インタビュー
なぜ「ストリートファイター オンライン マウスジェネレーション」はマウスアクションゲームになったのか? 開発者達に聞くその開発秘話
カプコンの看板タイトルであるストリートファイターシリーズを,このような形でオンラインゲームにするというのはかなり大胆な試みで,「なぜこんな形になった(しちゃった)のか?」という考えを持った読者も多いのではないだろうか。
今回4Gamerでは,ダレットでSFOのプロジェクトに携わっている,ダレット 総合戦略局 局長の波多弘幸氏,コンテンツプロデューサーの内田洋平氏,テクニカルディレクターの三澤 剛氏のお三方に話を聞く機会を得た。
以前,「こちら」の記事でSFOに関してちょっとだけ話を聞いたが,なぜSFOがこの形でオンラインゲームとして登場することになったのか,ダレットはSFOをこれからどのように展開していくつもりなのかなど,根掘り葉掘り聞いてきたので,ぜひ目を通してほしい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,あらためてSFOを作ることになった経緯を教えてください。
そもそも稲船※1と話をして詰めてきたんですけど,カジュアルなゲームをPCのオンラインで作ろうというのがありました。どのようなジャンルのゲームを作るかというのもあるんですが,最初にカプコンのIP※2を上手く料理しようというところから始まったんです。それがSFOのスタートラインですね。
※1 ダレット代表取締役社長の稲船敬二氏 |
※2 知的所有権[財産権](Intellectual Property rights) |
4Gamer:
そこで「ストリートファイター」という,カプコンで一番重みのある看板を持ってきて,ものすごい料理方法になりましたね。
波多氏:
たとえば同じ牛肉を使うにしても,それをフレンチにするか牛丼にするかで全然変わったものになりますよね。それでいったら「SFO」はどちらかといえば牛丼のほうですが。あえて言いますが,正統のストリートファイターシリーズに太刀打ちしようなんて毛頭考えていません(笑)。カリスマシェフ入魂の逸品というより,皆が気軽に味わえる大衆料理のほうを目指しましたから。
4Gamer:
目指すところが全然違いますからねえ。先ほど「カジュアルゲームを作ろうというところからスタートした」とおっしゃりましたが,その前段階として,会社としての意識は「ダレットワールド」とカジュアルゲームのどちらが重要視されていたんですか?
波多氏:
PCでやっていくことに対して,どのような着地点を出していこうかという議論がまずありきで,そこは似たような感じです。稲船の構想がまずあって,一つはコミュニティを充実させること,あと一つは手軽に遊べること。その路線で行こうということは最初から決まっていました。
4Gamer:
そこで,オリジナルを作ろうという方向には行かなかったんですね。
波多氏:
まあ,親のすねをかじれという部分もありますが(笑)。
4Gamer:
でも,あれだけのIPですから,うかつなことでは料理できないように思えます。ダレットが本格的なスタートを切るときに「SFO」を出してきたのは,衝撃的でした。反響はどうでしたか?
