インタビュー
莫大な対処件数を誇る不正対策チームは意外と小規模? CEDEC 2009でSage Sundi氏が明かす「FFXI」スペシャルタスクフォースの実態とは
4Gamerでは,講演に先駆けて,Sundi氏から直接その概要を伺う機会を得たので,プレインタビューとして掲載する。また,タイミング的にFFXIの話が中心となるが,無論「ファイナルファンタジーXIV」でも同様のポリシー/コンセプトのもと,活動していくという。
小規模運営でも活動できるよう効率化されたスペシャルタスクフォースの業務
そのコストに見合う効果があるのか──すなわち,それだけの売上増が期待できるのか。オンラインゲームを運営しているのが企業体である限り,この命題をクリアできない案件は,なかなか実現しないのが実情である。
それでは,専任チームとしてスペシャルタスクフォースを編成し,24時間体制で不正対策に取り組んでいるFFXIではどうなのか。グローバルに展開する大規模なゲームだけに,さぞ莫大な人員を──すなわちコストを投入しているのかと思いきや,実のところ,そんなことはないとSundi氏は説明する。
「スクエニさんだからそういうことができるけど,うちには無理だとかよくいわれます。でも,そんなことはないんですよ。スタッフの総数は公表していませんが,おそらく想像されているよりも少ないですよ。全然小規模なんです。したがって,中小規模のオンラインゲーム運営チームであっても,できないことはないと思います」(Sundi氏)
小規模の人数で十分な効果を上げるには,効率化が重要となる。Sundi氏によれば,まず業者も含めて不正利用者は,非常に分かりやすい行動を取る。例えば多くの人にとって,最も身近な不正行為はクライアントの改ざんによるチートだ。すなわち,開発と連携してチートの原因となるクライアントの“穴”を塞いでいくだけで,ログをチェックするまでもなく不正を未然に防ぐというわけだ。
次の段階は,「ワープ」「寝マクロ」といった不正の取締り。これはログのチェックが必要となるが,ここでも開発との連携は欠かせない。ログのすべてに目を通すのは困難なので,特定の行動のみに絞ったものだけを引き出せるようにするのである。つまり寝マクロでいうなら,同じ場所/一定の時間/反復回数といった複数の条件でふるいにかけて抽出されたログから,実際に不正行為かどうかを判断するというわけである。
新たに不正の疑いがある行為が発見された場合,最初は実際に目で追っていくしかないのだが,そのパターンを特定し,さらに開発と連携することによって関連するログの抽出までは,ほぼ自動化できるというわけだ。そこから先は,人間の手によって,例えばクライアントの不具合が原因ではないかといったような判断がなされるのである。
不正の内容はインゲームのチート・デュープから現実世界の犯罪へと変化
Sundi氏によれば,不正利用に関する状況が大きく変わったのは今から3〜4年前,大手のRMTサイトが表舞台に姿を見せ始めた頃からだという。それまでは個人の不正行為を防止するために上記のような対策を中心に活動していたのだが,以降は大手業者対策として,RMT取引を行っている証拠を押さえることも始めた。RMTサイトの裏には,必ず“卸業者”がいるというわけで,最初の1年ほどは相互関係を熱心に洗い出し,チート対策同様にチェックの自動化を推進した。
さらに,不正行為はゲーム内規約の違反から,現実世界の犯罪行為へとエスカレートしていく。すなわち,他人のアカウントや盗難クレジットカードを利用した不正なアクセスだ。こうなってくると,もはやスペシャルタスクフォースやスクウェア・エニックスだけの問題ではなくなるので,以前から警察当局と連携を取るための専門スタッフを置いて対応しているという。しかし,そうした対応は経験を重ねるごとに非常に迅速に行われるようになったとのこと。
また,2008年10月に開始したFFXIのフリートライアルが不正利用にも影響を与えたのではないかと聞いてみたところ,実際に件数は増加したという。業者はフリートライアル期間にあたる14日間で可能な限り多くの商材を集める,スペシャルタスクフォースはそれを72時間以内に取り締まるという攻防が繰り広げられている。
そもそもフリートライアルは,より門戸を広げることで多くのプレイヤーにメリットを与えるという目的で始めたもの。それを休止してしまっては本末転倒であることから,Sundi氏は徹底的に戦う姿勢を貫いている。
ここ最近,大きな問題となっているのは,いわゆる“宣伝シャウト”や“宣伝Tell”。業者の宣伝によって延々と埋め尽くされていくチャットログは,ともすればプレイに支障をきたすこともあり,立派な迷惑行為である。対応策となるフィルタ機能のエンジンとなる部分を先日のパッチとして実装している。これは,迷惑行為となる単語を検知してブロックするものだが,単語は随時追加できる柔軟性を持たせているという。次回バージョンアップ時には,この機能の運用を開始したいとのことだ。
日々の活動は正規のプレイヤーを守るため。プレイヤー自身の協力も不可欠に
そもそも,FFXIでスペシャルタスクフォースという専門組織を用意したのはなぜか。Sundi氏は,「FFXIが狙われて,組織的な不正行為が流行ってしまったから」と実に簡潔な答えを述べる。
当初,不正行為の取り締まりはGM業務の一つだった。しかしGM自体の業務が煩雑になり,また対応策を検討する機会が増えていった結果,専門チームを置く必要性が出てきたという。また,もう一つの目的として,それまではGM個人が対応することが多く,不正対応のノウハウ蓄積を組織ベースで行うことも挙げられる。そうした状況を鑑みて,Sundi氏をはじめとするスタッフが会社に提案し,スペシャルタスクフォースの結成と相成ったわけだ。
