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印刷2009/02/21 12:14

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徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第3回:VASSALの魅力を伝えるしかない!地の巻

徳岡正肇のこれをやるしかない!
第3回:アナログのシミュレーションゲームをネット対戦! VASSALの魅力を伝えるしかない!地の巻

 

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 前回に引き続き,デジタルとアナログの狭間に立つゲーム(というかツールですが),「VASSAL」についてライターの徳岡正肇氏がこと細かに解説する。
 そもそもVASSALとはなんなんだ? という人は前編に当たる「天の巻」を読んでいただくしかない! その上で今回の「地の巻」では,誰でも無料でプレイが可能な「シュぺー号追撃戦」をサカナに,VASSALを使ったゲームがどのように進行していくか,あるいはボードゲーム専門のプレイヤーがこれをどう感じたかを紹介し,VASSALへの理解を深めてもらおうというわけだ。
 大西洋/インド洋に展開するたった一隻のシュぺー号を,全力を挙げて追いかける英艦隊。広大な海域を舞台に,今,手に汗握る英独の戦いが始まるのだ。これはもう,読むしかない!

 

英艦隊,シュぺー号を取り逃がす(承前)

 大増強した英海軍に対し,シュペー号はアフリカ沿岸で再び通商破壊を行ったあと,南極海ぎりぎりまで南下。いったん息を潜めて英軍の出方を見る。索敵にひっかからず,通商破壊を行わなければ,シュペー号は基本的にその姿を消したままだ。英海軍はシュペー号の移動力を前提として居場所を推測していくことになるが,1ターン姿を潜められると,その推測は大きく揺らぐ。

 

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上が独軍の画面,下が英軍の画面。英軍画面でシュペー号が見えているのは,通商破壊によって居場所を露見させたから

 

 ここでシュペー号の最初の冒険が行われる。南アメリカ沖の商船マーカーがあるマスに突入したのだ。そこには英海軍が1ユニット,守りを固めている。移動距離からみて戦艦ということはありえない(戦艦は1ターンに1マスしか動けない)が,「敵の砲弾がかすっただけでも事実上敗北」なシュペー号としては,自ら敵の懐に飛び込むのは大変に危険だ。
 いきなり運命のラプラタ沖海戦となるか……と思いきや,いざ戦闘となって英海軍のユニットを表にしてみると,英海軍の正体はダミー。「情報戦によって,ドイツ海軍に『ここには英海軍がいる』と信じさせていた」だけの誤報であった。

英軍「プレッシャーをかけようとしたのに,交通事故か!」
独軍「天佑は我にあり,ですなあ……」

 ダミーであろうがなんであろうが,索敵に成功したターンには通商破壊が行えないので,シュペー号は商船マーカーを前にしながらもVPを獲得できない。

 

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上が独軍,下二枚が英軍の画面。独軍は果敢に英軍艦艇が待ち伏せする海域に突入するも,結果はダミー。ダミーであろうとも,シュペー号の位置は露見する。英軍の視線が熱い

 

シュぺー号,乾坤一擲の勝負に出る

 一方英海軍は,ダミーを失ったとはいえ,シュペー号が比較的閉ざされた海域(なにしろ西半分は陸地だ)にいることに勇躍,再び動員をかけて,巨大な包囲網を敷いた。シュペー号の移動力は2,その移動範囲を前提として,空母での航空索敵も併せての鉄壁の索敵網である。

 だがシュペー号の機動は,英海軍の予想の斜め上をすり抜けていく。次のターン,鉄壁のはずの索敵網にはシュペー号の影はなく,通商破壊のために姿を現した彼女は,なんと前のターンと同じ場所にいた!