“ストリートファイターをマウスで操作する”というのをまだ信じてもらえていない部分もあるようですね。個人的には,実際にプレイして体感してもらえれば分かると思うんです。社内でも,数回プレイしてもらえば,どんどん上手くなるのを見ているんで。
SFOは対戦格闘ではなく対戦アクション
4Gamer:
どちらかといえばネガティブな判断をしている人を含めて,ストリートファイターという格闘ゲームの操作がそのままマウスになったと考えている人が多いと思うんですよ。実際にプレイしてみると,まったく別物でした。
僕らはSFOを対戦格闘とは考えていないんです。どちらかといえばアクションとかシューティングに近いノリですね。
4Gamer:
あの独特の雰囲気や操作感はなかなか形容しづらいです。
波多氏:
僕らもそれでよく議論するんですけど,前例のないゲームだから答って出ないんです。例えば,マウスだけで操作できるゲームはありますよね。RPGなら,キャラクターを動かしたい場所にマウスカーソルを動かして,クリックするとキャラクターが反応して移動します。そこにはマウスカーソルが必ずといっていいほどありますが,SFOは,マウスの動作がキャラクターの操作に直結しているんです。
だから,より「直感的」な感覚を楽しむことになります。これは今までにない感覚だと思いますね。
4Gamer:
なるほど。「マウスを動かしてマウスカーソルでキャラクターの動きを決める」ではなく,「マウスを動かすとキャラクターが動く」ですね。それってマウスの挙動に合わせてキャラが動くFlashゲームとかの感覚に近いと思うんですが。
三澤氏:
そうですね。最初に作るときに「こういう動きができたらいいな」というので出したのが,ゴムでキャラを引っ張るというような感覚です。なので,動かし方としてはそれに近いですね。ただSFOでは,動きそのものを楽しむのではなくて,アクションを楽しむというところを突き詰めています。
4Gamer:
車でいえばオートマ車みたいな感じですね。下手な人でもそれなりに扱えるけど,上手い人がやるとすごく速いという。既存の対戦格闘ゲームは6速マニュアル車みたいに乗り手をかなり選びますが,SFOは本当に片手で十分遊べますし,気軽でいいなという印象を持ちました。
波多氏:
キャラについても,5頭身キャラにする案もあったんですけど,そういうのには結局しませんでしたね。
内田氏:
デザインを起こしたことはあったんですけど,しっくり来ませんでした。
波多氏:
「カジュアルにしました」という感じが漂って来ちゃうんですよね。カジュアルゲームで気楽なのはいいんですけど,意味なくチープに写るのだけはいやだったんですよ。そこは日本のゲーム屋としての意地というか。そこでリボルテックが出てきたんですね。
内田氏:
キャラクターをフィギュアとしてみせるという段階があったので,そこからリボルテックにたどり着いたんです。
4Gamer:
リボルテックで興味を持った人も多いと思いますね。
三澤氏:
海洋堂さんも力を入れてやってくださっていて,頭が下がる思いです。動きもすごく早かったですし。
波多氏:
海洋堂さんもマウス操作は面白がってくれていましたね。
4Gamer:
コアゲーマーじゃない人こそ面白いのかもしれません。
内田氏:
最初に触ると皆さんどうしていいか分からないんですけど,操作方法を簡単に教えると,分かってもらえるんです。
波多氏:
そのあたりのチューニングは,けっこう皆で時間をかけて検討しましたね。
4Gamer:
PCオンラインゲームにもコンソールにもない操作方法だから,調整にはかなり時間がかかりませんでしたか?
内田氏:
そうですね,最初はもうちょっとゴムで引っ張るような感じで,マウスで引っ張って移動の繰り返しのような感じだったんです。それで思い通りに動かせるのかとか協議していきました。反応を速くしてみたり,マウスカーソルに完全に連動する形を試したりしたこともありました。でも,それだと人の感覚が追いつかなくなって,操作できなくなるんですよ。なので,キャラクターからラインが出ていて,ガイドがあるという状態になりました。
4Gamer:
操作系で一番苦労したのはどこですか?
どの角度になったらジャンプで,どの角度だと移動なのかというところですね。単純に45度とかじゃなくて,移動のほうの幅を広く,ジャンプは狭く設定しています。その角度を直感的に出せるようにするのが難しかったですね。
内田氏:
あと,自分のキャラからガイドをどれだけ離したら移動,どれだけ離したらダッシュするとかの距離感もですね。
4Gamer:
そこはどうやって詰めたんでしょうか。
三澤氏:
最初はそこを分かりやすくするために,キャラクターの周りに円状のガイドを置いたんですね。その内側だったら止まる,外側なら歩く,一番外だったら走る,という感じだったんです。ただ,ガイドを作って調整しているうちに,ガイドがなくても感覚的に遊べるようにバランスが取れてきたんです。
4Gamer:
ちなみに,グラフィックス面で設定を変えられたりするんですか?
