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マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」
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印刷2012/07/28 00:00

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マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」

画像集#001のサムネイル/マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」

 探索者の諸君。ようこそ,「クトゥルフ神話TRPG」の世界へ。今宵も,「宇宙的恐怖」を共に楽しもうではないか。

 第1回で自らの分身たるプレイヤーキャラクター――探索者を作り上げたマフィア梶田とその仲間達。彼らを待ち受ける物語が,いよいよ幕を開ける。それがいかに禍々しく,背徳的なものになるかは,今回,キーパーを務める私,朱鷺田の用意したシナリオ次第。今宵,私が用意した物語は「新宿生前葬」。現代の西新宿に「宇宙的恐怖」の種を撒き散らそうというものである。

 西新宿,十二社(じゅうにそう)に住む,エログロ小説の大家,沼田阿吽(ぬまた あうん)の生前葬に招かれた4人の男女。ゲームライターのマフィア梶田,編集者の瀬尾,よろず執筆業を称する岡和田,マンガ家の田中
 貴重なコレクションを遺産としてもらう代わりに,彼らはちょっとした事柄を頼まれることになる。それが恐怖の扉を開く鍵とは知らないまま。

 それでは,物語を始めることにしよう。

■「クトゥルフ神話TRPG」とは

画像集#002のサムネイル/マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」
 「クトゥルフ神話TRPG」は,1920〜30年代にアメリカで活躍したホラー作家,H・P・ラヴクラフトと,その友人や弟子の作家達が創り上げた「クトゥルフ神話」の世界をモチーフとしたテーブルトークRPG(以下,TRPG)だ。
 プレイヤーは好奇心豊かな「探索者」となり,現代ホラー小説の登場人物になりきって,クトゥルフ神話的な存在がもたらす,忌まわしい事件と対峙していくことになる。

 ちなみにキーパーとは,ほかのTRPGでいうところのゲームマスター(GM)にあたるもので,ルールの裁定と物語の進行を司る役割のこと。実際のゲームは,基本的にこのキーパーとプレイヤーの会話――おしゃべりやツッコミ,あるいは,キャラクターの演技を交えつつ進んでいく。
 なお本稿では,クトゥルフ神話の雰囲気を伝えるべく,各シーンを小説風の状況描写とキーパーからの補足,さらにプレイヤー達の会話を交えつつお伝えしていく予定だ。

 またTRPGやクトゥルフ神話そのものについての解説や,探索者の作成までについては,前回の記事で詳しく紹介している。まだ読んでいない人は,ぜひそちらから読み進めていただければ幸いだ。

■関連記事:

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第一章「喪服の女」


 「雨が降れば,彼女を思い出す」

 冷たい雨がばらつく中,マフィア梶田は,JR新宿駅の西口を出て,新宿副都心の高層ビル街を横目に,熊野神社交差点へ向かって歩いていた。身を包むジャケットは黒。190cmに達する身長に,スキンヘッドとサングラスのその男は,たとえ新宿にあっても異彩を放つ。
 赤い「LOVE」のオブジェを過ぎたあたりで,彼は今から顔を合わせることになるだろう作家・沼田阿吽の小説「縄女」の冒頭を思い出していた。昭和30年代の西新宿,十二社(じゅうにそう)の料亭を舞台に,若い書生が豪商の愛人である未亡人に恋をするという官能小説である。

画像集#003のサムネイル/マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」

 十二社とは,新宿駅西口を出て都庁の先,新宿中央公園の裏手にある熊野神社の周辺を指していう。室町時代に栄華を誇った中野長者が創建した熊野神社に,一緒に紀州から勧請した十二の神社が祀られていることから,十二社という地名なのだ。かつて,このあたりには弁天池という風光明媚な池があり,周囲には料亭や芸者置屋があった。江戸時代後期から終戦直後まで歓楽街として栄えたが,やがて,弁天池が埋め立てられると,その栄華は消え去り,今や,ビジネス街に隣接する古びた町となっていた。