英軍「いかん,発見されたんだから,その場から逃げるものとばかり」
独軍「先入観とは恐ろしいですなあ」

 

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上が独軍,下が英軍の画面。シュペー号が現場から逃亡することを前提にしたフォーメーションが,実に寂しげ

 

 商船マーカーは一度こっきりの使いきり,さすがに同じ場所でまた繰り返し通商破壊はないだろうと踏んだ英軍は,フォーメーションを変えることなく,索敵効率を上げることに注力した。
 とはいえ,大西洋のど真ん中で戦艦一隻を発見するのは至難の業だ。また,やはり英軍プレイヤーには動揺が残っていたのか,索敵範囲を微妙に西側に傾けたのも響いた。
 シュペー号は補給船を使って一気に包囲網をすり抜け,アフリカ西海岸に出現する(補給船から移動を開始する場合,シュペー号は移動距離を1ターンだけ+1してもよい。ただしそれぞれの補給船は1回しか利用できない)。
 完全に英軍の裏をかいたシュペー号だが,通商破壊には失敗。確率50%の勝負のはずなのに,どうにもツキがない。

 商船マーカーがない(またはなくなった)マスで通商破壊をするときは,ツールバーの「通商破壊判定」ボタンを使う。成功率は50%で,自動的に結果を出してくれる。戦闘結果の表示も含め,数少ない「自動的にルールを処理してくれる」部分である。

英軍「想像したより遥かにやっかいだな,このゲーム……」
独軍「想像したよりずっとドキドキするんですけど,このゲーム(笑)」

 

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シュペー号の大脱出。意識が西に向いてしまった英海軍の包囲を見事に抜け出すことに成功する

 

シュぺー号,英海軍と交戦する

 この段階で,シュペー号は大きな岐路に立たされていた。奇跡の大脱出に成功した場所で位置を露見させたのは,そこに補給船があるからだ。これを使って移動力に+1すれば,大西洋で再び猛威を振るうもよし,インド洋に向かって回航することも可能だ。
 しかし大西洋は交通渋滞しかねない勢いで英海軍がひしめいているし,商船マーカーのあるマスはおおむね監視下にある。安易なVP獲得は難しいだろう。一方インド洋はだいぶノーマークだが,かといってあんな狭いエリアに突入すれば,普通は生きて帰ってこれない。
 VPが十分にあれば話は別だが,このときのドイツ軍VPは9点。最低でもあと6点稼がねばならず,インド洋側には商船マーカーが一つしかない。

 独軍は,15VPを得たうえで,大西洋あるいはインド洋への脱出マスから盤外に出れば勝利である。シュペー号が沈むと6面体サイコロ1個ぶんのVPを失ってしまうが,それでも15VP以上あればドイツ軍の勝ちだ(したがって,ドイツ軍21VPでサドンデス勝利である)。

 ドイツ軍,長考に入る。そして,ついに決断は下された。

 英海軍はアフリカ沿岸を重点カバー,北の水域にも目を光らせる。だが空母による索敵も功を奏さず,なにやら重い空気がたちこめる。
 そして注目の通商破壊フェイズ。ドイツ軍は息を潜めて英海軍の離散を待つかと思いきや,いきなり南アフリカ東岸に姿を現し,驚愕する英軍の眼前で通商破壊を試みる。結果は失敗。

独軍「また失敗かあ。きついな」
英軍「……うおお,動揺して吸いかけのタバコを放置したまま,新しいのに火をつけた」

 

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突如としてアフリカの東海岸に出現したシュペー号。この狭い海域に飛び込むのは,自殺行為のようにも思えるが……

 

 シュペー号が通商破壊を試みたマスのすぐ上には,商船マーカーの置かれたマスが控えている。明らかに,シュペー号はこれを狙っていると見ていいだろう。英海軍はあわてて巡洋艦を商船マスに派遣,シュペー号の通商破壊を防ぐとともに,再び大動員をかけて全海軍を大西洋からインド洋に向けて回航させた。

 だが,これはシュペー号の巧妙な罠であった。
 双方のプレイヤーの思惑どおり,商船マーカーのあるマスにシュペー号が出現し,戦闘となる。

 

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上が独軍,下が英軍の画面。ユニットが重なっているので見えにくいが,C6のマス(マダガスカルの西)で交戦開始

 

