業界動向
Tencent,2020年第4四半期および年度業績報告を公開。同年のゲーム売り上げは3兆円超え。直近3か月のモバイルゲーム売り上げは約6100億円
やや古い話となってしまい恐縮だが,2021年3月24日に,Tencentの2020年第4四半期(10〜12月)および2020年度の業績報告が公開された。いつものように全体の数字を見ながら,ゲームに関係がある部分をいくつか抜粋してみよう。
外部サイト:TENCENT ANNOUNCES 2020 FOURTH QUARTER AND ANNUAL RESULTS(英語)
Tencent,2019年度決算報告を公開。オンラインゲーム事業は年間売上30%の1.8兆円,キーワードが「海外進出」と「外部パートナー連携」
Tencent(テンセント),2019年第4四半期(10月〜12月)業績報告及び年度決算報告が公開された。年間約5.9兆円の売り上げで1.4兆円以上の利益を叩き出したその内訳を,のぞいてみよう。
Tencentの第4四半期ゲーム事業売り上げは,全社売り上げの35%。モバイルゲームの収益は約6100億円
例年どおり,2020年第4四半期(10月〜12月)の業績報告と年度決算報告が合わせて公開されているので,まずは四半期分の数字から見てみよう。
・総売り上げ 1336.69億元(約2.22兆円),YoY+26%※1
non-IFRS※2
・営業利益(Operating Profit) 380.84億元(約6329.56億円),YoY+26%
・当期利益(Profit for the period) 344.54億元(約5726.25億円),YoY+29%
IFRS
・営業利益 637.13億元(約1.06兆円),YoY+123%
・当期利益 593.69億元(約9867.13億円),YoY+165%
※1 レートはすべて,2021年4月19日の数値(1元=16.62円)で計算しています
※2 特定の一時的および/または非現金項目を除外してコアの収益を反映させる非国際会計基準。今回は,国際会計基準に基づく数字(IFRS)も並行して報告されている。
事業全体のうち,ゲーム事業の売り上げは469億元(約7794.78億円)で全社売り上げの35%を占めており,そのうちオンラインゲーム売り上げは391億元(約6498.42億円)。YoY+29%,QoQ−6%だ。とはいえ,「オンラインゲーム売上」の定義が日本でのイメージとは微妙に異なるのでそこは注意してほしい。ゲームやエンターテイメントなどにおける付加価値サービス課金や,一部のインゲーム課金は,SNS事業に計上されている(つまり日本における“ゲーム事業”の範囲なら,数字としてはもっと多くなるはずだ)。
ちなみに,ジャンルを個別に見ると
・モバイル売り上げ:
367億元(約6099.54億円),YoY+41%,QoQ−6.3%
・PCゲーム売り上げ:
102億元(約1695.24億円),YoYー1.5%,QoQー12.3%
となっており(足したものが単純に「オンラインゲーム売上」にならないことに注意),成長の鈍化を示すQoQのマイナス成長については,決算発表の質疑応答で以下のように語られている。
ゲーム収入面において「Call of Duty:Mobile」のような重量級の製品がローンチされたにもかかわらず,第4四半期で収益の伸びが大きく減速した理由はなぜでしょうか? また,2021年のゲーム事業に対する展望を語っていただけますでしょうか。
A:
大きく分けて3つのポイントがあります。
まず第4四半期のゲーム売り上げが前期より下がったことは確かですが,中国全土での環境変化として,2020年前半は家で過ごす時間が長く,ゲーム売り上げの収益が大幅にアップしていたことが挙げられます。これが正常な仕事や生活に戻ったことで下がったように見えるだけです。世界的に見てこういう状況は少ないですが,少なくとも中国においてはそうでした。
二つ目の理由についてですが,一般的に第4四半期(編注:中国のQ4は10〜12月)は,ゲームの収益が減少すると言われています。もちろん,そうでないこともありますが,例えば,2019年Q3から2019年Q4にかけて,Supercellが数十億人民元の繰延収益を当社に提供していたようなイレギュラーな収益が,2020年Q4にはありませんでした。
最後の理由として,今年の旧正月の遅れに影響を受けていることが挙げられます。旧正月のイベントは30日前に行うことが多く,2019〜2020年の旧正月イベントは12月から行っていましたが,今年は1月からと遅くなったため,その部分は2021年Q1にカウントされています。
2021年上半期の収益動向についてもご質問いただきましたが,我々は短期的な収益ではなく,数年のスパンでの長期的な収益を重視しています。COVID-19の影響で,より多くの人々がゲームを知り,ゲームにお金を使う習慣を身につける機会にもなったと思います。COVID-19期間では,オンライン教育やヘルスケアなどの分野と同様に,ゲームが活発なパフォーマンスを見せていました。
なお,四半期の数字とともに新たにハイライトとして発表された,近年の中国で話題になっている「未成年に対するゲーム制限」に関しても,Tencentなりの結果を発表した。数字だけではあるが,ここに記しておこう。
保護者が未成年ユーザーのゲームオンライン時間及び消費額を把握できるように,かつ中国青少年の健康的なゲーム環境を提供するように,「腾讯游戏健康系统」(Tencent Games健康システム)を引き続き進化させていた。