 沼田の家は,その路地の奥に入った古風な日本家屋である。平屋ではあるが,敷地も中もずいぶんと広い。
 梶田が呼び鈴を押すと,玄関の扉が開き,喪服を来た一人の美しい女性が彼を迎え入れた。この女性の名は,桜木 虚(さくらぎ うつろ)。沼田阿吽の弟子であり,愛人とも言われている年齢不詳の女だ。喪服を美しく着こなしてはいるが,どことなく,熱帯の海を思わせるエキセントリックな風情がある。アフリカか南洋の血筋が混じっているのか……印象深い美女である。やや唇が薄く,どことなく平べったい顔で,目と目の間が少しだけ離れているようにも思われたが,逆にそれが彼女の美しさを際立たせている。
 濡れたような大きな瞳でまばたきもせずにじっと客人を見つめた後,桜木は丁寧にお辞儀し,梶田を家の奥へと案内した。

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 まずは,今回のセッションの舞台となる西新宿周辺の風景描写から導入をはじめよう。都会的な風景から,路地の奥の古びた家へと向かっていくのは,本誌でお馴染みのライター,マフィア梶田だ。
 西新宿にある十二社は,地名としては新宿そのものより古い歴史を持つ場所である。最新のビルが立ち並ぶ副都心のすぐそばに,そんな地名が埋もれているというのは,舞台設定として悪くない。ホラーの味わいを増してくれる,ちょっとしたスパイスにもなるだろう。

 そんなビジネス街の裏手,路地の奥にある古い日本家屋の呼び鈴が押されて登場したのは,本シナリオのヒロインを勤める女性,桜木 虚だ。物語を彩るキャラクターが,死にぞこないの老作家,沼田阿吽だけではまるで花がないので,キーパーはここに彼の弟子として,美しい女性を配置してみた。こうしたプレイヤーでない登場人物のことを,TRPGではNPC(ノンプレイヤーキャラクター)という。

 キーパーは,シナリオの鍵となるであろう女性を,念入りに描写する。それは彼女の存在がシナリオにおいて重要だからであり,彼女を描写することが,沼田阿吽という人物を知る手がかりにもなるからである。
 もちろん,彼女の独特の顔つきには,クトゥルフ神話ならではの意味合いが持たされており,ベテランプレイヤーである瀬尾と岡和田は彼女の正体に恐れおののくのだったが,それはいずれ,後の場面で触れることにしよう。

 通された部屋には,すでに先客がいた。開いた襖の前に立つ梶田を,二人の男と一人の女が見つめている。聞けば,いずれも沼田に呼び集められたのだという。

 編集者だという女,瀬尾は,かつて某出版社で沼田を担当していたと,この場にいることの意味を自ら語った。そしてマンガ家だという田中は,その沼田の小説で幾度か挿絵を書いたことがあったのだそうだ。
 よろず著述業と名乗る妖しげな男,岡和田は,自身を沼田の熱烈なファンだと言い,座ってからの待ち時間を,聞いてもいない沼田の作家論で埋め尽くしていた。曰く,本当に目を見張るべきは,沼田のエロスへの哲学でなく,知識に裏打ちされたオカルト趣味なのだ,とか。

 そう,この生前葬に呼び集められたのは,かつて沼田と付き合いのあった者達ばかり。おそらくマフィア梶田と沼田の付き合いこそ,傍目には不可解なものであったろう。外見とは反してゲームライターを生業とし,もっぱら二次元を愛する若い物書きと,リアルな女を縄と愛で縛り上げ,独自の美学を追い求めてきた偏屈な老小説家は,同じ文章を紡ぎながらも,対極にいる存在といって良い。

 そんな両者のつながりといえば,つい最近新宿の飲み屋で偶然出会い,意気投合したことだけ。それも一か月やそこらのことである。にもかかわらず,年齢にすれば40は違うだろう老作家の家に招かれ,こうして生前葬に参加している。いくら互いの趣味が合致したとはいえ,梶田自身にとっても,これは不可解なことであった。

