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「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載
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印刷2017/03/04 00:00

インタビュー

「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載

「マブラヴ」は吉宗氏の遺書のようなもの


マフィア梶田:
 先ほど,ドラゴンクエストが根幹にあるとおっしゃっていましたが,「君のぞ」と「マブラヴ」という2本の作品を,同じ世界で表現するというストーリーテリングは,それなりのスキルがないとできないことだと思うんですよ。それで気になったのが,このストーリーを構築する力が,どう養われたのかってことなんです。でも,ここまでのお話だと,吉宗さんってストーリーを作る側の人じゃないような印象があるんですよね。

吉宗氏:
 あー,当時業界内ではインテリやくざとか詐欺師って言われてたみたいですから,だいたい合ってますね。梶田さんとコンビ組んだら良い感じに仕上がりますね(笑)。

マフィア梶田:
 いえ,そうじゃなくて(笑)。えーと,モノを作ることを考えるクリエーターなのに,モノを売ることを考えて行動するプロデューサー的な思考ですよね,と。

画像集 No.006のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載
吉宗氏:
 根本的には,上下関係が厳しい伝統芸能の家元に生まれ,大勢の大人に囲まれて育った影響が大きいかもしれませんね。忙しい大人にかまってもらったり,褒めてもらったりするための物語,つまり自分の話に関心を持ってもらうために,どう伝えるかみたいなことを常に考えていた気がします。そう考えると子どもの頃に漫画家を目指していたのも,描けば褒められるからであって,本当に好きでやっていたのか怪しくなりますね(笑)。

マフィア梶田:
 子ども特有の大人に対する自己アピールが,プロデュースの原点という話は納得です。むしろそれが得意だったから,漫画家にピンと来たんじゃないですかね。

吉宗氏:
 そうかもしれませんね。漫画って絵とストーリーで構成されているものですが,今はストーリーばっかりで絵はほとんど描いていませんし。子どもの頃からもともと絵が好きで,イラストレーターやグラフィッカーとしてゲーム会社に潜り込んだんだけど,本当はストーリー派だったのかな……初めて自覚しました(笑)。

BRZRK:
 今の話を聞いて,幼少体験がプロデュース能力を育てて,漫画に興味を持たせたことが作家性につながったのは分かりました。でも,「マブラヴ」ってストーリーの構造がかなり特殊ですよね。主人公の成長物語にヒロイン達だけじゃなく,組織や国家,世界との関わりが複雑な人間関係に絡めて描かれている。子どもの頃からいろいろあったとは言っても,よくあんな複雑なストーリーをやろうと思えましたよね。

吉宗氏:
 あの構造にしろ,ストーリーにしろ,作ること自体はそれほど難しくないんです。ストーリーなんて,皆さん毎日のように作っているはずですよ。

マフィア梶田:
 いやいやいや(笑)。

吉宗氏:
 例えば梶田さんは立場上,いろいろな人と接しますよね。で,その人達,キャラクターとの間に関係値みたいなものができて,それが続けばいろいろなことが起きる。それらの記憶を元に誰かに伝えようとすると,どうしても梶田さんの視点や視野,立場など,独自解釈が加わったものになりますよね。
 その主観が加わった話。それを作劇的に言い換えたものがストーリーということになります。

BRZRK:
 マジですか。

吉宗氏:
 マジです(笑)。じゃあ今の例を作劇的に考えてみましょうか。
 テーマやメッセージは話をする梶田さんの主観や解釈によるものです。主人公が梶田さん,出会う人達は脇役,つまりキャラクターです。キャラとは個別の情報を持っている記号です。記号が複数つながると,ある種の相関図ができる。それを元に各キャラが持つ情報の相性を突き合わせると関係値ができる。その関係値に時間経過に伴う変化を加わえたものが時系列イベント,つまり起承転結です。

マフィア梶田:
 なるほど……。

吉宗氏:
 この時系列イベントに対応する各キャラ独自のリアクションをテーマに照らし合わせながら導き出せば,自ずと各キャラの方向性が決まります。これらを統合したものがストーリーです。
 キャラは入り口,関係値は継続性の点で重要ですが,それだけで構成すれば客観的で建前的なストーリーになります。テーマという主観によってすべての要素の方向性を整えると,そこで初めて梶田さんのオリジナルストーリーになるんですよ。
 こうして解説すると,人が経験しているものはすべてストーリーであると気付くはずです。それに,人はもともと,オリジナルストーリーを紡ぐ能力を持っています。子供の頃には皆,ごっこ遊びなどで自然に,即興でストーリーを作っていますし。

