インタビュー
あの“ゲームの神様”遠藤雅伸氏がMMORPGに言いたい放題。「ドルアーガの塔」からケータイゲームまで,存分にどうぞ
今回4Gamerでは,その遠藤氏にインタビューを行う機会を得た。MMORPGに対して抱える不満や,理想とするMMORPG像,そして現在,遠藤氏が取り組んでいるケータイゲームの魅力などについて,氏ならではの切り口で存分に語ってもらったのである。
まさに,すべてのゲームファン,ゲーム業界関係者必読のインタビューといえるだろう。
アニメはMMORPG版ドルアーガの塔の宣伝ではない
本日はよろしくお願いします。遠藤さんが4Gamerに登場するのは今回が初めてなので,いろいろ聞かせてもらおうと思います。
それではまず最初に,「ドルアーガの塔」というIPをアニメ化/オンラインゲーム化するまでのいきさつを教えてください。
遠藤雅伸氏(以下,遠藤氏)
まずは,アニメの話から説明します。
GDHの代表取締役社長 兼 CEOであった,石川真一郎さんと2005年11月に出会ったのが最初です。石川さんは熱狂的なドルアーガファンということで,「ぜひアニメにさせてください」とオファーされました。その後,制作スケジュールを見せられて,いいんじゃないですかと答えたんですけれど,実際にできるとは思ってなかったんです。
4Gamer:
といいますと?
遠藤氏:
いろんなことがあるんですよ。ゼビウスもアニメ化の話があったんですが,結局実現しませんでしたから。
4Gamer:
最初は,そんな話の一つだろうと。
ええ,そう思っていました。その後,「遠藤さんの頭の中にあるバビロニアンキャッスルサーガ(BCS)を文章化するところから始めたい」といわれ,物語や登場人物の相関関係について細かく取材されました。その情報をもとに,半年ほどかけてドルアーガの物語が新たに構築されたんです。
それから,監督は誰にしようかといった具体的な話へと移り,「ああ,本当にやるんだ」と。
4Gamer:
では,最初からオンラインゲーム化の話が出ていたというわけでもないんですね。
遠藤氏:
アニメはオンラインゲームの宣伝だろうと,いろいろなところで邪推されていますが,多分,最初にアニメがなければ,オンラインゲームの話もなかったと思います。
4Gamer:
なるほど。それでは,アニメ制作が本格化するまでの経緯を教えてください。
遠藤氏:
アニメの脚本とシリーズ構成を担当したのは,ドルアーガの熱心なファンでもある賀東招二さんです。彼は,BCSそのものを書くのは難しいと判断して,「ザ・ブルークリスタルロッド」に複数用意されているエンディングのうち,自分が好きなものをベースとして,その続きの物語を書いていくのがよさそうだと考えたんです。
4Gamer:
BCSを背景にして,アニメ用のストーリーを用意したわけですね。
それから,メカデザイナー/イラストレーターの小林誠さんが塔の絵を,イラストレーターの白亜右月さんがキャラクターイラストを描いてくれたりしました。二人とも,ドルアーガの塔の熱心なファンということで,入れ込んでくれたんですよ。
白亜さんは最初,こちらから頼んだわけでもないのに「ローパーは絶対こんなのだ」っていう絵を描いてくれました。そのローパーが,アニメにも使われていたりするんですよ。
4Gamer:
アニメ版のローパー誕生には,そんなエピソードがあったんですか。
遠藤氏:
小林さんもいろんなイメージイラストを描いてくれたんですが,塔の内部に水が流れているというアイデアが面白くて,アニメにも採用されています。第1期では,第9話で水が逆さに流れるなんていうシーンがあったりとか。
4Gamer:
遠藤さん自身,ドルアーガの塔のアニメ化にあたって,重視したことはありますか?
遠藤氏:
塔をどんなものにしようかという話をしたとき,その大きさについて,60階とかチンケなものは一番嫌だと伝えました。いろんなところで書いていますが,スカイシティ1000という,バブル期に設計された高さ1000m級の建物が,僕の中でドルアーガの塔のイメージと重なっているんですよね。
とはいえ,1000mというのは人間の手の届く高さなので,少なくとも3000mくらいはほしいと。それから,塔を閉鎖的な空間にしないで,外の空気が感じられるような構造にしてほしいと注文しました。
4Gamer:
やっぱり,塔に対するこだわりには強いものがあるんですね。
遠藤氏:
そのほかには,今までのアニメで行われていないことを盛り込んでほしいといいました。そうすれば,ドルアーガになるよと。
例えば,第1期の第1話では,同じ時間軸で,表と裏にあたる二つのストーリーが展開していくんです。普通のアニメを2話作るよりも大変だったはずですけど,たぶんこれまでにない,面白い試みでしたね。
既成概念を壊す試みだった,アーケード版ドルアーガの塔
“喜んで死んでいただく”ためのゲームデザインとは
前例のないことを盛り込むことが,“ドルアーガ的”?
