インタビュー
2011年,ハンゲーム×コンシューマゲームメーカーの共同開発ラッシュが始まった! でも……なぜ!? 黒川文雄事業部長に,その真意を聞いてみた
新規事業で展開するタイトルは
「日本のゲーム」として海外からも注目を集めている
4Gamer:
お話を聞いていると,事業全般が非常にスムーズに進んでいる印象を受けますけれども。
黒川氏:
そうでもなかった部分もありますね(笑)。というのも,それまでNHN Japanが開発に携わる場合,そのほとんどが社内開発だったこともあって。ですから,いざコンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパと共同開発でやっていこうという新規事業を立ち上げたところで,そもそもの付き合い方がよく分かっていなかったというのが実態ですね。
4Gamer:
何が障壁となっていたのでしょうか?
何がというか,共通言語が見つけられなかったんですよ。お互い求めているものが,うまく融合していなかったんです。そこで,うまく紐が結べなかったところを改修する部分に私が入って,当初のスケジュールどおりに物事が進むようにしたという感じです。
まずは社内体制を全部作り直して……最初は私1人だけだった部署が,3か月後に7人になり,今や30人近い組織になりました。それと並行して,パブリッシャ/デベロッパと共通認識を持ち,共通言語で話をして,ゴールを決めて,実績としてどう残すかというところまで青写真を作ってから開発を始めるようにしてきたんです。
4Gamer:
今さらの質問ですが,NHN Japanは,なぜ日本のコンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパと組もうと考えたのでしょう?
黒川氏:
私から簡潔に答えるのは少々難しいのですが,まず一つに日本独自のコンテンツ展開をしたかったという部分があります。また,日本のコンシューマゲームメーカーの多くが,オンラインゲームに触れたことがないという事実がありますから,そこを開拓していきたいという目的もあります。
また,アジアを始めとした海外でも日本のゲームは人気がありますから,韓国NHNとしても,ぜひそういったタイトルをアジア展開したいという意図があるんです。私の手がける一部のタイトルは,韓国NHNから出資を受け,日韓ほぼ同じタイミングでローンチするという前提で開発を進めています。これはNHN Japanとしても新しい取り組みです。
4Gamer:
ただ,実績という意味で考えれば,これまで日本で作られたオンラインゲームが韓国で成功した例は,ほとんどないと思うのですが。
黒川氏:
私が思うに,それは「仏作って魂入れず」じゃないですけれども,プロデュースする側がきちんとチェックしていなかったり,お金は出すけどそれ以外を任せっきりにしてしまったりというケースがほとんどだったんじゃないでしょうか。
例えば弊社の代表的なコンテンツのファミスタ オンラインは,バンダイナムコゲームスさんと週定例のミーティングを設けるなど,きちんとチェックしています。そういう意味では「魂が入っている」わけです。そうじゃないものは淘汰されたり,あるいは「いいゲームだね」と言われながらもビジネスの軌道には乗せられず,サービスを中断せざるを得なかったりという結果になるかもしれません。オンラインゲームは「生もの」なので生かすも殺すも対応次第ではないかと思います。
4Gamer:
韓国NHNが出資していないタイトルを,韓国あるいはそのほかの国や地域で展開する可能性はありますか?
黒川氏:
あります。プラネットフロンティアはNHN Japanのみの出資で開発していますが,日本でクローズドβテストを行うと同時に韓国NHNから問い合わせがありました。なんでも,韓国の会員から「日本ではこんなタイトルが始まるらしいけど」という問い合わせがあったそうです。
またシュヴァリエ サーガ タクティクスについては,韓国/台湾/中国から引き合いが来ています。そう考えると,日本のオンラインゲームに対する海外からの注目だって決して小さくはありません。
4Gamer:
韓国NHNが出資するタイトルは,2012年以降,展開されるものですか?
