レビュー
寒い! 怖い! そんな危険な砕氷船で過去に起こった出来事とは
クリオスタシス 日本語版
ウクライナで生まれたFPSスタイルのホラーアドベンチャー
北極で朽ち果てた砕氷船で過去に起こった出来事とは
凍てつき不気味に静まりかえった船内に足を踏み入れたアレキサンダーの前に,うごめく数々の怪異が姿を現す。一体,この巨大な原子力砕氷船で何が起こったのか。船はなぜ消息を絶ち,ここで難破していたのかといった謎に迫りつつ,アレキサンダーは恐るべき船内からの脱出を図る。
といったストーリーで展開していくのが,2009年10月30日にズーから発売されたFPSスタイルのホラーアドベンチャー「クリオスタシス 日本語版」だ。開発はウクライナの「Action Forms」で,古くは「Chasm: The Rift」,最近では「Vivisector: Beast Inside」を手掛けているものの,正直これまではあまりパッとしないゲームスタジオだったかもしれない。そんな同社が一躍注目されることになったタイトルが,今回紹介するクリオスタシスなのだ。
すでに4Gamerでは週刊連載「海外ゲーム四天王」にて,海外版である「Cryostasis: Sleep of Reason」をサクッと紹介しているが,今回は日本人にも嬉しい日本語版が発売されたということで,海外で話題となった本作の面白さをもう少し踏み込んで紹介していこう。
メンタルエコーで過去に何が起きたのかが徐々に判明していく。次々と新たな事実が登場するのでどんどん続きをプレイしたくなる |
人間の姿はしているものの,次々と襲いかかってくる尋常ならざる怪異。この原子力砕氷船では何が起きていたのだろうか? |
特殊能力「メンタルエコー」で過去にダイブし
悲劇が起こった船内の過去を修正していく
雪風が吹き荒れる北極の地で原子力砕氷船「ノースウィンド号」の外部ドアの前に立ち,船内に入っていくしかない状況からゲームはスタートする。選択の余地なしだ。
本作を進めていくうえで重要な要素となるのが,特定の場所や死体などに宿る残留思念を感じ取り,その思念から過去の状況を見たり追体験したりできるという,アレキサンダーが持つ「メンタルエコー」という特殊能力だ。
例えば特定のエリアに入ったり,オブジェクトに触れたりすると,過去へフラッシュバックして,そこで起きた事故,人々の会話や行動など,過去のさまざまな事象が見られる。これにより,どうしてノースウィンド号が消息を絶つことになったのか,船に何が起こったのかが徐々に明らかになっていくわけだ。
心臓が赤く光る死体は,残留思念にダイブできる。追体験を失敗してもペナルティはなく,やり直しが可能だ |
死体にダイブしなくても,その場に宿る残留思念があればフラッシュバックして過去の状況が映し出される |
この能力で,死んだ人間や動物の残留思念に入り込むこともでき,死亡直前の出来事を,その人間の視点で追体験できる。そこで死を回避する行動が取れれば,それが現在へと反映されて,死んだ人間が死ななかったことになったりもするのだ。これによって,例えば鍵がかかっていて開かなかったドアが開くようになったり,残骸で閉ざされていた通路が通れるようになったりするのである。う〜む,非現実的だが実に面白いアイデアだ。
また,目の前に死体はなくとも,その場で無念の死を遂げた船員の怨念が残留思念として宿っているところがある。その場所に来ると,フラッシュバックののちクリーチャーと化した船員が襲ってくるなどといったホラー要素もあり,この出現タイミングが絶妙なのか,単純にホラー系が苦手な筆者がビビりすぎなのかは定かではないが,薄暗い船内を常にビクビクしながら歩き回ることになった。
ガラス破片を浴びて死んだ船員。ガラスを浴びないような行動して死を回避すれば死体は消え,部屋の中に入れるようになる |
フラッシュバック中は色合いがおかしくなるせいか,クリーチャーも一段と恐ろしく見える。ホラーが苦手な筆者は何度も悲鳴を上げた |
メンタルエコーによる過去の追体験では,死の危険を回避する,何かの作業を行う,クリーチャーと化した船員と戦うなど,バラエティに富んだ出来事が待っている。シチュエーションは常に生きるか死ぬかの緊急事態ばかりなので,もたもたしていると過去の出来事と同じ目にあって死ぬことになる。状況に応じて長さは異なるものの時間制限が用意されており,その時間内に的確な行動を取る必要があるのだ。
いとも簡単にクリアできるものもあれば,一体,何をすればよいのか,どこに向かえばいいのか分からないようなシチュエーションも多い。失敗してもゲームオーバーにならずに繰り返し挑戦できるので,トライアンドエラーを繰り返して解決策を見つけ出していけばよい。
英語版をプレイしたときには気づかなかったが,どうやら追体験前のムービーシーンの会話の中にヒントが含まれていることもあったようで,「やっぱり日本語版は良い!」とあらためて思った次第だ。
目の前にある謎な現実と,過去の状況が次第に繋がりシンクロしていくのは快感で,みるみるゲームに惹き込まれていくのだ |
何をすれば過去を修正できるのか,日本語版ならばっちり分かる。まぁそれでも,何度も失敗を繰り返しては挑戦することになるだろう |
プレイ中はコート着用必須か!?
