業界動向
Access Accepted第806回:話題のIP“モンスター・ヴァース”「Kong: Survivor Instinct」を小規模なインディースタジオが射止めた理由
2024年8月にドイツで開催されたgamescom 2024にて,突如アナウンスされた「Kong: Survivor Instinct」は,ポーランドの7Levelsが開発を手がける2.5Dプラットフォームアクションだ。タイトルのとおり,映画業界では名の知れたLegendary Entertainmentが保有する「モンスター・ヴァース」をテーマに,コングらが登場するというダイナミックな作品であるが,果たして無名のメーカーはどのようにライセンスを射止めたのだろうか。
モンスター・ヴァース初のゲーム化
4Gamer読者であれば,ドイツで開催される恒例のゲームイベント,gamescomについて説明する必要はないだろう。とくにストリーミングイベント「gamescom Opening Night Live」での発表は,毎年のようにニュースバリューが高くなっており,今年は「ボーダーランズ 4」「マフィア:オリジン 〜裏切りの祖国」「キングダムカム: デリバランス II」といった大型タイトルだけでなく,さまざまなインディーゲームもアナウンスされている。
2時間を超える「Opening Night Live 2024」の中で,映画業界では名の知れたLegendary Entertainmentの社名がインサートされた約1分半のトレイラーが公開された。そのタイトルは「Kong: Survivor Instinct」(PC / PS5 / Xbox Series X|S)。Legendary Entertainmentが誇る「モンスター・ヴァース」(Monterverse)の正式ライセンス作品のようだが,その情報の少なさに「?」が浮かんだゲーマーは少なくなかったはずだ。
本作の開発を手がけるポーランドの7Levelsについて,それ以前に筆者は知らなかったが,イベントの開催中に何とかコンタクトを取り,開発者に話をうかがう機会を得た。なお,今回の掲載までに時間がかかったのは,映画IPのために事前のクリアランスが必要だったという大人の事情である。
さて,モンスター・ヴァースというフランチャイズは,Legendary Entertainmentが製作し,ワーナー・ブラザースが共同で製作/配給する怪獣映画シリーズだ。ギャレス・エドワーズ監督による“海外ゴジラリブート作品”である「GODZILLA ゴジラ」(2014年公開)を第1作にプロジェクトが立ち上がった。
その後,「キングコング:髑髏島の巨神」(2017年公開),「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019年公開),「ゴジラvsコング」(2021年公開),そして今年は「ゴジラxコング 新たなる帝国」が公開されている。2〜3年おきにゴジラとコング(キングコング)を中核とする映画シリーズを制作しており,“ヒーロー映画”の人気が下落傾向の反面,“ハリウッド怪獣映画”の興行成績は好調だ。モンスター・ヴァースは確実に定着しつつある。
「Kong: Survivor Instinct」の開発を担当する7Levelsは,任天堂ゲーム機のファンを自認するデベロッパたちによって,2014年にクラクフで起業したメーカーだ。デビュー作はレイニーフロッグから国内発売されたダークファンタジーアクション「Castle of Heart」であり,以降もNintendo Switchを中心に多彩なジャンルの作品を17作もリリースしている。
彼らがなぜ,「Kong: Survivor Instinct」を開発することになったのかは興味深いところだが,そのあたりも含めて,7Levelsを率いるクシシュトフ・クロル(Krzysztof Król)氏に話を聞いてみた。
自ら門を叩いて実現した渾身のプロジェクト
4Gamer:
よろしくお願いします。gamescom 2024で「Kong: Survivor Instinct」を正式に発表しましたが,反響はいかがでしたか。
「KONG: Survivor Instinct」は,我々にとって最も野心的なプロジェクトであるため,今回の発表は大きな瞬間となりました。gamescom 2024の直前に,とあるゲーム情報サイトで速報を発表していただきましたが,その反響は非常に励みになりました。
私たちの新作のニュースは野火のように広がり,24時間以内にわずか2つのYouTubeチャンネルで50万回以上の再生回数を達成しています。これほどの反響があったゲームは作ったことがなかったので,とても充実した気分です。
4Gamer:
そもそも,このプロジェクトはいつ,どのようにして始まったのでしょうか。
クロル氏:
「KONG: Survivor Instinct」のプロジェクトは,2019年にマルチプラットフォームでリリースした「Jet Kave Adventure」を完成させた直後に始まりました。私たちはすでにパートナーと初期の話し合いを行っていたため,開始時には2.5Dゲームの専門知識と,Legendary Entertainmentによるモンスター・ヴァースのエキサイティングな世界を,最適に組み合わせる方法を計画することができたと思います。
その当時から,タイタン(モンスター・ヴァースにおける怪獣のこと)たちによって引き起こされた異常な出来事に巻き込まれる普通の人々の目を通して,ユニークな角度からIPを探求したいと考えていました。
4Gamer:
どちらからアプローチされたのでしょう?
