インタビュー
CEDEC 2009にて「大航海時代 Online」での5年間を振り返って渥美氏が語る,オンラインゲームの運営戦略とは
渥美氏といえば,「大航海時代 Online」の開発当初から開発ディレクターとして携わり,現在は運営プロデューサーとしてサービスを支えている人物だ。と,改めて説明してみたが,4Gamer読者にはインタビューなどでお馴染みの人物なので,ご存知の方も多いだろう。
そんな渥美氏が今回,大航海時代 OnlineをテーマにCEDECでセッションを行うという。なぜ,今回“コーエーの運営戦略”ではなく,“大航海時代 Online”を前面に出した運営戦略となっているのか,実際にどのような内容が語られるのかを,CEDECの事前取材として渥美氏に聞いてみることにした。
「大航海時代 Online」での経験/実例を通して,オンラインゲームの運営戦略を振り返る
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,今回CEDECで講演するにあたり,なぜ「大航海時代 Online」をテーマとしたのでしょうか? 例えば,コーエーとしてであれば,もっとも長くサービスしているタイトルに「信長の野望 Online」がありますよね。
やはり私自身が「大航海時代 Online」の開発当初には開発ディレクターという形で,その後,運営プロデューサーとして現在も携わっている,ということが大きな理由ですね。
また大航海時代 Onlineは,5年という長期間の運営サービスが行われています。その間に,今年の4月にはPLAYSTATION 3版でのサービスが開始され,先月の7月26日には拡張パック第3弾となる「大航海時代 Online 〜El Oriente〜」を発表しました(関連記事)。ですので,このタイミングでいろいろとお話しできるのは良い機会なのではないかと考えています。
4Gamer:
講演内容が「『大航海時代 Online』の運営戦略、そして次のステージへ」ということで,El Orienteに関する話も何か聞けるのかな? と,ちょっと期待もしてみたいですが,今回はCEDECということを考えると,ちょっと話の方向性は違いますよね(笑)。
渥美氏:
そうですね(笑)。ただ,将来的なことも,何か話せる範囲でちょっと話せれば良いかなとは思っています。
実は今回CEDECで講演するにあたって,一番悩んだのが想定ターゲットなんですよ。まず,初級の方向けの講演にするのか,中/上級の方向けにするのか……初級,中級というのはちょっと抽象的ですが,たとえば技術的なことも含め難しめな話にするのか,またはこれまでの経験を踏まえて運営の自論を展開するのかといったところです。しかし,今回は私自身もCEDECで講演するのは初めてですので,大航海時代 Onlineを通して,これまでこういうことが起こり,それに対してこのように対処した……といったことを,開発/運営目線から実例を交えてお伝えできればと思い,初級で設定しました。
4Gamer:
なるほど,渥美氏本人の経験談を元に,これまでの大航海時代 Onlineの……オンラインゲームの運営戦略を振り返ってみるのであれば,“大航海時代 Online”がテーマになるのは当然です。では,講演内容はどのようなものになるのでしょうか?
渥美氏:
具体的には,運営期間を第1期から第5期に分けて,時系列順にお話しすることになると思います。5年近くサービスを続けてきた中で,大航海時代 Online風に言うならば,順風満帆なときもあれば,嵐の真っ只中だったときもあり,さまざまな経験を重ねてきました。そのときどきに応じて,我々がどのようなことを考えながら運営を続けてきたのかをお話しする予定です。これは,そのまま運営のケーススタディになる話だと思います。
4Gamer:
長期間のサービスの中ではいろいろあったと思います。その生の体験談が聞けるのは,運営に携わっている方はもちろん,プレイヤーの方でも運営の裏側が聞けそうで興味深い話になりそうです。
渥美氏:
5年近くに及ぶ体験談を60分の講演にまとめるのは難しいのですが,その分密度の濃いものにしたいと思うので,何かの参考にしていただければ嬉しいですね。
五つの期間から見えてくる,オンラインゲームの運営方針
今回,大航海時代 Onlineのこれまで,これからを5期に分けて話すとのことですが,具体的にはどのように分けられているのでしょうか?