徹底再現された北極の「凍てつく寒さ」
体温は環境温度によって変化するため,環境温度が高いところでは体温も上昇するし,低いところに居続ければ徐々に体温が奪われて,体温ゲージがゼロになれば凍死してしまう。とはいえ,船内をウロウロしているだけで凍死してしまうようなことはないので,それほど普段から体温管理に神経質にならなくても大丈夫だ。ただし,破損した穴から吹雪が吹き込んでいる部屋にいるときや,甲板に出て移動するときなど極端に冷たい外気にさらされるところでは体温が奪われるのでご注意を。また,クリーチャーとの戦闘でダメージを食らえば,やはり体温が奪われてしまう。
画面左下には温度センサーが表示され,一番外側が「環境温度」,一番内側が「体温」(体力)となる。中央の黄色いバーは「スタミナ」を示す |
原子力が動力の船なのに,パイプなどから漏れ出した蒸気などで暖を取るなんて,いいんだろうか。でも暖まらないと死ぬ |
ただし,体温が極端に下がるエリアの前やクリーチャーと遭遇する直前には,必ず何らかの熱源が用意されており,そこで体を暖めて体温を上げておける。というか,用意された熱源のせいで「このあと何かあるな」とバレてしまっている気がしないでもない。また環境温度以上に体温を上げることはできないが,普段も,非常にゆっくりではあるが体温は徐々に回復していく。
体温を上げられる熱源はさまざまだが,電熱線,電球,たき火,スイッチを押して動かした機械類などが利用でき,近づいて熱源に両手をかざせば急速に体温が上昇する。場合によってはしゃがんだほうが熱源に近くなって体温も上げられるなんてこともあるから,熱源を見つけたらさまざまな方向から暖まってみるといいかもしれない。
また体温のほかに,走ったり,殴る&斧を振ったりすると消費する「スタミナ」がある。スタミナは時間経過で徐々に回復するが,環境温度が高いほど早く回復し,熱源に手をかざせば体温と同様,一気に回復する。走ると一気にスタミナがゼロになってしまうため,船内行動中は走らずに歩いて移動することが多くなるが,うかうかしていると凍死してしまう甲板での行動などでは走りは重要だし,クリーチャーからダメージを食らって,体温を上げるために熱源まで走るなんてこともあるので,ここぞ! というときのためにスタミナにも気を配っておきたい。
クリーチャーの攻撃を受けると冷気で画面が青くなり,こちらの攻撃が当たった部分は熱により解凍されるなど,細かい演出が |
環境温度によって画面(ゴーグル)の周囲が凍り出すなど,温度計を見なくても環境温度がある程度伝わってくるのが凄い |
本作では「寒さ」の表現が素晴らしく,ここまで極寒を表現できたゲームは過去になかったと思えるほど。思わずダウンジャケットを着込んでプレイしたくなってしまうほど,その世界は寒い。文章でこの“寒さ”を伝えきるのは難しいのだが,吹雪が吹き込んで雪の粉が舞うような部屋は見るからに寒そうで,吐き出す息も真っ白になる。
暖かい部屋に入ると,それまで真っ白に霜が付いていた手袋や武器の霜が解け,再び気温の低いエリアに入ると,また徐々に霜がついてくる。また,発電機などの電源を入れると,凍り付いていたエリアの氷が徐々に溶け出し,水となって流れ出す過程は必見だ。
画面の温度計を見なくても,どの程度寒いのかが骨身に沁みて伝わってくる。モニターの中にあるのは,紛れもなく「極寒の世界」そのものなのだ。
スイッチ類は必ず押すことになるが,それによって機械類が動作し環境温度が上がる。これをきっかけに目覚めるクリーチャーもいる |
メンタルエコーでは人間だけでなく,動物の残留思念も読み取れる。断頭台に向かう牛の気持ちを味わえるゲームは滅多にないだろう |
銃で問題を解決していく一般的なFPSではない
ホラーアドベンチャーとして物語や舞台を楽しもう
主要なエリアや部屋は,メンタルエコーのフラッシュバックによって分かるようになっている。とはいえ,基本的にはカチコチに凍り付いた閉塞感のある船内をウロウロし,場所によって電力を回復させて行く,といった流れとなるので,似たようなところを歩き回っていると感じる人もいるかもしれない。
さて,必ずしも戦闘メインのFPSではないので後回しになったが,いよいよ戦闘の話だ。船内で襲いかかってくるのは“元”船員たちだ。すでに人間としての理性は持っていないクリーチャーと化しているので,容赦なく叩きのめすしかない。クリーチャーといえど中盤あたりまでは人間らしい容姿をしているが,徐々に顔と体は人間なのに蜘蛛のような足が付いていたり,羽根が生えて飛び回ったり,クリーチャーと呼ぶにふさわしい連中が登場するようになる。一体,この原子力砕氷船はなんなのだ!?
