インタビュー
ガマニアの2010年の新作は,日本のIPをオンライン化。攻勢に転じる老舗パブリッシャーガマニアの浅井氏に,その思想と新タイトルについて聞いてきた
行き詰まり感のあるMMORPGは,遊び方の提案の問題
――マップの拡張とかレベルキャップ開放みたいなところをどんどん進めていただきたい!(笑)
浅井氏:
本当にここ2,3年くらい,オンラインゲームの市場自体にちょっと頭打ち感が出てますよね。まだまだ市場規模自体が成長しているのは間違いないと思ってるんですけど,ちょっと閉塞感というか,行き詰ってる感じが。
4Gamer:
という話を,あの夏にもしたような気がします。
浅井氏:
そこをブレイクスルーするような新しい提案を,パブリッシャがマーケットに対してどんどんしていかなきゃいけないんですよね。既存の方向性みたいに「今までよりすごいMMOを作りました!」という提案は,多分もはや通じなくなってきている感じがします。感じがするというより,ユーザーさんがもうそこを望んでないのかもしれない,というくらい危機感があるんですけどね。
4Gamer:
CGがどんどん美麗になっていくコンシューマゲームにも同じものを感じます。画面の美しさの進歩は素晴らしいことですし,それを心から望んでいる人がいることも理解できますし,また実際,キレイであれば面白そうに見えるとも思います。
でも,そういうことをPS1の時代から繰り返してきて,なんかちょっと行き詰まってるようにしか思えないんです。
そうなのかな。そうなのかもしれませんね。
さっきのブラウザゲームも含めての全体の話ですが,遊び方として,すごく楽しい遊び方,とても新しい遊び方ができるというのを提案していきたいな,と強く思うんです。いままでガマニアがそれを出来てきたかというと,正直なかなか……。MMOという枠の中だと,どうしても限界がある部分もあるんですが,そういったチャレンジを今年はやっていきたいです。
ちょっと話変わっちゃいますけど,ルーセントハートで昨年12月にダンスシステムを実装しました。ああいうものが,その片鱗だと思っていただければ。
4Gamer:
あれいいですよね。普通に面白いと思いました。
浅井氏:
昨年の前半に,開発会社からダンスシステムの企画が上がってて,実は当初私も否定的でした。MMOの中でダンスゲームやって何が面白いのか,と。
4Gamer:
よく分かります(笑)。
浅井氏:
日本でもダンス系のゲームっていくつかありましたよね。なかなかみなさん苦戦されていた。ただでさえ苦戦しているのに,MMOのなかで,「MMOとしての遊びを一通りやったうえで」ダンスをするって,相当にハードルが上がってしまう気がして。
ところが開発会社にプロトタイプを見せてもらったら,これがまたやたら力を入れていて,モーションキャプチャとかバリバリ使ってて。
4Gamer:
見ました。ああいうパワーの割き方はいいですね。
いやあ,実は僕は最初ミニゲーム的にやるんだろうなと思ってたら,どうも違う。本気でダンスゲームを作ろうという話になってて。まぁそこまでやるんだったら,ほかにはない遊び方が提案出来るかもしれないな,と思い直しました。
タイミングを合わせてボタンを押していくという意味では音ゲーに近い遊び方ができるんですけど,そんなにシビアなタイミングが要求されないのもミソです。対戦要素もあるにはありますが,ヌルい遊び方もできます。MMOという,ハードで硬派なコミュニティゲームの中で,そういう新しいものを提案できたという意味で,ほかのゲームにはない特徴になったのかな,と思ってます。ユーザーさんにも好評ですし。
4Gamer:
なんていうか,MMOという枠の中での話をするならば,あのダンスシステムって,ある種「新しい生産システム」みたいなものだと思うんですよ。そのゲームそのものの本質には関わらないながらも,遊び方が横に広がるし,他者とのコミュニケーションも強制されないし,なんとなく気楽に楽しめるコンテンツという意味で。
