レビュー
「サバイバルとは,こういうことだ!」と叫びたくなるようなMODが今,世界的に大人気
DayZ
ミリタリーFPS「ARMA2」の大人気MOD,「DayZ」をご存知だろうか? DayZは,ARMA2のデベロッパであるBohemia Interactive StudiosのDean Hall氏が,仕事とは無関係に制作したMODで,リリース直後から口コミで評判が広まり,DayZをプレイしたい人々によって,「Steam」のセールスリストで7週間にわたってARMA2がトップになるという珍現象を引き起こした。ARMA2が発売されたのは2009年なので,発売後3年が経過してから爆発的なヒットになったというわけだ。
このMODは現在も着実にプレイヤー数を伸ばしており,ユニークプレイヤーは実に100万人以上にも達する。……と書けば,知らない人でも気になるはずだ。
ここでは,なぜこのDayZが大ヒットしたのかを探るべく,レビューをお届けしたい。
なお,掲載した写真は筆者が撮影したものだが,DayZ(つまりARMA2)は今の環境を基準にしても軽いゲームとは言えない。そのため,画質設定は最高というわけではないので,その点はご理解願いたい。
また,MODの導入方法などについてもとくには触れていないので,プレイを考えている人は,公式サイトやファンサイトなどをチェックしてほしい。
DayZ公式サイト
疑心暗鬼にかられながら生きのびる,緊迫の世界へようこそ
ベースとなったARMA2については2009年7月31日に掲載したレビュー記事などに詳しいが,このDayZの目的はいたってシンプルだ。225平方kmにもおよぶ「Chernarus」と呼ばれるゾンビが徘徊する架空の国で「生き抜く」こと。
とはいえ,ただ生き抜くだけなら,プレイヤーを見かけると攻撃してくるゾンビに出会わないように行動するだけなのだが,事態を困難にしているのは,DayZで重要なファクターであるサバイバル要素だ。Chernarusに生きるプレイヤーは,常に「体温」「水分」「血液」,そして「空腹」の要素を気にしなければならない。だいたいは分かると思うが,それぞれがどんな役割を果たしているのか,まず簡単に説明しておこう。
・体温
雨などで体を濡らし,冷えると感染症にかかってしまう。感染症になれば咳をし,出血することになる。建物の中に入るか,焚き火で暖を取るといった行動で,体温の低下自体は防ぐことができるが,かかった感染症を治すには抗生物質が必要になる。
・水分
体に必要な水分が得られなければ移動能力が低下し,出血する。落ちている飲料水の入った缶,水の入った水筒などで必要な水分を摂取できる。
・血液
攻撃を受けると少しずつ減っていくが,包帯を使えば止血できる。止血をしなければ,いつまでも出血し続ける。回復には,第三者に輸血パックを使用してもらうことが必要になる。あるいは,焼いた動物の肉を食べることでも回復する。
・空腹
空腹状態が続くと血液が徐々に減っていく。この状態では気絶しやすくなり,致命的な状況を招く場合がある。焼いた動物の肉か,町中に落ちている食べ物の入った缶詰を使用することで空腹を満たせる。
ゲーム中,プレイヤーは常に,この4つの点に注意して行動しなければならない。だが,ゲーム開始直後は所持している物資が乏しく「懐中電灯」「包帯」,そして「鎮痛剤」といった最低限のアイテムしかない。そのためプレイヤーは,廃墟と化した村や街へ行き,生き残るための物資を収集することになるのだ。
生き残るために必要な,さまざまな物資を集めよう
Chernarusの村や街には建物があり,中には食料品や衣料品,武器などの物資がある。あとは必要なものを回収するだけなのだが,ここからDayZの持つ恐ろしい世界が顔を見せ始める。
町には自分と同じく物資を探しに来たプレイヤーが訪れる。ふらりと入った建物の中で,別のプレイヤーと鉢合わせすることも少なくない。このゲームでは,倒した相手から物資を奪うことができるので,出会った相手に対してどうしても,「コイツに襲われるかもしれない」という考えが浮かんでしまうのだ。
そうなると,お互いが疑心暗鬼に陥り,そして,文字どおり「殺られる前に殺れ」という状況になる。
とにかく武器がなければ仕方がない。最初は銃なんて贅沢は言えないので,ハチェット(斧)を探してみよう |
街だろうと山中だろうと,周囲の警戒を怠るとこうなる。まったく,Chernarusは地獄だぜ! |
相手プレイヤーと戦いたくない場合,「リーン」と呼ばれる上半身を折り曲げる動作を繰り返すことで「交戦意思ナシ」というメッセージを伝えられることもあるが,これはあくまでもローカルルールで,相手が応じてくれないことも日常的に起きる。ゾンビだけでなく,いや,ゾンビより恐ろしいのはほかのプレイヤーなのだ。
