インタビュー
「普通はこうだから」って意見とは戦っていきたい――ニコニコ超会議3を総括する「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第18回
なんて酷い会社だ(笑)って言い訳できるのが大事
川上氏:
そうそう,「ニコニコ超パーティーIII」についても触れておきたい。まず欠席裁判をすると,あべちゃん(※)が企画した,あの「ドラゴンクエストX」とのコラボは,自分が前に出すぎだろと思った。まぁ,よく考えたら,事前に「こういうことをやっていいか」と聞かれたような気もちょっとするんだけど。
※阿部大護(あべだいご):通称「あべちゃん」。ドワンゴ・ユーザーエンターテインメント クリエイティブプロデューサー。元々はいちユーザーとしてニコニコ動画に大ハマリしていた人物で,あまりにハマリ過ぎた結果,レコード系会社からドワンゴに転職。「ニコニコ大会議2010夏」以降のニコニコ大会議など,同社の数々のイベントを手がける。
横澤氏:
じゃあ,許可した川上さんも駄目じゃん。
いや,確かに僕は「やりたきゃやれば」とは言ったかもしれないけど,結果的にあれはちょっと違うかなぁ……とは思った。まぁでも,2日目で熱湯風呂に逃げずに入ってる様を見て,「まぁ筋は通しているか」と僕の中では整理が付いたんですが(笑)
横澤氏:
その整理の付け方も意味わかんないし。
川上氏:
あと,超パーティーといえば,ウチの新卒がステージで歌うやつ。あれもよかったよね。なんか,動画のコメントを見ると,みんな新卒の若い子に対して同情してて。ユーザーさんが感情移入しながら応援してるってのがわかって(笑)
横澤氏:
ドワンゴの新卒は,あんなことをやらされるのか……みたいな雰囲気でしたよね(苦笑)
川上氏:
たぶん,あれをウチのベテラン社員とかが出ていってやっちゃうと「うぜえ」とか反感を持たれるんだけど,新卒の子が嫌々やらされてるってアングルだと,好感というか,感情移入を誘うってことだと思うんだよね。
伴氏:
でもあれ,希望する者の中から選抜してて。出られなかった子もいるみたいですよ。
横澤氏:
選抜? あれにクオリティを求めてたってことですか?
中野氏:
そんなバカな(笑)
川上氏:
え,え,なに? じゃあ,あれは別に嫌々出されてたわけじゃないってわけじゃないってこと?
伴氏:
違います。僕も詳しくは聞いてませんけど,あくまで希望者の中からの選抜だったって話です。
※後日,ドワンゴ側に改めて確認したところ,希望者の人数が定員未達だったため,”選抜”というわけではなかったようだ
川上氏:
あら,そうなんだ(笑)。まぁでも確かに,そのくらいがちょうどいいのかな。本気でやりたくないって思っている人に無理矢理やらせちゃうと,それはそれでイジメみたいになっちゃうし。
横澤氏:
僕も絶対イヤですよ(笑)。
4Gamer:
じゃあ,嫌々っぽく見えたのは演技だったってことなんですか?
川上氏:
いや,たぶんだけど,それは別に演技だったわけでもなくて。きっと,自分への言い訳というか,エクスキューズなんじゃないですか。本当はやりたくないんだけど,ドワンゴに入ったからいきなりあれをやらされたんだ。ドワンゴはなんて酷い会社だ(笑)――みたいな。
飲み屋で愚痴るネタの超会議版みたいな。ありそう……(笑)
川上氏:
つまり,我々上層部のスタンスとしては,「新卒はこれをやりなさい!」みたいなことを,本当はやりたいはずという前提の元に,本人達の言い訳として「会社からの命令」を出してあげているだけにすぎないってことですよ。
4Gamer:
これは“いい話”と受け取っていいんだろうか……(苦笑)
川上氏:
まぁでも,ステージに立ったら立ったで,絶対一生の思い出になるとは思いますよ。何千人もの人の前で歌を歌う経験なんて,そうそうできないでしょ。凄い良い経験にはなると思う。とりあえず,度胸はつくはず。プレゼンとか上手くなるんじゃないかな。
4Gamer:
まぁ,僕なら絶対イヤですけどねぇ……。
川上氏:
僕も絶対出たくないな(笑) そういえば,あの時の新卒の子は,なんでみんなスーツを着ていたの? そこだけはドワンゴらしくないなってちょっと思ったんだけど。ウチの社員って普段はスーツ着てないよね?
