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[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ
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印刷2011/09/10 18:30

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[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ

画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ
高橋良輔氏
 アニメ監督である高橋良輔氏によって,「『時代を超えるキャラクターと世界を創る』 〜ボトムズからのメッセージ〜」という講演がCEDEC 2011の最終日である9月8日に行われた。

 高橋氏の代表作は,「装甲騎兵ボトムズ」「太陽の牙ダグラム」「ガサラキ」など。泥臭くリアルなロボットが登場し,シリアスな内容のストーリーが展開される作品が多く,ファンの支持を得ている。
 講演を行う前日である9月7日に,アラスカ旅行から帰ってきたばかりという高橋氏は,虫プロ時代のエピソードから講演を始めた。

 高橋氏は,3年間勤めた自動車販売会社を辞め,1964年に演出として手塚治虫氏が立ち上げたアニメーションスタジオの「虫プロ」に入社した。

画像集#004のサムネイル/[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ
CEDEC 2011の会場となったパシフィコ横浜
 中学生でプロの漫画家としてデビューするようなこともあった時代だけに,高橋氏の周囲にいたのはマニアックで「知識も意欲も高い才能人」(高橋氏)ばかり。
 人と同じことをやっていたのでは追いつかないと考えた氏は,アングラ演劇を観るようになり,その魅力に取り付かれた。一時はアニメ以外の場所に身を置いてもいいかと考えたそうだが,「芝居をすることは,生活を捨てることと同義」といわれるほど過酷なものだったために断念。当時昇り調子だったCMフィルムを数本撮影したものの,「自分の体質に合わなかった」ことからアニメの世界へと戻ったという。

 アニメーションを日本では“アニメ”というが,これはアニメーションという単語を略した以上の意味がある,と高橋氏は語る。

 1960年代当時,30分のアニメを作るには2万枚の原画が必要とされたが,手塚氏はその1/10である2000枚で「鉄腕アトム」を作成するよう指示した。反発するスタッフに,手塚氏は「これは“アニメーション”ではなく“TVアニメ”。“メーション”を取って意識を変えてくれ」と説いたという。これは動きを簡略化し,1秒あたりに使用するセル画の枚数を減らす,リミテッドアニメという手法であり,「鉄腕アトム」によって進化したといわれている。

 絵の動きが少ないということから一時は危惧された同作だが,手塚氏の「物語が面白ければ子供達は必ず見てくれる。絵が動くか動かないかではなく,ドラマがあればいいのだ」という信念は正しかったようで,当時の子供達から熱狂的な支持を得た。

 当時の常識を遙かに下回る動画枚数の「鉄腕アトム」が人気となったことにより,1週間に1回というペースでTVアニメを放映することが可能となった。「アトムは産業としてのアニメを育てた」と高橋氏は考察する。

画像集#003のサムネイル/[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ
CEDEC 2011のテーマはCRPSS BORDER。というわけで,ゲームに直接たずさわっていない人達の講演も多かった
 動画枚数2万枚が常識の中,2000枚で番組を作るというのは,「言葉にできないような欠乏感」があるという。動画の枚数を増やせないことから,「絵を変えずに複数のコマを撮影することで画面をどれだけ刺激的に見せるか」という,いわゆる止め絵の技法が発達。虫プロでは止め絵を物語のクライマックスにどれだけ機能させるかが考えられるようになったそうだ。こうした止め絵演出の最高峰は出崎 統氏であり,出崎氏に限らず,アニメの表現を稚拙にしないため,「欠乏からくる工夫」を行わざるを得ない風土が生まれたという。

 その後アニメ業界が豊かになり,原画枚数を増やせるようになったが,「原画の枚数をかけなくてもいいのではないか」と感じる,面白くない作品も増えたそうだから不思議なものだ。
 
 高橋氏は,日本人には「欠乏の中に才能が出てくるというDNA」があるのではないかといい,逆境をチャンスに変えるマインドセットが必要であると説いた。

 現在はDVDなど映像ソフトの売上が落ち,ピンチとされる日本のアニメ界だが,高橋氏は「ビジネス的なピンチはチャンスに繋がりやすい」と励ます。
 ビジネスを行うために企画書を書くというのは当たり前で,その前の段階が大切。自分が会う人々に「こんな企画がある」と繰り返し話すことでチャンスが生まれ,そこでは企画を盗まれることを恐れてはならないという。例え同じ内容・プロット・絵の作品が出てきても,作り手が違えばまったく異なるものになる,というのが高橋氏の考え方だ。「一つや二つ企画が横に流れてもびくつく必要はない」と氏は語る。

 作品作りには資金が必要となるが,資金調達の際には,組織の中にいるサラリーマン的な人を味方につけるのが大事だという。有能なサラリーマンであるほど良い人材を見つけようとしているため,彼らがほかに発想を求める際に,企画が届くようにしておくことがコツだそうだ。

 高橋氏が40年以上のキャリアを積むうえで感じたのは,失敗を恐れる必要はないということ。
 「もし失敗したとしても,仕事をした人を悪く言う組織はない。失敗した仕事もちゃんと見ているし,仕事をしたという事実も残る。これが世の中の面白いところだ」とチャレンジの大切さを説く。

差別化から生まれた「装甲騎兵ボトムズ」


画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2011]逆境をチャンスに。「装甲騎兵ボトムズ」の監督,高橋良輔氏が語るアニメで培ったノウハウ
 高橋氏は「機動戦士ガンダム」のヒットを見てロボットアニメを作ろうと思い立ったという。
 同作では空軍・海軍的なかっこよさが描かれたが,同じものを作っていたのでは差別化が難しいと感じた高橋氏は,あえて地味とされる陸軍に特化し,「装甲騎兵ボトムズ」を作ったそうだ。

 ボトムズでは,ロボット(アーマード・トルーパー)をデザインするさいに,顔といった「ロボットアニメ的な部分」を外し,自らが愛する顕微鏡やカメラ,重機などのテイストを入れたという。

 同作で印象的なのは,アーマード・トルーパーの頭部に3つの回転式レンズがついていることである。どうしても表情が必要となるアニメのロボットだが,これは先に述べた顔をなくすというコンセプトと矛盾する。そのため,レンズを回転式にすることで状況に合わせた“機械の表情”が出るように工夫したそうだ。

 こうした差別化の甲斐あり,リアル方向のものであれば高橋良輔に任せよう,という風潮が生まれたという。「自分の方法論を見つけ,工夫し,頑固に押し通すとチャンスが生まれると思っている」と高橋氏は自らの取り組みを総括した。

 高橋氏は最後に「志を立てるということは,どこかで挫折して死ぬかも知れないということだが,それを恐れていては作品は作れない。だから仕事が来る間はがんばってアニメーションを作りたいと思う」と締めくくった。

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