのが「懐かしさ」ではない世代の層が厚くなってきた,という状況なんですね。


ロケーションVRと人件費の戦い


4Gamer:
 VR ZONEは各地にできていますが,ビジネスとしての感触はいかがでしょうか。まだまだ先行投資の局面にあるとはいえ,3年が経過した今,そろそろ「先行投資」では済まなくなってきてもいるかと思うのですが。

田宮氏:
 そうですね,難しいことはまだまだたくさんあります。ただ,VR ZONE SHINJUKUで課題がしっかり見えたのも事実でして,MAZARIAではその課題をどうしようか,というところに取り組んでいます。実際,VR ZONE SHINJUKUも,集客の絶対数そのものは大きいんですよ。ただ収益性という面から見たとき,やはり問題が残ってしまった。

4Gamer:
 問題というと?

田宮氏:
 なかでも大きな問題となったのは,人件費が高いという点です。VR ZONEはまだ「VR」というものが浸透していない状態に対して,マンパワーでそのギャップを解消するという手段に出ていたので,人件費がすごかったんですよ。
 なのでビジネスとして運用させようとすると,人件費を含む運営コストの削減が必須になります。でも体験の魅力は高めていく必要があるわけで,ここの兼ね合いが難しいところですね。

 とはいえMAZARIAではアクティビティの利用説明を映像で行ったり,キャリブレーションはお客様にやってもらったりと,そういった面でのコストダウンも積極的に試みています。VR ZONE SHINJUKUでの経験を踏まえて,どこを削ればいいかが見えた上でのMAZARIA,というわけです。

小山氏:
 まずは自分でVRゴーグルをつけてもらうことで慣れてもらう。ここからですね。

田宮氏:
 VR ZONEは大阪をはじめ全国的・全世界的に展開していますが,MAZARIAは事業として最も良い形はどんなものなのかを模索しながら進めています。MAZARIAを運営していくなかで「これで行ける」というのが見えたら,VR ZONEの運営においてもその知見や方向性が継承されていくでしょう。

4Gamer:
 VR ZONE SHINJUKUでは人件費が課題になったとのことですが,それは改善できるものなのですか。

田宮氏:
 はい。VR ZONE SHINJUKUにおいて,お客様がアクティビティに並ぶ間,体験前,体験中,体験後というフローのなかでスタッフがやるべきことを書き出してみたら,なんと30項目以上にのぼったんです。

4Gamer:
 それは多いですね。

田宮氏:
 この項目を減らす必要があるということで,環境やソフト側でフォローしていけるようにしました。現在はこれをタイトルごとに反映していっている状態ですね。理想を言えば,接客スタッフはお客様と話をして,ご案内するだけ,というところまで持っていけるはずなんです。もちろんサービスの質は変えることなく。
 あと,体験中の「見守りコスト」というのもなかなかに高いんですよね。危険はないか,リタイアは出ていないかを確認しつつ,道に迷っているプレイヤーがいたら誘導をしてと,人が張り付いていなくてはならない状態があちこちにあります。
 これについても対策はできつつあるんですが,これが完全にうまくいけば,施設の雰囲気も違って見えてくるかもしれません。

4Gamer:
 リタイアの話が出ましたが,「VR酔い」はどうですか? 最近の商用エンタメVRではVR酔いという言葉自体をあまり耳にしなくなってきました。

田宮氏:
 VRを体験したことがない人は,そこを気にしている感じはありますね。体験していない人の印象として「酔うことがあるらしい」という言葉が出てくることはあります。
 でも今は,多くの人がVRを体験しており,「VRは楽しい」という情報が広まっており,「だったらVRって良いものなのかな?」という雰囲気もできています。「VR酔い」という言葉をあまり聞かなくなった背景には,技術的な進歩以外にも,そういう部分があるんじゃないでしょうか。

小山氏:
 実際,VR界隈全体として,VR酔いに対するノウハウもたまっていますし,酔いにくいものを体験できる確率は上がっていますね。
 

「1日遊び放題」による変化


4Gamer:
 お台場から3年でここまで来ましたが,プロジェクトを立ち上げたときに今のこの状況は想定にありましたか。

小山氏:
 お台場の段階では,我々はゲーセンでも遊園地でもない遊ばれ方をする新しいエンターテイメントを,VRで作ろうとしていたんです。新宿はそれを大型化したものとなります。
 なのでVR ZONE SHINJUKUでは遊び方のルールにも試行錯誤がありました。チケットを色分けして,遊べるアクティビティを分類する等ですね。正直に言いますと,これらが必ずしもうまくいったとは思っていません。そして現状に至っても,想定どおりの発展はしていないですね。

