業界動向
Access Accepted第540回:一般入場者の受け入れなど,大きく変わりそうなE3 2017を予習する
いよいよ始まる「E3 2017」。任天堂がNintendo Switchを市場投入し,PlayStation 4とXbox Oneの市場が成熟していく中,Microsoftが「Project Scorpio」の詳細を発表する。2017年末のショッピングシーズンの過熱ぶりが今から予想できるが,E3も今年,一般入場者を受け入れるという初の決断を下した。影響力の低下がささやかれていたE3の地位がこの試みで復活するのか。これまでとは違う取材状況に少し不安を覚える筆者が,今年のE3をプレビューしてみたい。
1万5000人の一般入場者参加で,E3はどう変わるのか
2017年はElectronic Artsの独自イベント「EA Play」が例年より1日早い6月10日に始まるため,事実上6日間にもおよぶイベントとなる。
本連載でも何度か話題にしてきたが,今年のE3では,「業界関係者・メディアオンリー」という縛りを捨て,史上初めて一般入場者を受け入れるという大きな改革が行われることになった。過去には,メーカーによって選ばれたファンが招待され,特別なバッジを付けて入場を許可されることはあったものの,あくまで例外的措置であり,これまで一般に対しては固く門戸を閉ざしていたのだ。
しかし,東京ゲームショウやドイツのgamescom,PAXなどが多数の入場者を集めて存在感を発揮し,それに反比例するように影響力を失いつつあったE3だけに,いよいよ変わるべきときが来たと判断したのだろう。
メインフロアに入場できる3日間有効のチケットは,249ドル(約2万7000円)で1万5000枚が販売されており,最近のE3の入場者数は5万人前後で推移していたので,単純計算すると30%ほどの参加者増となる。
メディアの立場から見て,これがイベントにどういう影響を与えるかは分からない。多くの出展社は自分のブースに一般客の入れない特別なエリアを設けたり,ビジネス専用の部屋をメインフロアの外に設けたりしており,メディアおよび関係者への対応がそうした場所で行われるケースは少なくない。その意味では,メインフロアに足の運ぶことのない,メディアにとっては割と楽なイベントになりそうな予想もできる。
周辺のホテルのスイートルームを借りて,静かな環境でゲームを紹介しようという動きも少なからず見られるが,これでは取材の基本である「見つけて,交渉して,飛び込む」ということがまったく不可能になるので,メディアの公平性を考えるとちょっと気になるところだ。
プラットフォームホルダーや大手パブリッシャが,カンファレンスの模様を配信するようになった過去5年ほどの間で,新作情報はカンファレンスですべて出尽くし,イベント会場では,発表されたタイトルのデモをプレイしたり,開発者へインタビューを行うといった取材スタイルが確立されていたが,一般ゲーマーの参加によって,こうした情報の拡散は早まりそうだ。
もちろん,誤解に基づく情報や,撮影を禁じられている画面を撮影してアップするといったレギュレーション違反,さらに,悪意のある偽の情報なども錯綜しそうだが,FacebookやTwitter,さらに動画投稿サイトなど,一般参加者の投稿が急速に拡散されるだろう。また,ブースを出しているパブリッシャも,ゲーマーにアピールしようと,関連商品の販売や無料グッズ配布など,以前のE3ではあまり見られたなかったことが始まりそうだ。
■E3 2017各社カンファレンス日程表
・Electronic Arts:6月10日12:00(日本時間11日4:00)
・Microsoft:6月11日13:00(日本時間12日6:00)
・Bethesda Softworks:6月11日21:00(日本時間12日13:00)
・Devolver Digital:6月11日22:00(日本時間12日14:00)
・PC Gaming Show:6月12日10:00(日本時間13日2:00)
・Ubisoft Entertainment:6月12日13:00(日本時間13日5:00)
・Sony Interactive Entertainment:6月12日18:00(日本時間13日10:00)
・任天堂:6月13日9:00(日本時間14日1:00)
プラットフォームホルダーやパブリッシャの動向は
E3 2017の会場の予想される雰囲気は以上のとおりだが,読者にとって気になるのは,なんといっても新作タイトルだ。今年はElectronic Artsの「Star Wars Battlefront 2」や「Need for Speed Payback」,Activisionの「Call of Duty: WWII」と「Destiny 2」,そしてUbisoft Entertainmentの「Assassin’s Creed」の新作や「Far Cry 5」など,大手パブリッシャの大作はすでにアナウンスされているという印象だ。もちろん,サプライズタイトルは残されているはずだし,プラットフォームホルダーの発表する隠し玉は毎年多いので,驚くようなニュースも出てくるはず。
