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Access Accepted第535回:2017年春 欧米ゲーム業界のアップ&ダウン
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印刷2017/05/01 12:00

業界動向

Access Accepted第535回:2017年春 欧米ゲーム業界のアップ&ダウン

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第535回:2017年春 欧米ゲーム業界のアップ&ダウン

 独立系ゲームメーカーやモバイルゲームまで含めると,毎日何本の新作タイトルがリリースされるのか,長年,欧米ゲーム業界をウォッチし続けている筆者でさえフォローするのが難しくなっている今日この頃。移り変わりが激しい欧米ゲーム業界は水物であり,クリエイター達にも好不調の波がある。というわけで今週は,いくつかのトピックやちょっとした小ネタから欧米ゲーム業界を定点観測してみよう。


2017年後半もいろいろと忙しそうなゲーム業界


 2017年のショッピングシーズンに向けた新作として「Star Wars バトルフロント II」「Call of Duty: WWII」などのビッグタイトルが相次いで発表され,任天堂からは待望の「Nintendo Switch」がついに発売されるなど,相変わらず世界のゲーム業界の動きはめまぐるしい。欧米の各ゲームメーカーは,6月10日から12日かけて行われるゲームの祭典,E3 2017へギアをシフトさせている最中だろう。

 E3の主催社であるESA(Electronic Software Association)の発表によると,2016年に北米の消費者がゲームに投じた総額は約304億ドル(約3.4兆円)だったという。その巨大市場は現在も成長を続けており,PCやコンシューマ機,アーケード,携帯ゲーム機に加えて,スマートフォンやVR/ARなど,10年前には想像もできなかった広がりを見せている。
 最近では,ヨーロッパを中心に政府が進んで投資や教育整備を行い,各地で有能なゲーム開発者達が面白いゲームを生み出している。1年ではとても遊び切れないほどの新しいコンテンツが次々に登場していることは,ゲーマーとして素直に喜ぶべきことだろう。

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 とはいえ,長年,欧米ゲーム業界をウォッチし続けている筆者にも,全体をフォローするのが難しくなってきたのも事実だ。というわけで,今週はいくつかのメーカーや人物の「アップ&ダウン」をピックアップして,そこから欧米ゲーム業界全体の動きを敷延してみたい。趣向としては本連載の第46回「2005年夏 欧米ゲーム業界アップ&ダウン」と同じだが,それにしても,12年前の記事だと思うと感慨深い。
 どんなメーカーやクリエイターでも,好調なときもあれば不調なときもある。そんな浮き沈みの激しい欧米ゲーム業界の「今」は,どのような感じになっているだろうか。


Ubisoft Entertainment (↓ ダウン)


 Ubisoft Entertainmentに暗雲が立ち込めているようだ。同社がフランスの巨大メディア企業Vivendiの敵対的買収の攻勢を受けていることは,本連載の第476回「Vivendiが仕掛けたUbisoft買収の動き」を含めて,何度かお伝えしてきたとおり。

 ロイターが報じるところによればUbisoftの旗色は悪く,Vivendiは2017年内に経営権を掌握できるだけの株式を取得する見込みだという。Vivendiは150億ユーロという巨額の買収費用を用意し,イタリアのテレコム企業Telecom Italiaや放送事業Mediasetを買収。続いてUbisoftとフランスの大手広告代理店Havasを傘下に収めようとしているのだ。VivendiはすでにUbisoftの25%を超える株式を保有する最大株主となっているそうで,2017年末以降のタイトルラインナップや戦略にも影響がおよびそうだ。話題作を次々にリリースする好調なUbisoftだけに,この動きには今後も注目する必要がある。

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Peter Moore(ピーター・ムーア)氏 (↑ アップ)


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 EA SPORTSの顔として長らくElectronic Artsの経営陣に名を連ねていたピーター・ムーア(Peter Moore)氏が,2月27日をもって同社を退職。6月に故郷であるイギリスのリバプールに戻り,有名なサッカーチームのLiverpool FCのCEOに就任したという。

 ゲーマーの人気も高かったムーア氏は,スポーツ用品で有名なReebokで働いたあとSEGA of Americaに誘われ,ドリームキャスト時代にはCOOとして辣腕を振るった人物だ。その知名度の高さは,セガマニアの空港職員に「シェンムーをXboxに売ったヤツ」と罵られつつ,チェックなしで通過を許されたというエピソードを持つほど。2003年からはMicrosoftに移籍して,不調だったXboxの教訓を採り入れつつXbox 360成功の一翼を担った。

 EAに移ってから10年,若きCEOのアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)氏の体制になってからは3年半ほどEAに在籍したムーア氏。ここ2年ほどは「FIFA」シリーズなどをe-Sports市場へ浸透させる仕事を担当していた。Liverpool FCはムーア氏にラブコールを送り続けていたが,現在の仕事を優先させたムーア氏は,CEO就任を何度も引き延ばしていた。そんなこともあって,今回はEAも祝福する円満退職ということらしい。
 ゲーム産業にとっては実に惜しい人材の流出だが,今後の成功を願って「アップ」としておきたい。


Avalanche Studios (↑ アップ)


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 スウェーデンのストックホルムに本拠を置くAvalanche Studiosは,「Just Cause」シリーズや「Mad Max」など,各社の大物タイトルの開発を任されるほど力のあるメーカーだが,このたび,デンマークのメディア企業Nordisk Filmから1000万ドルの投資を受け,自社作品を自分達でリリースすることへの道筋をつけた。