クロル氏:
我々が彼らの門を叩いて,このプロジェクトのプレゼンテーションを行いました。
4Gamer:
それはすごいですね。すぐに青信号になったのですか。
クロル氏:
そうですね。私たちのビジョンの斬新さ,映画ではあまり見られないモンスター・ヴァースの一部を探索したいというゲームならではのストーリー表現を,彼らは非常に高く評価してくれました。
映画の中でタイタンの攻撃を見ると,何百人もの人々が崩壊する建物から逃げています。彼らに何が起こるか,無事に逃げられるかどうかを見る前に,映画は別のシーンに切り替わります。私たちの最初のアイデアは「そのシーンをもう少し長く保持したら,どうなるだろうか」というものでした。
4Gamer:
そんな普通の人である主人公について教えてください。なぜタイタンたちが襲う都会を探索しているのでしょうか。
クロル氏:
プレイヤーが操作するのは,油田掘削作業員の“デビッド・マーティン”です。成人した娘を持つ50代のシングルファーザーであり,平和な小さな町で静かながらも孤独な生活を送っており,他人のことを詮索せず,自分にも同じことを期待する,一匹狼のようなタイプの人間です。
タイタンたちが突然,大都市を攻撃したとき,被災地の生存者の中に娘のステイシーがいないと知ったデビッドは,自分に起こり得る危険を顧みず,彼女の救出を決意します。しかし,その消息が判明にする前に,タイタンの来襲と何らかの関係があると思われる元イギリス特殊部隊員のエコテロリスト,アラン・ジョナと彼が率いる傭兵たちに遭遇することになります。
4Gamer:
これまでにもコングをテーマにしたゲームがリリースされていますが,「KONG: Survivor Instinct」はどこが違うと考えていますか。
クロル氏:
前提として,コングには作品や時期によってさまざまなライセンスが存在するという事実があります。そのうえで「KONG: Survivor Instinct」はモンスター・ヴァースをベースにしており,Legendary Entertainmentと協力して制作された初のゲームです。したがって,本作には皆さんが頭に描いている以前のゲームとの共通点はほとんどありません。
もう1つ,理解していただきたいことは,私たちは小規模なインディースタジオとして自分たちの強みと限界の両方を理解しており,自信を持っている機能と仕組みを中心にゲームを構築しているということです。ゲームのビジョン,チームの専門知識のあいだには強力な相乗効果があり,細部へのこだわりと魅力的なゲームプレイへの注力がプレイヤーの共感を呼び,多くのゲーマーから支持を得られることを願っています。
開発チームの熱い怪獣愛
4Gamer:
タイタンを操るモナーク社製の音響機器を扱うシーンがトレイラーにはありました。プレイヤーはコングを操れるのでしょうか。
クロル氏:
さすがにコングほどのタイタンを人間がコントロールすることはできません。しかし,おそらくファンの皆さんが感じているように,新たに開発された「オルカΣ」がタイタンの来襲と因果関係を持ち,ゲーム中でも非常に重要なポイントになります。
今のところ,その詳細についてはミステリーとしておいて,ゲームプレイを楽しんでいただければと思います。
4Gamer:
「KONG: Survivor Instinct」は3Dグラフィックスを採用していますが,上下左右の動きに絞った2.5Dアクションゲームですね。
クロル氏:
広義の2.5Dアクションアドベンチャーは,我々がこれまで専門としてきたものです。デビュー作「Castle of Heart」から,最新作の「Jet Cave Adventure」までの開発を通じて多くのことを学び,その経験を「KONG: Survivor Instinct」に生かしています。
また,近年は「Ori」シリーズや「プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠」,そして「メトロイド ドレッド」など,他社の2.5Dアクションアドベンチャーが高い評価を得ています。「KONG: Survivor Instinct」の場合,タイタンたちがもたらした大惨事を低い視線から見ることになりますが,単に嘲笑的なものではなく文字どおりの視点で実現してくれます。
4Gamer:
タイトルには「Survivor」とありますが,サバイバル要素はありますか。
クロル氏:
いいえ。基本的にはアクションアドベンチャーのジャンルに属し,プラットフォーマーやメトロイドヴァニアなどのメカニズムも組み込んでいますが,サバイバルゲームではありません。本作では,戦闘やプラットフォーム,パズル,探索の健全な組み合わせを楽しめます。
サバイバルはストーリーの重要なテーマであり,破壊された都市の経路や多数のアイテムによるゲームプレイで表現しています。
4Gamer:
トレイラーにはクモ型怪獣のアバドン,海竜のようなティアマットも登場していますね。
クロル氏:
はい,アバドンとティアマット,そしてジョナの傭兵部隊であるハイエナが登場することは間違いありません。Legendary Entertainmentの協力は本当に素晴らしいものでした。彼らの専門知識や一次資料を活用することができ,ゲームプレイとアートの面において,本作のための創造的な自由をたくさん与えられました。
マイナーなタイタンは映画でも登場する機会は多くありませんが,Legendary Entertainmentは我々の描いたアバドンのビジョンを受け入れてくれました。彼らがGOサインを出してくれたことを誇りに思います。
4Gamer:
日本語のローカライズも行われるようで何よりです。
クロル氏:
そうですね。エキサイティングな決定です。「KONG: Survivor Instinct」は我々のモンスターに対する愛から生まれたものであり,その元祖と言える日本の怪獣ファンの皆さんにプレイしていただきたいと思っています!
既報のとおり,「Kong: Survivor Instinct」は10月22日のリリースが予定されている。シンガポールを拠点にするパブリッシャ,4Divinityがアジア向けの販売を行うことになり,インタフェースとテキストの日本語対応が明らかになっている。
ちなみに「ゴジラxコング 新たなる帝国」のBlu-ray/DVD版は10月16日にリリースされているので,「Kong: Survivor Instinct」と合わせてチェックしておくとプレイヤーの怪獣愛もさらに高まるはずだ。
※次週10月28日の「奥谷海人のAccess Accepted」は筆者取材のため休載します。次回の掲載は11月4日を予定しています。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- 関連タイトル:
Kong: Survivor Instinct
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