マフィア梶田:
 あー,いろいろ納得できました。皆が経験をストーリーに転換できるかどうかは別として,吉宗さんは会社の代表としても,それ以前にも多くの人に会ってきたわけで。それが創作に直結しているから,プロデューサー的なクリエーターなんだということがよく分かります。

吉宗氏:
 そう。僕は漫画や本,映画などで得たノウハウだけでなく,幸運にもバブル期の出版社時代以降,さまざまな業種,いろいろな階層の方々,つまり「キャラ」に接する機会をたくさんいただきました。その大勢の方々との出会いやプロフィール,経験などの情報を,テーマという主観に沿って再構成しながら出力しているだけなんです。

マフィア梶田:
 そうなると気になるのが,吉宗さんの主観であるテーマやメッセージです。作家的にはそこが一番重要じゃないですか。以前に,制作のために莫大な借金を背負ったと聞きましたけど,そうまでして「マブラヴ」を世に送り出したというのは,吉宗さんが作品に込めたテーマが関係しているんじゃないですか。

吉宗氏:
 テーマやメッセージのルーツに関しては割とハッキリしてますね。ひとつは,靖国神社の初詣で読んだ「英霊の言の葉」です。先の大戦で亡くなった方々の遺書集なんですが,あまりに立派で,当時の自分よりさらにひと回り若い人が書いた文章とは思えず衝撃を受けました。
 こんな若者達が国家ではなく,家族や子供の未来を担保するために生命を差し出す。心の奥では嫌だったんじゃないかと思います。でもそれをせざるを得ない状況だった。自分の感情を殺して,立派な遺書を書いて遺族を安心させる優しさなんです。後に僕達が無意識にむさぼった平和や自由に対して,自分にはあまりにも感謝がなかったなと。

マフィア梶田:
 そうせざるを得ない戦いは,まさに「オルタ」で表現されていますよね。

吉宗氏:
 そう。じゃあ自分に何ができるのか考えた結果,とにかく自分が受け取ったものを誰かにつなぐことだろうなと思ったんですよ。だったら,自分の企画にその想いを込めようと。富野由悠季さんや庵野秀明さん達が描く,重いテーマの作品を見てきた経験から,そう確信しました。

マフィア梶田:
 そして,「マブラヴ」に全部入れてしまおうと。

吉宗氏:
 最初は「オービットダイバー」に取り入れたものでしたが,「マブラヴ」が奇しくもSFロボものになりましたし,これはやるしかないなって。実際作ることを前提に始めてみたら,もう歯止めが利かず,それまでの人生で得てきたモノや,作品を作る時にやりたかったことをすべて詰め込んでいました。ほんと「マブラヴ」は総力戦で……その意味で僕の遺書みたいな作品ですね。

BRZRK:
 でも,そう考えると随分と長く続く遺書ですよね(笑)。

マフィア梶田:
 本編は「オルタ」で終わっていますけど,「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」とか「シュヴァルツェスマーケン」といった形でシリーズは続いていますよね。

吉宗氏:
 そういう世界観ビジネスの展開で回収することを考えなかったら,結果的に6億以上も借金できませんよ。マジで「総力戦」なんです(笑)。長期展開が可能な世界設定の強度が必要だったことも,なんでも詰め込んだ理由ですね。正直,出し惜しみなんてしてられませんでしたから。すべて出し切ったという意味で,僕は一度死んでます。やっぱ遺書だ(笑)。

マフィア梶田:
 6億の遺書(笑)。普通ならSFロボ物を成立させるためだけに,ギャルゲーを1本作るとか……。

画像集 No.007のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載
BRZRK:
 いや,「オルタ」のために,丸々2本ですよ(笑)。UNLIMITED編でも1本分ありますから。しかもあのボリュームのストーリーで,きっちり辻褄が合ってる精度の高さは異常です。EXTRA編で普通にギャルゲーを進めていて「あれ,これなんなの?」と疑問に思う部分に対して,「オルタ」で答えが判明したときは,何度も鳥肌立ちましたから。
 普通の作品がお約束としてスルーしてきたことすべてに,世界構造的な理由が準備されていて,それが破綻していないですよね。あれを一通りプレイして反芻したとき,制作者は死ぬレベルの作業をしたんじゃないかと思いました。