さて,ゾンビやほかのプレイヤーの攻撃を受けるとどうなるのだろうか? ゲーム開始直後のプレイヤーは,血液の総量が12000(どういう単位か不明)ほどだが,ダメージを受けるとこの値が減り,8000以下になると,ゾンビの攻撃が当たるだけで気絶してしまう。気絶して倒れると,一定時間行動不能という致命的な状況に陥り,その間,周囲のゾンビから一方的に血肉を貪られるため,アッという間に血液総量がゼロになり死亡してしまう。
また,ダメージを受けると出血する(しないこともある)。前述したように,そうなった場合は,手持ちの包帯で止血をしなければならない。この際,立ち止まって包帯を使用する必要があるため,ゾンビやほかのプレイヤーに攻撃されやすくなる。そのため,敵の攻撃を受けなさそうな場所へ(血を流しながら)移動し,安全を確認してから止血しなくてはならないのだ。
気絶した状態。砂時計の白い部分がなくなるまでキー操作が無効になっている。致命的かつ絶望的な状況だ |
ゾンビはプレイヤーキャラクターを,かなりしつこく追いかけてくる。これだけ多くのゾンビに絡まれると目立ってしまい,ほかのプレイヤーからの攻撃を招くことも |
ダメージを受けると,血液が減る以外,錯乱状態や骨折といった状況に陥ることもある。錯乱状態は照準を合わせにくくなる程度で,時間と共に回復する(鎮痛剤を使用することで直すこともできる)。しかし,落下や被弾によって起きる骨折はかなり面倒で,歩くことができず,移動速度が極端に遅い匍匐しかできなくなる。治すにはモルヒネを使用しなければならないのだが,初期状態では所持しておらず,ありていに言えば,骨折したらゾンビのエサになるしかない。
自分のキャラクターが倒されてリスポーンした場合,最低限のサバイバルキットしか持っていない初期状態からのやり直しになる。
さっきまでの自分の死体が運良くほかのプレイヤーに略奪されていなければ,武器やアイテムの回収は可能(できないアイテムもある)が,プレイヤーキャラクターが復活するときは,広いChernarusのどこかにランダムに出現することになるため,かつての自分の死体のそばに復活できるとは限らない。
この「やられたら,死にものぐるいで集めたアイテムをロストする」という恐怖感が,DayZで最もエッジの効いた部分であり,それが常に念頭にあるため,プレイヤーは極度の緊迫感をもってサバイバルを続けることになるのだ。
無理に戦おうとした成れの果て。線路の上に倒れているあたり,志半ば感が余計に悲しさを誘う |
プレイヤーは何度も力尽きながら,アイテムを求めて旅をする
Chernarusで入手可能な物資にはそれぞれ「入手のしやすさ」が設定されており,手に入りにくいものが数多く存在する。
中でも,プレイヤーの生存確率を大きく左右する銃火器や衣類は需要が高い。とくに遠距離から狙撃できるスナイパーライフルや静粛性の高い銃,草木と同化するギリースーツや迷彩服は入手困難だ。そのためプレイヤーは,廃墟を転々としながら少しずつ自分の装備を強化することになる。しかし,同じように物資を探しているプレイヤーと鉢合わせることも多く,志半ばで力尽きてしまうこともたびたびある。
Chernarusの街,エレクトロザボドスク。銃声が絶えることのないホットな街で,少しでも目立った行動を取るとすぐに蜂の巣にされてしまう |
建物の2階にいたら,1階から激しい銃声が聞こえたので覗き込んでいるところ。2階は袋小路で逃げられないので,背後からの強襲で相手を無力化し,無事に生き延びることができた |
また,物資を探しに訪れるプレイヤーを殺すために待ち伏せをしているプレイヤーも少なくない。筆者は手持ちの弾薬が少なくなったため,1時間かけて軍事キャンプへ到着したが,その瞬間を狙われ,倒された経験がある。このときはトータルで18時間ほどかけて集めた装備類が一瞬でパーになり,相手を呪いたくなった。まさに「泣きゲー」だ。意味が違うが。
多種多様な乗り物が使えれば,遠隔地への遠征も楽になる
アイテムを探していると,エンジンパーツやタイヤなど,乗り物の部品を発見することがある。これらの部品は,広大なマップのどこかにある,修理可能な壊れた乗り物に使用できる。乗り物を修理し,燃料の補給が完了すれば運転できるようになり,長距離の移動が楽にこなせるようになる。
もちろん,同じ考えのプレイヤーも多く存在するため,使用可能な乗り物の奪い合いは非常に激しい。さらに,継続して使おうとするプレイヤーが多く,ほとんどの乗り物はマップのどこかに隠されてしまうため,普通にプレイしているだけでは,なかなか発見できない。
