インタビュー
一問一答「ATI Catalyst」。AMDのドライバ担当者にいろいろ聞いてみた
今回4Gamerでは,AMDのグラフィックス部門で,ソフトウェア製品管理部門――要するにドライバチーム――のマネージャーを務めるTerry Makedon(テリー・マケドン)氏に,話を聞くことができた。短時間ということもあり,一問一答形式でいくつか疑問をぶつけてみたので,その内容をお届けしたい。
なお,あらかじめお断りしておくと,このインタビューを行ったのは2008年6月下旬のこと。筆者の取材スケジュールなどの都合で,掲載が2か月近く遅れてしまっている。そのため,話題に上る「ATI Catalyst」(以下,Catalyst)のバージョンなどは若干古めだが,内容的には9月でも十分価値があるものだと思うので,ぜひチェックしてもらえればと思う。
Hotfixの仕様,バグフィックスに改造ドライバ。
“月刊Catalyst”開発担当Q&A
4Gamer.net:
ATI Technologies時代の話,たしかCatalyst 5.xの頃だったと記憶していますが,当時の広報担当者から「Catalystのバージョンは,例外はあるけれども,基本的に『年+月』表記。OEMなどに向けて提供しているアップデートを毎月適当なタイミングでまとめて,エンドユーザーにスイートとして公開している」と聞きました。現在もその位置付けに変化はありませんか?
Makedon氏:
基本的には変更ありません。月に一度,定期的に更新されます。例えば,2008年6月なら「Catalyst 8.6」となるわけです。もちろん,不定期でのHotfixパッチやマイナーアップデートの追加等もあります。
ただ,「OEM向けドライバ」というよりは,「細かなドライバアップデートをまとめたもの」を,定期的に更新するというイメージですね。
数年前,ユーザー達が「今使っているドライバ」がいつリリースされたものなのか,サイトに上がっているのはいつ公開されたものなのかを分かりやすくするために,「年+月」の表記法を採用しました。
4Gamer.net:
Makedon氏:
現在,ワールドワイドの登録ジャーナリストには告知しているのですが,エンドユーザーにはこれができていませんでしたね。いいアイデアなので,採用させていただきます。
4Gamer.net:
日本語版Catalyst Control Centerは,単体のグラフィックスドライバとは別に入手しなければなりませんよね? 一つの多言語版ドライバとして入手できるようにはならないものでしょうか。日本のユーザーは意外と,日本語版Catalyst Control Centerを単体でダウンロードできることを知らなかったりしますので。
Makedon氏:
Catalyst Control Centerはそのままに,ドライバだけアップデートしたいというユーザーに向けた対応のつもりだったのですが,ワンパッケージのほうがいいという意見が多ければ,それを採用してもいいと思います。
大きな理由があって二つに分けているというわけではなく,我々サイドで,ユーザーの利便性に配慮していこうとした結果ですから。
4Gamer.net:
記載がなくても,Hotfixが登場した翌月のCatalystには入っているのですか? それとも,将来的に入ったり入らなかったりするのでしょうか。
Makedon氏:
Hotfixは,あくまでも特定のアプリケーションに向けたバグフィックス(=パッチ)ですので,当該アプリケーションを利用されるお客様が導入すべきものとなります。また,Hotfixの導入によって,ほかのアプリケーションへ影響を与える可能性もあるため,十分な検証を経たのち,将来のCatalystで修正されていきます。つまり,修正のタイミングはその検証状況によって異なるわけです。
4Gamer.net:
リリースノートに記載されていないにもかかわらず,特定のアプリケーションでパフォーマンスが上下したり,動作安定性に変化が生じたりすることがあります。これはなぜですか。
Makedon氏:
特定のアプリケーションに向けてドライバの最適化を進めた場合,その最適化が,テストラボでテストしていない過去のアプリケーションなどに影響を及ぼすことがあります。おそらくこれが原因でしょう。何か気づいたことがあればレポートしてください。対応したいと思います。
4Gamer.net:
Catalystのアップデート時に,よくリリースノートで「○%のパフォーマンス向上」とありますよね。あれはどうやって計算しているのですか? また,何と比べての向上率ですか?
Makedon氏:
我々はベンチマークを測定する専任部署であるベンチマークラボを有しており,ここにはたくさんのテストPCがあります。PCはAMDやIntelのCPU,異なるチップセットを採用しており,これらの上でゲームソフトやベンチマークソフトを実行して,性能を測定するわけですね。
新しいタイトルがリリースされ,それが世間の興味を引くような場合には,テスト対象に加えています。去年のタイトルでいけば「Crysis」などがいい例です。テストに用いているタイトルやベンチマークソフトの一覧はとくに公開していませんが,希望とあらば,公開してもいいと考えています。
そして「向上率」ですが,これは前月のドライバとの比較値ということになります。もちろん,アプリケーションごとに性能向上値は違います。
4Gamer.net:
テスト対象とするタイトルは,どうやって決めているのですか?
Makedon氏:
毎月,マーケティンググループとエンジニアリンググループ,ISVグループ(※ISV:Independent Software Vendor。独立系ソフトウェア会社をサポートするグループのこと)とミーティングを持ち,それぞれの意見を反映させて,発売済みのタイトルや発売予定タイトルの中から選んでいます。
4Gamer.net:
リリースノートを見ていると,最近は中国ローカルで運営されているオンラインゲームのバグフィックスが多いようなのですが。
Makedon氏:
昨年,我々は中国ローカルのゲームに,いくつか互換性などの問題があることを認識しました。韓国ローカルタイトルについても同様でした。そこで,中国にアジア産ゲームのテストラボを設立し,最近ではとくにここからのレポートを基にして,迅速な対応が行われるようになったのです。
4Gamer.net:
最近のパフォーマンス向上では,「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」の伸び率が実に目を見張るものでした。ただこれは逆にいうと,ゲームが登場した直後に,ATI Radeonはその実力を発揮できていないということでもあります。
その理由は何でしょうか? そして,どのようにしてパフォーマンスを向上させているのでしょうか?