遠藤氏:
ドルアーガの塔というアーケードゲームはそもそも,それまでの既成概念を打ち崩して,その時代の人々が楽しめるようにアレンジしていく試みだったんです。
もともと,RPGみたいなものを世に出したいということで,ドルアーガの塔の企画を練り始めました。でも,当時はまだロールプレイングゲームという概念が一般的なものではなかったので,RPGそのものを出せる状況ではなかったんです。そこで,アクションゲームにロールプレイングの要素を盛り込むことにしました。ドルアーガの塔をアクションRPGと呼ぶ人がいますが,もとはといえばそういう試みだったんですよ。
4Gamer:
なるほど,最初はRPGを出そうとしていたんですか。
遠藤氏:
実を言うと,「イシターの復活」のほうがドルアーガの塔よりも先に出来ていたんですが,ドルアーガの塔のあとにイシターの復活を出しました。その頃にはRPGの概念が理解されつつあったので,それでよかったわけですね。
それから,ザ・ブルークリスタルロッドでは,マルチストーリーにトライしました。一つの物語を1時間強くらいでプレイできる長さにし,いろいろ楽しんでもらえるように48通りの物語を用意したんです。でも実際には,一度クリアした人はくり返し遊ぼうとしなかった。これは当初,考えつきませんでしたね。
4Gamer:
すっかりゲームの話に移りましたが,こちらも興味深い内容ですね。
遠藤氏:
最近は,こんなふうに,日本のゲームがどうやって作られてきたのかということを,僕が系統立ててまとめていかなければいけないなと思いますね。これについて勉強してもらえば,日本のゲームクリエイターはもうちょっとまともになれると思うんですよ。
4Gamer:
それはぜひお願いしたいなあ。僕自身,読んでみたいと思います。
例えば,ドルアーガの塔の前に作ったゼビウスでは,上手い人には100円で6時間とか遊ばれてしまったんです。そこで,ドルアーガの塔ではプレイ時間が最大1時間くらいになるように考えました。塔は60階ありますから,一つの階を1分ほどでプレイすれば,約1時間ですべての階をクリアすることになりますよね。
その次に,喜んでプレイを終了してもらうにはどうすればいいのか考えて,アーケードゲームとしては初めて「エンディング」の概念を取り入れました。全ステージをクリアすると,「おめでとう,あなたのおかげで助かりました」というメッセージが表示されてゲーム終了となるんです。
4Gamer:
その手法は,ドルアーガが最初だったんですね。
遠藤氏:
おめでとう! といわれると,本人も「やった!」という気持ちでゲームオーバーを迎えられますからね。この考えに行き着くのは結構大変でしたが,実を言うとドライブゲームを参考にしたんですよ。
4Gamer:
ドライブゲーム?
遠藤氏:
ドライブゲームって,ゲームが早く終わるほど,つまりタイムが早ければ早いほど,成績が良いということになり,満足感が得られるわけです。ゴールして,喜んでゲームを終了してくれるこの仕組みを,アクションゲームに取り入れられないかなと考えました。
4Gamer:
なるほど。それにしても懐かしいなあ。僕も,テーブルの上にコインを積み重ねて遊んだもんです。
遠藤氏:
お金を入れてくれれば続きができる,コンティニュー方式を採用しましたからね。でも,あれはちょっとあこぎだったと反省しています。
4Gamer:
あこぎ……ですかねえ。まあ,確かにずいぶん吸い込まれましたけど。
遠藤氏:
僕としては,上手い人も下手な人も,同じくらいの時間で,同じくらい楽しんでほしいんですけどね。これは難しい命題です。でも,ネットワーク対応型のゲームであれば,一つの解決策としてマッチングシステムを使うことが考えられますよね。同等のスキルレベルのプレイヤー同士をきちんとマッチングしてあげれば皆さんに満足してもらえるものにできるし,そうすべきだと思いますね。
MMORPGに対して思うこと
ところで遠藤さんは,MMORPG版ドルアーガの塔の開発には注文を出したりしたんですか?
遠藤氏:
開発開始当初はすべて任せていました。MMORPG版には遊ぶ側として関わっていた感じですね。
4Gamer:
では,最初にMMORPG版を遊んだときの印象はどうでした?