横澤氏:
いや,あれはコスプレですよ。
川上氏:
あ,スーツがコスプレだったの?
伴氏:
はい。新入社員っていうのをアピールするために,みんなでリクルートスーツを着ていこうっていう。そういうコスプレで。
川上氏:
そうだったんだ(笑)。まぁどうせ,ウチの社員は入社式以外ではスーツを着る機会なんかないし,そういう機会を作ってあげるのもいいことだね。
横澤氏:
せっかく何万円もするものを買うわけですしね。ちゃんと使わないと。
「普通はこうだから,超会議もそうしろ」って意見とは戦っていきたい
超会議って今年で3回めになるわけですけど,今回は「これは日本の文化祭だ」っていう風に書いてくれてるジャーナリストの方が結構いて。それはちょっと嬉しいなと思ったんですよね。
川上氏:
3回めにしてようやくそれが浸透したってことだよね。僕らとしては,それこそ1回めの頃から「超会議って文化祭だよね」っていう話はしてたわけだけど。
横澤氏:
うん。ただ,こっちからそれを押しつけるのは止めましょうって話も同時にしていたから,公の場では基本的に言わなかったんですよね。
中野氏:
その意味で言うと,3回目になって,いい意味での悪ノリをする企業とかも増えてきましたよね。
4Gamer:
超会議を見ていて不思議に思うんですけど,普通はこういうワケの分からないイベントって,企業は尻込みしがちになるじゃないですか。もっと様子見しながら動くことが多いと思うんですけど,なんで超会議に限っては,皆さん“前のめり”になるんですかね。何か秘訣みたいなものはあるんですか?
川上氏:
いや,1〜2年めはやっぱり「様子見」が多かったと思いますよ。だから,基本的には他でやってるフォーマット(展示)をそのまま持ってきたってブースが多くて,超会議に合わせた何かっていうのはほとんどありませんでしたから。
中野氏:
そうですね。回を重ねて前のめりな企画が増えてきて。超会議3で一気に爆発した――というのが正しい認識じゃないかと思います。
横澤氏:
たぶん,参加企業の皆さんがユーザーさんとの間合いというか,「距離感を把握した」ってことだと思うんですよ。やっぱり最初は,炎上リスクだとか,何かトラブルが起こるんじゃないかとか,そういうことをもの凄い気にされていたんですけど,きちんと是々非々でやっていれば,ユーザーさんは付いてきてくれるっていうのが分かったんじゃないかと。
企画の内容……例えば何かとコラボするって話とかにしても,普通のイベントなら許されないけど,超会議という場でならOKかな?みたいな。今回は,そういう企画も多かったので,その意味でも,とてもよかったですよね。
川上氏:
うん。だから企業ブースに関して言えば,むしろ今回が元年というか。真のスタートなのかもしれないですね。
横澤氏:
ええ。だから,来年はもっと進化すると思いますよ。
川上氏:
しかし,超会議って,自分で言うのはおこがましいんだけど,やっぱりエポックメイキングだったというか,見る人が見れば「こんなやり方があったんだ」って類のものだと思うんだけど,それを誰も真似しないっていうのも大きなポイントだと思うんですよ。
4Gamer:
あれに追随する企業とかは出てこないですよね。
川上氏:
一方で,例えば「夏フェス」とかってあるじゃないですか。あのフォーマットなんかは,一瞬であらゆる分野でコピーされたわけで。
4Gamer:
なるほど,確かに。その違いってなんなんですかね?
横澤氏:
真似しないっていうかできないっていうか……。超会議って多分,イベントのプロであればあるほど「どん引き」するイベントなんですよ。フォーマットしかり,オペレーションしかり。
川上氏:
まぁ,やっちゃいけないことをいっぱいやってるからね(苦笑)。それこそ,エンターテイメントのイベントに政治家をたくさん呼ぶだとか,本来はやっちゃいけないこと/やっても失敗することの筆頭だと思うし。
横澤氏:
ニコニコっていう大義名分があって初めて成立するというか。超会議だから多少の悪ノりも許されるのかなって思えるのが大きいんでしょうね。
川上氏:
通常のルールや常識を,ここではいったん忘れないといけないんじゃないかって空気感は出せてるよね。
4Gamer:
ネット空間の話で言うと,例えば「2ちゃんねる的な言い回しや人格をまとうことで,コミュニティとしての一体感が形成される」みたいな話もあると思うんですけど,超会議はその理屈をリアル世界で体現した……みたいな捉え方でいいんですかね?