 生前葬とは,死を悟った人物が,自らの葬儀と称して知人や友人を集めるもの。長年悪趣味なエログロ小説を書いてきた作家らしい,いささか奇矯な趣向といえるかもしれない。
 今回のシナリオは,現代の新宿を舞台としているものの,奇妙な人物から奇怪な招待を受け取り,ある場所を訪ねていくのは,ホラー小説やホラー映画の定番だ。こうしたオープニングは,ゲームの雰囲気を大いに盛り上げてくれることだろう。

 なお上の描写では,各プレイヤーの立ち位置はあらかじめ決まっていたような書き方になっているが,実はプレイヤーと沼田の関係は,セッション中にプレイヤー達に自由に決めてもらっている。TRPGは会話型のゲームであり,キーパーだけでなく,プレイヤーもまた,物語の重要な語り部となりうる。自分のキャラクターを動かしやすくするため,ルールや世界観の範囲で設定を付け加えていくのも,TRPGの楽しみ方の一つである。

 ここではそんなプレイ風景を,ちょっと覗いてみよう。


瀬尾:では私は,エログロ専門雑誌「エログロ・ジャパン」の編集者ということにします。そこで,沼田先生の著作を「1冊」出版したことがあったと。新宿にある,とても素晴らしい出版社ですよ!

キーパー:1冊というのがまたリアル(笑)。

瀬尾:だって先生の家,足の踏み場がないし,セクハラがヒドイし……。

田中:じゃあ俺も,その「エログロ・ジャパン」に漫画を描いてたことにしようかな。

岡和田:今,クトゥルフ神話作品で流行中のコミカライズですね!

瀬尾:じゃあ,うちから沼田作品のコミカライズを出したり,先生の作品の挿絵を描いたりしてたのかな?

田中:〈製作:マンガ〉技能は35%しかないので,描くのに普通の2倍ぐらいかかりますけど。

キーパー:35%は,プロの成功率じゃないけどね(笑)。

岡和田:では私は,沼田先生の小説を紹介した記事を書いていることにします。〈オカルト〉や〈博物学〉の技能を持っているので,沼田作品に共感していると。これなら,沼田の遺産からどんな魔道書が出てきても,私の手にまわってくるハズ!


 ホラー物で,奇妙な人物から招待され,その人物が「自分はもう死ぬから」などと言いだせば,その死にまつわる「何か」が登場するのは必定だろう。「クトゥルフ神話」の場合,有名な「ネクロノミコン」を始めとした魔道書が,その何かである確率はかなり高いといって良い。
 熟練のプレイヤーである岡和田は,それを踏まえた上で,自らの技能や立ち位置を設定しているわけだ。

実際のプレイ風景はこんな感じ。ホラー物だからといって,プレイヤーまで神妙になる必要はない。シナリオの内容とギャップはあるが,基本はこんな感じでまったり進んでいく
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マフィア梶田:オレが一番接点がないっスね。どうしましょう?

キーパー:沼田原作のゲームで,レビューをしたとか?

マフィア梶田:それ,絶対健全なゲームじゃないッスよね(笑)。

キーパー:いっそ新宿か池袋の飲み屋で偶然出会って,変態同士意気投合したとか。

マフィア梶田:いいですねそれ。海外のヤバい話で盛り上がったことにしましょう。


 ひどい話もあったものだが,ヤクザな物書き界隈では意外にもよくある話。さて,皆の立ち位置が決まったところで,いよいよ本題――物語の核心がキーパーから明かされていくことになる。


第二章「生前葬」


 沼田阿吽は多作家である。
 デビュー以来40年あまり,筆の赴くままにSM趣味にオカルトの入り混じったエログロ小説を量産し,一時代を築いた。沼田の名前は知らずとも,彼の代表作「縄女」や「令嬢薔薇化粧」,「桜と縄」などの名前は世に知れ渡っており,中には映画化された作品もある。
 彼はこれらの作品によって得た印税を,古今の風俗資料や悪趣味なコレクションなどに注ぎ込んできた。江戸時代の春画から,中世の貴重な稀覯書まで,マニアには垂涎のコレクションである。

 今,それらのコレクションは沼田自身の生前葬の祭壇を飾っている。江戸時代のものらしい,浮世絵春画の掛け軸,水晶髑髏と怪しげな書物,年代不明の古ぼけた時計,アフリカから持ち込んだらしい鋭い刃の短剣など……。
 部屋中には,エスニックなお香の匂いが立ち込めている。