三澤氏:
本当はプレイヤーにあまり見せない方向で,設定したい人はオプションから選べるくらいにしたいですね。
内田氏:
基本的には,グラフィックスボードが入っていない場合は軽めになるよう,自動設定される感じです。ただ内蔵グラフィックス機能の場合,動作保証外になってしまいますけど。
4Gamer:
どのくらい変わるのでしょうか。
三澤氏:
影の部分とか,キャラクターのテクスチャの解像度とかが変わるんですけど,設定を下げてもあまり変わらないんですよ。ライトモードでも十分綺麗というか。
4Gamer:
まあ,画面の綺麗さを追求するのが目的のゲームではないですしね。
内田氏:
そうですね。まったくそこは考えていません。グラフィックスクオリティについては,切り捨てた部分ですね。誰でも遊べることを考えたときに,スペックというのはまっ先に切り捨てた部分です。そのぶん,悲しいくらいポリゴンが目立つところもあるんですけど。
もちろん,綺麗であれば視覚的に楽しいと思える部分もあるとは思うんですよ。ただ,僕らはその楽しさとは別のベクトルでいこうと。
4Gamer:
本当にカジュアルなものを目指すなら,そこはこだわるところじゃないですしね。
波多氏:
ただ,NVIDIAさんのグラフィックスボードを使うと,ちょっと違うんです(笑)。
4Gamer:
宣伝のタイミングが絶妙ですね(笑)。
ところで,SFOはいわゆる正統の派生作品ではないことから,“ストリートファイター色”をどう薄めていくかが,今後のプロモーションでは重要だと思うのですが。
三澤氏:
今はキャラクターが8体いて,今後は新しいキャラクターをどんどん入れていくと思うんですけど,ストリートファイターではないキャラクターを入れることで,その色は薄くなっていくんじゃないかなと思うんです。
ストリートファイターという名前を使うことに対して,かなり議論はあったんですが,いろんな派生があってもいいね,という話もありました。PC/オンラインゲームでは,そのプラットフォームに併せた進化をせざるを得ないという認識でしたね。
対戦格闘ゲームのヒエラルキーをそのままオンラインゲームに持ち込んだら,強い人だけが満足できるというものになってしまい,参加ユーザーの数は少なくなってしまいます。そこをまず脱却しないといけない。
名前を変えるという案もあったんですが,そこはストリートファイターから派生した新しい形だということを打ち出すためにも,冠として残しました。その代わりに,続く言葉として「マウスジェネレーション」と入れたんです。
4Gamer:
対戦格闘ゲームのヒエラルキーというのは,良くも悪くも日本のゲーム文化の伝統ですね。
オンラインゲームに関しても,レベルの高い人だけ楽しめるコンテンツが山ほどありますし,それがないと成立しないというのもあるんですが,それだけに頼ってもいけない。MMORPGなどについても,そういうバランスを今後どうしていくのか,疑問に感じているところではありますが,まさかそれをアクションゲームで覆してくるとは正直思いませんでした。
ちなみに,上手い人はどのようなところにSFOで楽しみを見い出せるんですか?
三澤氏:
実は,上手い人はマウス操作でも上手いんですね。対戦格闘ゲームほど上手い下手での差は開かないんですが,コンボをつないだりとか必殺技を使ったりとかの部分が違うのは,見ているだけでも分かりますね。
内田氏:
基本的には,上級者と初心者の垣根をなくすために操作性をとにかく簡略化しました。いわゆる“コンボゲー”と言われるゲームは,操作性を追い求めた一つの結果です。そういうのはいやで,別のどこかに駆け引きの要素がほしかったんです。SFOでの大きな駆け引きの要素は何かというと,「予測」しかないんです。
4Gamer:
相手の動きの予測ですか?
