インタビュー
「ヤン魂。」安藤プロデューサーに聞く,“喧嘩ストロングモード”で目指すもの
前編では主に,ヤン魂。のサービス開始が遅れた理由などを中心に語ってもらったが,後編ではオープン特攻テスト(オープンβテスト)直前のドタバタや,本作の目玉の一つである「喧嘩ストロングモード」,そして今後のアップデートプランなどについて聞いている。
また最後に,突然発表された本作の開発元の一つであるシンクアーツの解散についても聞いている。このニュースで,ヤン魂。の未来が心配になった人は,何はともあれ目を通してほしい。
オープン特攻テスト直前,マップが斜めに!
ビフォー |
アフター |
そういえば,オープン特攻テストで突然,街などのマップが斜めになりましたね。
安藤武博氏(以下,安藤氏):
ね!(笑)
4Gamer:
春までの開発現場の混迷っぷりはおうかがいしましたけど,3回もやった特攻テストでは,どれも正面からのマップだったのに,なぜオープン特攻テストのタイミングで?
安藤氏:
なぜ? って言われると,僕の鶴の一声なんですよ(笑)。春先までの段階では,書類ベースでやることを決めてきて,「さあ,次は開発のターンだ! がんばれ!」って感じだったんです。
4Gamer:
開発の実働部隊に任せていたんですね。
安藤氏:
ただずっと,マップの見栄えが悪いなぁとは思ってたんですよね。描き込みは細かいはずなのに,その良さが出ていない。なのにクライアントのグラフィックス容量は重くなっていくし,ダウンロード時間もかかるし,何なんだろうな? って。そんなときにふと,「あ,斜めになってないからだ!」と気づきまして。そりゃそうなんですよね,どんなにリアルに描き込んでも,真っ正面からの絵だと奥行きがないですから。
4Gamer:
PCのディスプレイも二次元ですし。
安藤氏:
それで実際に斜めにしたら,見栄えが良くなったんですよね。たったそれだけのことだったんですけど。
4Gamer:
だからこそ,なぜこのタイミングまで気づかなかったんだろう? と思ってしまうわけです。
安藤氏:
僕自身,石渡ディレクターをはじめとした開発の誰かが斜めにしようと思うんじゃないか? って何も言わずに期待していた部分はあったんですよね。でも一向に斜めにならないから,僕が言ったんです。
4Gamer:
ああ,先ほどの話ですよね。誰かが気づくだろうみたいな。
安藤氏:
そう,まさにさっきの話なんですよ。やっぱり現場を離れていたことで,彼らの勘が鈍ってたんでしょうね。僕もどっかのタイミングで言おうと思っていたんですけど,ソングサマナーの件もあったりで遅くなっちゃって,結局,何回めかの大きな仕切り直しのタイミングで,「絶対に斜めにしろ」と言ったんです。
伊勢氏:
最後の仕切り直しのタイミングだから,わりと最近のことなんですよ。正直,不安でした。絶対にもっとサービスが遅れるって……。まさか斜めにするだけであんなに綺麗になるとは思ってませんでしたしねぇ。
4Gamer:
斜めにした途端に,今まではなかった不具合が! みたいな事態を心配しちゃいますよね。
これはないわって正直思ってましたね。でも,実際にマップが斜めになったのを見たら,こりゃ完璧だわって納得できました。
安藤氏:
そっか,そんな風に思ってたんだ……。あんだけ自信満々に「斜めにすれば良くなる」って言ってたのに。
伊勢氏:
ゲームポット社内では,「これはヤバイ」「これは年内サービスインは無理だ」って声があちこちから出ていましたね。
4Gamer:
普通に考えると,あのタイミングではあり得ないですよね。
伊勢氏:
特攻テストを3回やったのに,マップを全改修ですよ。
4Gamer:
そういう意味では,“特攻テスト”というネーミングがあまりにぴったりですよね。玉砕覚悟で試行錯誤をしているような雰囲気があります。
伊勢氏:
そうですねぇ,やっぱりローカライズタイトルと違って,新規に作っているタイトルだと,どうしても何が起きるか予測できない部分もあって,何から何までテストすることになりますし。
安藤氏:
ただクリエイターとして忘れちゃいけないのは,無料のテストであっても,有給をとったり,学校から急いで帰ったりして,準備万端の状態で遊んでくれる方々がいるってことだと思うんですよ。そうやって捻出した時間って,ひょっとしたらお金より重いかもしれない。そういう価値を吸い上げてテストをやっているんで,本当はテストでもきちんと楽しんでもらえるものにしなきゃいけないんですよね。
4Gamer:
ただ,現実には……。
安藤氏:
そうなんですよねぇ。一から……というかゼロから作ることになったので。本来であれば,マップを斜めにするなんていうのも,その過程は外に出さないで開発内部だけで試行錯誤して完結させるべきものなんですよ。ところが,ヤン魂。ではビフォーアフター的な大改造をみんなに見せちゃったという意味では,かなりレアなケースじゃないかと思います。
……しっかし,伊勢さんがそんなに不安だったとはなぁ。
伊勢氏:
運営側には,サービススケジュールとか,プロモーションスケジュールとか,それから予算の話とかもありますからね。
タイトルを良くしていく過程のすべてを見せていく
実際のところ,正式サービスへの移行は問題ないんですか?
安藤氏:
オープン特攻テストに課金アイテムを追加するっていう感じなので,システム的なリスクはそれほどないんです。現状が万全という意味ではないですけど。
4Gamer:
とりあえず動いているものに,少しアイテムが追加されるような感じなんですね。
安藤氏:
今時のゲームだと,ほかにもいろいろなアップデートを同時にやって,しっかりとしたおもてなしをするところなんですけどね。そういう意味では常識知らずだし,サービスとしてのレベルはまだ低いんですけど,ここでまたいったんサービスを止めて開発に専念する時間を作るとなると,いろいろなハードルも上がっちゃいますしね。
それに,あの格好で喋れる場所を一時的に取り上げてしまうのも忍びないですから。
4Gamer:
とりあえず開いた状態で,少しずつ変化していく過程を見せることにしたと。
安藤氏:
いまさらビフォーアフターを見せませんっていう話もないですからね。タイトルを良くしていく過程のすべてをプレイヤーに見せながらやっていきますよっていうことです。どうなるか分からない部分も正直ありますけど。
4Gamer:
それこそ,先ほどのイベントで言っていた「やってみないと分からないから,やってみようぜホトトギス」っていうことなんですね。
安藤氏:
そういう感じです。
伊勢氏:
実際のところ,正式サービスへの移行よりも前に,オープン特攻テストを始められるかどうかが大きな問題で,直前の夜中まで会議をしていたんですよ。それを乗り越えられてはいるんで。
4Gamer:
オープン特攻テストが延期される可能性もあったんですか?
安藤氏:
ブログにも書いたんですけど,おかんが蟹江先生になっちゃうという,とてつもないバグが直前に見つかりまして。
伊勢氏:
しかもあれ,よりによってうちの社長の植田がやってるときに発生したんですよ。
安藤氏:
「あー,けっこう良くなったじゃーん」「そうなんですよー,ほらトイレとか入るとー」って,トイレに入ったら自宅にワープしちゃって,「イベント発生したかなー?」って思ったら,おかんがしゃべり始めて。めっちゃおかんが喋ってるのに,ビジュアルは蟹江先生で,背広着てテヘって。
伊勢氏:
「どーもすみません」みたいな。マジかこれって。
きつかったですよ正直,それがオープン特攻テストの前日ですからね。
安藤氏:
これまでも毎回,大事なタイミングで何かが起きていたんで,今回も覚悟はしていたんですよ。でも症状の具合がけっこうえげつなくて,いよいよ延期にするしかないかと。ただ,そこから開発陣が不眠不休でがんばってくれて,なんとかなったんです。まだ24時間に1度はサーバーが落ちてるんですけどね。
伊勢氏:
お恥ずかしい話なんですけど,直前の状態から考えると奇跡的で……。
安藤氏:
隠してもしょうがないんで言っちゃってますけど,開発資金的に厳しくはなってきているんで。必ず,良くしていきますから。
「気に入ったアイテムがあったら買ってください。じゃないと開発が続けられないんです」という状態なんですか?