4Gamer:
 なるほど。

小山氏:
 まだ「VRをリピートしに来てくれる」というところまでは届いていません。むしろVR全体で見ると,産業分野で浸透する速度が速くて,エンタメ分野はシュリンク気味ですらあるというのが現状です。
 そこで,MAZARIAは「バンダイナムコらしい施設」「VRはすごい体験ができる装置」という位置づけで,最初の目標を達成しようと頑張っているところですね。
 でも実際,MAZARIAで初めてVRアクティビティを体験したという人は多いんですよ。遊ばれるコンテンツとして「マリオカート アーケードグランプリ VR」が人気というのは変わらないんですが,「エヴァンゲリオンVR The 魂の座:暴走」の稼働率が上がったというのは,VR ZONE SHINJUKUと大きく異なっています。

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4Gamer:
 エヴァはだいぶ前のコンテンツになりますから,それが今もたくさん遊ばれているというのは,確かに面白い数字ですね。

田宮氏:
 MAZARIAは「アニメとゲームに入る場所」というテーマ付けがされていますから,エヴァや「太鼓の達人 VRだドン!」が選ばれやすいという背景もあるとは思います。やはり施設がイチオシしているものに,お客様は吸い寄せら得る傾向がありますからね。
 実際,お客様の事前の期待も「アニメやゲームに入る」というところにあるので,まずはそれを遊んでみるという流れができているのでしょう。このように,アニメ・ゲームIPのアクティビティに人が流れるのは,予想通りの動きではあります。

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4Gamer:
 先程,チケットの色分けは必ずしもうまくいったとは思っていない,と話されましたが,MAZARIAでは基本的に「1日遊び放題」という料金体系になっていますね。これによる効果や変化はありますか。

小山氏:
 まず「1日遊び放題」式なのは,「MAZARIAは1日中遊べる場所だ」という定義をしたかった,というのがあります。そしてどうやらお客様的にも「1日中遊ぶ場所」として,MAZARIAを選択肢に入れてくれるようになったなと感じています。

田宮氏:
 「1日遊べる」ということになると,休暇のプランニングが楽なんですよね。
 これが観光地だと,まず美術館,次にレストラン,それから街をぶらぶらして……みたいな感じでルート設定をしなくてはいけません。でも遊園地だと,「あの遊園地に行こう」で1日が設定できちゃうんです。「どこで遊ぶか」が選ばれるにあたって,この点はポイントが高いみたいですね。

小山氏:
 「4200円で遊び放題」になった効果も出ていますね。アクティビティの選ばれ方,遊ばれ方が全然変わってきました。

田宮氏:
 チケット制だと「なるべく満遍なく楽しもう」という選択になりがちなんですが,遊び放題だと「気に入ったアクティビティだけを延々と遊ぶ」という選択肢も生まれるんですよね。実際,ファミリーで来たお客様のうち,お子さんがずっと「釣りVR GIJIESTA」をしていたりしました。

4Gamer:
 お台場のときは「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」で大の字になってダイブしたりするといった,完全に予想外の行動をする人の話を伺いましたが,MAZARIAではどうでしょうか。

田宮氏:
 お台場のときは毎日ヒヤヒヤしていましたが(苦笑),最近はもう聞かなくなりましたね。どういう対応をすればいいかもはっきりしましたし,事前に線引きもできているから,そこまでものすごいことが起こったりはしていません。
 安全面に関しては,安心して見ていられる環境を作れています。

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「釣りVR GIJIESTA」
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「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」


大型筐体VRの魅力


4Gamer:
 続いて,個別のコンテンツの話に入りたいと思います。
 「冒険川下りVR ラピッドリバー」の大型筐体ができてから,コンテンツとして表現可能になったもの,運用可能になったものの幅が増えたように思うのですが,この方向性で新たにアクティビティを考えていますか。

