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[GDC2008#10]2K BostonのKenneth Levine氏の講演は,「BioShock」のストーリーの秘密
BioShock成功の秘密をここに公開
だがその後,ゲームの表現力が加速度的に向上したことで,徐々にストーリーの重要性が増した。カットシーンが挿入され,詳細な設定資料が作られ,ボイスアクターが声を当てるなど,ストーリーはゲームに欠かせない要素になっていったのだ。
FPSに面白いストーリーを持ち込んで最初に成功したタイトルは,一般に「Half-Life」(1998年)とされているが,最近のタイトルでは,昨年(2007年)の夏に発売され,ゲーマーやメディアから非常に高い評価を受けて大ヒットした「BioShock」を見逃せない。とくに,海底都市“Rapture”(ラプチャー)をめぐる奇想天外なストーリーを評価の理由としてあげる人も多い。
スピーカーであるKenneth Levine氏は,Looking Glass Technologies時代から,「Thief: The Dark Project」や,精神的な前作に当たる「System Shock 2」まで,20年近くゲームの制作に携わってきたベテランクリエイターである。現在,2K Bostonでディレクターを務める彼の口から語られた,面白いゲームの秘密とは?
物語ではなく,世界を見せろ
セッション冒頭,Levine氏は「ストーリーなんかなくても構わない。ストーリーなんか誰も気にしちゃいないんです」とフックをかます。一般のプレイヤーは,「そうかしら?」と思うところだろう。しかしこの言葉の本意は,モスコーンセンターのNorth Hall 135号室を埋めたゲーム開発者達が物語に拘泥するのは百害あって一利なしである,ということにあるのだ。5年にわたるBioShockの開発であらためて学んだこととして,プレイヤーには以下の三つのレベルがあるとLevine氏はいう。
レベル1:「誰を倒し,どこへ行くか」程度しか気にしないプレイヤー
レベル2:「ああ,女の子がいるな」「主人公は科学者だな」など,ある程度ゲームに関わろうとするプレイヤー
レベル3:コアなファン。ゲームのすべてを知ろうとするディーププレイヤー
そこには古めかしいデザインの銃を持った男の腕が映っており,狭苦しい通路を進んでいくと,モンスターが出現する。「だけど,何かが足りないと思いました。ラプチャーの世界が何も語っていない。というわけで,作り直しを命じました。もちろんチームのみんなには嫌われました」と語るLevine氏。スクリーンには大きく“Good way to make team hate you“(チームに憎まれるのは良いことだ)。今さらながら,ゲーム制作は大変な仕事である。
ラプチャーはゆっくりと成長していった。その過程は,まるで彫刻家が形のない石塊から作品を削り出すようなもので,余計だと思われるものをどんどん削り落としていく行為だった。プロトタイプに登場した10人あまりの政治家,科学者が「200x年のある夜,私のナイフで皆殺しにされ」ばっさり削られる。60年以上にもわたって繁栄と内乱,そして抗争に明け暮れるという絢爛たるラプチャー歴史を描くシーンも姿を消し,ストーリーはどんどん単純になっていった。あまりたくさんを提供してはいけない,とLevine氏は語る。「正直言うと,プロトタイプでは私でさえ誰が誰だか分からなかったのです」。
ストーリーは小出しにしろ
そういえば,ゲームが始まるといきなり「ここワンダー王国は,キング国王の優れた治世により100年以上も平和でした。ところがある日,地下から現れた悪魔軍団が……」という感じで長い長いストーリーが紹介されてしまうゲームも多いなあと筆者も納得。それはまあ,プレイヤーに対する親切なのかもしれないが……。ここでLevine氏は,「ミステリーバルーン」という考え方を紹介する。BioShockは間違いなくDetective Story(推理小説もしくは探偵小説という感じ)であり,謎がプレイヤーをゲームに引き込んでいく。ミステリーバルーンには物語の疑問がいっぱい詰まっているため,高く浮いている。
とはいえ,謎がいつまでも謎のままではプレイヤーも疲れてしまうので,だんだんとはっきりさせていかなくてはならない。すると,バルーンから謎というヘリウムが抜け,しだいに地面に下がっていく。地面に着いてしまうとプレイヤーにとってつまらないゲームになってしまうので,下がってきたら,ふたたびミステリーを注入してバルーンを高く浮かさなければならないという。
BioShockの場合,そのためにラプチャーを荒廃した海底都市とした。精神的な前作(版権があるので名前が使えないだけだが)System Shockシリーズではそれが宇宙であり,いずれも「そこから脱出する」という明確な指針が存在するのである。
ストーリーはキャラクターに語らせろ
グラフィックスのレベルが上がったことにより,それぞれのキャラクターに個性を与えることが可能になっている。個性とは見てくれや所作,そして話し方などから生まれてくるものだが,アンドリュー・ライアンはライアンらしく,ブリジット・テネンバウムはテネンバウムらしく描ける。というわけで,ストーリーはそうした個性のあるキャラクターに語らせたほうが説得力が出てくるのだという。
BioShockの制作に携わった誰(実をいうと約2名だが)に聞いても,同作の最大の魅力は「ビッグダディとリトルシスター」の関係と答えるそうだ。プロトタイプでは,「人体改造に必要なAdamはリトルシスターからしか採取できない。そのリトルシスターはビッグダディに守られている」というたいへん説明的な設定はあったのだが,具体性に欠けるうえ,ちょっとわざとらしかった。最初期のリトルシスターのスケッチを見るとモンスターそのもので,モンスターがビッグダディに守られているというのはどうかなあという雰囲気。そこから両者の関係を「父と娘」にするという画期的な発想があり,ようやく現在の姿に落ち着いたのである(念のために言っておくが,リトルシスターもビッグダディも,キャラクターの姿形が決まってから付けられた名前)。
ゲーム中,ことさら「父と娘」が語られることはないが,彼らの姿や行動を見れば一目瞭然(ビッグダディは微妙な気がするけど)。ここでもグラフィックスの力は大きいのである。
ストーリーはプレイヤーに引き出してもらうもの
Levine氏は,「ゲームにはPush型とPull型がある」と語る。カットシーンなどで強制的にストーリー展開を見せるやり方がPush(押し出し)型だが,BioShockはプレイヤーがストーリーを自ら引き出すPull型であり,別に興味のないプレイヤーは何も引き出すことなくそのまま素通りしてもかまわないが──作り手としてはちょっとさびしいらしい──何かを引き出そうと思えば驚くほどたくさん出てくるような世界を作り上げることに努力したのである。
ゲームは個体差が大きく,Levine氏の話がそのまますべての作品に当てはまるものではないだろう。それでも,(紙幅の関係でかなり話をはしょってもいるが)ゲームを作らなきゃならないのに,良いストーリーがないとお嘆きの方はぜひ参考にしていただきたい。どんな話でも,グラフィックスやシステムや世界観によって,それなりに凄いモノになっちゃうらしいですよ。
- 関連タイトル:
バイオショック 日本語版
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