 戦闘を解決する場合,ツールバーにある「戦艦以外への攻撃」「戦艦への攻撃」ボタンを使用する。
 「戦艦以外への攻撃」は,シュペー号が,英海軍の巡洋艦や空母を攻撃する場合に使用する。処理としては6面体のサイコロを3個振って,5か6の目が出たら1ダメージと計算される仕組みだ。
 「戦艦への攻撃」は,シュペー号が英海軍の戦艦に攻撃する場合と,英海軍がシュペー号に攻撃する場合(シュペー号だって一応は戦艦だ)に使用する。クリックすると,サイコロの個数をいろいろ指定できるが,これは攻撃者によって変動があるためだ。
 具体的には,英海軍巡洋艦なら2個,英海軍空母の空襲なら3個,英海軍戦艦なら9個となる。すべて,6の目ごとに1ダメージを発生させる。

 シュペー号の砲撃は1ヒット,英巡洋艦は損傷する。巡洋艦の砲撃はヒットせず,損傷を受けた英巡洋艦は盤面から取り除かれ,再び「大西洋・盤外」のボックスに戻される。本国で修理というわけだ。
 なお,独軍はこうして敵艦に損傷を与えることで,1VPを獲得する。敵艦を「振り出しに戻す」効果も素晴らしいが,このVPも意外と大きい。

英軍「ああ,しまった! うかつすぎる」
独軍「リスクとリターンでリターンのほうが大きいなら,やりますよね」

 

英海軍,ピンチに陥る

 英軍プレイヤーは戦闘解決の段になって気づいたようだが,ここは無理に商船マーカーを守るべきではなかった。戦闘をすれば,だいたい71%の確率で巡洋艦が損傷する。一方,巡洋艦1隻がシュペー号に1ヒット以上を与える可能性は31%程度にすぎない(2ヒット=撃沈は2%)。31%でシュペー号に取り返しのつかない被害を与えるとはいえ,71%で海域から戦力をすべて失う。

 さて,独軍としては,かりそめの勝利に浸っているわけにはいかない。巡洋艦を撃退したことで,10VP。インド洋方面への展開を急いだイギリスが2回動員したので12VP。あと通商破壊2回が必要だ。
 とはいえ,客観的にはドイツ軍がかなり有利である,ように見えるのだが……。

独軍「私の目には,自分が有利なようにまったく見えませんな(笑)」
英軍「奇遇だね,俺も自分が有利には見えないな(笑)」

 独軍から見れば,喜望峰にはすでに英海軍主力がいるのだ。理論上は2ターンで15VPに届くが,あと4VPは果てしなく遠い。だって独軍はしょせんシュペー号だけなのだから。

 シュペー号はいったんマダガスカル沖に引き,息を潜める。英海軍主力が商船マーカーを防衛に入り,またもう1隻の空母も喜望峰沖にある。お互い,ギリギリの寄せ合いが始まった。

 

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上が独軍,下が英軍の画面。シュペー号がアフリカ東海岸で姿を消す。これだけ狭いスペースだが,居場所の特定は意外に困難だ

 

 先に賭けに出たのはシュペー号だ。マダガスカル沖で通商破壊を試み,失敗。英海軍は周囲に水も漏らさぬ包囲を敷いており,この情報をもとに一気に寄せにかかる。
 英海軍は,シュペー号がいた場所に補給船がないと仮定,シュペー号が移動できる場所を広範囲に索敵範囲に収める。ところで提督,相変わらず,先ほどシュペー号が姿を現したマスは索敵範囲外なんですが……。

英軍「これで同じ位置に出てきたら,俺は投了でいいよ。あ,それから補給船がいた場合も投了だね」

 だが「普通のプレイをしていたのでは,かなりの確率で負ける」と腹をくくりなおしていたドイツ軍の暴挙は,英軍の推測を超えていた。空母が存在していることが確定しているマスの隣,インド洋への脱出航路に移動したのだ。
 英軍は喜望峰への脱出を阻止すべく機動しており,結果としてシュペー号はまたしても英海軍の逆手を取った。通商破壊宣言で英軍を大いに狼狽させつつ,判定はついに成功。14VP,絶好の位置でリーチである。