「まあ,飲め」
 なぜか掛け時計を抱き抱えた沼田阿吽が,何やら濃厚な酒を陶器の瓶からグラスに注いで勧める。甘く芳醇な香りが立ち上る。
「葬式は賑やかじゃねえとな」
 そういう沼田の声は元気だが,頭はずいぶんと白くなり,顔もずいぶんしわくちゃになって,体は縮んだ気がする。
「これうまいッスね」,梶田が聞くと,「黄金の蜂蜜酒よ」と沼田は答えた。
「古代の霊酒ですね」と,岡和田は横からウンチクを付け加える。「世界最古の酒と言われています」
「あ,甘くて美味しい」と一口すすって,瀬尾が笑う。
 田中は一気に飲み切ってニコニコしている。
 沼田はその飲みっぷりに満足したように笑うと,喪服姿の弟子,桜木 虚が空いたグラスに蜂蜜酒を注ぐ。
 その様子を見ながら,沼田がゆったりと話し始める。

「オレはもうすぐ死ぬ。こいつは生前葬という訳だ」


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 家の中に入ると,生前葬と称して,老作家・沼田阿吽から酒を振舞われる。
 この時,出てきたのが蜂蜜酒(ミード)である。「The Elder Scrolls V: Skyrim」PC / PS3 / Xbox 360)にも登場し,昨今注目を集めている蜂蜜酒だが,クトゥルフ神話における蜂蜜酒は,霊的な加護を与える古代の霊酒。「黄金の蜂蜜酒」,もしくは「宇宙の蜂蜜酒(スペース・ミード)」などとも呼ばれ,度々登場するアイテムだったりする。

 しかし蜂蜜酒は,架空のお酒などではなく,古代ヨーロッパでも古くから飲まれていた実在のものである。天然の蜂蜜を水で薄めることで蜂蜜が本来持つ殺菌力を弱め,天然酵母で発酵させたのが始まりといわれ,世界最古の酒とも呼ばれる蜂蜜酒は,ギリシア神話のゼウスや,ケルト神話のクー・フーリンが飲んでいたともされる。
 蜂蜜が希少であるため,ワインやビールに押され,酒造の世界では主役とは言い難いが,現在でも世界各地で醸造され,愛好家も少なくない。今回のセッションでは,シナリオのフレーバーとして,実際の蜂蜜酒を持ち込んでみた。用意したのは,中でもとくに古風な雰囲気がある,カナダ・インターミエルの「ミエディバル(中世)」と,ポーランド・アピスの「ヤドヴィガ」だ(入手は「こちら」から)。

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 ちなみにお酒を飲みながらのTRPGは,(いろいろな意味で暴走しがちになるので)あまりお勧めできなかったりする。今回も小道具として,プレイヤーには味と香りを楽しんでいただく程度に留めている。

「飲んだな」と沼田が問いかける。
「え,ええ」と全員がうなずくと,破顔して,沼田が言う。
「お前たちにオレの形見をやろう」。その言葉に全員の目が輝いた。
「素晴らしい」と岡和田が漏らす。「先生の貴重な蔵書をいただけるのですね」
 沼田の所蔵する稀覯書にはずいぶんと価値がある。ことに岡和田のような書痴には,金額以上の魅力があるのだ。
「批評家にやる本はねえ」と沼田は言い放つが,残念がる岡和田を見て,すぐに態度を変えて付け足した。「まあ,いいや。やるよ」
「ぜひ,未発表の原稿を」と瀬尾。この機会に人気作家の未発表原稿を確保しようというのは,見上げた編集者根性だ。
「本以外,何かないッスか?」と梶田。「キャッシュとか?」
「金か? ここに50億あるぞ。ジンバブエドルだが」
「紙くずじゃないですか!」と,梶田は祭壇の上の奇妙な短剣に目をやる。
「オレのコレクションには」と沼田が察する。「おめえの好きな刃物もあるぜ。好きなのを持っていきな。好きな酒でもいいよ」
 沼田はかたわらのカップボードを指す。見たこともない酒瓶が何十本も並んでいる。田中はすでに蜂蜜酒で酔った目をそちらに向けて,破顔する。奥のカーブには年代物のワインもありそうだ。
「酒もナイフもほしいんですが」と,梶田は好色な様子で舌なめずりした後,喪服姿の桜木 虚を見る。やや目と目の間が離れた感じがしないではないが,エキセントリックな美女だ。年齢は不詳。アフリカか南洋の血が混じっていると聞いたこともある。SM作家の弟子にして愛人。おそらくは,調教も受けているだろう。思わず,梶田の口から「喪服もいいッスね」と漏れる。
「この女か? ああ,いいぞ」と沼田が即答する。
「え?」と思わず,梶田が言う。
「それが先生のお言いつけでしたら」と桜木 虚は微笑み返す。
「その代わり」と,沼田阿吽が四人の前に顔を突き出す。「お前さんたちにちょっと頼みたいことがある」