浅井氏:
そうですね,確かに。ただ単にパーティ組んで敵倒して,という部分じゃないところをどう広げていくかという話かもしれません。今までも釣りができたりとかいろいろありましたけど,その延長ですね。そこでしっかり面白いものが提供できれば,MMOもまだまだ可能性がある気がしますね。
他社さんの話で恐縮ですが,リネージュIIなんて今でも通用するグラフィックスなんだし,あのまま中でピュアなFPSとか出来てもいいと思うんですよね。……と,序盤にキノコばっかり狩ってるときに思いました,昔。
浅井氏:
いや,みなさんがそういうのをやり始めてしまうとうちのアドバンテージがなくなってしまうので,ほかの開発さんには,マップの拡張とかレベルキャップ開放みたいなところをどんどん進めていただきたいです!(笑)
優秀な日本の開発会社がなぜオンラインゲームを作れない/作らないのか
――オンラインゲームにおいても「面白いものを作れば勝てる」と信じていると思うんですよね
4Gamer:
しかし,日本的なコンテンツパワーは,相対的にどんどん落ちている気がしてならないんです。
古くから……というほどでもないかもしれませんが,ずっとゲームの業界でやってきた人間として,私自身もそこには危機感を持っています。日本的なゲームコンテンツ,ちょっと大げさな言い方をすると,日本のゲームコンテンツのDNAみたいなものを,どうオンラインゲームに盛り込んでいくのか。そしてどう発信していくのか。
会社としてのビジネスというのはいったんさておくとして,ずっとゲームに携わってきた人間として,真剣に取り組まなければいけない一つの課題になってきている気がします。
4Gamer:
それをひしひしと感じているのは,オンラインゲーム業界の人だっていうイメージが強いんです。
浅井氏:
コンソールやってらっしゃる会社さんのほうがもっと危機感をもってると思ってるんですけど。
4Gamer:
もしかしたら現状では危機感だけかもしれません。むろんみんながみんなそうだ,というわけじゃないですが。
例えば,たぶんまだ中国の開発パワーとかを見くびっている会社さんも多いと思うんですよね。「どうせコピーの国でしょ?」くらいの。オンラインゲーム業界の人だと,たぶんそんなことはないでしょうけど。
浅井氏:
そこはすごく感じますね……。中国の開発会社に行って中国の開発会社さんといろいろ話をしていると,話をすればするほど恐怖感が増してきます。我々が思っていたほどレベルが低いわけではなくて,むしろ日本よりもレベルが高い部分というのも,何か所が出てきている。
4Gamer:
あとは「より良いコンテンツ」を作る能力さえ手に入れたら,誰も勝てない気がします。映画産業や,全然ベクトルは違いますけど家電などでは,割と顕著にそれが表れてきていますけど。
浅井氏:
今オンラインをやっていてすごく感じるのは,多分まだ日本のメーカーさんって,オンラインゲームにおいても「面白いものを作れば勝てる」と信じていると思うんですよね。
4Gamer:
確かにそうかもしれません。
浅井氏:
でもご承知のように,オンラインの世界って根本的に違ってて「仕組み」が重要なんですよね。ユーザーさんに,楽しんでお金を払っていただく,そしてもっと楽しんでいただいて,それを継続する。そういう全体の仕組みを作ったところが勝つわけで,単純に面白いだけでは,いくらユーザーが集まってもビジネスとして成立しないんですよね。
今まで日本のメーカーさんがそういう仕組みを作ってきたかというと,実はソニーであり任天堂でありそういうプラットフォームを作った会社さんに乗っかってきただけであって,そのうえでいい物を作れば自然に売れていく,という流れなわけです。そこが,日本のコンソールゲームメーカーさんがオンラインに参入しづらい大きな理由の一つなんだろうな,と思います。
4Gamer:
そう。コンテンツだけの勝負ではないんですよね。インターネットサービスとしてのトータルクオリティというか。そういった仕組みでより優れているところが勝つ。
