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「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
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印刷2008/09/18 21:03

レビュー

テンポが良いのに奥が深い近未来戦略級リアルタイムストラテジー

スプリーム ルーラー2020【日本語マニュアル付き英語版】

»  イランがとっくに核を持っていたり,ますます水が足りなくなっていたり,割とたいへんなことになっている2020年の地球を舞台に,国家の生存と反映を目指すリアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」を,イスラム圏を含めて現代政治の潮流に詳しいライター「イワンの馬鹿」氏が評価する。楽天的なテクノロジー設定と,シビアな外交設定から成る本作最大の魅力は,繰り返し遊べるテンポの良さかもしれない。


世界の危機に,教育投資と新技術で対処?


制作はBattlegoat Studios。発売は最近おなじみとなったスウェーデンのParadox Interactiveである
画像集#001のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
 西暦2020年,エネルギー危機/環境危機/人口危機にさらされた地球で,各国は生き残りを模索している。プレイヤーはそんな世界で一国の元首となり,内政,外交,ときには軍事力を駆使して国の存続と繁栄を追求してゆく……。
 サイバーフロントの「スプリームルーラー2020」は,衛星地図を元にした全地球マップ上で,近未来世界の覇権を争う「リアルタイムストラテジー」だ。
 ちまちました軍事ユニットを,マウスでまとめてドラッグして敵にぶつけるという意味でのRTSではなく,Paradox Interactive作品のように,セミリアルタイム進行の戦略級ストラテジーゲームである。軍事も政治も,同じ時間軸の上で随時指示するタイプであり,進行を最速にしたときで1日=30秒。計算してみれば分かるとおり,1年=およそ3時間というペースで,数年分程度のシナリオ/キャンペーンをプレイしていく。

画像集#002のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
全地球を収めた美麗な衛星地図は一見の価値アリ。世界征服ゲームとして(?),分かりやすいビジュアルセンスは良い
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撮影角度の問題か,デフォルメ処理の問題か,知多半島や琵琶湖の形がやや気になるものの,ぱっと見て分かる近畿地方周辺

 2020年の全世界がモチーフといっても,さすがにどこまでもニュートラルな未来予測というわけではなく,プレイヤーが通常兵力を存分に駆使できる陣取りゲームに組み上げられている。それでも現代政治の延長とあって,いろいろ身につまされるところがあるのが本作独特の魅力だ。

 このゲームの2020年には,単発シナリオでもキャンペーンでも,二つの世界設定が用意されている。一つは現実の延長に近い世界,もう一つは各国が失政を繰り返して分裂したという設定の大胆な仮想世界だ。後者を見ると米露中の強国はもとより,欧州諸国までさながら旧ユーゴスラヴィアのように分裂していて,陣取りゲームとしてバランスがとれるよう再編成されている。そんななか,あえてインドとブラジルは分裂させられていないようなので,例えばインドを操ってアジアの覇権を目指すといった展開は大いにアリなのだろう。

画像集#013のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
美しいグラフィックスで描かれた茨城県龍ケ崎市。首都圏向けの落花生,トマトなどの生産で有名。こうした規模までフォローされている
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同じくイランのコム(ゴムとも)。イラクのナジャフと並ぶイスラム教十二イマーム派の総本山だが,世界的にメジャーとはいえまい


消費税は50%まで増税可能。ベースの発想は日本式でなく,諸外国のように生活必需品は非課税という前提だと思うが,さすがにこれは
画像集#015のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
 陣取りストラテジーの定番として,本作で「覇権を争う」資格を手にするには,まず内政を整えねばならない。もちろん,スタートダッシュを決めないとジリ貧になる国もあるが,たいていの国では地力をつけて好機を窺うのが定石となるだろう。
 内政上,気にすべきデータが相当に多いのが本作の大きな特徴だ。税金の取り方だけでも所得税,法人税,売上税,資産税などがあり,かつ一部の税金は「金持ちから多く取るか貧乏人から多く取るか」まで設定可能だ。

 もちろんその使途も多岐にわたる。医療,教育,インフラ整備,環境保護,家庭福祉,治安維持,文化振興,社会福祉……。そして容易に想像できることと思うが,どの分野も予算を切り下げすぎると,国家運営に悪影響が出る。例えば家庭福祉は「育児に向けて家庭に補助を提供します。したがって,出生率を刺激して,家族あたりの子供の平均人数を上げ,失業を減少させ,長期的に経済を活性化させて国内と国連の支持率が上がります」と定義されており,これを切り詰めると当然ながら効用と正反対の影響が出る。
 「小さな政府」はお題目としては良いかもしれないが,あらかじめさまざまな支出項目が用意され,その予算をそうそう切り下げられないこのゲームでは,とても無理なのだ。

