業界動向
Access Accepted第641回:新型コロナウイルスと戦い始めた欧米ゲーム業界
新型コロナウイルスの感染拡大の影響が,欧米ゲーム業界でさらに広がっている。すでにお伝えしたように,GDCやE3といった大規模イベントは延期または中止に追い込まれており,eスポーツでも無観客試合や開催の自粛などが行われた。そんな中,感染拡大を防ぐための支援や寄付を行うゲームメーカーの姿も見られるようになっている。依然として先の見通せない状況だが,現段階の状況を簡単にまとめてみたい。
外出できない子供達が,
こぞってゲームを遊んでいるが……
Microsoftは日本時間の2020年3月25日,「ゲーミング コミュニティへのメッセージ:今私たちが出来ること」と題されたリリースを配信した。Xbox部門を統括するフィル・スペンサー(Phil Spencer)氏の名前で書かれたリリースの内容は,新型コロナウイルスの感染拡大によって事実上の外出禁止措置がとられているアメリカやヨーロッパの家から出られない子供達のために,「Minecraft」のマーケットプレイスに「教育」(Education)という新カテゴリーを設け,6月30日までの期間限定で,カテゴリー内のすべてソフトを無料でダウンロードできるようにしたというものだ。
「孤独感とストレスを感じる今,ゲームが人々を結び付け,喜びを提供する」とスペンサー氏は述べている。
アメリカでは,大学生なら通常パーティー三昧になるはずの春休み(スプリングブレイク)の前後,多くの州で学校が休校となり,オンラインによる在宅授業なども実施されている。Microsoftだけでなく,Amazon,Google,Facebook,Apple,Oracleなど多くのIT企業も在宅勤務にシフトし,出張やミーティングが禁止になったところも多い。町をドライブすると,食料品店やガソリンスタンドなどは従来どおりに営業しているものの,ほとんどの店舗が臨時休業の看板を出し,レストランはテイクアウトか配達のみでかろうじて営業を続けている状況だ。
ヨーロッパでは,外でジョギングしたりすることさえ禁止されている地域が少なくないようであり,また日本でも政府の対策本部の設置で緊急事態宣言の発令が可能になるなど,今後,家にこもる時間がさらに増えることになるかもしれない。
こうした状況を物語るのが,ゲームプレイヤー数の増加だ。「Call of Duty: Warzone」は,ローンチから10日で3000万人のアクセスを記録し,また,「DOOM Eternal」はオンライン対戦の同時アクセス数が前作の2倍以上に達したという。もちろん,これらは第一に優れた作品だから多くのゲーマーが集まっていることは間違いないが,3月23日には「Steam」の同時接続者数が8日ぶりに記録を塗り替え,22万以上を記録したという。
しかし,単純に喜ぶだけの状況ではない。例えば現在,世界で最も新型コロナウイルスの被害が拡大していると言われるイタリアでは,ゲームで遊ぶ子供達がインターネットのトラフィックを占有してしまい,月間で70%も使用量が増えたことが,イタリアのテレコム企業Vodafone Groupに対するBloombergの取材記事で明らかになっている。本来であれば,関係機関の情報発信や在宅勤務,新型コロナウイルスに関する情報共有といったことが優先されるべきであり,本来の目的のためのインフラが活用しにくくなっているという事態に陥っているのだ。
こうした状況を受けて,YouTubeやNetflixなどのオンライン映像配信サービスは標準解像度を落として配信を行うなどの措置をとった。Sony Interactive Entertainmentも,「すべてのオンラインコミュニティがアクセスを阻害されないため」として,インターネットサービスプロバイダと協力してヨーロッパにおけるダウンロード速度を制限していることを明らかにしている。通信インフラを確保するため,今後,オンラインゲームの規制やコンテンツの配信中止といった措置がとられる可能性が出てくるかもしれない。
自粛が続くゲーム業界。戦う姿勢を見せるメーカーも
イベントの中止についてはこれまで,Game Developers Conference 2020の夏への延期や,E3 2020の中止とその影響などをお伝えしてきたが,ここで付け加えておくと,Activision Blizzardの「Overwatch League」や「Call of Duty League」はすでにキャンセルされており,またElectronic Artsは,「APEX Legends」や同社のスポーツタイトルを使った各地のイベントに対する自粛要請を行っている。「League of Legends」「PUBG」「Counter-Strike」「Dota 2」といった,人気のeスポーツの大会はほとんど中止か延期になっており,2020年には史上初の10億ドル規模に達すると予測されていたeスポーツ市場は,新型コロナウイルスの影響を受けて停滞している。
また任天堂は,2月6日の時点で「あつまれ どうぶつの森セット」など,中国で行われている自社製品の生産や出荷が遅延していることを報告しており(関連記事),Facebookの「Oculus Quest」やValveの「Valve Index」も品切れになるなど,メーカーにとっても売りたいのに売れない状態が続いている。それは2020年内に発売予定の次世代コンシューマ機「PlayStation 5」や「Xbox Series X」でも同じだと思われ,中国では工場の稼働を再開しつつあるとはいえ,各分野の生産ラインが元どおりに復旧するのにどれほど時間を要するのか,現時点では分からない。
以上のようにネガティブな話題が続くゲーム業界だが,新型コロナウイルスの感染拡大と戦おうとするメーカーも見られるようになってきた。詳細は3月26日にGamesIndustry.biz Japan Editionが掲載した記事を参照してほしいが,記事掲載後には「League of Legends」のRiot Gamesが,感染拡大が懸念されるロサンゼルス市に150万ドルの寄付を行うと共に,清掃会社や社内食堂の運営元との契約打ち切りを行わないことを表明するなど,ゲームメーカーによる支援や寄付の動きが広がってきているのだ。
マスクだけでなく医療器具まで足りなくなるという危機的状況に陥っている地域も多くなり,こうした欧米メーカーの動きはさらに加速しそうだ。先の見通せない情勢がしばらく続きそうだが,一刻も早い終息を願っている。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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