レビュー
より安価になったDHARMAPOINTのヘッドセット第2弾製品を試す
DHARMA TACTICAL HEADSET(DRTCHD12BK)
» ゲーム関連でも実績豊富なベテランのサウンドデザイナー,榎本 涼氏が,第1弾製品と比べて安価になって登場してきたDHARMAPOINTのヘッドセット第2弾を評価する。より入手しやすくなった新型は,ゲーマー向けヘッドセット市場において,どのように位置づけられるべきだろうか。
第1弾となる「DHARMA TACTICAL HEADSET(DRTCHD01BK)」(以下,DRTCHD01BK)の実勢価格は,おおむね7000円台後半から9000円以下(※2009年10月28日現在)。そんなDRTCHD01BKに対してあったという,「高くて手が出ない」という声に応えて開発された,より安価で,手を出しやすいモデルというのが,DRTCHD12BKの位置づけである。
価格帯的には,DRTCHD01BKの下位モデルということになるDRTCHD12BKだが,その完成度はいかほどか。今回は,このあたりを中心に掘り下げてみたいと思う。
総じて作りは質実剛健
ヘッドフォン周りに不安はない
ヘッドセットのキモともいえるエンクロージャは,音漏れの少ない密閉型。スピーカードライバーの口径は,DRTCHD01BKの50mmから40mmへと小型化し,それに伴い,DRTCHD01BKでフルサイズヘッドフォンに近い大きさだったエンクロージャも,一回り小型化している。
意外……と述べたらDHARMAPOINTに失礼かもしれないが,卵を逆さまにしたというか,上側が広く,下側が狭いドライバーユニットの形状,イヤーパッドの厚みやクッションの弾力性,ドライバーユニットと耳との距離といったあたりの設計は,相当に考えられているようだ。中型サイズのエンクロージャを採用したヘッドフォンにありがちな,「耳たぶがイヤーパッドに当たって,そこに隙間が生まれ,音漏れが生じてしまう」問題は,よほど特殊な耳の形状をしていない限り,まず生じないだろう。
なお,示した写真を見れば分かるように,ドライバーユニットは鮮やかな赤い布で覆われている。“見えない部分”のおしゃれというわけで,なかなか心憎いデザインだといえる。
頭頂部のクッションは薄め。合皮ではなく,ヘッドセット製品でよく見られる黒い布で覆われている。本体重量が200gと軽量ゆえ,頭頂部への負担がそれほどかからないことから,優先的にコストが下げられているのではなかろうか。
このほか,DRTCHD01BKではできた折りたたみができなかったり,エンクロージャ部を本体の前方に向かって回すことができなかったり(※後方には約90度回せる)といったあたりにも,コストダウンの影響は出ているが,正直なところ,それほど安っぽくなったようにも,ユーザーにデメリットがあるようにも感じない。
マイクブームは理想的な仕様
コストダウンによる負の影響も見られない
DRTCHD01BKでは,純然たるヘッドフォンとしても利用できるよう,「ヘッドセット用のマイク一体型ケーブル」と「ヘッドフォン用ケーブル」を差し替えて利用できるようになっており,この部分の仕様が,長期利用しているユーザーの間で,耐久性という観点から評価を二分する要因となっていた。これに対し,DRTCHD12BKでは,左耳側のエンクロージャから直接“生える”シンプルな構造になっている。同時に,ブームの根元部分は回転する構造になっているが,ここも,DRTCHD01BKにあった安っぽい印象がなくなっている。
機能面だけ見るとコストダウンだろうが,強度面ではむしろ信頼感が増した印象だ。
ケーブルの全長は1.9mと,やや短め。ケーブルは,よくあるゴムっぽい素材でシールドされているだけだが,つや消し加工されているので,埃はつきにくそうである。
最近の流行? パワー感があって
ハイファイめの音質再生傾向
筆者のヘッドセットレビューでは,ヘッドフォン部を試聴で,マイク部は波形測定を軸にそれぞれテストすることにしている。波形測定方法に関しては,本稿の最後にまとめてあるので,興味のある人は併せて参考にしてほしいと思う。基本的には,測定方法を熟読せずとも理解できるよう,配慮しているつもりだ。
なお,出力品質のテストには,「iTunes」によるステレオ音楽ファイルの再生と,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,CoD4)マルチプレイのリプレイ再生を用いた。
このほかテスト環境は表のとおりとなっている。
さて,DRTCHD02BKのヘッドフォン品質だが,「ハイファイめ」といった言葉が,一番しっくりくる。
DRTCHD01BKと比べて音圧は高い印象で,そのせいか,重低域と高域は,相対的に弱く聞こえる傾向にある。クラシックなどを再生したとき,多少くすんだ音になるとか,“四つ打ち”のダンスミュージックでキックが多少弱く聞こえることもあるが,逆にいえば,気になるのはそれくらい。少なくとも,最近までメジャーだった,「低強高低」のチューニングがなされているゲーマー向けヘッドセットとは,比べるまでもなく,十二分にハイファイだ。