独軍「あと1VPが,血の1VPか……」
英軍「もう1隻もやれないんだよね。ほとんど詰ませてるんだが。序盤に動員させすぎたのが効いてるのかな? いや違うな,あの無駄な戦闘で損傷した1隻ぶんだ」

 

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ついにシュペー号が商船マーカーのないマスでの通商破壊に成功。しかしこれってどう見ても追い詰められてませんか

 

 シュペー号としては,その場に留まるという選択もあるように見えるが,盤面の状況からいって確定選択として空母の索敵が行われるため,動くしかない。だが,動いた先には英海軍が必ず存在する。まさに極限状態。シュペー号にとって幸いなのは,各個撃破で英海軍の戦力を分散させることに成功していたことだ。
 そして数学的必然が,ついにシュペー号を捕らえる。英海軍が,初めて意図的にシュペー号を索敵網に入れたのだ……が,やんぬるかな! 英海軍のユニットはダミー。

独軍「なんという天佑。これは確実に勝てる」
英軍「くそ,やっぱりあの1隻だ。ありえないくらい,あの1隻が痛い」

 

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上が独軍,下が英軍の画面。完全に周囲を固めれたシュペー号。ダミーだったのは不幸中の幸い,なのだろうか?

 

シュぺー号,勝利を目前にする

 さて,独軍プレイヤーは虚勢を張っているが,実のところ状況は独軍にとって極めて悪い。ダミーだったため損害を受けることこそなかったが,交戦によるVPを得ることもできず,通商破壊を試みることもできなかった。
 しかも次のターン,弱気になったシュペー号は大西洋への突破とインド洋への突破を両天秤にかけた,中途半端な移動をしてしまう。運良く発見こそされなかったものの,英海軍は,この局面で彼らにとって最も必要とされる「時間」を手に入れてしまったのだ。

 

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ギャラリーの首をひねらせた,シュペー号の曖昧な一手。いやあ,ここにきて冒険できない気持ちも分かりますが,これはないよ

 

 ドイツ軍,再び長考に入る。イギリス軍が想像すらしない何かを実現させなければ,シュペー号の未来はただの漁礁だ。
 やがて,シュペー号が移動の終了を宣言した。英海軍にとってみれば,数学の時間は終わり,ほとんどただの算数である。最も効率がよくなるようにフォーメーションを組み,索敵範囲を決定する。

英軍「さて,航空索敵いっていいかな?」
独軍「いえ,栄えある英海軍は,すでに索敵に成功しています。そこの空母機動部隊のとこに,シュペー号がいます」
英軍「?」

 喜望峰沖に停泊していた空母+巡洋艦に,シュペー号は単独突入していたのだ。確かに,理論上彼らがそこから動くことは考えにくかった。しかもインファイトを挑まれた空母は戦闘参加できないので,英海軍は合計5火力を持ちながらも,巡洋艦の2火力しか利用できない(代わりに,シュペー号は巡洋艦しか狙えない。空母が単独でいれば,空母を砲撃できる)。
 英独双方が念じながら振ったサイコロの結果,英巡洋艦は損傷,シュペー号は無傷に終わる。これで15VP,ドイツ側の最低限の勝利条件は達成された。あとは無事脱出するだけだ。

 

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英軍プレイヤー,驚愕。「空母機動部隊には突入はしてこないだろう」という先入観を逆手にとった一撃。近接戦での戦闘力は巡洋艦1隻ですから

 

 勝利条件を一部達成した独軍プレイヤーは,少し悩んだようだったが,移動終了を宣言する。
 今度は英軍プレイヤーの長考が始まった。えーっと,傍目に見ると,こりゃあもう英軍の負けなんですが……?