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田宮氏:
 鋭いですね。確かに「ラピッドリバー」の筐体は新しくできることを増やしただけでなく,筐体の汎用性も担保してます。
 新しくできるようになったことの話をすると,「旋回への動き」ですね。
 人間って,横に回ることに敏感なんです。マリオカートもなるべくカーブを伸ばして曲がらないようにしていますし,「ゴジラ VR」の街並みも交差点の接続を45度〜60度くらいにして曲がらないようにしています。
 「身体が転回していないなら,視界を旋回してはいけない」というのはVRコンテンツにとってとても大事なノウハウでして,今までプレイヤーが移動するものはそういう制限の下で作られてきました。

 とはいえ,そこはさすがにどうにかしたかったので,実際に回転する筐体を作ったのが「ラピッドリバー」です。その上で「ラピッドリバー」の筐体は汎用性も意識してまして,今後「みんなで乗って動き回る」アクティビティはあれでいけるな,と考えています。

小山氏:
 ゴジラもあの筐体でやったらどうか,というアイデアはあったんですよねえ。

田宮氏:
 みんなで同じヘリに乗って遊んでもきっと面白くなったと思うんですが,まあいろいろありまして。
 あともうひとつ,「ラピッドリバー」筐体には良いところがあります。コンテンツの内容重視で筐体を作ったんですが,あれくらいの大きな筐体だと,それだけでお客が吸い寄せられるという効果もあるんですよね。「大型筐体の客寄せ効果」は,体感ゲーム時代のゲームセンターでも見られたことですが,改めてそれを感じました。

小山氏:
 体感ゲームといえば,実はあの筐体って「アウトラン」とか「アフターバーナー」とかの技術と一緒なんですよ。ただモーターとかは超小型化していて,実物を見せられたときは我々みんなでたまげました。「こんな小さいので大丈夫なんだ!」って。

4Gamer:
 大型筐体は明らかに「家ではできないVR」でもあるので,VRゲーマーとして興味が湧くというのもありますね。大型筐体の集客効果,やはり高いですか。

田宮氏:
 高いです。「これだけ仰々しいものだったら,きっとすごい体験ができるんだろう」という素直な反応がありますね。今のMAZARIAでいうと,「ドラゴンクエスト VR」やラピッドリバー,「ゾンビサバイバルゲーム ハード・コール」あたりはその強さがよく出ています。
 あとはやっぱり,今遊んでいるお客さんがキャーキャー言いながら楽しそうにしているというのは,強烈な集客力がありますね。「見るからに楽しそう」というのは,本当に強いです。

「ドラゴンクエスト VR」
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「ゾンビサバイバルゲーム ハード・コール」
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フリーロームVRの課題と可能性


小山氏:
 逆にこれは制作側から体験した方に伺いたいんですが,フリーロームの「アスレチックVR パックマンチャレンジ」はどうでしたか。

4Gamer:
 広い空間を歩き回れるのは新鮮でした。自宅であれだけの広さを確保するのは難しいですから……。でも視界の狭さや,もう一人のプレイヤーとの距離感が取りにくいといったあたりでは怖さも感じました。
 あと「パックマン」を待っているときに感じたんですが,今,体験者が何をしているのかがちょっと分かりにくいなあと思いました。スクリーンに表示されている映像が俯瞰視点なので,プレイヤーの背後にエサがあったり,足元にエサがあったりするとき,「何にマゴマゴしてるんだろう?」みたいな気持ちにもなりますし。
 プレイヤー視点での映像は外に出せないんでしょうか。

田宮氏:
 あー,そこはもしかしたら将来的に切り替えるかもしれません。
 そもそもあの外部映像って,あそこまで大きく見せる予定ではなかったんです。今の演出は後付けなんですよね。なので絵として映える状態になってない,というのは開発とも話しています。
 実際,ご指摘のように1人称視点がときおり入るだけで,絵に動きが出ますしね。中継モニターにはもっと派手な演出を入れる,みたいな方法もあり得ますし。

 いずれにしても,「画面としての楽しそう感」はもっと向上させられると思っています。外から見て面白そうだと思えないと,VRアクティビティとしては厳しいですしね。

4Gamer:
 失礼な話になりますが,現状は並んで待っているときにあまりワクワクしないんですよね(苦笑)。どちらかというと「今のうちにマップとギミックを覚えておこう」みたいな気持ちが先行してしまって。