我々は世界のゲームスタジオをサポートしていますが,ゲームごとにゲームエンジンの作りは違います。そして,ゲームのグラフィックスエンジンのなかには,GPUの活用方法が独特なものもあって,その時点のCatalystドライバが,その活用方法に適していない場合があるのです。
我々は,ゲームスタジオと連携を取ってパフォーマンス解析を行い,相互に最適化技術を盛り込んでいきます。そのため,ゲームタイトルによっては,パフォーマンスが劇的に向上するまで時間を要するものもあるというわけです。
4Gamer.net:
ATI CrossFireX(以下,CrossFireX)でパフォーマンスが向上するタイトルとそうでないタイトルがありますが,これはどうしてですか。
Makedon氏:
AMDの持っているデータでは,多くのアプリケーションでCrossFireXによる性能向上が見られますが,正直なことをいえば,確かにいくつかのタイトルではあまり向上しません。
例えば,最近のタイトルだと「Tiger Woods PGA Tour 07」などですね。Crysisも,シングルカード時と比べて20%ちょっとの向上に留まっていますが,これらはゲーム側のグラフィックスエンジンに依存する問題です。
4Gamer.net:
Makedon氏:
それは申し訳ないと思っています。私の仕事の一つには,「ドライバに組み込む機能の選択と計画立案」があるのですが,私はここ最近でいうと「4-way CrossFireX」などのほうを優先させてきていました。
どの機能を早くサポートしてほしいという要望がありましたら,ぜひ率直な意見を我々に寄せてください。可能な限り配慮したいと思います。
4Gamer.net:
Catalyst Control Centerのデジタルパネルのプロパティには,「高解像度のディスプレイにはDVI周波数を減らす」「代替DVI操作モード」がありますが,これはそれぞれどういう機能ですか。
Makedon氏:
4Gamer.net:
日本市場では,3Dゲームの性能向上よりも,動画周りのサポートを重視するユーザーが多数存在しています。ATI Radeon HD 4800シリーズが「PowerDirector 7」でビデオのトランスコードをサポートしましたが,ああいった機能のサポートが充実していくと,日本のユーザーからは歓迎されると思いますが,どう考えていますか?
例えば,「TMPGEnc」のサポートなどが期待されているわけですが。
Makedon氏:
今回のGPGPUトランスコードにおいては,Cyberlinkとコラボレーションをして開発しましたが,今後はNeroやCorelといったほかのベンダーもサポートしていきます。また,TMPGEncは北米でも人気のエンコードソフトですので,サポートする可能性がないわけではありませんが,現状では,もう少し一般的なユーザー寄りのアプリケーションを重点的にサポートしていきたいと考えています。
これから出てくるDirectX 11 Compute Shader,OpenCLなどによってGPGPUは一般化し,その恩恵が広く提供されることになるでしょう。多くの開発者が慣れ親しんでいくことで,GPGPUを活用するアプリケーションは多様になっていくと思います。
4Gamer.net:
NVIDIAのCUDAをATI Radeonでサポートするようなソリューションはないんでしょうか。
Makedon氏:
CUDAはロイヤリティフリーですが,オープンスタンダードではありません。
オープンスタンダードとは,複数の賛同企業による協議によって仕様が策定されていくプラットフォームを言いますが,CUDAはNVIDIAが仕様を策定しています。そのため我々は,他社との協調を計りやすい,MicrosoftのDirectX 11 Compute Shaderや,KhronosグループのOpenCLのサポートを採択した次第です。
4Gamer.net:
ノートPC用のGPUドライバは,基本的にPCメーカーのサイトからしか入手できません。多くの場合,最新のCatalystバージョンのリリースから遅れることが多いのが残念です。これはなんとかならないのでしょうか。
Makedon氏:
率直に言えば,我々もノートPC向けCatalystを我々の手で提供したいと思っているのですが,現実的には難しいです。
これは,ノートPCだとGPUのコンフィギュレーション(※動作周波数,発熱許容量,消費電力など)が製品ごとに異なるためで,製造したノートPCメーカー側が,ドライバのアップデートを管理する必要があるという実情があります。
4Gamer.net:
Makedon氏:
彼らは我々のβドライバプログラムに参加していますから,「AMDのサポートを受けている」と言えます。もちろん,彼らの動作検証能力は十分とは断言できないため,AMDとして動作保証することはできませんが,「AMD純正ドライバとは異なる体験をユーザーに届けるソリューション」として,価値あるものだとは思っています。
4Gamer.net:
Catalystチームにおける次のテーマはなんでしょうか?
Makedon氏:
まずは,登場したばかりのATI Radeon HD 4800シリーズに向けた,徹底的な最適化を進めていくことですね。それと,GPGPUのサポートの強化も忘れていません。
そのほかにも,計画済みの強化機能もたくさんあります。Catalystの進化が止まることはありませんよ(笑)。
フィードバックが
Catalystの完成度を上げていく
このインタビューを通して感じたのは,Catalyst開発チームが,ユーザーからのフィードバックを望んでいるということだ。
もし,なにか要望があったり,動作の不具合についての不満があるようなら,“草の根”の掲示板などで不満を漏らすだけでなく,AMDにレポートを送るといいかもしれない。日本AMDのサポート「カスタマーケア」などを通じてレポートを送るのも,おそらく効果的だだろう。
もしかすると,アナタのレポートがCatalystの完成度を上げるかもしれないのだ!?
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