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印刷2017/10/02 12:00

業界動向

Access Accepted第551回:「アサシンクリード」が教育ソフトになる時代

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第551回:「アサシンクリード」が教育ソフトになる時代

 一時期,「ゲーム脳」などという怪しげな言葉が流行り,ネガティブな視点で見られることもあったゲームだが,もはや映画やテレビを超える,若者お気に入りのエンターテイメントとして確かな地位を確立した。それに伴い,最近ではゲームを使った学習や知覚能力の促進などといった研究も盛んに行われるようになっている。今週は,「アサシンクリード」シリーズの最新作に「教育ソフト」として使えるモードが搭載されたという話題を紹介したい。


Ubisoft Entertainmentの看板タイトルが
「教育ソフト」に変身


 欧米では,かつて「FPSの熱狂的ゲーマーは大量殺人を行う恐れがある」などと言われ,日本では「ゲーム脳」という怪しげな言葉が流行したこともあったが,それももう,ずいぶん昔の話のような気がする。
 ゲームの対戦を見るために人々がスタジアムや劇場を埋め尽くし,ゲーム音楽のオーケストラコンサートが開かれ,スマホ片手の父親が子供と一緒に公園を回ってポケモンの獲得に精を出すといった光景は,それほど珍しいとは思われなくなった。さすがに,筆者のような中年男性が「趣味はゲームです!」と言い切るのは日米問わずやや恥ずかしいものの,周辺の文化を含めて,ゲームが娯楽のメインストリームの1つになったのは間違いない。

 それにつれて,ゲームのありかたも多様化している。北米時間の2017年9月27日,Ubisoft Entertainmentは,今秋発売が予定されているシリーズ最新作「アサシンクリード オリジンズ」「Discovery Tour」を実装すると発表し,ちょっとした話題になった。詳しくは後述するが,これは同作を「教育ソフト」のように使えるモードだという。
 例えば「SimCity」のようなシミュレーションが学校の教材として利用されるケースはこれまでにもあったが,膨大な予算を使って開発されるアクションゲームで,さらにUbisoftという大手パブリッシャの看板タイトルに「教育ソフト」にもなり得るモードが搭載されるのは,なんとも興味深い。

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 「アサシンクリード オリジンズ」は,クレオパトラが生きたプトレマイオス朝後期の古代エジプトを舞台に,シリーズの原点を描く作品だ。エジプト人でファラオ親衛隊「メジャイ」(Medjay)の精兵である主人公のバエクが,メンフィス,アレクサンドリア,そして果てしなく広がる砂漠を舞台に冒険を繰り広げ,ギリシャ系の王朝に対して反乱を企てるという物語が展開することになる。
 アサシン教団やテンプルの騎士団の名前が登場するのはずっと後のことだが,アサシンであるアルタイルやエツィオ,そしてデズモンド・マイルズ同様,バエクの上唇に小さな傷があることは,ファンとしては見逃してはならないかもしれない。

 アクション性の高さはそのままに,RPG的な要素を用いた新しいゲーム性を提示するという「アサシンクリード オリジンズ」。Ubisoftの公式ブログであるUbiBlogには,「新たなモード『Discovery Tour』は,オープンワールドで描かれた広大な古代エジプト世界を,戦闘のない生きた博物館とし,歴史を体験できる“ガイド付きツアー”が追加される」と記載されている。
 つまり,敵との戦闘や武器の収集といった娯楽要素をすべて取り去り,歴史的な人物に会ったり,場所を訪れたりしつつ,データベースに蓄えられた情報をチェックしていくことを目的にしたモードなのだ。

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ゲームは学力の向上につながるのか?


 文字だけでなく映像や音声が駆使できるゲームは,さまざまな情報を分かりやすく提示するためにはもってこいのメディアだ。「バイオショック」「The Elder Scrolls V: Skyrim」のように,マップにあるテープレコーダーを再生したり,本棚に置かれた本を読んだりすることで,ゲーム世界のバックグラウンドなどが分かる演出は,多くの作品に取り入れられている。

 Paradox Interactiveのストラテジーには,世界の歴史や勢力,ユニットの詳しい説明がこれでもかというぐらい詰め込まれているし,変わったところでは,「ゴーストリコン ワイルドランズ」の,銃器を分解してそのメカニズムを眺め,理解できるようなものもある。ゲームの進行には直接関係なくとも,こうした情報を用意してプレイヤーのやり込み度を高めるタイトルは増えていると思う。「信長の野望」シリーズに長年付き合ってきたおかげで,歴史家しか知らないような地方のマイナー武将の名前をスラスラ言えるという人も少なくないはずだ。

アルベルト・ポッソ博士の公式ブログより
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 2016年8月,RMIT大学メルボルン校の経済学者,アルベルト・ポッソ(Alberto Posso)博士は,オーストラリア全土の700校の高校生1万2000人を対象にした,大規模な調査を実施した。
 その結果,オンラインゲームを日常的に遊んでいると答えた生徒は,100点満点中,数学では平均で15点,科学では平均17点,読書力でさえ,ゲームをしない生徒と比べて平均点が明らかに高いことが確認できた。その一方,ソーシャルメディアに日常的に没頭していると答えた生徒は,平均点が最大で20点も低いケースがあったとのこと。ポッソ博士はこの結果から,「余暇にゲームをすることは,認知力の発達を促すのではないだろうか」とする。

なぜ,「メダル・オブ・オナー ライジングサン」を選んだのか分からない,アレクサンドラ・ヴァキリ博士の研究。グラフィックスは明らかに古いのだが,効果が分かりやすかったのだろう
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 最近のオーストラリアは,こうしたゲームを使った研究について熱心であるらしく,シドニーのマッカリー大学の脳神経学者アレクサンドラ・ヴァキリ(Alexandra Vakili)博士も2016年,脳に障害のある31人の患者を対象に調査を行った。これは,2003年にリリースされた「メダル・オブ・オナー ライジングサン」(なぜ,こんな古めのゲームを使ったのかは分からないが)を,被験者に継続して遊んでもらうというもので,結果としてプレイの質の向上が見られた。ヴァキリ博士は,ゲームは長期的なリハビリテーションに有効活用できるのではないかと結論づけている。

 こうした報告については反論などもあるのかもしれないが,敵の動きを予想したり,武器の能力や相手のヘルス値,地形などを瞬時に判断したりしてゲームに勝つためには,高度な計算能力や記憶力,想像力などが必要であるのは間違いない。

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 余談ながら,筆者が「Total War: Medieval II」をプレイするのを熱心に見ていた当時8歳の息子が,自ら世界地図を調べ,かつて「コンスタンティノープル」と呼ばれた都市が現在イスタンブールに名を変えていることを発見した。息子はその事実を学校で発表したらしいが,たまたまビザンツ帝国についての知識が深かった担任教師をいたく感動させ,かろうじて「コンスタンティノープル」だけが聞き取れる謎の言語の民謡を収めたCDと,東ローマ帝国の美術史に関する分厚い本をもらって帰ってきた。

 そんな息子は今や「Dota 2」「FIFA」シリーズにハマって毎日のようにプレイしているが,学力向上や知覚発達の真偽はともかく,少なくとも彼の場合,ゲームで得た知識は彼をより頭がいいように見せる効力を発揮したようだ。

 「アサシンクリード オリジンズ」の興味深い試みに追従する大作ソフトが出てくるのかどうかは分からないが,プレイするつもりの人は,「Discovery Tour」を使ってプトレマイオス朝エジプトについて学んでみるのもよさそうだ。「アサシンクリード オリジンズ」がきっかけでエジプト学者になったという人も,これから出てくるのかもしれない。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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