 そう言って,沼田阿吽は一冊の古びた本と水晶髑髏,黄金の蜂蜜酒を彼らの目の前に置いた。
「何,簡単なことだ。今夜,ちょっと肝試しに行ってくれ」
 沼田は横に抱いた,古い掛け時計の真夜中のあたりを指さした。

 かくして4人は,コレクションを餌に,沼田の依頼を受けることとなった。
 渡されたのは,ラテン語で書かれた奇怪な書物,水晶髑髏,蜂蜜酒。岡和田はさっそく,そのラテン語の書物を読もうと試みる。

岡和田:では<ほかの言語:ラテン語>の技能を使って判定します。えいっ(ダイスの転がる音)……うう,失敗。仕方がないので,読めたフリをしてごまかします。「ああ,なかなかに珍しい本ですね。もう少し調べてみたいのですが……」


 このように,失敗する可能性のある行動を行う場合,「クトゥルフ神話TRPG」では,10面ダイス(サイコロ)2つを使った判定(ロール)を行う。このとき,〈技能〉を使った判定を「技能ロール」といい,能力値を使った判定を「能力値ロール」と呼ぶ。
 このときのダイスは,一方の出目を10の位,もう一方の出目を1の位として読むので,値の取り得る範囲は1〜100だ。今回判定を行った岡和田の場合,〈ラテン語〉技能を50%で習得しているので,10面ダイスを2個振って(これを2D10,あるいはD100という)50以下の値が出れば成功となる……のだが,今回の出目は80台で失敗となった。
 ちなみに判定に使う値(判定値)の1/5以下が出れば,大成功となる。

さまざまなダイス。写真に写っているのは,D4,D6,D8,D10,D20だ
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キーパー:沼田の頼みは,「真夜中に新宿中央公園に行って,石の台に水晶髑髏を置いて蜂蜜酒を捧げ,本に書かれた呪文を唱えて帰ってこい」というものです。要は「新宿中央公園での肝試し」だね。

マフィア梶田:なんですか,その邪教の館みたいな儀式は。俺の「真・女神転生」脳にびんびん来ますよ!

沼田(キーパー):「なに,洒落じゃよ,洒落」

瀬尾:まあ,この先生には世話にもなったし,仕方ないかあ。

田中:大丈夫なの,それ?

岡和田:ここは,パーティのオカルト担当としてですね……(〈オカルト〉ロール失敗)。「まあ,魔術っぽくていいんじゃないですか?」

瀬尾:UFOでも来たら,ネタにはなるし。

 ここで梶田は,〈いいくるめ〉を駆使して報酬の釣り上げに挑んでみた。判定に成功し,その結果沼田は快く報酬として「好きなものを手に持てるだけ,持っていってよい」と答えた。

沼田(キーパー):「どうせ俺が死んだら,3日もすれば借金取りどもがやってきて,この家にある物はみんな,なくなっちまうんだ」

岡和田:「先生,あの莫大な印税を何につぎ込んだのですか?」

沼田(キーパー):「お前がもらったつもりで抱え込んだその本,いくらすると思う?」

岡和田:……(この本,絶対ヤバい)。

マフィア梶田:「お弟子さんはどうするんですか?」

沼田(キーパー):「あいつは何とかするさ。それとも,てめえが引き取るか?」

マフィア梶田:うほ,そういうのもアリ?