内田氏:
ええ。SFOでは,スーパージャンプを含めて3段ジャンプができて,空中でも横方向にダッシュできますが,いずれは下りることになります。下から狙うことは常にできるんで,そこでの読み合いですよね。ただ,コントローラと違ってマウスで操作するので,自分の思い通りにいかないことが多々あるわけです。そこはわざと残したのですが。
防御の概念をなくしたので,どのタイミングで殴るか,飛び道具を出すか,避けるのかというところで予測になり,アクションというかシューティングっぽい感じになっていますね。
4Gamer:
あぁ確かに,防御がないと対戦格闘っぽさは薄れますね。
三澤氏:
あと,対戦格闘ゲームをやったことがない人でも,何回かプレイするとその人なりの戦術を組み立てていくのが,見てて分かるんです。そういう楽しさをいろんな人が求めていける,間口の広さがいいところじゃないかな,と思います。
内田氏:
どうしても空中にいるほうが不利になるんで,地面で殴り合ってもらうのを暗に推奨する形にはなります。ただ,それだけだと面白くないので,3段ジャンプや空中ダッシュといった,相手の予測を外す仕組みを入れたり,必殺技の隙をそこそこ大きく取ることでギャンブル的な意味合いを強くしたりしています。
波多氏:
念のため申し上げますと,従来のストリートファイターシリーズのファンを冒涜するつもりも無視するつもりもないんです。技の出し方などはオンラインでマウスでというカジュアルな形に変えていますが,その根っこは「もう一度同じスタートラインに立ってゲームをやろうよ」というところなんですね。
ストリートファイターのスピリットというのは,もともとゲームセンターでプレイして,ギャラリーがいて見ているだけでも面白い,という熱気があったと思うんです。それはリプレイのアップロードでコメントを入れられたりとか,別の形で僕らなりに消化して出していきたいなと。やっていることはアバンギャルドでファンキーな感じかもしれないですけど。その根幹は外していないつもりです。
内田氏:
そうですね。最初に考えていたSFOは「ストIIの再現」なんです。ただ,先ほども言ったように“コンボゲー”にはしたくなかったので,初代「ストリートファイター」のような雰囲気を目指しています。
4Gamer:
有力なシリーズものを持っているメーカーが出したタイトルで,そこから冒険しようとした作品というのは,躊躇が明確に見て取れるんですよね。「ここは捨てられないから残しておこう」というような。むろんそれは日本に限ったことではないんですけれど。
その点では,SFOは何も躊躇がないというか,かなり思い切っていますよね。キャラクターと名前以外残っていないといってもいいくらいで。
波多氏:
そこまでいくにはいろいろとありました(笑)。
三澤氏:
ふっきれた瞬間みたいのがありましたね。
内田氏:
ふっきれたのかふっきられたのか分からないですけど(笑)。
4Gamer:
今の形を思いついたときも,かなり躊躇があったんじゃないですか?
そうですね。躊躇というよりも「本当にこれをやっていいんだろうか?」という考えもよぎりました。ただ,皆で楽しんで盛り上がれるものだったので,それをオンラインでユーザーの皆さんにプレイしてもらっても,そういう盛り上がりの需要はあるだろうと。パーツの組み合わせとか,今後実装するカットインシステムとか,ユーザーが作るコンテンツにも起因すると思うんですが,そういうところに持って行けるんじゃないかという思いはありました。
対戦格闘が大好きだからこそSFOをどう面白くするかに悩んだ
4Gamer:
自分達が楽しいと思ってやっているのは大切ですよね。我々の記事もそうですが,楽しんで書いていないものは,ユーザーに伝わりますから。
そういった苦労は何年間くらい続いたんですか?
波多氏:
3年前くらいに企画が立ち上がって,ちゃんと作り出したのは1年前になります。それまでの2年間は躊躇の連続でしたね。吹っ切れてからは早かったです。
内田氏:
多分,一番未練があったのは僕でしょうね。ぎりぎりまでいろんなところに未練があって,ずっと文句言ってました(笑)。
三澤氏:
内田は格ゲー大好きですから(笑)。
そうなんですよ。ほとんどの格ゲーをやっていたんで,まず自分の固定概念を崩さないといけなかったんです。マウスだけ操作できるようにしましょう,パーツの組み替えもできるようにしましょう,というのは最初の頃にアイデアが出たんです。ですけど,その目指すところや操作感を,自分でどう作っていくのか,どうしたら面白くなるのかというビジョンが見えなかったんです。
4Gamer:
格ゲーファンであればなおさら抵抗があったと思うんですが,そこはどこで吹っ切れたんですか?
