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ゲームのプロデューサーとして企画を立てる。小中学生向けの教材「アソビジット」を活用した授業の様子をレポート
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印刷2020/02/22 12:00

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ゲームのプロデューサーとして企画を立てる。小中学生向けの教材「アソビジット」を活用した授業の様子をレポート

 「プログラミング教育の必修化」を筆頭に,“義務教育の中でPCの使い方を教えよう”という動きがこのところ活性化している。
 そんななか,バンダイナムコエンターテイメントと朝日新聞社はアクティブラーニング型キャリア教育教材「アソビジット」を開発した(愛知教育大学が監修)。

 アソビジットは,映像とテキスト(ワークシート)からなる教材で,これを通じて生徒は「ゲームのプロデューサーとして企画を立案する」ことを疑似体験できる。さらに,全国の小中学校のみならず,すべての教育機関を対象に,2019年9月の発表以来,計413教室分の無償配布が行われているという(当初は100教室分だったものが,評判を受けて増刷された)。

 「教育の現場」と「ゲーム」という2つは,なにかと相性が悪い傾向にあるが,この「アソビジット」は実際にどのような教材として機能しているのだろうか。2020年1月21日に東京の宝仙学園中学校で行われた授業の模様を取材できたので,レポートしよう。

宝仙学園中学校
画像集#001のサムネイル/ゲームのプロデューサーとして企画を立てる。小中学生向けの教材「アソビジット」を活用した授業の様子をレポート


「企画を立てる」方法を学ぶ授業


 まず最初に注目すべきは,アソビジットがテキスト(冊子1冊,ワークシート兼用)と映像のみで成立している教材だということだ。つまり「アソビジット」を使って授業をするにあたって,PCは必要ない。
 生徒は先生の講義を聞き,ビデオ教材を見て,あとはそれらの指示に従いチームでディスカッションしながら,ワークシートを埋めていく。この流れを通じて「ゲームプロデューサーとしてゲームの企画を立てる」ことを体験できるわけだ。
 ただ実際に教材を見てみると,「ゲームの企画を立てること」だけというより,「企画を立てるという経験をすること」に重点が置かれていることが分かる。本教材が示している手法は,必ずしもゲームに特化したものではないのだ。

 では,実際に教材の一部を見てみよう。テキストを開くと,まず目に入るのが以下のシートだ。

画像集#002のサムネイル/ゲームのプロデューサーとして企画を立てる。小中学生向けの教材「アソビジット」を活用した授業の様子をレポート

 最初のページに示されている「ニーズ」「ワクワク」は,シリアスゲームにおける「解決すべき社会的課題」と「ゲーム」に対応していると言える。生徒たちはまずグループで話し合って,自分たちにはどんな課題があるか(ニーズ)を列挙し,またどんなことを実際に楽しい(ワクワク)と感じるかを言葉へ落とし込んでいく。

実際に「ニーズ」と「ワクワク」に対して記入が終わったところ
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 ちなみにこのテキストの最終ページはカードになっており,生徒は自分が考えたニーズとワクワクをカードに記入して,それをグループに対して提示するというシステムになっている。

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最終ページはカードになっている。といってもハサミは必要
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カードはこのようにして使う

 続いて「ニーズ」と「ワクワク」の組み合わせを各人が考えるフェイズとなる。解決すべき課題に対して,どのようなゲームを利用すればよいのか(または,できるのか)を,まずは個々人が考えるわけだ。この組み合わせを,アソビジットでは「アソビ」と定義している。
 再び実際の例を見てみよう。

女子力弓道,心の闇ダンスなど,なかなかすさまじいワードが並ぶ
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こちらのグループはかなり具体的イメージを持って企画を検討している模様
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 こうして作られたアソビをグループに提示して話し合うことで,そのグループにおけるアソビの組み合わせが決まる。
 ちなみに実際の教室では,「ニーズ」として「早起き」が多い傾向があった。この理由は,テキストに示されているニーズの例として「早起き」があることも,もちろん一定の影響があるとは思うが,この寒い季節に早起きして通学するというのが,生徒にとって少なからぬチャレンジになっていることを思わせる。
 こうしてグループでのアソビを決めたら,次はアソビの具体的な仕様を詰めていくことになる。この段階で,企画としてはいったん完成というわけだ。


皆の前でプレゼンするまでが企画立案です


 だが企画を完成させただけでは,アソビジットにおいて求められている課題はまだ半分を越えたあたりだ。
 企画が決まったら,続いてはその企画をプレゼンするためのシートを作っていく。そう,アソビジットは企画をプレゼンするところまでが授業なのだ。