吉宗氏:
 実際,みんな“息してない!”レベルでしたね(笑)。

マフィア梶田:
 でしょうねぇ……。そりゃ,あんな丁寧で緻密な伏線の回収とかは,クリエーターなら誰でも一度はやりたいと思うでしょう。でも,あそこまで成功しているのはなかなかない。普通はそれをやるための金も時間も人もありませんから。それを実行に移して成功に至った理由はいろいろ聞いてきましたが,最終的に形になって世に出せた要因って,吉宗さん的に何が一番重要でしたか?

吉宗氏:
 開発に関わったスタッフ全員ですね。とくに創業メンバーがハンパじゃないんです。性格的には絶対仲良くならない者同士で,お互いに相手のタイプが嫌いという。同じ中学だったら絶対に追い込んで負けた方がパシリになるレベルで(笑)。

マフィア梶田:
 最悪に嫌いってことじゃないですか(笑)。

BRZRK:
 そこまでなんですか(笑)。そんな関係でどうしてあんな大変なものを最後まで?

吉宗氏:
 創業メンバーはパンドラボックス時代に同じ開発チームだったんですが,信じられないような危機が何回あっても,絶対逃げなかったんです。好き嫌いを度外視した,仕事の信頼が関係のベースなので,15年経ってもほとんどの創業メンバーが残っているんですよ。
 普通は会社が成長すると,考え方に差が出てきて創業メンバーはいなくなるものなんですけど。単純に言えば,互いの人間性にまったく期待をしてないから,嫌なところを見ても驚かないし仕事への影響が少ない。まあ,みんながどう思っているのか,最近はどうか分かりませんが(笑)。

マフィア梶田:
 そんな関係性でこれだけの辛い道のりを進み,「マブラヴ」を成功に導くって,なんなんだろう……。

吉宗氏:
 根本的に関わった全員がすべての意味でスーパーだったからですよ。じゃないとこうはなっていない。もし僕が「マブラヴ」を独力でもできる小説などで出していたら,絶対,皆さんには知られずに消滅してますよ。

マフィア梶田:
 とは言え,実際のところ「マブラヴ」が世に出て10年以上ですけど,これほどのクオリティを再現できている会社は,コンシューマを含めて存在しませんよね。

吉宗氏:
 何度も言いますが,他社にその能力がないんじゃなくて,皆さんマトモな経営をしているからですよ。回収の目処もないのに,6億5000万円も借金しません(笑)。

マフィア梶田:
 いくらスペシャルな人材や訴えたいテーマがあるからって,なんで吉宗さんはそこまで思いきれたんですかね?

吉宗氏:
 数字に無頓着なんですよ(笑)。経営者としては最悪なんですが。

マフィア梶田:
 いやいや! 6億5000万円て額は普通の人の人生が2,3回吹っ飛びますし,無頓着というレベルじゃないと(笑)。

吉宗氏:
 「お金が人を左右するんじゃない!人がお金を左右するんだ!!」って言うじゃないですか。島本和彦先生の名言を勝手にアレンジしてますけど(笑)。

BRZRK:
 言ってることはめちゃくちゃですけど,深くて重い言葉ですねそれ(笑)。

吉宗氏:
 だって6億だ,10億だって言われて,ぶっちゃけピンと来ますか?

BRZRK:
 まあ確かに,そこまでいくと……ですね。

吉宗氏:
 だから僕的には,1000万円より先はもう「たくさん」って単位で統一しているんです(笑)。1億も,6億でも一緒なんじゃないかなと思って。

マフィア梶田:
 いやいやいや(笑)。

BRZRK:
 ま,まあ,1000万円というと生々しく感じられますけど,そこから上の桁になると確かに……。

マフィア梶田:
 感覚的には分からなくなりますけど(笑)。でもヤバイとは思いますよ?