キーパー:桜木 虚は,微笑みを返しているよ。

マフィア梶田:……アリらしい。


第三章「儀式」



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 十二社から,新宿中央公園は目と鼻の先だ。路地を出て100mも歩かぬうちに,新宿都庁の裏手とは思えぬほどの林が見える。
 黄金の蜂蜜酒をずいぶんと聞こし召した一行は,沼田のいうとおりに,水晶髑髏や蜂蜜酒,魔道書などを抱えて夜の新宿中央公園に踏み込んでいった。高い木々や花壇が広がり,ほとんど人影のない公園内は静かだが,時折,周辺の道路から車の音が低く聞こえる。のろのろと動くのは,公園に住みついたホームレスか。
 公園の中央にある平たい石に向かう。
 それはまるで神々に捧げられた磐座(いわくら)のように見える。東側には,都庁がそそり立つ。

「水晶髑髏をベテルギウスに向けておき」
 梶田が指示に従い,展望台の石のテーブルに水晶髑髏を置く。
「黄金の蜂蜜酒を捧げ」
 陶器の瓶から注いだ黄金の蜂蜜酒をあたりに撒き,その後,皆で杯を干す。瀬尾は一眼レフのデジタルカメラでその様子を写している。
「定められた呪文を称えよ」
 岡和田が魔道書を開き,ラテン語の呪文を読み上げた。それはラテン語であったが,この世のどこにも存在しない言語の一節を含んでいた。

「イア! クトゥルフ・フタグン!」

 手の込んだ肝試しが始まる。
 西新宿というビジネス街の真ん中で,都庁の真裏というロケーションにも関わらず,新宿中央公園は多数の木々があり,ちょっとした林の中にある。
 一行は,沼田からの指示に従い,肝試しに含まれた儀式を実行した。

 ここで,岡和田がまたも〈ラテン語〉ロールに失敗し,MP(マジック・ポイント)を6点も失う一幕があったが,時間をかけることでボーナス修正を得て,なんとか成功させることができた。度重なるMP消費で,もはやフラフラの状態である。

 呪文を唱え終わるとともに,展望台の石のテーブルに置かれた水晶髑髏がかすかに輝きを放つ。同時に,一行は頭上から何かおぞましい気配を感じ取った。
「え,ほんとにUFO?」
 瀬尾がデジタルカメラを頭上に向け,空を仰ぎ見る。そのファインダーの中,新宿にもかかわらず,やけにはっきりした星空の間に,この世のものならぬ,おぞましき何かが姿を現そうとしていた。

 いよいよ「クトゥルフ神話TRPG」の真骨頂,宇宙的恐怖との遭遇だ。
 謎の儀式と呪文によって,星の世界から邪神の眷属が呼び出されてしまった。思わず,デジタルカメラを向けた瀬尾は,ファインダーの中に写ったおぞましい怪物の姿に恐怖を感じる。

 「クトゥルフ神話TRPG」では,ゲーム中に恐怖の対象と遭遇した場合,プレイヤーキャラクターは,その恐怖に耐えられるかどうかを決めるため,〈正気度ロール〉を行わなくてはならない。
 瀬尾の現在の正気度は75。判定で75以下を出せばよいのであるが,このとき出た目は99。最悪である。失敗した瀬尾は,1D20点の正気度を失うことになった。前回も説明したが,1D20とは,20面ダイスを一つ振った出目のことをいい,もちろん1から20の値が出る。


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瀬尾:あうう,出目は小さい方がいいんでしたよね?

キーパー:出た目だけ正気度が減るから,小さい方がいいね。

瀬尾:(コロコロ)10!

岡和田:5点以上で「一時的狂気」ですよ。

瀬尾:「不定の狂気」よりはいい!