安藤氏:
まさにそういう感じです……。
伊勢氏:
プレイヤーに甘えるわけではないんですけど,我々もヤン魂。をなくしたくないんで。
4Gamer:
ではとりあえず,正式サービス開始時に実装される,「クローズ」とのコラボアイテムが売れるといいですね。
伊勢氏:
ええ,売れてほしいです。本当に。
安藤氏:
クローズとのコラボで中途半端なものは作れないんで,アイテムはちゃんとしてますから。
4Gamer:
このコラボレーションのお話は,いつ頃から動いていたんですか?
伊勢氏:
これも春ぐらいですね。
4Gamer:
それは,春にサービスがスタートするという前提で?
そうなんですよ。だから秋田書店さんにも「もうちょっとです」「もうちょっとです」って言いながら待っていただいて。
クローズ以外にも,いろいろと動いていたものが,すべて延び延びになっちゃってるんですよね。主題歌の初披露も含めて。
4Gamer:
マーティ・フリードマンさんがギターを担当するというお話も,5月に行われた「PostPet type-M」の発表会で明らかにされたわけですし,あそこから数えても半年ですもんね。
伊勢氏:
うん……長くなりましたねぇ。
喧嘩ストロングモードの理想型は……?
現在,賛否両論……というかとくに第一期が好きだった人達からは,否の声が多いように見える喧嘩ストロングモードについて聞かせてください。
昨年のインタビューでは,路上に落ちているアイテムを使って攻撃できるようなお話もありましたが,現在は素手で殴り合うだけですよね。あのお話は,なくなってしまったんですか?
伊勢氏:
そんなことはないですよ。モデリングはできていますし。
安藤氏:
ぶっ壊せるミカン箱でもいいから,とにかく何かを早く置けって言ってるんですけど,やっぱりなかなか手が回らないというか,それぐらいギリギリでやってるんですよね。
4Gamer:
現在はなんか,ひたすらマウスの左クリックをしまくるような感じですが,アイテムが入ってくることで少しゲーム性は変わるのかな? と思っているんです。
安藤氏:
ええ,そうなると思います。
4Gamer:
でもそれならば,マウスだけじゃなくてパッドにも対応してほしいなと思うんですが。
安藤氏:
あー,パッド対応ねぇ。パッド対応どうしましょうね?