田宮氏:
 なるほど。あそこでワクワクできるかどうかが大事なんですよね。

「アスレチックVR パックマンチャレンジ」
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4Gamer:
 あと,先程も触れましたが,どうしても接触事故が起こりやすい気がします。Oculus Questの左右の視界が他のHMDより微妙に狭い感じがあって,ちょっと横を向くと赤い警告ラインが急に視界に入ってきて驚いた,みたいなことはありましたね。

※プレイヤー同士が近づくとHMD上に警告が表示されるようになっている。

田宮氏:
 確かに今のところ,パックマンには一番その手のリスクがありますね。ただ現状,事故報告は出てきていません。「危険な行為が見られたときは,スタッフが笛で警告する」という仕組みが,とても有効に機能しているようです。

 あと,ソフト側で「一時停止」をできるようにした,という対策もあります。夢中になっていると注意が聞こえないので,ゲームの進行を止めて,「走らないでください」と言う。スタッフが口頭で注意すると効果的だというのは,ドラゴンクエストで得た知見ですね。
 それにお客様も「危ないことをして迷惑をかけてやろう」と思って危険な行動をしているわけではなく,興奮しすぎて思わず,というのが実情です。なので「危ないので注意してください」と警告するためにゲームを止めても,そこで興が削がれるかというと,そうでもないんですよ。

4Gamer:
 「すごく楽しんでる」状態に入っているわけですね。

田宮氏:
 そうですね。なのでスタッフから注意されても,最後まで興奮して遊んでもらえる方がほとんどです。楽しんでいるからこそ,止めてもいいんですよ。
 あと機材の進歩による安全性の向上も考えられると思っています。シースルーのHMDとかですね。ARやMRはまだ視野が狭いので厳しいですが,NVIDIAが開発したMR HMDはだいぶ視野が広いらしいので期待しています。

4Gamer:
 機材としてのOculus Questは初導入かと思いますが,使ってみてどうでしたか。

田宮氏:
 解像度は十分に出ていますが,描画能力には格段の差がありますね。あの大きさに収めたPCで動かしているんだから,当たり前なんですが(苦笑)。
 正直,パックマンチャレンジは「よくここまでできたな!」というのが,作っている側としての感想です。「どうしてもFPSが出ない」と最後の最後まで奮闘していましたが。

小山氏:
 PS2でゲームを作っていた時代のノリがありましたね。手練手管の限りを尽くして速度を出すぞ,みたいな。

4Gamer:
 わりとシンプルな映像表現ですが,あれはあれで「パックマンだな」という納得感がありました。これってやはり最初から「パックマンなら大丈夫ではないか」という読みはあったんですか?

田宮氏:
 ありました。Oculus Questの性能が読めないなかで作り始めて,Questで実際にどれくらいのことができるか分からなかったんです。でもやっぱり,Questで作りたかったんですよね。
 なので最悪,描画能力がとても低くても大丈夫なものでなくてはならないという意識がありました。そうやって「何ならできるか」を見定めていくなかで,「パックマン」なら落としどころがあるだろうとは考えました。それこそドット表現であっても「パックマン」なら成立しますし。

小山氏:
 そういう意味ではドラゴンクエストもドットでやる,っていうのもアリでしたよね(笑)。

田宮氏:
 ともあれフリーロームに関しては,ちょうど技術の分かれ道にいると感じています。高度なハードウェアとセットアップを要求する代わりにリッチな映像を可能とするか,それともQuestのようなコンパクトなハードウェアだけど描画に大きな限界を抱えるのか。フリーロームをどちらで作るかには,とても悩みます。

4Gamer:
 フリーロームの場合,もうひとつ気になることとして,利益率は大丈夫なのか? というのがあるのですが。パックマンチャレンジの場合,かなり広い床面積を使って,同時にプレイできるのは2人までですし。

田宮氏:
 実を言うとですね,特にドラゴンクエストVRはそのあたりをすごく意識して作っていまして,結果として利益率や回転率にも大きな違いが出ています。
 一方でパックマンチャレンジは「駆動させる環境のコストを下げる方向性で行った場合,フリーロームはどこまでドライブできるか」という視点の取り組みになっています。実際,外部カメラのシステムがないだけでも初期投資がまるで違うんですよ。ビジネス面での取り組みとしては,もう完全に別物だとすら言えます。