 ちなみに瀬尾はD&Dの記事でも分かるとおり,D20を握ると,高い目が出るというジンクスがある。それを考えれば,10の目は,まあ御の字といったところだろう。ここでは実際,一時的な狂気だけでなく,キャラクターが喪失してしまう可能性すらあった。瀬尾の正気度は75だから,1/5に当たる15点以上を一気に失えば,「不定の狂気」に陥ってしまう。この状態はゲーム中に回復できないため,キャラクターはゲームから除外され,事実上のゲームオーバーになってしまうのだ。
 さて,一度に5点以上の正気度を失った今回の場合,「一時的狂気」となる可能性がある。この場合は,すぐさま〈アイデア〉ロールを行い,これに成功すると,自分が見たものがどれほどおぞましい存在か理解してしまい,一時的な狂気に陥ってしまうのである。
 瀬尾がここで行った〈アイデア〉ロールの出目は63。85以下で見事に成功し,一時的狂気に陥る。

 名状しがたい,という言葉は,このような光景に対してこそ適切なのであろう。
 それは触手と羽と四肢を持っているが,決して,地上の生き物には見えなかった。飛ぶ姿は類人猿にも似ていたが,どちらかと言えば,頭足類,蛸のように柔らかく,口元を覆うひげとも触手とも言えぬものはおぞましい粘液に濡れ,まるでそれぞれが意志を持つように蠢いていた。全体がぬめぬめとした両生類を思わせる粘液に濡れた肌で覆われ,指先まで骨がないかのように蠕動していた。羽はコウモリのような皮膜であったが,それでこの怪物が夜空を飛ぶには明らかに非力に見えた。いや,まるで生まれたてで巣から落ちてしまった,羽も生え揃わない小鳥の雛が痙攣するかのようにむき出しの皮膜が震えていた。
 そして,それ,すべては実に現実離れしながらも,この世界を脅かさんとする邪悪な意志に満ちており,瀬尾の心を打ち砕いた。邪悪な神格の存在こそが,世界の真実であったのだ。


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 一時的狂気に陥った瀬尾は,〈クトゥルフ神話〉技能を5%獲得するとともに,キーパーの指示に従って,1D10を振り,「一時的狂気表」に従い,狂気の症状を決定する。さらに,その狂気の持続時間を決めるために,もう一度1D10を振らなければならない。
 結果は8と9で,症状は「反響動作あるいは反響言語(探索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する)」で,持続時間は13ラウンド(約2分間)と決まった。

■一時的狂気表

●短期の一時的狂気
([1D10+4]戦闘ラウンド)
●長期の一時的狂気
([1D10×10]時間)
1D10結果結果
1気絶あるいは金切り声の発作。健忘症(親しい者のことを最初に忘れる;言語や肉体的な技能は働くが,知的な技能は働かない)あるいは昏迷/緊張症(短期の表を参照)。
2パニック状態で逃げ出す。激しい恐怖症(逃げ出すことはできるが,恐怖の対象はどこへ行っても見える)。
3肉体的なヒステリーあるいは感情の噴出(大笑い,大泣きなど)。幻覚。
4早口でぶつぶつ言う意味不明な会話あるいは多弁症(一貫した会話の奔流)。奇妙な性的嗜好(露出症,過剰性欲,奇形愛好症など)。
5探索者をその場に釘づけにしてしまうかもしれないような極度の恐怖症。フェティッシュ(探索者はある物,ある種類の物,人物に対し異常なまでに執着する)。
6殺人癖あるいは自殺癖。制御不能のチック,震え,あるいは会話や文章で人と交流することができなくなる。
7幻覚あるいは妄想。心因性視覚障害,心因性難聴,単数あるいは複数の四肢の機能障害。
8反響動作あるいは反響言語(探索者は周りの者の動作あるいは発言を反復する)。短時間の心因反応(支離滅裂,妄想,常軌を逸した振る舞い,幻覚など)。
9奇妙なもの,異様なものを食べたがる(泥,粘着物,人肉など)。一時的偏執症。
10昏迷(胎児のような姿勢をとる,物事を忘れる)あるいは緊張症(我慢することはできるが意思も興味もない;強制的に単純な行動をとらせることはできるが,自発的に行動することはできない)。強迫観念に取りつかれた行動(手を洗い続ける,祈る,特定のリズムで歩く,割れ目をまたがない,銃を絶え間なくチェックをし続けるなど)。


瀬尾:「しょ,触手が……触手……」(ブツブツ)

岡和田:瀬尾さんの様子がおかしい。「何か,見えたんですか?」と叫んで,私も空を見上げます。

マフィア梶田・田中:「え,空に何か?」

キーパー:では空を見上げたほかの人も<正気度>ロールです。

岡和田:……失敗。

マフィア梶田・田中:成功!