また,ハードウェアとしておそらく最も注目されているのは,「Project Scorpio」として知られる高性能Xbox Oneだろう。この記事が掲載されるのは,Microsoftのカンファレンスがすでに終わったというタイミングなので,筆者は知らないが,読者はすでに正式名称や発売日,価格を知っているかもしれない。
期待されていた「Scalebound」がキャンセルされるなど,魅力的なエクスクルーシブタイトルのラインナップ構築に苦しんでいる印象のMicrosoft。2016年のE3で発表されたID@Xbox系タイトルの「Cuphead」や「Tacoma」「State of Decay 2」といった作品もまだ発売されていない状況で,「Forza Motorsport 7」や「Crackdown 3」,そして「Sea of Thieves」などのタイトルがどれだけアピールできるのかが,新ハードの年末商戦に大きな影響を及ぼすことになるだろう。
一方,今年3月に「Nintendo Switch」をリリースした任天堂は,「Super Mario Odyssey」や「Splatoon 2」,そして「ARMS」といったタイトルを中心に,IPに事欠かないところが強味だ。「どうぶつの森」の新作に期待するファンは多いだろう。さらに,カプコンの「モンスターハンターダブルクロス」やコーエーテクモゲームスの「ファイアーエムブレム無双」,さらにUbisoft Entertainmentの「Mario + Rabbids Kingdom Battle」など,サードパーティタイトルも豊富で,欧米の独立系デベロッパの参加も多いと思われる。個人的に気になるのは,Bethesda Softworksが「The Elder Scholls V: Skyrim」のSwitch版を発表するか(したか)どうかなのだが,それも間もなく分かる。
「PlayStation 4」の販売数が6000万台を記録したと発表したSony Interactive Entertainmentは,相変わらず豊富なエクスクルーシブタイトルを誇っている。「Days Gone」「Detroit: Become Human」「God of War」「Uncharted: The Lost Legacy」「The Last of Us Part II」「Spider-Man」「Knack 2」「Gran Turismo Sport」など,魅力的なタイトルがずらりと並んでいるが,今のところ内容がほとんど分からない小島秀夫氏の「DEATH STRANDING」については,残念ながら詳しい情報の公開は予定されていないようだ。
アメリカでは,E3 2017の開催に合わせた6月9日〜17日,1TBのHDDを搭載した「PlayStation 4 Gold」が50ドル引きの249ドルで販売される予定だ。過去の例から考えると,1TBモデルの価格がこれで固定される可能性は高く,さらに「PlayStation VR」の低価格化など,「Project Scorpio」への対抗措置を打ち出してくるはずだ。
なお,海外のメジャータイトルでは今後,「4K対応」がさらにプッシュされそうで,Electronic Artsの「Star Wars Battlefront 2」やWarner Bros. Interactive Entertainmentの「Middle-Earth: Shadow of War」などは,すでにネイティブ対応を明らかにしている。これが一過性のものか,あるいは定着するのか,市場の反応を注視していく必要がある。
個人的に詳細の発表を期待しているのは,Rockstar Gamesの「Red Dead Redemption 2」だ。公開されたトレイラーに描かれた満天の星空は,同作が高解像度対応であることを強く印象づけるが,どうなのだろうか。Rockstar GamesはE3 2017でブース出展は行わないものの,MicrosoftとSony Interactive Entertainmentの双方のカンファレンスで最大級にフィーチャーされると思われる。
これら以外にも気になる作品は少なくないが,今回はこのへんで終わりたい。例年どおり,4Gamerは現地に取材班を送って,さまざまな情報をフォローしていく予定なので,今週は4GamerのE3 2017特設ページをチェックしつつ,2017年後半から2018年にかけてのゲームライフに胸を躍らせてほしい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
来週の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載します。
次回掲載は6月26日を予定しています。
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