英軍「うるさい,考えさせろ」

 解説をするならば,まずドイツ軍には合理的な選択肢が大きく分けて二つもある。一つはインド洋への脱出,もう一つは大西洋で通商破壊連打である。
 英海軍は分散しているうえ,その総数を減らしており,大西洋で長期戦をすればシュペー号が21点獲得するのも夢ではない。また,シュペー号がいる喜望峰沖には補給船があり,ここからインド洋脱出までは2手番だ。どちらも,敗北の確率はわずかといえる。
 そのうえ,英軍空母の片方は護衛艦なしの状態。積極的な運用は難しいし,一歩間違えればシュペー号が空母を沈めるという,歴史のネジを思い切り巻きなおす結果すら出かねない。ごく普通に考えれば,大西洋で緩包囲を敷く巡洋艦との合流を急ぐだろう。

独軍「ここまでさんざん危険な博打に勝ってきたんだから,これくらいの優位は当然でしょう」

 

シュぺー号,アフリカ沖で最初の戦果
 だが,英軍プレイヤーの機動は,関係者全員を凍りつかせた。インド洋への脱出航路を射程に捕らえるマスに,空母を集結させたのだ。独軍は絶対にインド洋への突破しかしない,そう確信しての一点張りである。
 英海軍としてはギャンブルではあるが,確信もあったという。空母機動部隊に突っ込んでくるからには,かなりの高確率でその場に補給船があると考えるべきだ。独軍プレイヤーは,まったくなんの仕込みもなしに博打を打たない。となれば,長期戦になるぶん事故死の危険性も高まる大西洋(補給船という「仕込み」は,もう大西洋には存在しない)よりはインド洋を選ぶだろうし,必然的に補給船による3マス移動も行うはずだ。
 祈りにも似た賭けは,的中する。航空索敵フェイズで,英艦載機ソードフィッシュがついにシュペー号を発見したのだ。

独軍「しまった,最後の最後に勝ちを急いだ。一呼吸おいて良かった状況じゃないか……」
英軍「戦艦の,時代は,終わったのだよ!」

 

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土壇場で冴え渡った英軍の機動。空母2隻を集結させ,全力でシュペー号を追撃する。勝負の行方は運に委ねられた

 

 空母2隻ぶんのソードフィッシュによる猛爆撃がシュペー号を襲う。が,結果は1ヒット。シュペー号は重大な損傷を負ったものの,沈まなかった。次のターン,シュペー号がインド洋へと脱出,15VPで独軍の勝利となる。

独軍「蚊トンボごときに戦艦が沈められるはずがないのですよ」
英軍「この戦訓がマレー沖の悲劇を生むのか……」

 なお,もしシュペー号が撃沈された場合,ドイツ軍プレイヤーは6面体サイコロ1個を振って,出目だけVPを減らす。この場合,ツールバーにある「1d6」ボタンを使おう。
 1d6というのはアナログゲーム界におけるサイコロの表記法で,「6」面体のサイコロを「1」個振る,という意味だ。これが「3d6」と書いてあれば,6面体を3個振ることを意味し,「1d20」とあれば20面体サイコロを1個振ることになる。

 

戦後の感想

独軍
「実働1ユニットっていうのは精神的にきついものがあります。1ダメージで移動力が1になって,2ダメージで沈没。でも安全策ばかり取っていては,包囲の輪に閉じ込められてしまう。相手の裏をかくことは当然として,ときに果断な突撃も必要というのは面白いです。こういうゲームを,オンラインで手軽にできるってのは,いい時代になったものですね」

英軍
「面白かった。敗着が,不注意による1隻のロスだったっていうのは,本当に面白いです。それから,大局で言うと,もっとユニットに『戦艦のふり』をさせないといけないですね。敵の位置が見えないルールは,PCでのネットワーク対戦に非常に向いてます。マップの広さもちょうどいい。VASSALは,ゲームは選ぶかもしれませんが,十分に実用的ですね」

ギャラリー
「VASSALの観戦機能に加えて,対戦プレイヤーも含めた外部のボイスチャットを併用して観戦していました。今回はSkypeでしたが,TS2やVentなど,使い慣れたものを使えるのは良いですね」

 

 

VASSALのこれから

 

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アナログ・シミュレーションゲーム専門のSNS,MustAttack。VASSALのモジュール開発のメッカでもある