内田氏:
めちゃくちゃ抵抗はありましたけど,マウスに操作を集約すると決めた時点で吹っ切れました。マウスだけにすると,余計なものを捨てるしかないですよね。ガードであったりとか,中パンチ/中キック攻撃であったりとか,しゃがみであったりとかいった要素をまず切り捨てました。シンプルで誰でも遊べて,プレイヤーが一番楽しいと感じられるものにするか考えて,いまの形にたどり着きました。
波多氏:
それにはタイミングもあったんです。ダレットの打ち出すゲームを考えたときに,まず第一弾の「MHF」※,これはモンスターハンターシリーズ自体が本当にいいゲームで,MHFも本当にいいオンラインゲームになったと思うんですけど,まだ半分コンシューマの血が残っていると思うんです。
今回,SFOで「コントローラを使ってください」って言ってしまったら,その瞬間に,オンラインに入り込めてないな,オンラインと向き合ってないなと思われてしまうだろう,それはダレットとしてどうなんだろうというのがありました。
※「モンスターハンター フロンティア オンライン」 |
4Gamer:
やっぱりキーボードとマウスで操作してこそPCゲームという。
波多氏:
僕もカプコンのPCゲーム畑でずっとやってきたんで,その感覚があるんですね。キーボードを使うという手もあるんですけど,それだとPCゲームのある意味“悪い部分”を脱却できていない。だったらそこも越えてしまおうと。第2弾であるSFOで現在形を飛ばして未来形を示すことで,ダレットはこれだけの懐があって,その中でオンラインというものを考えているんだと打ち出したかったんです。
4Gamer:
簡単といわれているカジュアルFPSですら求められるキー操作が多かったりしますからね。
とにかく幅を広げよう,誰でもできるようにしようというところをアピールしたいんです。PCゲームで考えると,スペックと操作性の二つがどうしても問題になりますよね。グラフィックスチップに何を使っているかなんて,一般のユーザーさんには分からないですし。
操作性の垣根を取り払い,スペックの垣根を取り払えば,PCゲームってもっともっと注目されると思うんです。実際に遊んでオンラインゲームの楽しさを感じてもらえれば,僕らもすごく嬉しいです。
三澤氏:
SFOは,マウスさえあれば誰でもPCにインストールしてすぐに遊べます。あと,マウスのいいところは,操作にすぐになじめるというところです。例えば“逆ヨガ”なんて説明しても,普通の人には分かってもらえませんが,操作がWindowsのマウス操作と共通なので,「ドラッグ」とか「クリック」で理解してもらえるんですね。
4Gamer:
共通言語というのは大きいですね。
波多氏:
ゲームはやっていなくても,PCを使っている人は多いですからね。「家事を済ませた主婦の方がちょっと空いた時間にSFOで」みたいな感じでプレイしていただければと。
4Gamer:
文字どおり「誰でも遊べる」ものでないと広まっていかないですよね。今のゲーム業界って多分,長く遊ばせるために難しい方向,複雑な方向に進化していって,誰も追いつけないところに進んでいると思うんですが,それは微妙だなと感じるんです。どう考えても新規の人が入ってこられない。
なので,SFOのようなタイトルが出てくることは,業界全体にとってもプラスなんじゃないかなという気がします。
三澤氏:
子供の頃は,ゲームで何十時間も遊べるのはとても魅力的だったんですけど,大人になって何十時間と言われると引いちゃう部分もあるんですね。そこで手軽っていう意味で,5分10分という短い時間でも楽しめる,そういうところに持っていけたらなと考えています。
4Gamer:
そういう意味では,一番の成功例は「パンヤ」※ですよね。ライトなカジュアルゲームがよりエンターテイメント性を増したタイプのゲームがこれからもっと求められるのかもしれません。その壁を越えたタイトルはまだあまりないですが。
個人的には,その壁を象徴する一つがインストーラだと思うんです。インストーラをダウンロードして実行して……となると,途中で面倒になって止めてしまう人は,かなりの数いるんじゃないでしょうか。
※「スカッとゴルフ パンヤ」 |
三澤氏:
実は,SFOはWebインストーラという形なんですけど,スタートボタンを押すと,ダウンロード/インストール/プログラム実行までを一挙に行うんです。途中,利用規約の同意やActiveXのインストールがあるんで完全に自動とはいかないのですが。
4Gamer:
なんと! それはすごい!
