レビュー
SteelSeriesの新シリーズ
Prime Wireless,Prime+
2001年に設立されて以降,先進的なゲーマー向け周辺機器を多数世に送り出し続けているSteelSeries。その新たなシリーズとして2021年の夏から同社が展開しているのが,eスポーツプレイヤー向けを謳う「Prime」だ。現在はマウスが5製品,ヘッドセットが1製品,国内販売されている(関連記事)。
本稿では,マウスの新製品から「Prime Wireless」をメインに,11月12日に発売されたばかりの「Prime+」もフォローしていく形で,レビューをお届けしよう。
軽量ボディの右手用マウス
まずは製品ラインナップをまとめておこう。
ベースモデルとなるのが,右手用ワイヤードマウスの「Prime」で,これをワイヤレス化したものがPrime Wireless。そして,Primeの上位モデルとして,底面に小型の有機ELディスプレイを備え,さらにセンサーも強化したワイヤードマウスがPrime+だ。
さらに,小型モデルの「Prime Mini」「Prime Mini Wireless」が11月にラインナップへと加わった。
こうしたラインナップなので,本稿では,ベースモデルとボディの形状が同じで,ワイヤレス化による取り回しの良さを持つPrime Wirelessと,ワイヤードだが高機能なPrime+を試そうというわけだ。なお,Prime Wirelessは,SteelSeriesの独自技術である「Quantum 2.0 Wireless」によるワイヤレス接続と,USBケーブルを用いたワイヤード接続のどちらにも対応している。
まずは共通のボディ形状から見ていくと,右手用の左右非対称タイプとなっている。左側面が窪み,右側面が膨らんだ,いわゆる「Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0」クローンの系統だ。
サイズは,実測で68(W)×125(D)×42(H)mm。重量はPrime Wirelessが実測82gで,Prime+が71.5gと,内蔵バッテリーのぶんだけワイヤレスモデルのほうが重い。とはいえ,昨今のゲーマー向けマウス市場のトレンドに合わせ,どちらもかなり軽量なマウスに仕上がっている。
左右メインボタンはセパレートタイプで,指を配置しやすいようにボタン上が窪んでいる形状だ。左右メインボタンの間には,表面にはラバー素材を貼り付けた幅8mmのスクロールホイールがある。このラバーには,3mm間隔ごとに幅1mmの溝が刻まれているので,滑らず確実な操作が可能だ。ホイールの1周は24ノッチとなる。
左側面は,親指を配置しやすくするために大きく窪んでいる。その上側には,2つのサイドボタンが前後方向に配置されており,奥側が実測で長さ16mmで幅6mm,手前側が長さ15mmで幅6mmだ。若干小さめではあるが,尖った形状をしているので,ボタンの位置を指先で感じ取りやすく,操作性は良好と言える。
なお,左右メインボタンには,SteelSeries独自技術の「Prestige OM Switch」が採用されている。このスイッチは,磁石で保持された特大のスプリングをボタンが押し込むと赤外線LEDからセンサーに入る光を遮るので,光のオン/オフをスイッチのオン/オフとして認識するという代物だ。従来のメカニカルスイッチでは,ボタンを押してからスイッチが入力を受け付けるまでに,金属バネを押し込んだときに生じる不必要な信号のブレを無視するための「デバウンス」時間が必要なので,原理的に遅延が避けられない。このあたりは,キーボード用のメカニカルキースイッチと同じ理屈だ。一方,Prestige OM Switchは,デバウンス時間が不要なので,ボタンを押した瞬間に入力を受け付けるので遅延がないという理屈だ。
詳しい技術的な説明は,SteelSeries公式動画を参照してほしい。
マウスの底面側は,Prime WirelessとPrime+で仕様が異なる。Prime Wirelessはセンサーホールの横に,電源スイッチとCPI切り替え用のボタンがあるのだ。
一方Prime+は,センサーホールのサイズが大きい。これは,マウスを浮かせた状態での誤作動を防ぐために,リフトオフディスタンスのみを計測するセンサーを搭載しているからだ。なお,センサーホールの上側(奥側)には,有機ELディスプレイとCPI切り替え用のボタンが並んでいる。
ちなみに,Prime Wirelessには白,Prime+には黒のソールが4枚貼られているが,レイアウトは変わらない。
なお,Prime Wirelessの製品ボックスには,USB Type-C接続のUSBワイヤレスアダプタのほかに,接続端子がUSB Type-Cのメス−メスになった「Extension Adapter」(拡張アダプタ)が含まれている。PC本体にUSB Type-Cポートがない(足らない)場合にも,USBワイヤレスアダプタ−拡張アダプタ−付属のUSB Type-C to Type-Aケーブルという順序で接続できるわけだ。USBワイヤレスアダプタをマウスのなるべく近くに置きたいというときにも,拡張アダプタが役立つだろう。