黒川氏:
はい,もちろんです。2011年末もしくは12年初頭にはローンチ予定のタイトルがあります。このタイトルも共同開発なので,韓国NHNだけでなく,日本のパブリッシャも半分出資しているんですよ。お互いの感性とビジネスがぶつかり合うので,調整が結構大変ですね(笑)。まあ,このプロジェクトがうまくいけば,次のステージも見えているので,私自身はやりがいがあります。
新規事業第1弾のタイトルは順調にローンチ予定
時代の流れに応じたリッチコンテンツ化も
4Gamer:
それでは,この2011年夏から順次ローンチされるブラウザゲームのステータスについて教えてください。
黒川氏:
ブラウザ カルネージハートに関しては,これまでコンシューマゲームで遊んでいたお客様に“場”を提供することを考えています。24時間いつでもどこでも遊べて,さまざまなプレイヤーがお互いのプログラミングスキルを競い合えます。まさにオンラインで求められていた内容を提供できるのではないでしょうか。
プラネットフロンティアに関しては,私のような「スペースインベーダー」「ギャラガ」「ゼビウス」を遊んできた世代も楽しめて,同時に惑星を開拓して資源を蓄積して育成していくような,ソーシャルゲームを楽しむ人のための要素を持たせた内容になっています。
4Gamer:
βテストで出た意見や要望は反映されていますか?
黒川氏:
ええ,両タイトルとも反映しました。とくにプラネットフロンティアは,クローズドβテストで厳しい評価を頂いていたのですが,1か月半をかけて要素を絞り込み,加えるべき要素を加えましたので,大幅にクオリティが上がりました。
4Gamer:
実際にプラネットフロンティアのクローズドβテストをプレイした感じでは,マップが分かりにくいといった基本的な部分に疑問を感じていました。
申し訳ありませんでした。マップやレーダーが分かりにくいといった意見は多かったですね。私自身,改善後の社内テストで確認しましたが,かなり良くなっていますよ。βテスターの方が抱かれた不満は,かなりの部分で解消できていると思います。
4Gamer:
ブラウザ カルネージハートは,ハンゲーム会員の平均と比べて,プレイヤーの年齢層が高かったのではないですか。
黒川氏:
そうですね。コンシューマ版のカルネージハートを遊んでプログラマーになったという,都市伝説的な話もあるほどのゲームですから(笑)。アートディンクさんとのお仕事で良かったのは,クオリティが高く,安心感のあるものを作ってくださるところです。
4Gamer:
シュヴァリエ サーガはいかがでしょう?
黒川氏:
先日,発表会を行いましたが,コンシューマゲームで元気のいいイメージエポックさんとタクティクス系ゲームの共同開発を行ったということで,非常に話題性が高いという感触です。
4Gamer:
シュヴァリエ サーガは,PlayStation 3でも展開する予定ですよね。
黒川氏:
はい。そうですね。その前提でおります。ただし,まずはブラウザ版の開発が最優先ですね。最初の発表は2010年11月ですから,ちょっと長丁場の開発になっていますので,そちらがソフトランディングしたら企画面や開発面を考えたいと思います。
4Gamer:
2010年末に,イメージエポックの御影(良衛)社長にお話を聞いたところ,これまでにない予算をかけて最高のブラウザゲームを作りたいとおっしゃっていました。
それに関連した話ですが,昨今のブラウザゲームは“リッチコンテンツ化”していますよね。遊ぶ側としてはリッチなほうが嬉しいですが,開発側としてはハードルが上がって大変なんじゃないか,と。
黒川氏:
ええ,確かにそれはあります。ただデバイスの性能自体が上がっていますから,自ずとそういう流れになっていくのは仕方ありません。
またゲーム性に応じて,必ずしもリッチでなくとも構わないコンテンツもあるでしょうし,逆にこれはリッチじゃないといけない,というコンテンツもあるでしょう。その部分の選択でバランスが図られていくのではないでしょうか。
4Gamer:
やはりブラウザゲームの可能性は,間口の広さにあるとお考えですか?
黒川氏:
ええ,創りやすさ,遊びやすさや始めやすさがあります。とはいえ,TERAのような超リッチなコンテンツに対する需要も常にありますよね。
4Gamer:
ちなみに2011年末〜2012年予定のタイトルはFlashですか? それともHTML5?