 プレゼンシートでは

・商品の名前
・商品の概要
・商品のセールスポイント
・ターゲットとなる顧客のイメージ
・商品イラスト
・顧客が得るであろう使用感
・商品のキャッチコピー

 といった項目をグループで話し合って決めていく。

 ここでも実際にどのようなプレゼンシートが作られていったかを見てみよう。

勉強ビームライフル。「遊びながら学べる」系の企画のようだ
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ガチャ×食の「おかあさんだいすき」または「おかあさんはやすめ」。食料品店の店頭でメニューを発行してくれるシステム
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金遊び。実に大胆な企画だ。「お金の大切さが分かる脱出ゲーム」という路線だが,某ギャンブル漫画的な体験ができる脱出ゲームはファンが喜びそうだ
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 どのグループも,苦戦していたのは「商品の名前」を決めるステップだ。少なからぬグループの手がここで止まってしまい,議論が空転する様子が見受けられた。
 筆者も「企画にとって名前は命」と思っているところがあるので,アソビジットが企画に名前をつけるステップを有しているのは非常に良いことだと思う。反面,むしろここに機械的な決定方法(個々人が自分のアイデアをカードに書き,ランダムにカードを引いて命名する,など)を導入したほうが全体の流れはスムーズになるかもしれないとは感じた。

ビデオ教材も用意されており,ワークシートの意義や使い方を説明してくれる
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 授業としては,各グループがプレゼンシートを5割〜8割がた埋めたところでチャイムとあいなった。プレゼンシートの完成は宿題となり,翌週の授業ではそれぞれのグループが自分たちの考えたアソビをプレゼンする,という流れだ。

 ちなみにこのようにして作られた企画は,バンダイナムコエンターテイメントが行うコンテストに応募することもできる。コンテストで優れた成績を収めたグループは,同社の本社に招かれ,表彰される予定だという。


タイムアタック的な展開を見せる授業


 アソビジットを使った授業を,筆者は2クラス分見学させてもらったが,何よりも強く感じたのは「中学校の50分という授業時間は短い」ということだ。
 大学であれば90分,場合によっては120分という時間が設けられているので,簡単なワークショップを含めた講義を行うことは不可能ではない。だが50分という時間は,グループ・ディスカッションを前提としたワークショップを行うにあたっては,驚くほど短い。
 もっともアソビジットは50分で完結するわけではなく,3コマ(150分)を使うことを前提としている。とはいえ,そのうち50分はプレゼンに使われるし,授業の開始と終了時には簡単な説明や連絡事項を伝達する時間があることを考えると,生徒たちが使える実時間はかなり少ないのだ。

筆者が小中学生だった頃は,この手の「みんなで話し合って決める」系の授業は全員が押し黙ったまま,チームリーダーだけが手を動かす……という状況も珍しくはなかったが,筆者が見学した授業は全員が活発に意見を出しあっていた。純粋に素晴らしいことだと思う
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 そしてこの「使える時間が短い」という特徴は,授業にデジタル機器を持ち込むリスクを高める。前述のようにアソビジットではビデオ教材が用意されており,今回の授業ではiPadから再生されていたが,機材のトラブルによって多少もたつくシーンが見られた。今後,本格化するICT教育時代に向けて,指導者側はITリテラシーを高めておく必要があるだろう。

先生が講義をするパートもある。また,アイデア出しに詰まっているグループに対し適切なアドバイスをするのも先生の仕事だ
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 もちろん,そういった問題にどう対応するかというノウハウは徐々に蓄積されていくだろうし,筆者としても「こんな大問題がある! だから教育の現場にデジタル機材を持ち込むのはダメだ!」的なことを主張したいわけではない。
 だが,まさに過渡期となる日本の教育現場において,アソビジットが原則として非デジタルな教材実装を選んだというのは,慧眼と言えるだろう。また教材を制作する側にとってみても,「小さく始めて大きく育てる」方針を採るのであれば,「紙と鉛筆」型の教材開発からスタートするのは合理的だ。

ごくナチュラルに,机の上にiPadが並ぶ。企画立案中にグループ内で理解を統一したり,既存の商品を参考にしたりするために,Googleの画像検索を活用しているグループも多かった。これもまた「コンピュータを使って学ぶ」一形態だろう
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 なお,筆者の私的な感想として,「小中学生にどうやって『企画を立てて,プレゼンする』ことを教えるか」という課題に対して,「『ゲームの企画を立てる』という立て付けにすることで,生徒の興味を高める」という解決を持ってきたのは,とてもシリアスゲーム的で面白い。しかも,そうして作られた教材が「シリアスゲームの企画を立てて,プレゼンする」という実装になっているのは,二重に面白い。
 そういう意味において,アソビジットはシリアスゲームの持つ新たな可能性も,我々に見せてくれているように思う。

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