画像集 No.008のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載
吉宗氏:
 でも,演歌歌手で,実際に億単位の借金を個人で返した人はいるんですよ。当時の若い世代からは演歌ってオワコンに見えたし,テレビにも出なくなっていた時期です。なのに,何億も返済したらしいんですよ。その人に比べれば……自分には一緒にゲームを作る天才的なメンバーがいる。だから全然平気だろうと。だからこそ,家も担保にできたんです。

マフィア梶田:
 それだけの確信があったということですか。

吉宗氏:
 成功するという自信はあっても,確信は一切なかったですよ。でも,できることはほとんどやりきったって自覚はありました。「オルタ」のベータ版のデバッグが一通り終わったとき,「これがウケないならもういい!オレが業界を去る!!」って,社長室で独り叫びました。プレイ終了後,マジでトリハダが立ったんですから。
 手前味噌な話で恐縮ですが,そう叫ばせるくらいのすさまじいレベルに,制作スタッフがゲームを仕上げてくれたんです。誰もやらないことを全力でやりきったんだという結果を,ゲームの完成度で見せてくれた。想定クオリティから言えば約6割の満足度でしたが,これはもう自分が間違っていたな,と。僕の想定クオリティが無茶過ぎたんだと反省しきりでしたね(笑)。

BRZRK:
 いやぁ,ただのファンである僕なんかが言うのもなんですけど,それでもめちゃくちゃクオリティが高い作品ですよ。

吉宗氏:
 ありがとうございます。実は僕も,アドベンチャー形式の二次元演出に関しては,いまだに,どこにも負けていないと思っています。もちろん3Dやアニメは情報量が多いし,全部が動くので,マトモに比較すれば絶対勝ち目がありません。
 ただそこまで動くと,見る側の想像の余地がなくなり意識が受動的になるので,物語の精神浸透度が浅くなります。時間あたりの費用対効果でもはるかに分があるので,投入する場所を選べば今でも十分やりようはあるんです。

BRZRK:
 適度に紙芝居だからこそ働く想像力があるんですよね。

吉宗氏:
 文字でも映像でも,適度に不足する情報に対して人間の脳は,つなぎ合わせるために補完をかけるんですよ。そのとき,必ず主観の解釈が入るので,自然とその人にカスタマイズされた物語にアレンジされるんです。ある意味,その人専用の物語になって記憶されるので,心に残りやすくなるんです。ありものを受動的に受け入れた場合はどうしても,同じような新しいものに上書きされやすいんですよね。

マフィア梶田:
 あー,先ほどのストーリーの解説と併せて考えると,非常に分かりやすいです。

吉宗氏:
 ただし,「この世界の片隅に」くらい作りこまれるとお手上げですね(笑)。ご飯を食べる一連の動作だけで,キャラ心情への想像を膨らませる冗長性を確保していて非常に驚きました。TVアニメでは無理なクオリティだとは思いますが。

マフィア梶田:
 あれは,無理ですね。

吉宗氏:
 それで,自分が使命的に伝えたいテーマを込めたタイトルが,簡単に上書きされるような強度ではマズイんですよ。その意味では,世界情勢や大規模災害の影響も無視できません。
 「マブラヴ」を作ろうとしていた当時の日本は,特定の国々の主張については絶対服従に近い同調圧力が支配的で,マスコミも学者も教育も自虐史観が正しかった。世界的にはグローバリズムが台頭していた時代です。「オルタ」のシナリオも,反日デモや大規模災害の影響でリテイクせざるを得ない局面が多々ありました。

マフィア梶田:
 そういう同調圧力的な風潮は,なんとなく今も実感がありますね。

吉宗氏:
 そういうのは形を変えていつの時代でも存在します。当時の日本はバブルが弾けて失われた10年と言われていた時期で,日本人,とくに若者がハシゴを外され,一気に自信を失って内向きになっていると感じてたんです。バブルの時はイケイケだったのに,なぜ急にそんなことになってしまったのかいろいろ考え,調べました。
 結局,日本人は,ナショナルアイデンティティがごっそり欠落しているんです。民族としての立ち位置が喪失し,個々人が,お前は何者で,どこへ行くんだという問いに,明確な答えを持てていないのだろうな,と。