川上氏:
そこはちょっと違うんじゃないかな。2ちゃんねるの場合は,匿名空間が作り出す独特の雰囲気がああいうコミュニティを形成させているんだと思うんですけど,超会議の場合はそうじゃなくて,法則性のない大量の情報に直面した時に人間は判断力を失うだとか,そういう状況があの雰囲気を作り出しているって形だと思う。
4Gamer:
現地にいっている人は「あのカオスっぷりがいい!」みたいな感想を言いますよね。
伴氏:
でも逆に,ネット上でイベント単体の放送を追ってる人とかからすると,「横のブースの音が邪魔だ」とか,そういう話にもなりがちなんですよ。
たぶんですけど,超会議を絶賛する人と批判する人って,「見方」がまったく違ってるんですよ。
4Gamer:
どういうことですか?
中野氏:
例えば,絶賛している人達っていうのは,それこそ現地でいろいろなものがいっぺんに目に飛び込んできて,その組み合わせの異質さだったり,お祭り感みたいなものを面白いと感じていると思うんです。一方で,あるイベントが目当てだとか,何か一つのことを目的に来ている人達からすると,他のことは全部もう雑音になってしまうわけで。横のブースの音がうるさい!って話になってしまう。そういうことなんじゃないかと思うんです。
横澤氏:
うーん。でも僕からすると,その「何か一つ」に焦点を当ててしまうのであれば,それこそ「超会議じゃなくてもいいじゃん」って思っちゃうんですよね。音楽イベントにしろ,アニメイベントにしろ,そのイベント単体の完成度や豪華さでいったら,当然,それ専門でやった方が上なわけじゃないですか。
4Gamer:
そうですね。
横澤氏:
だから,そこは一つ(専門性)に寄せちゃ駄目だと考えていて。会場の導線設計にしても,同じジャンルでくっつけたりするんじゃなくて,あえてバラバラに配置してあったりするんですけど,それは何か目的があって来たお客さんであっても,いろいろなものを見ていってほしいと考えているから。「これは寄せ集めのお祭りなんだ」ってことを踏まえてやっていかないと,あのカオスなイベントって成り立たないと思うんですよね。
川上氏:
ああ,でも,その意味でいうとさ,超会議の知名度が上がってくるに従って,普通のイベントと比較する人ってかなり増えてきたじゃないですか。
横澤氏:
増えてきましたねぇ。
伴氏:
はいはい。確かにいっぱい言われました。スポーツではこうやってる!みたいな。
川上氏:
もちろん,直すべきところは直すって前提はあるけれど,僕は,そういう「普通のイベントはこうだから超会議もそうしろ」みたいな意見に対しては,戦っていかなくちゃいけないと思うんだよね。
横澤氏:
いや,絶対そうだと思いますよ。だって,そういう意見を全部取り入れていったところで,それって「普通のイベント」になるだけですからね。普通じゃないところが超会議ってものの良さなのに,それを無くしてどうするのっていう。
中野氏:
とにかく,放っておくと超会議もどんどん“理解できるもの”になっちゃうから,そうならないようにっていうのはすごく気にかけてますよね。
川上氏:
そう。「こういうものだ」って理解できちゃ駄目なんですよ。理解されちゃうと,すぐにコピーされて,過当競争の世界に放り込まれてしまう。
4Gamer:
その意味だと,さっきの夏フェスの話なんかは「理解できるイベント」って感じなんですかね。
中野氏:
はい。その意味では,超会議は人がいっぱい集まる場所だからといって,それが単なる宣伝の場だって話になっちゃうと,途端につまらなくなると思うんです。そういう風に“理解”されたら,少なくとも超会議はダメなんだってことですよね。
川上氏:
そういうことです。だからね,超会議に対する“批判”とかは全然やって頂いて構わないんだけど,“比較”はあんまりしないで頂きたいと。我々としては,この場を借りてそれを強く訴えていかないと。なぜなら,超会議は他とはまったく違うイベントだから。
横澤氏:
うん。
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