Prime+にも,USBケーブルが付属する。Prime+はワイヤードマウスだが,マウス本体からケーブルを取り外すことが可能な珍しい仕様だ。こちらの付属ケーブルも布巻タイプで,太さや長さは同じ。ただ,マウスとの接続端子がマイクロUSBになっており,Prime Wirelessのものとは互換性がない。
ちなみに,Prime Wirelessのバッテリー駆動時間は,公称100時間だ。以前にレビューしたSteelSeriesのワイヤレスマウス「Aerox 3 Wireless」は,公称200時間であったので,半分くらいしか保たない。これは推測でしかないが,バッテリー容量を少なくして重量を軽くしたのかもしれない。
充電速度はUSB Power Deliveryにでも対応しているのか,充電速度はかなり早い印象なので,ゲームをしていない空いた時間にちゃちゃっと充電するのがいいだろう。
握り心地は両製品ともよし
持ったときの印象についてもチェックする。ここでは,定番の持ち方である「つまみ持ち」「つかみ持ち」「かぶせ持ち」と,親指と薬指,小指といった側面に接地する指を立たせるようにして持つ筆者の「BRZRK持ち」の4パターンで長時間使用した印象を紹介するので,参考にしてほしい。
先に述べたとおり,ボディ形状はどちらも同じだ。
つまみ持ちの例。側面に指を起きやすく握り込みやすい |
つかみ持ちの例。親指を一番窪んだ場所に配置するといい塩梅で持てる |
かぶせ持ちの例。特にコレといった印象がないレベルで自然に操作可能 |
BRZRK持ちの例。小指と薬指を,マウス後部の膨らみだしくらいに配置すると快適 |
実際に長時間使用してみてもネガティブな印象は一切なく,快適に操作できた。手のサイズに合う合わないはあるかもしれないが,幅広い人に対応できるマウスだ。
SteelSeriesGGを導入しよう
Prime WirelessとPrime+のポテンシャルを最大限引き出すには,SteelSeriesが配布している統合設定ソフトウェアの「SteelSeriesGG」(以下,SSGG)が必要だ。
SSGGは,SteelSeriesの対応製品の設定を行うためのソフトウェア「SteelSeries Engine 3」の後継となるもので,マウスであればセンサーの感度調整やボタン割り当てといった,使用者が最もこだわりたい部分に手を入れられる。
SSGGは,左ペインにSteelSeries関連製品やゲーム関連のちょっとした情報が掲載された「HOME」タブが選択された状態で開く。ここから「Engine」タブに切り替えると,そのときに接続しているSteelSeriesの対応製品が表示されるので,手持ちのデバイスを選択しよう。
今回の場合,1つの画面にボタン割り当てやセンサーの感度,ポーリングレート(USBレポートレート)といった情報が表示され,設定の変更が可能になる。1画面でほぼすべての情報が表示されるので,面倒な画面やタブの切り替えが不要なのは楽だ。
なお,Prime+の場合,リフトオフディスタンスやポーリングレートの設定は,本体のみでも行えるようになっている。マウス底面の有機ELディスプレイ横にあるボタンを押すと,CPIが切り替わるというのは前述したとおりだが,長押しすると,リフトオフディスタンスやポーリングレートの設定が変えられるようになるのだ。
外出先やオフライン大会といった自宅とは異なる環境下においても,SSGGを使わずに挙動を調整できるということで,コアゲーマーに向けた機能と言える。
センサーはPrime+のほうが優秀
Prime Wirelessには「TrueMove Air」,Prime+には「TrueMove Pro+」と,それぞれ異なる光学式センサーが搭載されている。どちらもPixArt ImagingとSteelSeriesの共同開発なのだが,TrueMove Airは,ベースモデルのPrimeに搭載されている「TrueMove Pro」よりも公称スペックが低い。TrueMove Proがトラッキング速度450IPS,最大加速度50Gなのに対して,TrueMove Airは400IPS,40Gだ。
一方,TrueMove Pro+は,名前のとおりTrueMove Proの上位版という位置づけのようで,公称スペックは同じながら,リフトオフ計測センサーが追加されている。
つまりは,Prime WirelessとPrime+で,センサーはだいぶ異なるので,それぞれの性能を確認していこう。
センサー性能のテストでは,「MouseTester」を用いる。
テストで使用した環境は以下のとおりだ。環境によってテスト結果が異なる可能性があるので,あくまでも参考として見てほしい。なお,テスト時のマウスパッドは「ARTISAN 飛燕 MID」のみを使用している。
●テスト環境
- CPU:Core i7-7820X(8C16T,定格クロック3.6GHz,最大クロック4.3GHz,共有L3キャッシュ容量11MB)
- マザーボード:MSI X299 TOMAHAWK(Intel X299チップセット)
- メインメモリ:PC4-19200 DDR4 SDRAM 8GB×4
- グラフィックスカード:MSI GeForce GTX 1080 GAMING X 8G(GeForce GTX 1080,グラフィックスメモリ容量8GB)