渥美氏:
そうですね,まずは,2005年3月の正式サービス開始から初の大型アップデートを実施した8月までが第1期となります。
4Gamer:
正式サービスの開始時というと,いろいろと大変な時期ですよね。
渥美氏:
ええ。第1期,つまり正式サービス開始時は,どのオンラインゲームでもあると思うのですが,まず正式サービス以前から遊んでいたプレイヤーさんによって,コンテンツがやり尽くされている状況が生まれます。講演では,そこで我々が取ったアプローチ……つまり,いくつか戦略はあると思いますが,どう分析し,どのように対応したかをお話しできると思います。
4Gamer:
なるほど。βテスト時におけるコンテンツの消費スピードは凄まじいですからね。
渥美氏:
もちろんコンテンツのやり尽くしというのは一例に過ぎず,正式サービス開始時は,いろいろな部分が一番安定していない期間です。ですので,大航海時代 Onlineに限らず,オンラインゲームではさまざまな問題が起こっていると思います。その中でどういう優先順位で問題解決に着手したのかというところを,大航海時代 Onlineで発生した実例で紹介するつもりです。
4Gamer:
サービス面にしても,サーバーやクライアントといった技術的なものにしても,予想外の問題が起こりうる時期ですよね。
渥美氏:
そうです。企画書を作り,実際にサービスインしたときに,こういったところは実現できたという一方で,計算外だったり誤算だったりという部分があります。実はそういった誤算が,次のアップデートに向けたフェーズで,問題点となっていろいろと噴出したんですよ。
4Gamer:
それは,問題点が一つ出てきたら,アレもコレもと連鎖するといったものですか。
渥美氏:
うーん,連鎖というか,違う観点での問題が出たんです。詳しくは,講演で話せたらと思いますが,本当に誤算でした。
4Gamer:
どのような誤算があったのか気になるところですが,第2期はどうでしょうか。
渥美氏:
第2期は,2005年9月から2006年3月にかけてになります。この時期には海外でのサービスが開始されました。
4Gamer:
えーと,たしか韓国/台湾でのサービスが開始された時期でしたよね。
渥美氏:
はい。8月に大型アップデートを行ったあとに海外関係のローンチが始まったのですが,海外での作業や,海外からの問い合わせによって,開発現場が大変なことになっていました。
自然と国内に向けるマンパワーが限られてくる中で,どのような優先順位を付けていったのか,どうやりくりしたのか。海外でのサービスに関係することですが,講演では,どちらかと言えば国内でのことにフォーカスした話になります。
4Gamer:
海外での展開の苦労ではなく,その関係で起こった国内での苦労話といったところですね。
渥美氏:
ええ,国内での話が主になります。と,ここまで話していてなんだか苦労話ばかりみたいな印象になっていますね。
4Gamer:
過去を振り返るときは,どうも“苦労話”ばかり頭に浮かびますよね(笑)。
そうかもしれません(笑)。しかし,もう一方で大切なのは,大航海時代 Onlineをどう改善していったのかというところです。普通に,このまま変わらずサービスを続けていくことはできるけれど,そこから一つでも手間を入れて改善することで,さらにゲームの魅力を伸ばせないか。そして,大航海時代 Onlineの品質を向上させるために,どうしてきたのか。そういったプラス方向への改善についても織り交ぜて話していきます。
その後,初の拡張パック「La Frontera」や@モバイルの登場となった2006年4月から2007年3月までを第3期。ちょうど,体制変更が行われたのがこの時期でした。また,2007年3月には,サントリー様とのインゲーム広告展開をさせていただきました。
4Gamer:
ああ,清涼飲料の“BINGO BONGO”とのコラボですね! あのインパクトは今でも忘れられないです(笑)。
渥美氏:
はい。あのマスクはいろいろと評判になりました(笑)。
そして,2007年4月から2008年3月までを第4期としています。この時期は,拡張パックの第2弾「Cruz del Sur」やオプション課金が順次追加されました。また,スターターチケットLiteの試験導入や,体験版の仕様変更など,サービス面の向上も図っています。
4Gamer:
そういえば,@モバイルにしてもそうですが,オプションサービスやスターターチケットLiteといった新しいサービスなどは,コーエーのほかのタイトルにも後に導入されていますよね。
渥美氏:
はい。以前のインタビューのときにお話ししたことありましたが,「同じ会社のタイトルなのだから,良いところは取り入れていきましょうという考え」(竹田氏のコメント)で,コーエータイトルのユーザーインタフェースやサービスなどを共有化していきました。とくに「大航海時代 Online」というタイトルは,製品の規模がコーエーとしての施策を試すには良い環境でした。この辺りについても,サービス面の品質向上としてお話しできればと思います。
そして,第5期として2009年4月から未来に向けた話になります。
4Gamer:
PS3版の発売と,いよいよ登場する「El Oriente」ですね。ちなみに,これからのことで,何かお話しできることはありますか? 「El Oriente」については,先ほど「話せる範囲で」とおっしゃってましたが。
渥美氏:
それはですね,講演にあたって話を過去から順番に片付けているので,いまはこれからのことについては,どこまで話そうか考えているところです(※本インタビューの収録は8月24日)。実際のところ,大枠のストラクチャー(構造)は固まっているのですが,内容については5〜6割といったところでしょうか。
4Gamer:
では,そのあたりはまた別の機会にお願いします(笑)。
渥美氏:
分かりました(笑)。
大航海時代 Onlineの知識がなくても大丈夫。オンラインゲーム運営に興味があれば聴講してほしい
と,インタビューのお約束はさておき,講演では過去を振り返りながら,運営の苦労話などを実例を交えて話すとのことですが,聴講するにあたり大航海時代 Onlineについて,知っておいたほうが良いというものはありますか?