伊勢氏:
私はパッドに対応していないゲームは大嫌いなんですよ。パッド対応じゃないゲームは,やらないです。
安藤氏:
あらら。じゃ,対応しよっか。
4Gamer:
即決ですか(笑)。
ヤン魂。って,ユーザーインタフェースがコンシューマゲームっぽいので,パッドには向いていると思うんですよ。パッドなら,連打で手が痛くなるようなことも,マウスほどにはないでしょうし。ただ,連射機能がついているパッドなんかもあるので,ゲーム性的に厳しい部分も出てくるだろうなと。なので,これまでパッドに対応してほしいとは言わないできたんですけれど。
安藤氏:
実際,マウスをカチカチやることに対する反感って強いんですよね。それは認識してます。ただ,現時点の喧嘩ストロングモードって,僕が思い描いている形にはなっていないんですよ。最近,開発と話し合って原因究明をしたんですけど,彼らはRPGを作っているつもりだったんですね。
4Gamer:
まあ,そうですよね。
安藤氏:
でも僕が喧嘩ストロングモードに求めているものって,アクションゲームなんです。だから例えば大公園にも,散漫なエリアに散漫に敵が配置されているという,RPGっぽいものになっているんですが,これはアクションゲームではあり得ないんですよね。アクションゲームなら,完全に設計された区画に,エリア1〜エリア7ぐらいまでがあって,そこに敵が潜んでいたり,オブジェクトがあったり,イベントが発生したりする。
4Gamer:
アクションゲームだとそうなりますよね。
安藤氏:
例えば商店街に入ると,ベルトスクロール型のアクションゲームが始まって,一度クリアすると,次は敵やアイテムの配置だとか,ボスを倒したときに貰えるご褒美が変わる。それが良くできているから,同じコースでもまた別の仲間と遊んでみたくなる。そういうものが僕が描いている理想型なんです。
4Gamer:
そのあたりが,今は中途半端になってしまっていると。
安藤氏:
だから「お前ら,RPGを作っているつもりを1回捨てろ。アクションゲームとして良くできている『ファイナルファイト』みたいなものをこさえろ。それさえちゃんと面白ければ,同じコースでも違うパラメータの敵が出てくるだけで,繰り返し遊んでもらえるから」っていう話を開発にしてるんです。そういうスタイルであれば,いちいちマップを闇雲に広げていくのではなくて,今まで入れなかったところに新しく攻略できる場所を追加するような形で,ゲームを深めていけるんですよね。
4Gamer:
ああ,それもまたアクションゲームっぽい考え方ですよね。MMORPGというよりは。
安藤氏:
多くのMMORPGみたいに開放された空間があって,そこで多人数が遊べるような調整って,神様ぐらいの人じゃないとできないんですよ。閉鎖された空間で,バランスを調整していくほうが,日本のクリエイターは力を発揮できると思うんです。
4Gamer:
なるほど。
安藤氏:
あと,日本のゲームじゃないですけど,「スカッとゴルフ パンヤ」なんかもいいお手本だと思うんですよね。18ホールのコースがあって,あとは誰と遊ぶか,どんなアバターで遊ぶかみたいなことが重要になっているわけで。いまのヤン魂。って,18ホールが全部くっついた状態の一つのマップになっていて,穴だけあちこちに開いてるようなものなんですよ。ボールをどこに打てばいいのか分からないような。
4Gamer:
狭くてもいいから,繰り返し遊べるステージを用意するということですか?
そうですね。ホールごとにちゃんと分けておいて,そのうえでどこにカップを置いて,どこにバンカーなんかの障害物を置いて……という調整であれば,ステージそのものの基本のデザインが同じでも,いろいろな顔をしたステージを用意できるでしょ,と。
4Gamer:
ただ現在,プレイヤーはMMORPGだと思って遊んでいるわけですよね。だからマウスボタンの連打を嫌がるという。
安藤氏:
そうなんですよね。そこが難しい部分で。
アクションゲームでパンチボタンを押す回数って,ヤン魂。でマウスをクリックする回数とは大差ないと思うんですよ。でも,昨日までオート戦闘のMMORPGで遊んでいた人が,攻撃の都度マウスをクリックしなければならないとなれば,そりゃ「お前,手がもげるだろ」って話にはなりますよね。
4Gamer:
結局のところ,仕様そのもののとらえ方が,作り手と遊び手で乖離しちゃってるんですね。
安藤氏:
そのズレは認識してますし,ひょっとしたらクリエイターの中にも,「マウスで遊ぶオンラインゲームなのに,そんなアクションゲームみたいなものを作っていいのか?」っていうためらいがあったのかもしれません。で,なんだかどっちつかずになってしまっているという。でもそれは,僕が考えたヤン魂。じゃないんですよ。
4Gamer:
喧嘩ストロングモードはアクションゲームなんだよ! と。
安藤氏:
ベルトスクロール型のアクションゲームをどうやってオンラインゲームで再現するかだけを考えて,それ以外のものはこのアクションゲームに合わせて作っていこうよって。
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