BRZRK:
 それが,テーマとつながって「マブラヴ」の“立脚点”につながるわけですか。

吉宗氏:
 そうです。日本の若者,とくに男の子にエールを贈る作品は星の数ほどあります。でも,日本特有の根本的な問題,つまり立脚点を避けているから表面的にしか響かないんだと思います。理想論だから実際の生活で発生する問題に寄与できる強度がない。だからこそ,奇しくも梶田さんやBRZRKさんといったハーフのおふたりが,「マブラヴ」にそこまでハマるというのは,すごく納得がいくし,嬉しいんです。
 「トータル・イクリプス」の主人公ユウヤ・ブリッジスと同じく,祖国が2つあるというダブルアイデンティティの苦労って想像を絶するわけです。立脚点を問う「マブラヴ」がおふたりに響いた事実こそが,作ったモノが思いどおりになってるんだという成績表じゃないですか。

「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス」
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BRZRK:
 完全に,というわけじゃないですが,そういった面に対しての苦悩とか苛立ちは共感しちゃう部分がありますね。

マフィア梶田:
 それは間違いないです。ある意味「マブラヴ」をプレイすることで頭の中のモヤモヤが言語化されたんですよ。立脚点とか,なんのために日本で生きているのかとか。その確信を得たのが「マブラヴ」だったんですよ。自分がプレイしたのは発売から10年経ってでしたけど,「マブラヴ」のテーマやメッセージは,時代に左右されないものだと思います。

吉宗氏:
 梶田さんが「マブラヴ」にはまってくれて,一気にプレイしているのをツイートで発言されてたじゃないですか。VRの発表も控えてたので,すげえ有名人が良いタイミングで始めてくれて,「ウヒヒヒ」って思いましたよ(笑)。

一同:(笑)

マフィア梶田:
 心の奥にゴリゴリゴリってスプーンをねじ込まれた()んですよ(笑)。そこに,深く響くような物語の作り方というか,愛国的なメッセージとか,そういった部分で,ただのギャルゲーとかエロゲーとか,そういう言葉では片付けられない教訓を教わったような気持ちでプレイしましたね。

※前編を参照。尖っていないものを差し込んで……えぐるといった表現

吉宗氏:
 本来,右翼も左翼も愛国なんですが,それって何かというと,自己承認の第一歩だと思っているんです。国やコミュニティとのつながりを断絶された世代がそうなんですけど,基本的に寄って立つ帰属意識を持っていないと,恋人や家族,仕事とか趣味とか,依存しているものを失って簡単に絶望しちゃうんです。
 一方,僕らは,売れる確証のない物を作り続けて6億5000万円の借金を作っても,立脚点と,使命だと思うものがハートに揃っている上に,絶対逃げない天才的なスタッフがいる。だから作り続けられたんですよ。

マフィア梶田:
 なるほど。なぜ,あそこまでやれたのか,いまのお話ですごく納得できました。

吉宗氏:
 例えば,大企業で出世して,何億も稼いでいたとして,人間絶対安心なんかできないと思います。世界や経済が10年後どうなってるかも絶対分からないし,それに備えるならいくら必要なのか,老後はいくら貯金があれば大丈夫なのか。10億ですか,20億ですかって話ですよ。
 資産で100億あっても4日後に事故で死んだら? なんて考えると,確証のあるものなんてひとつもない。だったら,他人の価値観に左右されず,その時々で変わってもいいから,自分は何が一番大事なのかを定めて,心の「オレは○○だ!」という立脚点に重心を置いて生きていった方が納得のいく人生になると思うんです。
 でも当時は,バブルの崩壊で絶望が浸透して,男の子が頑張って世界を救うというドラマが白々しくてリアリティを持たなくなった。だからそれ以降,女の子が主人公の作品がやたら多くなったんです。男の子が弱くなっちゃったから。

BRZRK:
 確かに,女の子が主人公の作品がある時期から急に増えましたね。

マフィア梶田:
 今じゃ,男が一人もいない作品も普通ですよ(笑)。

吉宗氏:
 宮崎さんの作品も例に漏れず,ブタ以降,何かを成そうとする男は脇役で,女の子主人公が普通になった。でも,「風立ちぬ」では,男の子が主人公に返り咲いた。引退作品だから開き直ったんだと思うんですよね(※新作が発表されました)。
 女の子はもともと強いですが,男は最後まで追い詰められないと開き直れないから,同性として男の子を応援したかったんです。女性と同じくらい強かになってほしかった。「だまされるな,口説いて付き合うのがゴールじゃない! 女が本当に大変なのはそこからなんだ!!」と(笑)。