渥美氏:
いえ,なんというか予習みたいに,大航海時代 Onlineについて詳しく調べなくても大丈夫な内容になると思います。まず今回の講演については,先ほど想定ターゲットについてお話ししたように,過去を振り返りつつ,これまでの大航海時代 Onlineで行ってきた運営戦略を説明するという内容となります。
4Gamer:
なるほど。では,今回の講演が決まって,今現在,その内容をまとめているとのことですが,過去を振り返って何か感じたことはあったでしょうか。
渥美氏:
そうですね,2005年の3月に正式サービスを開始した当時にはこういうことをやってたな,といったように,改めて自分自身で振り返る,私にとってもいい機会になったと思います。
これまで運営として,あるゲームに関して,こういう風にやりますというインタビューを見たときに,じゃあそれ以前はどうだったのかを知りたいと思うことがあります。インタビューではどうしても次の新しいことを話すので,過去を振り返ってどうだったのかという部分はほとんど表にはでません。
4Gamer:
我々が質問を投げかけるときは,「次はどうなるのか」が主軸になるでしょうし,過去のことに関係があっても「では,次にどうするのか」がやはりポイントになるでしょう。そういった意味では,過去を振り返ってあのときはこうだったという話は面白そうですね。
ところで,大航海時代 Onlineといえば,ゲームスタイルもそうですが,ほかのオンラインゲームと比べて,開発/運営方針には結構大きな違いがあると思っています。
渥美氏:
違いですか。もちろん,何らかの違いはあると思います。ただ,我々にとって大航海時代 Onlineは,2005年からどっぷりと取り組んできたものです。そのため,できるだけ客観的に見ようと思っているのですが,どれが大航海時代 Online特有のものなのか曖昧になっています。どれも当たり前になっているかもしれません。
4Gamer:
例えばですが,大航海時代 Onlineをサービスしていくにあたり,ほかのMMORPGと比べて世界地図という,いわゆる世界の広がりに制限みたいなものがあると思います。実際にすでに世界一周が可能になっているくらいですし。
ファンタジー物であれば,割と無制限に世界は広がるでしょうし,SF物であれば宇宙に出てしまえば良い。ですが,“大航海時代”ですから世界地図から外には出られないですよね。そういった,いずれ訪れる限界をどう乗り越える,もしくは抱えて行くのだろうかと。
渥美氏:
なるほど,そういった考え方もありますね。その答えとなるかは分かりませんが,今回の講演で我々が企画当初どういう風に考えていたのか,実際にこうなったというのをお話しできればと思っています
4Gamer:
分かりました。想像できそうなのは,陸地とかミクロな部分で世界を広げていく,とかでしょうか。なんとなくですが,先日のEl Orienteで発表された,遺跡迷宮がそれに近そうですが。
渥美氏:
いやー,どうでしょうね(笑)。
4Gamer:
これも,また別の機会に教えてくださいね(笑)。
では,そろそろ時間も押してきましたので,最後に読者にメッセージをお願いします。
渥美氏:
大航海時代の知識がなくても,オンラインゲームの運営や開発について理解が深められる話ができると思いますので,CEDECにお越しになる予定の方は,ぜひ受講してみてください。
4Gamer:
本日はお忙しい中,ありがとうございました。
CEDECの事前取材ということで,大航海時代 Onlineに関連するこれまでのものとは,毛色がちょっと違うインタビューとなった今回。2005年3月から正式サービスが始まり,5年近くサービスが続いている本作では,PS3版でのサービスが始まり,ついには“日本を含む海域”が追加される拡張パッケージが発表されるなど,プレイヤーの間で大きな話題になっている。
CEDECのセッションでは,これら過去から現在までを追って,渥美氏から,オンラインゲームの開発/運営とはどういうものなのかを,これまで実際にオンラインゲームの開発/運営に携わってきた立場から生の経験談で聞ける,貴重な機会になるだろう。
なお,渥美氏によるセッションは,9月2日11:20〜12:20に行われる。大航海時代 Onlineを通して語られる,ネットゲームの開発/運営が経験する苦労話,そしてどのように改善への取り組みが行われたのか,興味がある人はぜひ聴講してみよう。
(8月24日収録―)
「CESAデベロッパーズカンファレンス2009」公式サイト
「大航海時代 Online」公式サイト
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