もはや人間とは思えない蜘蛛のようなクリーチャーは,見た目も動きも気持ち悪すぎる。それにしてもなぜこんなのが船内に? |
銃は精密射撃で狙わないと外すことが多い。リロードも時間がかかるのでタイミングに注意しよう |
基本的にヤツらはビックリ系な登場の仕方で,突然,派手な音ともに現れたり,壁の陰から突然現れたりしやがる。夜中にヘッドホンを付けてプレイしていた筆者は,英語版で一度プレイしているはずなのに,日本語版でも再び何度も悲鳴を上げる始末だ。ロッカールームのロッカーの上をガシャガシャと音を立てて歩いていく足が見えたり,ロッカーが揺れ動いていたりすれば,思わず「ひえぇぇぇ」となってしまうのである。極寒の世界だから(?)なおさらだ。
こちらが利用できる武器は,接近戦用としてロックチェーン,バルブ,ファイアーアックス,銃としてワルサー AC-1940(照明弾),MOSIN-NAGAN 1891,トカレフ SVT-40(ライフル),PPSH-41(マシンガン)が登場。変わったところでは,氷柱を溶かして高水圧の水を射出する「ウォーターキャノン」という武器も登場する。
ライフルのスコープは船内では倍率が高すぎて使えない。スコープを覗いて狙ってみたらこれだもん……おしっこチビりますよ |
船内は薄暗いのでフラッシュライトを点灯させて行動しよう。バッテリー切れがないので付けっぱなしでも構わない |
次々に現れるクリーチャーを撃ち殺していくトリガーハッピーなFPSではないため,銃を使うときは精密射撃でしっかり狙って撃たねばならず,接近戦でもクリーチャーが攻撃してきたらワンステップ下がってかわしてから消防斧で斬りつける,といった戦いになる。まぁ,華麗に動き回って相手の隙をついて素早く攻撃なんてのは,極寒の世界ではまず無理な気もする。クリーチャーのAIはあまりお利口ではなく,真っ向勝負を挑むような動きなので,戦闘で苦労する人は少ないと思う。
どうやら生前の役割によって武器が違うらしく,普通の船員ならば素手あるいは消防斧などを使い,溶接工ならば溶接道具を地面に押し当てて,そこから発生する冷気の衝撃波で攻撃してくる。ライフルやマシンガンを持っているヤツらもいて,いつの間にか撃ち抜かれていたりするから怖い。とはいえ,万一死んでも直前のセーブポイントまたはクイックセーブポイントからやり直しができるし,そばには必ず熱源があるので,しっかり体を暖めてから再挑戦すれば死にまくることはないだろう。
クリーチャーはビックリ系な登場の仕方なので,遠慮せず悲鳴を上げてほしい。筆者の心臓が止まりかけたのがこのシーン |
PhysX対応のNVIDIA製グラフィックスカードなら,ぜひPhysX効果有効でプレイしよう。水の表現など物理処理がリアルに再現される |
ほかのFPSやホラーアドベンチャーにはない,独特のストーリーと独特の雰囲気を持つ本作。今までにないゲームを遊んでみたい,という人にオススメしたいゲームだ。よくあるFPSのつもりでプレイすると肩すかしを食らうと思うので,ホラーアドベンチャーゲームだと考えて挑むのがいいだろう。
メンタルエコーによる過去の修正を積み重ねていくことで繋がるエンディングへの展開は,一見の価値あり。しっかりストーリーが把握できる日本語版でプレイしたほうが,クリオスタシスの世界を深いところまで楽しめるだろう。
まずは4Gamerに掲載してある体験版(英語)をプレイすれば,クリオスタシスの持つ独特の雰囲気,そして極寒の寒さが感じられるグラフィックスを堪能できるだろう。ぜひプレイしてみてほしい。
最後に,本作は物理効果をリアルに再現する「NVIDIA PhysX」対応ゲームとなっており,PhysX効果が利用可能なNVIDIA製グラフィックスカードを利用している場合は,PhysX効果オンでプレイできる。
オンにすると水が吹き出すエフェクトなどが追加され,PhysX効果があるのとないのとでリアリティは天と地の差ほど大きく,個人的にはPhysX効果なしではプレイしたくないほどだ。このへんも体験版で文字どおり体験できるので,PhysX効果の有効/無効に興味のある人は試してみてほしい。
「Cryostasis: Sleep of Reason」体験版
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