その効果は目に見えて出ており,スペシャルタスクフォース結成以来,強制退会者数は10万をはるかに超え,15万人に届こうとしている。しかしこれは,裏を返せばそれだけ業者がパワーを持っていることの証明にもなっている。
「我々は,別に業者と戦いたいわけじゃないんです。FFXIを遊んでくださるプレイヤーを守りたい。そのためには,業者にいてもらうと困る。お願いだから,ここでやらないでくださいといっているだけなんですよ。海外に行っても『戦っていますね』といわれてしまうのですが,そんなつもりはありません(笑)」(Sundi氏)
Sundi氏によると,一度不正アクセスの被害を受けたアカウントは,そのあとも二度三度と続けて狙われるケースが多いという。運営サイドとしては,被害者にクリーンインストールを推奨しているのだが,強制まではできず,結局その人次第になってしまうのが実情だ。
ワンタイムパスワードは,こうした状況の改善に絶大な効果をもたらしているとのことで,業界全体での導入を検討すべきではないかと,Sundi氏は述べる。
「ワンタイムパスワードは効果が高いので,ぜひ利用していただきたいのですが,強制はしたくないというのも本音です。というのは,やはりゲームですし,やりすぎてしまうと皆さんのモチベーションを損なってしまいかねないからです。……本当は不正取締りに労力を割くのではなく,コミュニティを盛り上げたりとか,もっとポジティブなことをいろいろやりたいんですよ。『人気タイトルだから,注目されているから,業者に目をつけられる』という意見もありますが,それで嬉しいかといわれると,そんなことはまったくありません」(Sundi氏)
運営の要となるのは“合理化”と“人間的な裁量”のバランス
FFXIは月額料金で運営しているため,プレイヤー一人あたりが数か月しか継続しないのでは,正直なところ想定しているビジネスモデルには合致しない。年単位で継続してもらうためには,どうやって満足度を上げればいいのか。プレイヤーの要望と,開発とを取り持つ運営が機能しなければ,まず成立しないだろうとSundi氏は見解を述べる。
「開発が運営もやるというタイトルがいくつかありますが,どこもあまりうまくいっているとはいえないようです。私個人は,運営とマーケティング,そしてサポートまでは同じチームでも可能だと考えます。しかし,開発だけは別にしないと難しい。どんなに規模を小さくしたとしても,開発一人,運営一人が最小構成単位だと思います。開発スタッフには,運営に気を配るよりゲーム開発に専念してほしいですね。ましてFFXIでは,世界3か所に拠点を置いて,時差を利用した24時間体制の運営を行っています。日本にいる開発チームだけで同じことをやろうとしても,まず無理でしょう」(Sundi氏)
今や,年間10万にも上るというGMコール──電話やメールを含む──だが,実際,それを受けるGMの総数は,スペシャルタスクフォースと同様に,それほど多くない。数を補うのは,蓄積されたテクニックやサポートツールによる合理化だ。そのため,24時間体制の業務もイメージほどには大変なものではないという。
ちなみに,嫌がらせや詐欺行為など,プレイヤー間トラブルの判断基準は“悪意があるか否か”。オンラインゲームである以上──すなわち,人間同士がお互いに干渉しあう以上,そうした行為はある程度までは許容されなければならない。仮にガチガチにルールで縛ってしまっては,ゲームとしての面白さを損なってしまいかねないからだ。とはいえログをチェックしてみて,明らかに何度も繰り返しているようであれば,そこには悪意があるとみなし相応の対処が施される。
また被害者が「精神的に傷ついた」と訴えてきた際の判断も難しいところだ。例えば「こういう発言をされて,腹が立った」というものであれば,精神的に傷つくというレベルにまでは至っていないとみなすなど,その場の状況に合わせた判断が必要とされる。場合によっては,加害者とされた側に情状酌量の余地があるとするケースもあるとのこと。いわば人間としての裁量を試される局面も待ち受けているのだ。
さて,CEDEC 2009の講演において,Sundi氏は,単純なチートやデュープに始まり,業者が組織だって活動するようになった現在までの過程を,第1〜5期のフェーズに分けて説明するという。また,実際に使用されているサポートツールのスクリーンショットなども公開される予定なので,より詳細な話を聞きたければ,ぜひ会場に足を運んでいただきたい。
「不正対策をすることで,MMORPGの楽しさを損なってしまっては本末転倒です。コミュニティがあり,会話があるからこそ楽しい。それがなくてもいいなら,ほかのタイプのゲームを選べばいいわけですから,私達はMMORPGを楽しいものにするために日々働いています。
また,これからオンラインゲームを運営しようとする方にとって,CEDEC 2009の講演は聞いておいて損はないのではないかと思います。不正対策は,同じオンラインゲーム運営会社同士,皆で協力して撲滅していくべきものですから,ぜひ貴重なご意見をおきかせください」(Sundi氏)
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ファイナルファンタジーXI
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