 2003年に設立された同社は,3年がかりで開発した「Just Cause」を,当時は独立したパブリッシャだったEidos Interactiveから2006年にリリース。2009年には「AionGuard」の開発を発表するが,これは,「第一次世界大戦の戦闘機とサムライと騎士が登場するオープンワールドのゲーム」という奇抜な内容だったが,パブリッシャの意向により2010年にキャンセルされてしまう。
 今後同社は,パブリッシャの意向に振り回されない作品を生み出すことが可能になりそうなので,ここはやはり「アップ」としたい。

悪質ハッカー (↓ ダウン)


 2013年末から2015年にかけて,サーバーに過剰な負担を与えて停止に追い込むDDoS攻撃やアカウントハックなどが相次ぎ,欧米ゲーム業界を震撼させた。このことについては2014年8月に筆者も記事を書いており,事件を覚えている人もいると思うが,どうだろうか。
 その主犯格だったイギリスのアダム・マッド(Adam Mudd)被告に禁固2年が課せられたことを,イギリスのメディアThe Guardian(電子版)などが伝えている。彼がDDoS攻撃を行うプログラム「Titanium Stresser」を自作したのは16歳のときで,その後,1年半ほどの間に181のIPアドレスに対して594回の攻撃を繰り返していたそうだ。
 さらにこのプログラムを販売し,38万ユーロ余りの稼ぎを得ており,それを購入したハッカー達によって,現在でもインターネットは危険に晒されている。PlayStation NetworkやXbox Live,ゲーム以外の企業や政府,大学機関など,過去4年間で「Titanium Stresser」の被害は170万件に及ぶとのこと。2年の禁固刑が短いか適正かは分からないが,世間を騒がせた事件にようやく一区切りが付いたようだ。


Activision (↑ アップ)


 満を持して,「Call of Duty」シリーズの最新作「Call of Duty: WWII」の制作をアナウンスしたActivision。ここ数年,「Call of Duty」シリーズのファンからは「第二次世界大戦など,史実に即したテーマ」を望む声が大きかったが,Activisionはそれを無視して,未来の戦いを描いた作品をリリースし続けていた。

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 「Call of Duty: WWII」を担当するSledgehammer Studiosが開発を始めたのは2014年のことだというが,こうした軌道修正の遅さは,Infinity Ward,Treyarch,そしてSledgehammer Studiosの三社が持ち回りで新作を開発するという開発スタイルの生んだ問題かもしれない。
 「インフィニット・ウォーフェア」の不調によりActivisionの株価が2016年11月に25%も下落するなどの不安があったが,Blizzard Entertainmentの「オーバーウォッチ」「Hearthstone」の健闘で持ち直し,「Call of Duty: WWII」の噂が流れるにつれてジワジワと株価を上げて,現在は,過去最高値となる1株当たり50ドルを突破した。
 「Guitar Hero」「Tony Hawk’s Pro Skater」シリーズなど,複数の看板タイトルを持っていた頃とは異なり,今のActivisionのラインナップは厚くない。そのため「Call of Duty」シリーズに対して大きなプレッシャーがかかっているはずだ。ファンの要望に応える形で発表された「Call of Duty: WWII」だが,E3 2017で発表されるというマルチプレイモードが期待できるものなら,シリーズの軌道修正はひとまず成功だろう。ゲームの詳細は今後の発表を待つしかないが,とりあえずは「アップ」としておきたい。


GameStop (↓ ダウン)


 2年以上,株価の下落が止まらないのが,北米のゲームソフト小売りチェーンのGameStopだ。2016年は,WalmartやBest Buy,さらにAmazonなどの競合が仕掛けたアグレッシブなハードウェアセールや,AAAタイトルが期待外れに終わったりして,前年比で13.6%の収益減となった。さらに3月末には,世界で展開する7500店舗のうち,150店舗の閉鎖を発表している。

 現在,GameStopの収益の約3分の1が中古ソフトの販売で占められているが,ここでも風向きが変化している。Microsoftはデジタルダウンロードタイトルの「セルバック」プログラムを模索しており,プレイヤーが十分に遊んだと思うタイトルを,購入価格の10%で買い戻す仕組みが,この1年ほどテストされているという。
 50ドルのタイトルで5ドルしか戻ってこないなら,パッケージを買って,遊び終わったらGameStopに持っていくほうが断然お得だろうが,欧米ゲーマーのパッケージ離れも加速しており,10%以上で買い戻すというメーカーが出てくるかもしれない。ゲーム小売店が,こうした新たな潮流に飲み込まれて淘汰される可能性は十分にある。

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藪本 寛氏(―)


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 2017年4月初め,アーケード関連情報の「The Arcade Blogger」など,いくつかの欧米サイトがゲーム業界の草分けの1人である藪本 寛氏の死去を伝えるニュースを掲載した。
 記事によれば,藪本氏は1983年,Gottliebというメーカーのプログラマーとしてアーケードゲーム,「Mad Planets」を開発した人であるという。彼の名前がクレジットされたのはこの1作だけで,しかも「Mad Planets」は1400台しか作られなかったそうなので,藪本氏の名前を知っている読者はおそらくいないだろう。筆者自身,記事を読むまでは知らなかった。

 藪本氏は相当腕の立つプログラマーで,彼が趣味で作った,六面体を積み重ねていくというグラフィックスプログラムを見た新人プログラマーのウォーレン・デイビス(Warren Davis)氏は,そこにヒントを得て,「Q*Bert」というゲームを作り上げた。このソフトは「Qバート」として1982年に日本で稼働しており,さまざまなコンシューマ機への移植も繰り返されているので,プレイしたという人もいるはずだ。
 つまり,藪本氏の存在なくして,あの名作は生まれなかったかもしれない。そんな知られざる先駆者に「アップ&ダウン」など付けられるはずもないが,彼の業績を讃えつつ,哀悼の意をここに表しておきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

2017年5月8日の「奥谷海人のAccess Accepted」は都合により休載します。次回掲載は5月15日を予定しています。
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