技術の中には「技術の研究速度を上げる技術」なんてものもある。長丁場のプレイでは必須だろう
画像集#011のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
 どの予算項目の削減もそうした副作用とのトレードオフで,このゲームにおける国家は慢性的な財政難に悩む運命にある。そして,国をこうした苦境から救ってくれるのが新技術の開発だ。軍事技術はもちろんだが,このゲームでは資源生産量を増やす技術,エネルギー問題を大幅に好転させる技術,公害を減らす技術などが用意されている。そして十分な教育水準を持つ先進国ならば,往々にして90日程度でこれらを実用化できてしまう(!)。

 現実に近いモチーフを扱った本作ではあるが,ゲーム全体の進行がリアルタイムである宿命というべきか,この部分は非常に夢のある設定だ。プレイ期間中に開発投資がきちんと実るようにすると,こうならざるを得ないのだろう。

教育費を引き上げたところ。財政収支がたちまち赤字に
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 そうしたわけで,近未来国家たるもの教育費だけはケチってはいけない仕組みになっている。イギリスのブレア首相が新自由主義の手直しを図るに当たって,まず教育費の再増額を謳ったあたりとカブらせると,もしかしたら興が増すかもしれない。世界が抱える問題が90日でずんずん解消されていくなら,そもそも争わなくてよい気もするが,そこはゲームということで……。
 このように本作では,内政を工夫するだけでかなり大胆な展開が可能なものの,内政の仕組みを理解してコツを掴むのはそれなりにたいへんだ。一例を挙げるなら,2020年日本のプライマリーバランス黒字化が,十分挑むに値する課題になっている。手幅が広いからといって,全体にプレイが簡単なわけではないので,そこはお間違えなきよう。


レッテルを貼る国連,行動するアメリカ


外交で新技術を手に入れたり,有利な二国間協定を結んだりするのも,重要なステップ
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 内政と並び,国家の経営を好転させる手段といえば外交である。状況に応じ,他国との間で自由貿易協定,労働者の越境労働協定などなどを結び,経済を好転させていく。意識的に友好国を作り,相互防衛協定を結んでおくのもよい。友好国から技術を入手しておくのも大事で,ゲーム序盤には「兵器の設計図を売って基礎技術を入手する」のも有用だったりする。
 内政と同じく,外交面でもやたらとデータ/ルールが細かいのが,本作の重要な持ち味だ。仲の悪い国同士でも,犯罪者の相互引き渡し協定くらいは結べるとか,越境労働協定による労働力市場の自由化政策で,自国の工業を支える人口を第三世界から呼び寄せるとか,これまた現代の延長らしい論題が設定されている。

 そして冒頭で述べた二つの世界設定のうち,国々が分裂しまくっているほうではより攻撃的な外交が許容されるわけだが,それにしたって国連は存在するし,国際世論は考慮しなければならない。いずれの世界設定においても,よほど必要なとき以外,自分から侵略政策に出るのは得策でないようにシステムが組まれている。
 まあ,じっと時を待っていれば,場合によっては隣国がしびれを切らして別の隣国にケンカをふっかけ,「ならず者国家」認定されて絶好の介入機会を作ってくれないものでもないのだから。

米軍怒濤の攻勢。勝利条件を考えるに,この時点でメキシコはすでに死んでいる
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 例えばアメリカ合衆国がきちんと存在する世界のほうで,メキシコを担当してグアテマラの武力併合を試みたとしよう。すると「ならず者国家メキシコ討つべし」という国連のお墨付きをもらったアメリカ合衆国がたちまち舞台に上がって,ここを先途とメキシコに懲罰を加える。首都メキシコシティにはトマホーク型巡航ミサイルの雨が降り,機甲師団が陸続と国境を越えてくる。……まあ当然の帰結だ。

 しかも,このとき合衆国は一発殴ってから穏当に「戦闘行為の即時停止,旧国境への復帰,損害賠償」を要求してくるわけではない。ほうっておくと往々にしてメキシコシティが陥落し,メキシコ国家自体が消滅するまで戦争を継続する。このあたりは言うまでもなくゲームとして誇張された部分であるが,とにかく国際世論を意識して行動しないと,たちまちすごいことになってしまう。

画像集#010のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
賠償要求込みの和平交渉。ええと,ロシアは共産主義なの?
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不利な状況から休戦協定を成立させるのは,至難の業である

 ただ,さすがに「とりあえず第一撃から核」ということはなく,このゲームでも核戦争はめったに起きるものではないらしい。だが,核を保有する小国(このゲームではイラン,朝鮮民主主義人民共和国,イスラエル,パキスタンなど)を追い詰めると,どうなるか保証の限りではないというあたり,微妙にリアルでよい。
 誰も使ってくれなかったので,自分で核攻撃を試してみたところ,そこにいる敵ユニットは即時大損害を被り,おまけに継続的な損害も出る。ただし,使用国の国際的な信用は地に墜ちるため,とても意図的に使えるオプションではないと感じた。国家にとって,やはり核兵器は生存を懸けた最後の保険ということだ。