DayZならではの特徴を持ったゲームサーバー
DayZでは,キャラクターのデータがマスターサーバーへ送信される仕様になっている。送信される情報にはキャラクターの位置や所持品などが含まれており,異なるサーバーに移っても同じ状況で遊べるというシステムが採用されている。ただし,キャラクターが死亡した場合,その情報もマスターサーバーへ送信されるため,完全にリセットされる。
上記のように,送信されるキャラクターデータには位置情報も含まれているので,ゲームを再開する場合,最後にプレイヤーがいた場所からスタートすることになる。このシステムを利用し,軍事基地など武器が出やすい場所でゲームを終了させ,サーバーを繰り返し変更することで目的の物資を見つけることも可能だ。ただし,同じようなことをしているプレイヤーは世界中に数多くいるため,おいしい場所では,登場したとたんに銃撃戦に巻き込まれることもある。このように,何をするにもリスクが伴う恐ろしい世界だ。
乗り物のステータスもマスターサーバーに送信されるが,サーバーを超えた移動は不可になっている。これを許すと,乗り物を1つのサーバーに集めて独占することが可能になってしまうためだろう。
教会内でゲームを終了させ,サーバーを転々としていたときの写真。アイテムを探しに来た巡礼者からアイテムを剥ぎ取るだけの簡単なお仕事 |
サーバー関連で付け足すと,ゲーム内の時間は実世界とリンクしている。日本に置かれたサーバーに21:00に入ると,ゲームの時間も21:00になっている。上記のように,夜は真っ暗で生き抜くことが難しくなるため,会社勤めの社会人サバイバーにはやや厳しい。
サーバーで設定を変更し,昼夜を逆転させているものもあるが(そういうことはできるようだ),多少のラグは覚悟して,都合のいい時差の海外のサーバーで遊ぶのもいい選択だろう。実際,夜の時間しかプレイできない筆者は,海外サーバーを主戦場としている。
DayZのスタンドアロン化が決定! しかし,解決すべき課題も
ここまで読んで,DayZをプレイしたくなったという奇特な人もいるかもしれない。しかし,遊ぶためにはARMA2とアドオンの「ARMA2:Operation Arrowhead」をインストールしたうえで,DayZをインストールするという手順が必要になり,PCゲームのビギナーにはややハードルが高かった。
これに応えるように,Dean Hall氏がARMA2の導入を不要とするスタンドアロン版を発表したのだ(関連記事)。発売時期や価格などの詳細は現時点では不明だが,ファンにとっては朗報と言えるだろう。
と,ここまで,DayZの面白さをできる限りお伝えしてきたが,ここでちょっと問題点も指摘しておこう。まず,どんなオンラインゲームでも多かれ少なかれ見られる不正行為は,当然ながらDayZにもある。詳細はいちいち書かないが,厳しく取り締まられているとは言いにくい状況だ。
また,プレイヤースキンが勝手に切り替わったり,背負っていたバックパックが消えたりなど,本作にはバグも少なくない。リリースが予定されるスタンドアロン版ではぜひ,こういった点を修正してほしいところだ(もちろん,MOD版でもやってほしい)。
DayZのプレイヤーキャラクターは死にやすい。銃弾だけでなく,空腹や水不足で容易に倒れてしまうというひ弱な,まるで我々のような存在だ。FPSのデスマッチならほかのプレイヤーは敵であり,ただ銃弾を撃ちこむだけだが,DayZでは必ずしもそうではなく,ゾンビに襲われているところを助けてくれたりもする。もちろんゾンビの存在も,状況を複雑なものにしており,プレイヤー同士で戦っている場合ではないときもある。
死亡時のペナルティも高く,反対にアクション性は圧倒的に低い。グラフィックスも古く,見た目の派手さは乏しい。しかし,この高い緊張感は病みつきになる。「生き延びる」というただそれだけのために頭脳の限りを尽くし,ゲーム世界に詳しくなっていくにつれ,面白さがどんどん膨らんでいくのだ。
すでにこの面白さの虜になっているプレイヤーが100万人以上いるというのが,なによりの証拠だろう。あなたがもし,世に出ているゾンビゲームに物足りなさを感じているなら,ぜひ我々の仲間になってほしいと思う。
DayZ公式サイト
- 関連タイトル:
ARMA2 日本語マニュアル付 英語版
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ARMA2 オペレーション アローヘッド 日本語マニュアル付 英語版
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