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[E3 2005#004]ホラータッチの演出が見物の「F.E.A.R.」の現在
F.E.A.R.は,2004年のE3ではクローズドなブースで出展されていた作品。今年3月に開催されたGDCでもプレイアブルな形で出展されており,発売はそう遠くないと思われていた本作だが,結局現在までリリースはされておらず,期待しているファンをやきもきさせ続けている。
開発しているのは,古くは「Shogo:Mobile Armor Division」,有名どころでは「No One Lives Forever 2」「Aliens vs. Predator 2」,記憶に新しいところでは「TRON 2.0」などを手がけたMonolith Productionsだ。Monolithの作品のほとんどは自社開発の独自エンジンを使用したFPSだが,最近はMMORPG「The Matrix Online」を手がけるなど,活動の幅を広げつつある。
そのMonolithの新作F.E.A.R.は,基本的にはストーリーベースのオーソドックスなFPS。しかし,現代風の兵器や銃器が登場するにもかかわらず,全体としてはオカルト/ホラーの色が強められているところが特徴だ。公式サイト(「こちら」)では暗く不気味な建物の廊下に少女が立っているイメージが公開されている。この少女の存在がストーリーのキーとなっているようだ。
プレイベントが行われたのは,ホテルの一室。照明の落とされた室内には6台のPCが設置されており,F.E.A.R.はすべてのマシンで自由にプレイできるようになっていた。
筆者がプレイしたマシンは,Pentium4/3GHz,メモリ 1GB,ビデオカードはRADEON X850という構成。プレイを開始すると,とても静かな雰囲気でオープニングが始まった。
個室でイスに座っている一人の兵士。その表情がクローズアップされ,何か様子がおかしいようだと見ている側(つまり筆者)が思ったあたりで画面が切り替わり,白い光に照らされた床に,水に濡れた子供の足跡がペタペタとついていくシーンが描かれる。子供の姿はまったく見えず,足跡だけである。その後カメラは先ほどの兵士に戻り,どこからともなく不思議な少女の声が聞こえてくる。そのとたんに兵士は絶叫。建物の警備員らしき男に襲いかかり,その死肉を食らいだした……。
この作品が通り一遍のミリタリーFPSでなく,猟奇的なテーマを盛り込んだモノであることを強調したオープニングだ。
画面の美しさは,誤解を恐れずに言えば「Half-Life 2と同等のクオリティ」という感想を持った。光と陰の使い方がとても印象的だ。開発側も「Half-Life 2が動作するPCであれば動作する」と話していた。
画面内には,こちらから働きかけられる部分(オブジェクト)が多く,通路上においてあるコンテナなどは撃てば砕け,棚などは倒れて壊れる。撃ち倒した敵は,それらしく崩れ落ちる。水に銃弾を撃ち込んだ場合には,それらしい飛沫が舞う。つまり,ゲーム内に一貫した物理法則が再現されているということだ。
この物理部分のエンジンには,「Havok」が使われているということだった。ご存じのとおり,「Half-Life 2」「Halo 2」などで利用されて,一昨年あたりからゲームの周辺でもよく耳にするようになった物理エンジンだ。
一方ゲームエンジンは「F.E.A.R.エンジン」と名付けられたもので,この作品のために新しく作ったエンジンだという。かつてのLithtechエンジンのアップグレードかと思い聞いてみたところ,まったく関係のない新しいものだという答えが返ってきた。さらに,GDCの頃に比べてどの程度開発が進んでいるのかと訪ねたら,ゲーム自体はGDCの段階でかなり完成に近い状態にあり,現在は細かな調整を加えてつつ,ブラッシュアップを進めているところだという返事だった。
ゲームシステムの部分で気になるのは,映画「マトリックス」やPCゲーム「マックスペイン」に見られたような,敵の動きが遅くなるモードの存在だ。開発者はこのモードのことを「slo-mo」(スローモ)と表現していた。
ゲーム画面の左下にはslo-mo用のゲージがあり,敵を倒していくたびにこのゲージにエネルギーが溜まっていく(最大で8.0という数値だった)。それを消費することでslo-moが使用できるというわけだ。
プロデューサーのRob Loftus氏に,主人公がこういった能力を有するのはなぜかと聞いてみると,設定としては,このアドバンテージは機械的なものではなく,主人公自身が内面に持つ特別な能力だという。なぜ主人公がこのような力を持っているのか? それは,ゲームのストーリーに関係することらしい。
敵のAIにも工夫が凝らされている。スクワッド単位で連携して攻撃するようになっているのが特徴で,うまく二手に分かれて正面と横から同時に攻撃してくるようなこともあるという。
また画面内にあるオブジェクトの状態も認識し,工夫して攻撃を仕掛けるような動きもする。今回のプレイ中にも,攻撃によって倒れた棚の下を,匍匐前進でくぐり抜けてくる動きが見られた。
不気味で幻想的な雰囲気を強調するための演出は随所にちりばめられている。体験できたところでは,暗い地下通路のような場所で,一瞬,数メートル前を少女らしき影が横切った。「あれ?」と思って曲がり角をのぞき込んでみてもそこには誰もいない……。別のシーンでは,気がつくと側面や背後に敵兵や少女のような影がそびえ立っており,驚いて撃つと割れるように飛び散って何もなくなってしまう……。
このように,まるで幽霊に騙されているような,あるいは導かれているような不思議な空気の中でゲームは展開する。ミリタリーものの雰囲気と,このオカルティックな雰囲気のミスマッチな組み合わせが,本作の個性となっている。
さらにプレイ中には「ナイトメア・シークエンス」と呼ばれるシーンが突発的に挿入され,事件の謎を解き明かすカギとなるような出来事が目の前で展開される。まるで,ミッションの遂行中に突然記憶のフラッシュバックが起こっているような感じだ。果たしてこれが何者か(例えば例の少女?)に見せられているものなのか,それとも主人公自身の記憶なのか,謎はストーリーの中で明かされていくのだろう。
このモードでは,すべてのプレイヤーがslo-moを使えるわけではなく,たった一人だけが使用できるslo-moの権利を取り合うようなゲームになるようだ。そのプレイヤーがslo-moを使用したときには,ほかのプレイヤーはスローモーション状態になる。つまり使われた側にとってslo-moは"動きを極端に遅くされてしまう特殊攻撃"なわけで,これはかなりのアドバンテージだ。
その代わりslo-mo保持プレイヤーはレーダー上に表示されるので,ほかのプレイヤーすべてを敵に回すことになるわけである。
本作のアメリカでの発売予定は,2005年秋。気になる日本での発売についてVivendi Universal Gamesの担当者に探りを入れてみたが,明確な返事は得られなかった。ただどうやら,日本で販売を担当する会社は,すでに決定しているようだ。それが日本語マニュアル付きの英語版であれば,アメリカでの発売からそう遅れることなく,日本でも簡単に購入できるようになるのではないだろうか。
Rob Loftus氏の説明を受けていて印象的だったのは,「Cinematic」(シネマティック)という言葉を何度も使っていたことだ。随所に施されたさまざまな演出のおかげで,まるで映画の主人公になったような気分が味わえるというのは,やはり「Half-Life 2」に通じるところがある。FPSの制作にかけてはもはや老舗と言ってもよいであろうMonolithが,満を持して放つ最新作に注目したい。(ライター:星原昭典)
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