浅井氏:
ホントそうですよね。オンラインゲームのパブリッシャもそうですし,コンシューマもやってるメーカーさんもそうですけど,その仕組みの流れについていく,もしくは新しい仕組みを作ってリードしていける会社だけが,この先5年10年20年というスパンで生き残っていくんだろうなぁ,と。
4Gamer:
今年から来年にかけては,そういう動きの「過渡期」ですよねきっと。一つのフェーズの最後の部分,というか。
浅井氏:
そうですね。次のフェーズに入っていく過渡期です。なので,ガマニアとしてブラウザゲームもやりますし,日本のIPを使ったゲームもやります。日本市場向けのコンテンツというところで,他社さんと違ったサービスを提供していきます。
「ブラウザゲーム」は,溺れる者が掴む藁ではない
――必要がない限りタダでも観ない
4Gamer:
他社さんはどう考えているんでしょう。
ブラウザとソーシャルに可能性を感じている会社さんもやっぱり多いですし,そうはいっても大型のMMOはビジネスベースで考えると今でも強いですから,そういう流れでいく会社さんとか。
4Gamer:
言いたくないですが,パブリッシャさんが「ブラウザゲーム」って口に出すときは,溺れてる人が藁をつかんでるというパターンが多い気がするんですよね……。それがすごく心配です。
浅井氏:
それでどんどん作品が無尽蔵に増えると,クオリティの高くないものが乱立してしまうので,それはそれでマズい気はしますね。
4Gamer:
大体,テレビの民放ってタダだけど,必要がない限りタダでも観ないですよね。僕らの仕事であるWebメディアにおいてもそうですけど。みなさんそんなにヒマじゃないんです。タダだって観られないものは絶対に観られない。ブラウザゲームだって同じですよね。「一日5分」って言われても,その5分だって使わないよ,という。
浅井氏:
おっしゃるとおり,Webもそうだしゲームもそうなんですけど,やっぱりそこにユーザーが来る理由を作らないとダメですよね。少なくとも無料というだけではもうどうしようもない。無料登録っていう言葉に惹かれるユーザーさんはもうほとんどいないんじゃないですか。
4Gamer:
ゲームに限った話じゃないですけど,最初の関門が無料であることは当然ですしね。
浅井氏:
確かに4〜5年前であれば,「こんなにすごいMMORPGが無料でできるんだ」というインパクトはあったと思うんですけど,時代は変わってますからね。我々も,今のユーザーさんに合った形でアピールする手法を考えないとならないと思います。マーケティングのやり方もそうだしコンテンツもそうだし,やっぱりネットの世界はすべてにおいて変化が早いですしね。
4Gamer:
油断すると一瞬ですからね……。
浅井氏:
まぁそんなこんなの意味でも,2010年は業界的にすごく面白い年になる気がしています。そのなかで,ウチは埋もれないように頑張ります。
4Gamer:
なんでそんなに控えめなんですか(笑)。
浅井氏:
いえいえ,結構自信はあるんですよ。コンテンツの数も質も。他社に先駆けていち早く次のフェーズに入っていきたいです。
4Gamer:
というかそのブラウザゲームがどんなものなのかを聞いてません!
浅井氏:
ええと,これもまだ書いちゃだめですよ。●●です。あれをブラウザゲームでオンラインゲーム化してます。
4Gamer:
さっきのIPモノよりも意外性が大きいです……。
浅井氏:
これ系詳しいんですか?
4Gamer:
いえ実はさっぱり(笑)。しかしさすがに私でも名前くらいは知ってます。
確かに話題性が高くて人が集まりそうなラインナップですね。でもこれって……。
(編注:以下,作品が容易に特定できる会話が続くため,削除しています)
ブラウザゲームこそ,これからのゲーム業界に必要なものかもしれない
――比較的開発期間も短くてコストも安く,ゲームデザインで勝負ができる
浅井氏:
しかし先ほどの話をもうちょっと引っ張ってもいいですか?