遠藤氏:
ゲームじゃなくて,走るものなのかよ,と。走ってばかりなんですよね。MMORPGを作っている人は,そういうところを考えられないのかなと思いましたね。
MMORPG版ドルアーガの塔に限った話ではなく,一般論として,ゲームデザイン的に破綻している部分がいっぱいあるのに,MMORPGだからということで片付けてしまうという姿勢自体に,カチンと来ることがあります。僕としては,そういう部分を,MMORPG版ドルアーガの塔を通じて変えていきたいと思っているんです。
4Gamer:
今は,開発にも関わっているわけですね。
遠藤氏:
ええ,アニメの第1期が終わったあとからです。それでは今後,オンラインゲームについても意見をいわせてもらいます,と。石川さんと組んで,2週間に1度くらいのペースで企画会議を開いていて,インタフェース関連も含め,いろいろな要望を伝えているんですよ。
4Gamer:
それは頼もしいですね。これからの展開に期待しています。
ところで遠藤さんはこれまで,どんなオンラインゲームを遊んできたんですか?
遠藤氏:
いろいろやりましたよ。「ウルティマ オンライン」や,「ファイナルファンタジーXI」とか。RTSもやりました。ただどれも,面倒くさくて馴染めないので,すぐにやめちゃいました。
4Gamer:
具体的には,どういうところが面倒くさいと感じます?
遠藤氏:
MMORPGについていうと,何をしていいか分からない状況に陥ることや,周りの人達との関わりですね。あと,移動するのも面倒だと思います。
それから,なんといってもデスペナルティが嫌ですね。あれは考え方自体が間違っているので。
4Gamer:
そうですか? 僕は個人的に好きだったりするんですが。
もちろんシステムとして,死ぬことに対するリスクを用意するのはいいと思うんです。ただそれが,ゲームの継続を阻害するものになっている点が間違っていますね。例えばドラクエで死んだとき,レベルが1下がるというようなルールだったら,みんなやめちゃうと思います。
4Gamer:
それは確かにシビアですね。
遠藤氏:
プレイヤーに対して課金している立場の人がまず考えなければいけないのは,多くの人に入ってきてもらい,定着してもらうことです。ところが多くのMMORPGでは,初心者に対するケアがまったくなされていないんですよね。「MMORPGはこういうものですから」なんて。
MMORPGを知っている人よりもずっとたくさんいる,MMORPGをやったことのない人達に来てもらい,MMORPGが何かを理解してもらうにはどうしたらいいか考えて,裾野を広げる努力をしなければいけないんですよ。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
MMORPGを作っている人は,「ここまで遊んでくれたんだから,ある程度のことをしても遊び続けてくれるに違いない」という幻想を抱いているんじゃないでしょうか。
確かに,それでもプレイし続けるコアなファンがいるのは事実ですが,途中でふるい落とされている人がたくさんいるはずなので,そういう考え方では「マス」にはなり得ないんですね。「マイナーでいたい」という指向なのかもしれません。
4Gamer:
“売れないアイドルの追っかけ”みたいなもので,メジャーになったらダメという考え方でしょうか。
遠藤氏:
そう,まさにそれですよ。でも,ビジネスとしてやっているんだったら,それじゃあいけないはずです。プレイヤーを失望させたら,そこでリピーターは減るわけですからね。
MMORPGにおけるゲームデザインと時間管理
遠藤氏:
僕がもう一つ指摘したいのは,MMORPGにおいて確率論をどのように用いるかの煮詰めが甘いということです。
4Gamer:
確率論ですか。
遠藤氏:
例えばゲームデザイナーが,毎分1匹ずつ,256分の1の確率でレアモンスターが出現するといった設定を行うとします。256分に1回だから,「4時間ちょっと経てば一度は出現する」という考えだと思うんですよ。
でもこのやり方では,3分で出る場合もあれば,丸1日遊んでも出ない場合もある。それなのに,出ることを前提に考えて,出ないことに対するケアがまったく行われていないわけですね。
4Gamer:
なぜ,そのことがなおざりにされてしまうんでしょう。
遠藤氏:
考えれば分かることなのに,安直に答えを出そうとしている。つまりは,ゲームデザイナー自身がゲームをまともに遊んでいないんですよ。もっと自分で遊んでみろと。
4Gamer:
この問題でしたら,どういう解決策が挙げられますか?
遠藤氏:
まともなゲームデザイナーだったら当然,僕らが“抽選箱”と呼んでいるやり方にするでしょうね。
4Gamer:
それは,具体的にはどんな方式ですか?