2020年第4四半期に,18歳以下の未成年者による売り上げは,オンラインゲーム全体売り上げの6%(23.46億元:約389.91億円)を占め,16歳以下の未成年者は3.2%となった。
2020年の年度売り上げは約8兆円,うちゲーム売り上げは3兆円超え
さて,いつもながらの文字どおり“桁違い”の数字となるが,2020年度の数字を見ていこう。Tencentの2020年度全社売り上げは4820.64億元(約8.01兆円)で,前年比+28%と変わらず好調だ。
・総売り上げ 4820.64億元(約8.01兆円),前年比+28%
non-IFRS
・営業利益 1494.04億元(約2.48兆円),YoY+30%
・当年利益 1269.83億元(約2.11兆円),YoY+30%
IFRS
・営業利益 1842.37億元(約3.06兆円),YoY+55%
・当年利益 1601.25億元(約2.66兆円),YoY+67%
ゲームに関しては,2020年ゲーム全体の売り上げは,1911.55億元(約3.18兆円)で,これはモバイルゲームとPCゲームの売り上げの合算になる。内訳は
・モバイルゲーム売り上げ 1466.17億元(約2.44兆円)
・PCゲーム売り上げ 445.38億元(約7402.22億円)
なお,「オンラインゲーム売り上げ」は1561億元(約2.59兆円)で,YoY+36%だ。
ハイライト
ゲーム事業のハイライトについては,目立った成績を残したヒットタイトル「Valorant」「天涯明月刀(Moonlight Blade Mobile)」「Call of Duty:Mobile」(iOS / Android)「王者栄耀」(邦題:「伝説対決 -Arena of Valor-」)などのほかに,MOBAゲームのAIやクラウドゲーミングサービスなどについてが抜粋されている。
Timiスタジオの人気タイトル「王者栄耀」について,Tencent AI Labが囲碁や将棋の領域から一歩広げて,複雑な環境における人工知能の応用について実験を重ねた。その結果,2020年5月1日〜5日に,5000万人以上のプレイヤーとAIを対戦させ,全642,047回の試合で,AIが627,280局に勝利した(勝率97.7%)という。
外部サイト:Towards Playing Full MOBA Games with Deep Reinforcement Learning(英語)
一方,クラウドゲーミングサービス「START」,「XianYou」についても言及されているが,Tencentアカウントと結びついて体験できるものであって,現時点では中国国内でしか触れないものとなるため割愛する。
外部サイト:Tencent Nintendo Switch公式サイト(中国語)
2020年にも数多くのゲーム会社に投資しているTencentだが,表に出ている出資が相当印象的なのだろうか。最近では,「Arma」シリーズや「DayZ」などで日本でもよく知られるチェコのBohemia Interactiveに出資,直近では「ドールズフロントライン」を開発・運営するサンボーン株式の20%を取得したのも報じられている。日本では公開発表されたマーベラスやプラチナゲームズのほか,未発表の投資も数々進んでいるようだ。質疑応答においても,独占禁止法やTencentの投資ポリシーについて聞かれて答えているので,そちらも紹介しておこう。
コンソールやIPとのコラボレーションという話がありましたが,これも海外や国内での戦略なのでしょうか? いくつかのPCおよびコンソールゲームのスタジオに投資していますが,この分野に対する投資ロジックについてお聞かせください。
A:
我々は国際的なゲームスタジオと協力して,世界や中国で人気のあるゲームを作っています。確かにPCやコンソールゲームのスタジオへの投資は積極的に行っていますが,スマホゲームの会社にもかなりの投資を行っています。
我々はPC何社,コンソール何社,そしてスマホゲーム何社という投資目標は設定しておらず,それぞれのジャンルで最高のチームに投資したいと考えています。中国には優秀なスマホの開発チームがたくさんあり,アメリカや日本ではコンソール中心の素晴らしい開発チームが多くあります。そしてヨーロッパは,PCやインディゲームのトップチームがいくつかあります。マルチプラットフォームのゲーム体験が容易になった今では,異なるジャンルと異なるプラットフォームでも専門知識を持つ人材がますます重要になっています。
Q:
ゲームやデジタルエンターテイメントのビジネスは、独占禁止法上の対象になるのでしょうか? 規制制度が整うことで,今後の買収や大型投資がスローダウンすることはありますでしょうか。
A:
この半年間,独占禁止法の話題が非常にホットでしたが,これは規制というよりは,ゲームや教育,健康などを含めて将来を見据えたものでした。我々はこれを機会に,これらの分野の独立企業を支援しています。我々の投資はすべてマイノリティであり,M&Aではありません。まだまだ国内外で積極的な投資を続けます。
またゲーム分野は競争が激しく,ライバルも多く,自由な競争が行われているため,独占禁止法とあまり関係性はありません。
Tencent Holdings Ltd 2020 Fourth Quarter and Annual Results Announcement(Webcast)
Tencent Holdings Limited 2020 Annual Report
2020 Fourth Quarter and Annual Results Presentation
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