オンラインなりコンソールなり,どちらでもいいんですけど,クリエイターがやりたいことを,リスクも含めてやらせてあげられる状況にするべきだと思うんですよね。さっきの例で言うなら,たとえば日本のクリエイターの方がオンラインをやりたいと言い出しても……。
4Gamer:
OKが出ませんね,きっと。
ですよね。むろん,先を走る会社は違うと思いますが,たいがいの場合はOKが出ない気がするんです。
4Gamer:
結局のところ,高いインセンティブ与えてFF作れドラクエ作れ――むろん,あくまでも例ですよ――っていう話になるだけですよね。それが確実に売れるからそうするのは理解できますが,それをやっていても結局何も変化しない。より莫大なコストがかかった,より凄いFFが出てくるだけで。
浅井氏:
そうですよね。何かやってみたいんだ,こんなことをやりたいんだという人間に投資ができる,そういう環境が必要なのかなぁと。ってこれもあのとき言った気がしますけど。
それもあってブラウザゲームに可能性を感じているんです。比較的開発期間も短くてコストも安く済み,いまならゲームデザインで勝負ができますよね。
4Gamer:
あぁなるほど。確かにそうですね。
僕としてはちょっと前のiPhoneにそれを感じてました。iPhoneは,ゲームクリエイターの習作発表場所にすればいいと思うんです。何かやりたいものを作らせて,ひどいものじゃなければ会社の名前で出してあげる,とかそういうアクションをやればいいのに。
浅井氏:
流通コストもかかりませんしね。
4Gamer:
ええ。売れればインセンティブをあげればいいし,売れなかったら売れないで「残念だったね。次がんばろう」という評価でいいと思うんですね。でもこんなにダウンロードされたしよかったじゃん! みたいな。
浅井氏:
成功するまで頑張ろうっていう人をサポートできる環境が,そろそろあったほうがいいと思います。
4Gamer:
でもこの状況下で何かをあがいている形跡があまりないのが心配なんです。
韓国のMMOのバブルが崩壊したとき,みんなすごい勢いであがいてたじゃないですか。いい意味でも,悪い意味でも。MMOアクションにしてみたりMMOシューティングにしてみたり,「そんなものまでMMOにするの!?」というものまで含め。ああいうハングリーさがあまり感じられないんです。
浅井氏:
次に何をすればいいのか見えなくなっている気はしますね。むしろ中小のデベロッパさんはすごくあがいてますし,そこから生まれるものを見るのはとても楽しいです。楽しいですっていうとなんか失礼かもしれませんけど,新しいものが生まれそうな雰囲気があって。
4Gamer:
確かにそうですね。
一方,オンラインゲーム関係の人は割と敏感ですよね,時代の移り変わりに。
浅井氏:
ここ7,8年っていうくらいしか歴史がないジャンルではありますが,そんな短い期間の中で,クライアントフリーになり,月額無料になり,アイテム課金になり,カジュアルゲームが流行りだしたりソーシャルゲームが出てきたり,いろいろな変化を経験してきてますしね。「早く次のものに対応しなければ」という意識がとても強いんだと思います。同じことをやってても食っていけませんし。
4Gamer:
ではそんな時代の移り変わりの節目に,4Gamer読者に向けてメッセージをお願いします。
今まで話したとおり,ブラウザゲームも取り組んでいきますし,もともとコンソールで馴染みのあったゲームのオンライン化も準備中です。ガマニアといえば「MMO」ですが,MMOだけではなく,オンラインゲームってまだまだいろいろな可能性があるんだ,ということを,日本のユーザーさんに提案できる1年でありたいと思っています。ぜひ注目していてください!
4Gamer:
雑談含め,長々とありがとうございました。絶対に書いちゃダメだといわれたその2タイトルが,早く表に出てくるのを期待してます。
実際に聞いたタイトル名を直接書けないのが非常に申し訳ないが,「それはちょっと(いい意味で)意外」という方向の作品をいくつか見せてもらえた。筆者だけなのかもしれないが,なんとなくガマニアという名前には「MMORPG」というタグが付いてしまっているので,ブラウザゲーム然り,日本のIPを使ったオンラインゲーム然り,非常に良い意味で裏切られた。追って情報が出ることになると思うし,もちろんその時には4Gamerでも大きく取り上げることになるはずなので,楽しみに待っていてほしい。
さてオンラインゲームパブリッシャとしてのガマニアにとっては,2009年は仕込みの年だった。筆者がインタビュー後にこっそり見せてもらった4タイトル――そのすべてが出るのかは分からないが――は,2010年という攻勢に転じる大事な年に,順番に姿を現すことになる。
「不景気で不景気でもうだめだ!」というほどではないが,なんとなく閉塞感が抜け切らない日本のオンラインゲームマーケットにおいて,先を見て,世界を見て,次の一手を打つガマニアの2010年の動きは,今まで以上に注目しておいたほうがよさそうだ。
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