この傾向は,ゲームサウンドでも維持される。CoD4でゲームサウンドをチェックしてみると,パニング(Panning,音源の移動)に不自然な感じはない。また,テストで用いているサウンドカード「PCI Express Sound Blaster X-Fi Titanium」から,バーチャルサラウンド機能「CMSS-3Dheadphone」を有効化しても,聞こえ方はいたって素直である。
印象的なのは,プレイヤー正面の音が,一般的なゲーマー向けヘッドセットと比べてしっかり定位することだろうか。
先ほど述べた低域や高域の落ち込みも,「低域や高域特性に優れたヘッドフォンと比べると多少落ちる」という程度なので,地鳴りや爆発音といった低音,あるいは銃声などの高音は,問題なく(迫力と生々しさをもって)再現される。
最近のヘッドセットレビューでは毎回のように繰り返しているが,高域が落ち込んでいない分,自分で撃った銃の音など,突発的な金属音は,非常に大きなパワーを持って再生されるので,ボリュームの上げすぎには要注意だ。
感度がやや高めなことを除けば
マイクもかなり使いやすい
マイクのテスト結果は下に示したとおり。DRTCHD12BKの周波数特性は30Hz~16kHzだが,実際に計測してみた限りは,40Hz~20kHzが測定できている。2kHz弱より上の周波数帯域が相対的に強いため,それ以下がずいぶんと弱く感じられるが,実際は「2kHz弱以下と比べて,それ以上が10dB以上強い」と捉えるべきだろう。高周波を強調している一方,低周波もかなり伸びており,マイクの周波数特性としては悪くない。位相のズレも皆無だ。
なお,1.5kHz付近に鋭い落ち込みが見られるが,テストに用いたスピーカーシステムにおいて,ウーファーとトゥイーターのクロスオーバーポイントが1.8kHzに設定されているので,これに引っ張られたものであると思われる。
ただし,入力感度が非常に高いため,サウンドデバイス側の設定を変更しないまま,ほかのヘッドセットから移ってくると,「シー」というヒスノイズが聞こえてしまう可能性があることは憶えておいてほしい。使用する前には,入念に入力感度の設定を行っておきたいところだ。
ちなみに入力した声だが,全体的に落ち着いたニュアンスの音としてチャット相手に伝わることになる。低弱高強型の特性を持ったマイクの場合,ハリのある,ややもするとキンキンした声で入力されてしまうことがあるのだが,DRTCHD12BKでそういった不安はない。おそらくこれは,低域までしっかりと入力されるためだろう。
いい悪いという話ではなく,純然たる傾向として,より音楽的なマイクだといえるかもしれない。
決して「最高」ではないものの
価格対性能比はかなり高い
ただし,冒頭でも紹介したとおり,2009年10月下旬時点におけるDRTCHD12BKの実勢価格は6000円前後。一般PCユーザー向けの“ボイスチャット用ヘッドセット”はさておき,ゲーム用途を想定した製品として,最も安価な部類に入る製品であるという前提に立つと,その評価は変わってくる。入出力品質,そしてハードウェアの完成度は,明らかに価格を超えており,本製品は間違いなく,よいヘッドセットだ。
DRTCHD01BKは,出力品質という面で強烈な印象を残してくれたが,今回のDHARMAPOINTは,「ゲーマー向けヘッドセットのコストパフォーマンス」に関する期待を,いい意味で裏切ってくれたといえるだろう。
ともあれ。使用するに当たっては,出力レベルとマイク入力レベル,とくに後者の調整を,しっかり行っておきたい。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(ADAM製の「S3A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力して,計測するわけだ。
アナログ接続ヘッドセットの場合は,入力用PCに取り付けてあるサウンドカード,USB接続ヘッドセットの場合は,マザーボードのオンボードUSBポートと接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。アナログ接続ヘッドセットのテストに当たっては,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みである。
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから24kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。
15kHz以上の高域は,人間の声を認識するにあたりまず必要ない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純に声以外の高周波ノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80~500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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