- ストレージ:Intel SSD 600p(SSDPEKKW128G7X1,PCI Express 3.0 x4,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows 10 Pro
●テスト時のマウス設定(Prime Wireless)
- ソフトウェアバージョン:11.2.0(SteelSeriesGG上で確認)
- マウスバージョン:1.0.16
- CPI設定:100〜18000 DPI (100CPI刻みで設定可能)
- レポートレート設定:125/250/500/1000Hz (主に1000Hzを利用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
●テスト時のマウス設定(Prime+)
- ソフトウェアバージョン:11.2.0
- マウスバージョン:1.0.11+0442827a
- CPI設定:50〜18000 DPI (50CPI刻みで設定可能)
- レポートレート設定:125/250/500/1000Hz (主に1000Hzを利用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度を高める」:無効
テストは,Prime WirelessとPrime+を一定のリズムで左右に振り,CPIを400,800,1200,2400と切り替えながら測定した。
計測結果のグラフは,Y軸のプラス方向が左への振り,マイナス方向が右への振りだ。横軸はms(ミリ秒)単位での時間経過で,グラフの青い点がセンサーの実カウント,青い線はそれを正規化したものとなる。青線がなめらかなラインかつ,点が上に並んでいるほど,センサー性能が優れているということだ。
Prime Wirelessは,主な運用方法となるワイヤレスでの計測を行った。
Prime Wireless
400CPI設定時。少々の乱れはあるが,SteelSeriesのワイヤレスマウス「Aerox 3 Wireless」と同程度 |
800CPI設定時。結果は大きく変わらず |
1200CPI設定時。少し青線から跳ねている点もあるが,大きな変化はない |
2400CPI設定時。特にコレといった変化もなくパフォーマンスは一貫している |
Prime+
400CPI設定時。グラフの折り返し時に少し乱れが見えるが優秀 |
800CPI設定時。400CPI時と目立った違いは見られず |
1200CPI設定時。折返し以外は実カウントと青線が綺麗に重なっている |
2400CPI設定時。大きな変化は認められず |
Prime+は,大きなカウントの飛びが見られず,かなり綺麗なグラフとなった。一方Prime Wirelessは,Prime+と比べて少し慌ただしいカウントとなっているが,センサースペックの差が出ているということかもしれない。とはいえ,体感ではまったく違いを感じない範囲だ。
続いては,マウスがマウスパッドからどれくらい離れたらセンサーの反応が途絶するかのリフトオフディスタンスを計測する。計測方法は,マウスの下に厚みの異なるステンレスプレートを重ね,反応が途絶する高さを割り出すといったものだ。
結果を見ると,Prime Wirelessは0.9mmで反応が途絶。4Gamerが合格ラインとしている2mm以下であり,優秀と言えるだろう。
Prime+はリフトオフディスタンス用のセンサーが搭載されており,SSGG上で0.5〜2mmの範囲で調整できると謳っている。しかし,筆者のテスト環境で試したところ,リフトオフディスタンスの距離は0.1mm以下となった。つまり,ほんの少しでもマウスが浮くと反応が途絶する。リフトオフディスタンスの反応する高さを変更しても変わらなかったので,テスト用のマウスパッドとの相性問題があるのかもしれない。
テストの最後はアングルスナップこと直線補正の確認だ。アングルスナップの確認はWindows標準の「ペイント」で線を書いて補正具合をチェックする。Prime WirelessとPrime+は,アングルスナップの有無をSSGG上で変更できるので,有効時と無効時でそれぞれテストしてみた。
Prime Wireless
Prime+
補正無効時は特にコレといった違和感はなく,有効時は思いっきり引っ張られるような補正の効き具合を体感できた。やはり,補正は無効にして利用するのが望ましいだろう。
安定した操作感覚を得られるマウス
ただ1点,Prime Wirelessは気になるポイントがある。それは,マウスがスリープ状態から復帰するのに少々ラグがあるということだ。他社製品,例えば比較リファレンスに使っている「PRO X SUPERLIGHT Wireless Gaming Mouse」の場合,スリープからの復帰は文字通り一瞬で行われるのだが,Prime Wirelessは1秒くらいかかってしまう。人によってはこの待ち時間が気になるだろう。
それ以外はネガティブなところがなく,扱いやすい右手用マウスだ。
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