黒川氏:
どちらもあると思います。主にはHTML5を考えていますが,まだ仕様まで決めていないので変更するかもしれません。基本は軽いものを提供したいと考えています。
4Gamer:
仮にそのタイトルをスマートフォンに対応させる場合,PCブラウザ版と同じ内容にしますか? それとも別の内容にしてデータ連動ができるような形式にしますか?
黒川氏:
例えば,PCブラウザ版で集めた何かを,スマートフォン版を使って育成できるというような遊び方は考えています。
もう一つのタイトルは,完全に同じ内容にして,自宅ではPC,屋外ではスマートフォンで遊べるようにしようかと。KONAMIの小島監督が言うところの「トランスファリング」ですね。
4Gamer:
黒川さんの事業では,“コンシューマゲームに匹敵するリッチなブラウザゲーム”を目指しているのですか? それとも“コンシューマゲームパブリッシャ/デベロッパが手がけるブラウザゲーム”なのでしょうか?
黒川氏:
どちらかといえば前者です。リッチコンテンツで,コンシューマゲームと遜色のないものを提供したいですね。
4Gamer:
となると,開発期間もそれなりに必要になるわけですね。
ええ。1年まではいかないにしても半年以上の時間をかけて作っていくイメージです。もちろん,中には小規模の企画もありますが,パブリッシャ/デベロッパに納得してもらったうえで進めていますので,どうしても規模は大きくなる傾向にありますね。
またそれは,長くサービスすることを前提にしているからでもあります。ファミスタ オンラインも5年間サービスを続けてきたなかで,一時,売上が落ちたこともあったのですが,また盛り返してきています。ブラウザゲームといえど,長期の安定したサービスを求める方が多い作品もあるわけですね。
4Gamer:
ブラウザゲームというと,以前は“短期間で手軽に作る”というイメージでしたが,その点はどうでしょう? 何か「それは違う」という思いを抱いてたりしていたのでしょうか。
黒川氏:
そういったことは全然ないですね。むしろ技術的な進歩に伴って,3年前と比較すると,今ではクオリティに歴然とした差が出るようになったというイメージです。結果として,より高いクオリティのものを提供できるようになったのではないでしょうか
4Gamer:
2009年から2010年にかけては,台湾や中国からブラウザゲームを持ってきてコストを抑えてサービスする形式が流行りましたが,今回の事業には,ある意味,その揺り戻しもあったのでしょうか?
黒川氏:
その時期,オンラインゲームから離れていましたので,私自身,正確な分析はできないのですが,そういうこともあるでしょうね。今,オンラインゲームもしくはネットワークコンテンツが少し厳しい状況に置かれているのは,言い方が悪いかもしれませんが,当時の安易なやり方に限界が来ているからと見ることもできます。
そうした状況下では体力と財力のあるものしか残れません。我々は,たまたまお客様がいて売上もそこそこあり,生き残ってきたわけですが,それでもいいモノを提供しなければそれからも生き残れないでしょう。
4Gamer:
長くサービスを続けるという点でも,黒川さんの手がけるタイトル群は昨今のソーシャルゲームより,従来型のオンラインゲームに近い設計思想を感じました。
黒川氏:
「コンテンツを消費していく」というのは,私としては不本意なんですよ。消費ではなく,昇華させたいという気持ちがあるんです。オンラインゲームとして,次のステージに上れるようなものが作りたいんです。もちろん,全部のタイトルが成功するとは約束できませんが,少なくともいいモノを作ろうという共通意識を持つことで,精度は上がっていくと思っています。
多くの大手さんがやっているようなアプローチは,100個作って月2〜3億円の売上になればいいというようなものですよね。そうではなく,一つ一つのコンテンツに対して,開発者の想いやプレイヤーが喜ぶようなものを入れ込み,ちゃんとビジネス的な成功を得る。私自身はそうすることでアピールしていきたいですね。
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