 そうしたわけで国連は怖いし,原初的な核抑止もあるが,あくまでホットウォーを存分にやれというゲームデザインなのか,いわゆる砲艦外交や核恫喝はあまり再現されていない様子。各種国際協定が良くデザインされているだけに「現代外交の重要パーツ」の一つが欠けているのがちょっと残念ではあるのだが,核による恫喝外交を有効にしたが最後,陣取りゲームでなく交渉ゲームにならざるを得ないわけで,そこは仕方ないのかもしれない。


ドクトリンルールあり,基本に忠実な戦闘ルール


沙漠の激戦。戦闘はリアルタイムで進むが,随時ポーズ可能
画像集#005のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
 さて,再現しづらく,ゲーム全体との整合関係の中ではなかなか面白くもできないであろう核の要素を後退させた代わりに,強調されたのが通常兵器による戦闘部分だ。衛星写真でビジュアルを構成した本作のマップではあるが基本はヘックス制で,軍事ユニットの行動は目標とするヘックスか,攻撃目標とする敵ユニットを指定することで指示する。
 ただし,とくに指示がない場合,自軍ユニットがどう行動するか総則を定めておけるのが,リアルタイム進行のゲームらしい工夫といえる。敵の攻撃を受けたら反撃しろとか,ある程度損害が蓄積したら後退して補給/再編を受けろといったあたりが典型的だが,敵が近くに来たら,撃つのか見張るのか逃げるのかで,戦争の様相は大きく変わる。自国の置かれた状況に合わせて,適切な事前想定が求められるわけだ。

 軍事ユニットとしては現代および一部近未来の主要兵器が網羅され,機種別の性能差まで細かく再現されている。だがそれゆえにこそ,このマップスケールでは,同レベルのテクノロジーを持つ国家同士の戦争で,兵器の細かな性能差はあまり影響しないように思える。「実際の高級軍人の思考も,こんなものなのではないか?」と,思わなくもない。

戦力の集中具合が分かる,部隊表示画面。戦力の集中は基本的に重要だが,「シヴィライゼーション4」よろしく,同一ヘックス内の全ユニットに損害を与える兵器もあるので,注意したい
画像集#004のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
 戦闘の進行は3年前スペックのPCでも十分快適で,兵器などのグラフィックスは必要にして十分な美しさである。だが,爆発などのエフェクトが派手で,戦場の状況がやや把握しづらいきらいはある。
 戦略級のマップスケールだけに,戦闘では基本的に陸空(場合によっては陸海空)の協働が非常に重要だ。というのも,地図上に配置された陸上兵力はほうっておくと陣地を構築してどんどん防御力を上げていくため,これを打ち破るには戦略的奇襲でもなければ,入念な準備砲撃/航空攻撃が必須となるからだ。
 戦闘部分だけをとってみてもなかなかのボリュームがあるうえ,シナリオの中には軍事行動を主眼とした「Preemptive Strike」といったものもあって,これはさながら「大戦略」シリーズのように楽しめる。
 内政/外交/戦争と,どの面を取っても歯ごたえのあるゲームであり,このゲームなりの世界設定というか,世界解釈のセンスも楽しめる。イスラエルは当然のように核武装しているし,イランまでが核開発を完遂している世界は,まったく嬉しくないが,ある種の説得力に富む。

 近年のリアルタイムストラテジーとしては八方美人にすぎ,ケレン味が足りないという声もあろうし,その結果パラメーターが多く,プレイヤーの把握すべき事柄が多すぎるという声もあるだろう。だが,錯雑した現代政治が題材であってみれば,むしろフレーバーとして雑多なパラメータが必要ともいえる。
 各論的な魅力をほどほどに抑えて,バランスがよく,それなりに奥深いパワーゲームシムにまとめたあたりは,分かりやすいグラフィックスセンスと並んで誉められる部分だと思う。Paradoxゲームのように,ある種快い進捗感が楽しめる現代戦略級ストラテジーとして,得がたいコンセプトの作品であることは確かだ。
 付属のマニュアルこそ日本語だが,チュートリアルも含めて英語のままなので少々骨ではあるものの,試行錯誤でプレイのコツを掴み,自分でプレイ目標やシチュエーションを設定するつもりで,ぜひ挑んでもらいたい。

画像集#006のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
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画像集#009のサムネイル/「ハーツ オブ アイアン」のようなノリで現代戦を。リアルタイムストラテジー「スプリームルーラー2020」レビュー
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  • 関連タイトル:

    スプリーム ルーラー2020【日本語マニュアル付き英語版】

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