 プレイヤーの感想にもあるように,VASSALは十分な実用性を持っている。ただし,現状ではまだまだプレイヤーに素養を要求する。私が知る限り「フリーで手に入る,最も簡単なVASSALのゲーム」である今回の「シュペー号追撃」も,一度もボードゲームをやったことがないという人にはハードルが高く感じられるだろう。
 日本国内においては,VASSALによる対戦やモジュールの開発は,主に「Must Attack」というSNSで行われている。登録制のSNSなので,メールアドレスがあれば誰でも参加可能だ。

 また,VASSALは単に「アナログのシミュレーションゲームのエミュレーター」であるだけではなく,VASSALという環境であるということにも注目したい。
 現在,UGC(user Generated Content=ユーザー作成コンテンツ)というムーブメントはさまざまなジャンルで広がっており,ゲームもまたその例外ではない。Flashなどを使った手軽なカジュアルゲームは,さまざまなプラットフォームで展開されている。
 しかしながら,「やっぱりプログラミングとなると……」と思っているユーザーは,少なくないだろう。便利なツールが用意されていたとしても,それなりにハードルが高いのは事実だ。
 VASSALは,モジュールの制作にこそJavaの知識が必要になるが,モジュール化される前のルールであれば,紙と鉛筆(+あふれる熱意)があれば誰でも作成できる。そしてその作品が十分に面白ければ,誰かがモジュール化を進めてくれることだってあるだろう。
 同様に,Javaが使える技術があるならば,紙と鉛筆の世界に拘束されず,VASSALという環境ならではのシミュレーションゲームをデザインすることだって可能だと思う。
 UGCのプラットフォームとしてVASSALはいささかマニアックかもしれないが,十分な可能性があるのだ。

 なお,VASSALはいわば「ファンの良識と努力」によって支えられている。これはまたVASSAL上で展開されるゲームにも通じるもので,VASSALそのものは,露骨なインチキであってもこれを阻止する能力を持たない。だからといって,したい放題をすれば,それは多くの人々の努力と愛情を破壊する行為にしかなり得ないことは,忘れられるべきではない。
 同様に,「なぜこのゲームのモジュールを作らないんだ」「オレはこんな面白いゲームを作ったのに,なぜ誰もモジュールにしてくれないんだ」と他人に強要したり,ましてや「このゲームが面白いのは分かったから,これをみんなに遊んでほしいならルールの違法コピーを配布するのが当然だろう」といった反社会的な行動は,その人の品位をいたずらにおとしめるだけだ。たとえUGCであろうと,いやむしろUGCであればなおさら,作る人と遊ぶ人が相互に補完し合わなければならない。
 ちょっと大げさなことを書いたが,ゲームを好きな人間として良識をわきまえて遊ぶ限り,VASSAL環境とシミュレーションゲームは,大きな楽しみをもたらしてくれるだろう。

 なお,以下に現在日本でVASSALのモジュールを入手できる場所を紹介する。基本的に,当該の雑誌/ボードゲームを購入した人向けのサービスであることをお忘れなく。

 

・国際通信社
『コマンドマガジン日本版』を発行。付録ゲームのVASSALモジュールがダウンロードできる。
HP:http://www.kokusaig.co.jp/CMJ/
モジュール:http://www.kokusaig.co.jp/CMJ/vassal/index.html

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・シミュレーションジャーナル
『ゲームジャーナル』を発行。付録ゲームのVASSALモジュールがダウンロードできる。
HP:http://www.gamejournal.net/
モジュール:http://www.gamejournal.net/download/wayaku.html

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・MustAttack
シミュレーションゲーマーSNS。VASSALのモジュール開発,対戦予定の確保などが頻繁に行われている。
MustAttack:http://www.mustattack.com/

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■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
 絵的には非常に地味だった今回。沸き立つ水柱も,甲板を走り回る水平の姿も見えないが,ボードゲームの場合,このコマの向こうでそういうことが起きているのだという想像力がものをいうのである。妄想に近いけど。というわけで,次回はまたPCゲームを紹介する予定なので,楽しみにするしかない!
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