小山氏:
 「近未来制圧戦アリーナ 攻殻機動隊ARISE Stealth Hounds」もドラゴンクエストVRも,モーションキャプチャのプロが使う機材を導入して実現させているアクティビティなんですよね。個人ではちょっと無理な規模のものです。

田宮氏:
 モーションキャプチャとかを仕事でやってる人がドラゴンクエストVRを遊ぶと,ビビりますからね。「こんなにカメラ買ったの!?」って。
 もうこれは初期だからこそできたことですね。「やらせてくれ!」でやってみて,「違った! ごめんなさい!」っていう(笑)。
 そういう意味ではお台場も新宿も,「ここまでできる」をやったプロジェクトだったと言えます。そしてお台場と新宿を通じて「どこまでやればお客は満足できるか」「どこから先はやらなくてもいいのか」の線引きが見えてきたので,MAZARIAではそれを踏まえたコンテンツ制作と運営をしている,という感じですね。
 実際,効率はとても良くなっているんですよ。開発においても,変な回り道はせずに 一直線に開発できるようになりました。

4Gamer:
 ノウハウが身についた,という感じですか。

小山氏:
 身につくだけのお金を使いましたからね……(苦笑)。

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「アニメとゲームに入る場所」を目指して


4Gamer:
 今後の展開についても少し伺います。お台場や新宿は期間限定のイベントという形でしたが,今回は終了時期が宣言されていません。

田宮氏:
 はい,今回はいわばMAZARIAがフラッグシップ店になる形ですね。ここで得られたノウハウや数字をもとに,「これでいける」というのが分かれば,全国のVR ZONEにもMAZARIAでのノウハウや運営方法を広げていく,ということを考えています。

4Gamer:
 ARやMRを導入していく予定はありますか。

田宮氏:
 やりたいです。「アニメとゲームに入る場所」という意味では,特にARは欲しいですね。HMDを被った向こうにキャラクターや世界が見えるのではなく,「施設の中にキャラが遊びに来ている」というアクティビティは,MAZARIAにあるべきです。現状は,実際にどういうやり方をすればよいかを探索しているところですね。
 ただ,HMDにこだわっていないように,ARやVRというところにこだわっているわけでもないんです。あらゆる表現を使って,「施設の中にゲームやキャラがあふれている」という体験を作るのが大事だと考えています。

小山氏:
 現状だと,ドラゴンクエストのプロジェクションマッピングなんかがそれですね。
 ああいうことも含めて「向こうに行った」感が出せるようにしたいですし,吹き抜けのところでもいろいろやりたいですねえ。

4Gamer:
 池袋という立地は乙女ロードが近いこと,サンシャインシティでは女性向けの同人誌イベントも多いこと,ナンジャタウンでの実績などを踏まえると,女性向けコンテンツにも可能性があると思うのですが,そのあたりの予定はありますか。

田宮氏:
 サブターゲットとして大きいと思っていますし,そういうコンテンツも扱うと決めています。あとは,どう表現するかですね。ご指摘のようにナンジャタウンもあるので,上と下で連動とかをしてみたいです。

4Gamer:
 それ以外に,今後の展望として何か伺えることはあるでしょうか。

田宮氏:
 アニメ成分はもっと増やしたいですね。現状ではゲームのバランスのほうが強めに見えているところがありますから。そこは屋号に相応しいバランスに持っていきたいし,持っていけると思っています。
 VR ZONEはアクティビティが中心にあって,そこにどう集客するか,どう見せるか,どういう立て付けをするか,という視点でした。施設はあくまで「アクティビティがある場所」だったんです。
 MAZARIAは,施設に「いることが楽しい」「楽しいからまた来たい」という空間を作りたいです。スタッフがロールプレイ推奨で世界を作っていくことも含めて,MAZARIAのコンセプトはもっと強化していきたいですね。

小山氏:
 ナンジャタウンとの融合はもっと進めていきたいですね。現状ではナンジャタウンとMAZARIAの連結部がまだまだ分かりにくい状態になっていますから。そこはしっかり活用していきたいです。

4Gamer:
 期待しています。本日は長時間,どうもありがとうございました。

「MAZARIA」公式サイト


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集計:04月26日〜04月27日