内田氏:
Webの通販サイトなどでは「1クリックで見積もり」とかあると思うんですが,そういうのはゲームでも必要ですよね。
4Gamer:
そう,それがなかったんですよね。
波多氏:
PCゲームでいえば,セットアップを起動して,長々とした利用規約を表示させてという流れがどうしてもいやだったんです。
内田氏:
あれを待っている間に「もういいや」という気持ちになってしまいますよね。
4Gamer:
PCゲーマーにとっては慣れていることなので大丈夫なのかもしれませんが,SFOが目指している層,PC自体にあまり明るくない層のプレイヤーにとっては,明らかにネガティブな要素になりますよね。ちなみに,ダレットワールドも同様の仕組みですか?
波多氏:
そうです。
PCゲームってけっこう輸入の概念ってあったと思うんです。それが韓国は韓国なりに消化されたんですけど,日本はなぜか消化されないんですね。そういう文化にここ数年僕らはわだかまりを感じていたんですが,「僕らはPCゲームをもっともっとこんな風に楽しくできるよ」というのをちょっとだけ提案できたかなという気がします。稲船が言っている,「インターネットをちょっとだけ面白くする」という思いにちょっとだけ近づけたのかなと。
SFOのライバルはゲームではなく夜の連ドラ?
4Gamer:
それにしても,SFOは記事の注目度も高いですね。
波多氏:
賛否両論あると思うんですけど,注目度が高いのはありがたいことです。
三澤氏:
クローズドβテスト以降,否定的な印象を持っている方に好意的な印象を持ってもらえるかどうかが大事ですね。
ストリートファイターシリーズをプレイして楽しかったけど,作を重ねるごとに難しくなって止めてしまった人が,もう一度やってもいいかなと思って,実際にやって楽しかったと言ってもらえるようにしたいです。
4Gamer:
対戦格闘ゲームとして正統な進化をしていく限りは戻れないですからね。
内田氏:
あと,年を取ると反応速度にも差が出てきますから。
4Gamer:
あと,面倒なことをしたくなくなりますよね。ルールを覚えて技を覚えてタイミングを覚えてと,やることがたくさんありすぎますから。24時間しかない時間の中で,プレイヤーはやることが山ほどあるわけで,そのなかでいかにプレイするモチベーションを持たせるかですよね。
いままでとは違うアプローチをしなきゃいけなくて,そう言う意味では,SFOのライバルはゲームじゃない別のものになるかもしれません。それは「焼鳥屋で一杯」かもしれないし,「月9の連続ドラマ」かもしれない。ゲームというジャンルをも超えた「ハイタッチ」なところでの時間の取り合いかもしれない。ゲームで世界は変えられないかもしれないけど,ほんの一瞬でも時間を忘れて夢中になれる。ゲームにもそのくらいの力はあると思うんです。
4Gamer:
ゲーマーではないライトな層に向けては,まさにそういうところがライバルですよね。ゲーム同士で時間の取り合いをする時代は,もう終わりかと。
内田氏:
このゲーム自体,プレイヤーありきのスタンスを取りたいんです。僕らが最初は用意するんですけど,プレイヤーの皆さんに楽しんでいただいて,その意見を汲み入れていくような感じで。
三澤氏:
いずれは,プレイヤーの皆さんの力を借りて作る,カットインシステムのようなコンテンツで,一緒に盛り上がっていきたいなと思っています。
4Gamer:
プレイヤーのほうを向いて作ってもらえるというのは,非常に嬉しいですね。ぜひ実践してほしいです。今後は具体的なプランとして,どんな機能を実装予定なんですか?