画像集 No.009のサムネイル画像 / 「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――“立脚点”が人を強くする。6億5000万円の借金を恐れない理由が語られた中編を掲載

BRZRK:
 まさに「君が望む永遠」。主人公の鳴海孝之は,修羅場にめっぽう弱いですからね(笑)。

吉宗氏:
 孝之をヘタレと揶揄した人のどれくらいが,実際あの状況になったとき,数年後でも良いから皆を幸せにできるんでしょうね。決断主義的な指摘の裏にあるのは「自分が楽になるために,ネガを切り捨てる」逃避じゃないのかって思うことがあります。
 あの物語の登場人物は,誰一人あの状況に責任がない。あるとしても,車を避けなかった遙を含めて全員一律です。それでも孝之は自分だけを責めて,ほかは誰も悪くないから切り捨てられない。
 当事者じゃない人間が,自分に害が及ばないのに,うろたえて冷静じゃない当事者の言動を,客観的な自分の感覚でネガチェックをして感情的に叩く。最近のマスコミやネットでも良く見る状況でしょう(笑)。

「君が望む永遠」
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BRZRK:
 前に吉宗さんはどこかで,それを「BETAはネットの向こうにいる顔の見えない大衆の象徴」だと言ってましたよね。

吉宗氏:
 要はコミュニケーション不全なんですよ。「螺旋回廊」でも描いた,思い遣りや想像力の欠如です。
 想像しないのは相手の立場だけではないんです。恐ろしいのは,絶対ログが消せないネットに脊髄反射的な感情論を垂れ流していることです。将来なんかの拍子に炎上したとき,事実を無視して自分や家族が加害者認定される可能性なんて,まったく想定していない。でもおバカキャラと言われる人はあまり炎上しない。
 これは「人は自分より劣った者しか可愛いと思わない生き物」なので,説教くさくて耳が痛いテーマを託すなら,まさに孝之や武みたいなバカ正直なキャラがちょうど良い。
 あれで孝之が「デスノート」の夜神月みたいな奴だったら,テーマもクソもなく,絶対に反発されておしまいですよ。遙に「お別れしよう」って言われてうつむいて「計算どおり!」とか言ってポテチを食ったり(笑)。

マフィア梶田:
 まったく別の作品になっちゃいますよ,それ(笑)。

吉宗氏:
 さっき,総力戦的にいろいろ詰め込んだと言ったものが,そういう教訓の数々です。それらは今までに出会った人にいただいた叱咤激励の数々で,僕にとってテーマと同じくらい大切な,次の人につないでいくべきものなんです。それは説教や指導で受けたものに限らないんです。
 例えば,「マブラヴ」EXTRA編のルート分岐の際,主人公の武が幼なじみのヒロイン純夏に告白して振られる際のセリフなんかもそうですね。「私あの時,なんかあってほしかった」ってやつです。
 これは,ハーレム状態なのに鈍感で,誰にでも一生懸命な武にじれた純夏が,幼なじみという安定したポジションを捨てて,貸し切りの家族湯に誘って勝負に出る。それに応じておきながら一切手出ししない武。その態度を純夏は「自分は選ばれなかった」と解釈するんです。

BRZRK:
 いやいや,それってしょうがないですよ(笑)。さすがにいろいろ考えちゃうじゃないですか。

吉宗氏:
 そう(笑)。男からしたら「じゃあそのとき言葉で言ってくれよ!」ってなるやつですよ。純愛だと男の方が繊細だし,いかにもな状況ならともかく,いきなりそんな想定外の状況になったら,「ドッキリだったらどうしよう」とかいろいろ勘ぐって,結果なにもできないみたいな。

マフィア梶田:
 あれも……実体験からなんですか(笑)?

吉宗氏:
 あれは作品に関わった女性が学生時代の恋ばなで言ったセリフなんです。

BRZRK:
 へぇぇ。

吉宗氏:
 そういう女の子サイドの本音って,男の子への応援なら,説教や指導的なことと同じぐらい大切な,つなぐべき叡知ですよ。その話自体,その女性の経験であり記憶で語られたストーリーなので,主観の改変を経て語られている。だからこそ,その人を知っていると余計に印象的ですし,知らなくても一般論以上に女心を知るための情報的価値があるんです。
 
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