遠藤氏:
4時間ちょっと遊んで1回出現することを前提にするならば,256枚のくじが入っていて,その中の1枚が当たりになっている,そういう抽選箱で1分ごとにくじを引かせるタイプにすればいいんです。
最初に挙げた方式では,くじを引いてハズレだったら,そのくじを箱に戻しているわけですが,今紹介したやり方なら,時間が経つにつれて当選確率が高くなっていきますよね。当たりが出るまでに要する時間に,上限を設定できることが大事なんですよ。こういうことをもっと勉強しろよといいたくなります。
4Gamer:
なるほど,よく分かります。
でも,せめて1時間くらいで出してあげたいじゃないですか。それくらいに設定すべきだと思いますね。4時間とかにするなら,すぐ出現させるための有料アイテムを用意するんです。運がよければすぐ出るけど,運が悪くてもお金を払えばなんとかなるというのであれば,それはそれでいいと思いますよ。
そういえば,先ほど少し触れましたけど,走ってばかりというのももっと考えてほしいところですね。
4Gamer:
出現した敵を倒すために,さらに30分くらい走らなければいけなかったりしますよね。あれはどうにかならないのかと。
遠藤氏:
「それがMMORPGですから」といわれるとカチンときます。だから僕はMMORPGはやらないんですよ。
今話したような,「時間管理の甘さ」は,まあ昔からよくいわれていたことですね。
4Gamer:
といいますと?
遠藤氏:
アーケードゲームを作っていた人達の文化と,PCゲームを作っている人達の文化の差ですね。アーケードゲームでは,できるだけ早くお客さんに倒されていただきたい。短時間にどれだけお客さんに満足していただけるかということを,本当に真剣に考えて作っていました。
だって,最初に遊んだときに面白くなかったら,もう遊んでくれませんから。つまり,しょっぱなから面白い部分を前に出さなきゃダメなんです。
4Gamer:
なるほど。
遠藤氏:
一方,PCゲームを作っている人達の根底には,「時間は無限にあるもの」という考え方と,「プレイヤーはきちんと最後まで遊んでくれるものだ」という幻想があると思うんです。
そりゃあ,1万円近く出してゲームを買ってきたのに,3分間プレイして面白くないからやめちゃうというのは,とても投資に見合わないから,我慢してやらざるを得ないんですよ。その状況に対して甘えている部分があったと思います。そのせいで,時間管理が甘くなっちゃうということなのかな。
4Gamer:
確かに考え方が全然違いますね。
遠藤氏:
MMORPGは延々と続くものですから,時間に対する意識をしっかり持てといわれても,PCゲームを作っている人達がそこに行き着くとは思えないので,こういうことも勉強してもらいたいと思いますね。
4Gamer:
ビジネスモデルも,ゲームデザインに影響していますよね。できるだけ長くプレイさせないと困るというか。
遠藤氏:
それはありますね。どのビジネスモデルを採用しているにせよ,プレイヤーにお金を支払ってもらい,そのことによってより大きな満足感を得てもらえるようなゲームにすべきだと思います。そういう仕組みを用意するのは,なかなか難しいんですが。
MMORPGの必要動作スペックに物申す
そのほか,MMORPGで問題点と感じている部分はありますか?
遠藤氏:
MMORPGについては,プログラムをコンパクトにすべきだと思います。あんなにグラフィックスに凝っても仕方がないし。
MMORPGを作っている人に,「一般的なPCのスペックはどのくらい?」と聞いたとき,どんな答えが返ってくると思います?
4Gamer:
お父さんが使っているノートPCで遊んでいるという人も多いんじゃないでしょうか。
遠藤氏:
いやそれがね,「2〜3万円のグラボが載っている感じでしょうか」なんていわれるわけですよ。グラボが載っているという時点で間違っていて,きっと3〜5年落ちくらいのノートPCのほうが一般的だと思います。
そういうマシンで動く必要があるのに,グラボが載っていて当たり前と考えているようでは,ケアできるわけがないじゃないですか。そんなところでも,お客さんを絞り込んでしまっているんですよ。
4Gamer:
グラフィックスがきれいじゃないとダメというのは,いつも議論の的ですね。
遠藤氏:
今の時代,グラフィックスがきれいじゃないと通用しないから,という言い方をされますけど,今でもファミコンのゲームを遊んでいる人はたくさんいますよね。
4Gamer:
ファミコン……はどうだろう。でもニンテンドーDSや,ケータイのゲームを遊んでいる人もたくさんいるわけで。
遠藤氏:
そう。だから,考え方が全然違うんですよね。
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