三澤氏:
先ほどのカットインシステムとか,吹き出しを入れられるとか,リプレイを保存できるとか,プレイヤーが作れるものですね。まだお伝えできないんですが,いろいろと考えています。クリアしないといけない問題もあるんですけど。プレイヤーが楽しんでもらえるというものを積極的に出していきたいですね。
波多氏:
あとはダレットワールドとの相乗効果ですね。ダレットワールドの中でSFOのアバターアイテムを用意して,それをダレオくんとダレコちゃんに着せられたりとか。
SFOで組み替えたパーツって,戦っているとき以外に見せるところがないじゃないですか。それを見せるためのビジュアルロビー的なところを強化したいなと。またそういう場所は,やっぱりダレットワールドであるべきだと。すべてのコンテンツがダレットワールドにつながっている感覚,それを大切にしたいです。
4Gamer:
MMOならゲーム内に見せる人がいるからいいですけど,SFOだと確かにブログとかゲームとは別に見せる場所がほしいですね。
三澤氏:
そのあたりは具体的に動き出しているので,実現できる段階になったら順次発表していきたいと思います。
内田氏:
Webや携帯電話との連動はずっと課題としてあるので,必ず入れるつもりです。それがどこまでできて,どれだけ面白いものにできるのかが課題ですね。
波多氏:
方向性として見えているのは,携帯電話とかモバイルは最終的なものにはなり得なくて,情報を得て「早く家に帰って遊ぼう」と思わせる,トランシーバ的な役割として見ていきたいな,というのはあります。
4Gamer:
携帯電話で組み替えとかできたら楽しそうですね。そういうオフの場で楽しさを提供できるのが,真のオンラインエンターテイメントになっていくんだろうな,という気がします。MMORPGはたしかに素晴らしくよくできていますし,とても面白いんですけど,基本的に外には向かわないで完結しているんですよね。
一部のメーカーは,先の展開を見据えてその取り組みを始めているので,来年くらいから多分変わってくるんでしょうけど,SFOのようなカジュアルなゲームに,その扉を押し開いてもらいたいところです。 最後に,読者に向けてのメッセージをお願いします。
波多氏:
まずSFOができたのは,稲船の支持があってこそ,そしてこの企画を許容してくれたカプコンという会社の器の大きさがあってこそです。そして,SFOの開発に携わってくれたすべての人たちの力添えがあったからだと思います。
“マウスジェネレーション”という新たな切り口で,皆さんと一緒に同じスタートラインから,気楽にオンラインエンターテイメントを始めましょうというものです。興味を持っていただけたなら,ぜひ一度プレイしてみてください。
三澤氏:
僕もアクションゲームが得意ではなく,コマンドが出せなくて悲しんでいたクチなんです。SFOでそれがマウスで簡単にできるようになったのがすごく嬉しいです。それをいろんな人に楽しんでもらいたいですね。
内田氏:
誰でも楽しめて,みんなが面白いと言ってもらえるものにする,それに尽きると思います。それを目指して作っていますし,そういうものにするので,ご期待ください。
4Gamer:
言い切りましたね(笑)。SFOの今後に期待しています。ありがとうございました。
ダレットでは,2007年7月からMHFの正式サービスを開始しており,このSFOが第2弾タイトルとなる。いずれもカプコンの看板タイトルで,コンシューマゲーム機からPCにそのプラットフォームを移したものだが,そのコンセプトはまったく違うものであることは,このインタビューを読んでくれたならお分かりいただけたはずだ。
SFOが「マウスだけで操作できる」という独特の操作方法を採用したのは,単に気軽にプレイできるカジュアルなゲームにするだけでなく,ダレットがPCオンラインゲームに真剣に取り組むというスタンスを示すものでもあったわけだ。
SFOの発表時は,「対戦格闘ゲームをマウスだけで動かすってどうなの? ちゃんとできるの?」という疑問がまず思い浮かんだことだろう。「こちら」の記事内でそのプレイフィールをお伝えし,このインタビュー内で内田氏と三澤氏が語っているように,実際にプレイしてみると,意外に手になじむというか,違和感を感じないものであった。ただし,その感覚を伝えるのは非常に難しいとも思う。
ただ,インタビュー中にも出てきたが,“格ゲー大好き”な内田氏が「誰でも楽しめて,みんなが面白いと言ってもらえるものにする」と断言したように,かなりのこだわりを持って制作中の本作は,対戦格闘ではない“新感覚”アクションゲームに仕上がるのかもしれない。
また,カットインシステムやリプレイデータの保存など,プレイヤーが“遊べる”要素の自由度が高く,今回は掲載できなかったが,これからさまざまな仕掛けを用意しているとの話を聞けたので,それにちょっと期待している。
本記事の冒頭で述べたように,本日からSFOのクローズドβテスター募集が開始されている。4Gamer読者枠も200名分確保してもらったので,本作に興味を持った人はふるって応募してほしい。
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ストリートファイター オンライン マウスジェネレーション
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