キーパー:判定に成功しても,1D6点の正気度を喪失します(ニヤリ)。

マフィア梶田・田中:えぇぇー!。


 残念ながら,見たものが邪神そのものであったり,その眷属であっても強力なものだった場合,〈正気度〉ロールに成功しても,正気度は減ってしまう。ただし失う正気度は1D6で決定するので,5以上が出る確率は少ない。おかげでマフィア梶田・田中の2人は正気度を僅かに失ったものの,一時的狂気は免れることができた(5点以上でなければ〈アイデア〉ロールも必要としない)。
 しかし<正気度>ロールに失敗し,ついでに<アイデア>ロールに成功した岡和田は,ここで7点の正気度を失い,瀬尾と同じく一時的狂気に陥ってしまう。一時的狂気表の結果は8で,極度の恐怖で立てなくなってしまった。

 残された二人には,夜空に浮かぶものの正体こそ分からないが,何か恐ろしいものが迫ってきていることだけは理解できている。とにかく,この場に止まっていてはマズい状況なのは間違いない。


マフィア梶田:ど,どうしよう。

田中:逃げましょうか。

マフィア梶田:じゃあ,この二人を囮にして……。

瀬尾:「触手……触手……」

岡和田:「あわわ,あわわ……」

マフィア梶田:さすがにそれはマズいか。


 やむなく,1人ずつを抱えてその場を逃げ出すマフィア梶田と田中。
 キーパーはそんな2人に,STRと相手のSIZの抵抗表ロールを課すが,これには2人とも成功し,何とか,新宿中央公園から逃げ出せた。ここで2分ほどが経過したこととなり,瀬尾と岡和田は正気を取り戻した。

※抵抗ロール……このシーンのように,プレイヤー同士の間で判定を行う場合には,抵抗表を使った抵抗ロールを行う(基本ルールP.59)。STR(筋力)14のマフィア梶田が,SIZ(体格)11の瀬尾を持ち上げようとするなら,抵抗表からその成功率は65%。2D10で65以下が出れば成功となる。


瀬尾:怖かった。もうお家,帰る!

岡和田:あ,あれは一体,何だったのか……(〈オカルト〉ロールに失敗したので,分からない)。

マフィア梶田:ああいうの,なんか「Fate/ZERO」のアニメで見たような気がするのだけど……(ボーナスを+10%もらうも,〈オカルト〉ロールに失敗)。

田中:とりあえず,思い出しながら,絵に描いてみよう。(〈製作:マンガ〉ロールに失敗)……ダメだ,パースが奇妙な角度に!

瀬尾:そうだ,デジカメに! (〈撮影〉ロールに成功)ほら,写っている! いや,見たくない。見ちゃだめだ。「岡和田さん,これ!」

岡和田:「えっと,どれ? このスイッチですか?」

キーパー:じゃあ〈正気度〉ロール(笑)。


 当然のように,またもや失敗する岡和田。今回は直接ではなく,カメラに写った不定形の影を見るだけなので正気度喪失は1D6で済んだが,その正体を知ることもできなかった。
 諦めて,一行は沼田阿吽の家へ戻ることにした。一応は依頼を達したはずだ。


マフィア梶田:……オレ達は,何かとんでもないことをしでかしてしまったのかもしれない。

画像集#015のサムネイル/マフィア梶田のSAN値の行方や如何に。TRPG連載「クトゥルフ神話TRPGで遊ぼう」,第2回は冒涜的な物語がいよいよ幕を開ける「新宿生前葬」

 
  • 関連タイトル:

    クトゥルフ神話TRPG

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