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Intel,Silvermont世代のスマホ向けSoC「Atom Z3400/Z3500」を発表。Snapdragon 800やApple A7をしのぐ性能をアピール
Atom Z3400/Z3500でSilvermontアーキテクチャが
スマートフォン向けAtomにも
Intelは2013年9月に,開発コードネーム「Bay Trail-T」ことタブレット端末向けSoC「Atom Z3000」シリーズを発表した(関連記事)。なかでも「Atom Z3740」は,Windows 8.1搭載タブレットに広く採用されて,成功を収めつつあることはご存じの人も多いだろう。
このAtom Z3000シリーズは,それ以前のAtomが採用していたマイクロアーキテクチャを一新した,開発コードネーム「Silvermont」と呼ばれるマイクロアーキテクチャを採用するものだ。Silvermontは,命令の順番を変え高速な実行を可能にするアウトオブオーダー実行によってシングルスレッド性能を向上させたうえ,64bit命令もサポートするなど,大幅な機能と性能の向上を計ったアーキテクチャであった。
今回,発表された新SoCも,このSilvermontマイクロアーキテクチャを採用しており,低消費電力と高性能を両立させてスマートフォンやタブレットでの採用獲得を狙っている。
どちらも製造プロセスは,Intelの最先端プロセス技術である22nm 3次元トライゲート・トランジスタを用いている。ちなみに,PC用CPUは,2012年登場の「Ivy Bridge」から22nm世代へ移行していたので,スマートフォン向けAtomはほぼ2年遅れでのプロセス移行になったわけだ。
両シリーズとも,対応OSはAndroid 4.4(KitKat)となっている。なお,どちらもAndroidスマートフォン/タブレットに向けた製品に位置付けられているため,Windows 8.1は当面サポートしないそうだ。
これによりAtom Z3500シリーズでは,従来のスマートフォン向けAtom「Atom Z2500」シリーズ(PowerVR Series5採用)に比べて2倍のグラフィックス性能を持つと謳われている。またGPUコアはOpenCLやRenderScriptをサポートし,VP8形式のビデオエンコーダ/デコーダ機能もハードウェアで搭載するとのことだ。
今回発表されたAtom Z3400シリーズの製品「Atom Z3480」は,2 CPUコアを搭載して,CPUコアの動作クロックは最大2.13GHzとなり,Atom Z2580よりも若干高クロックでの動作が可能になっている。Atom Z3500シリーズは,まだ具体的な製品が発表されていないが,公開された資料によれば,CPUコアの最大動作クロックは2.3GHzとのことだ。
なお,Atom Z3400とAtom Z3500は,どちらもIntel Hyper-Threading Technologyには対応しない。その代わりIntelでは,アウトオブオーダー実行に対応したことによる性能向上をアピールしているが,Atom Z2500世代と比べてどれくらいの性能差があるのかは,今のところ未知数だ。
メモリ周りの仕様も若干異なる。Atom Z3400シリーズがLPDDR3(Low Power Double Data Rate 3)1066MHzまでの対応に対して,Atom Z3500シリーズではより高速なLPDDR3 1600MHzにも対応するそうだ。
Atom Z3480のGPUコアは,PowerVR Series6の「G6400」を,Atom Z3500シリーズは「G6430」を採用している。G6400は,GPU内部の汎用シェーダユニット「Unified Shading Cluster」を4基搭載するGPUで,G6430はG6400にキャッシュメモリを追加するといった改良を施した上位モデルという位置付けだ。
Atom Z3400シリーズとAtom Z3500シリーズの違いを,シンプルに見せたのが次のスライドだ。青い部分が両シリーズで共通の部分で,緑色の部分がAtom Z3500シリーズのみの仕様だ。CPUコアの数とGPUコア,およびメモリインタフェースなどは異なるが,周辺回路はほぼ共通しているのが分かるだろう。
「Display Ctrl」と書かれている部分も緑色になっているが,これは液晶パネルとのインタフェース回路のことだ。Atom Z3400シリーズでは,ここに使われる「Display Serial Interface」のレーン数が3本なのに対して,Atom Z3500シリーズでは5本となっており,解像度が高い液晶パネルにも対応できるそうだ。
Snapdragon 800やApple A7に対する性能面の優位性をアピール
IntelはAtom Z3480のベンチマークテスト結果も合わせて公開し,競合他社,とくにQualcommやAppleに対する性能や電力効率の高さをアピールしてきた。
たとえば3Dグラフィックス性能については,Androidでは有名なグラフィックスベンチマークアプリである「GFXBench 2.7」の「Egypt HD」による計測結果を示している。比較対象はApple製SoC「A7」を搭載する「iPhone 5s」と,Qualcommの「Snapdragon 800」を搭載したSamsung Electronics製Androidスマートフォン「GALAXY S4」である(※NTTドコモが販売する「GALAXY S4 SC-04E」とは仕様が異なる)。
グラフを見ると分かるように,Atom Z3480搭載リファレンス機は,iPhone 5sよりも高性能で,GALAXY S4にはやや及ばないという程度の結果となっていた。Apple A7のグラフィックスコアは,PowerVR G6430であり,Atom Z3400が搭載するG6400より上位のGPUコアである。それに勝るスコアをあげているのは,CPUコア部分の性能差であろう。GALAXY S4との差はごくわずかであり,「Atom Z3500では逆転できる」とIntelは主張している。
3Dグラフィックス性能以上に優位性がアピールされていたのは,一般的なアプリケーションでの処理性能だ。Principled Technologyのベンチマークテスト「WebXPRT 2013」で計測したWebブラウジングの性能比較や,同社製「MobileXPRT 2013」で計測したメディア編集アプリケーションでの性能比較結果を示した次のスライドは,いずれもiPhone 5sやGALAXY S4より高い性能を発揮したことを示している。
WebXPRTというテストで計測したWebブラウジング性能比較(左)と,MobileXPRT 2013による簡易なビデオ編集性能比較(右)のグラフ。後者はAndroid版のみなので,iPhone 5sの結果はない |
このように高い性能を備えつつ,電力効率が高いというのがAtom Z3480の特徴であるという。Principled Technologyのバッテリーベンチマークテスト「BatteryXPRT 2014 CP1」の結果では,比較対象よりも処理性能が高くてバッテリー駆動時間は長い結果が出たと,Intelはアピールしている。
リファレンス機のバッテリーに関する仕様が不明なので,これを公平な比較といっていいのかは分からない。しかしIntelの主張どおりであれば,Atom Z3480を使ったスマートフォンやタブレットは,現行のハイエンドAndroidスマートフォン以上の性能とバッテリー駆動時間を実現可能ということになるだろう。実機での性能に期待が持てる内容だ。
また,Intelによると,Atom Z3480はすでに64bit版のAndroidが動作しているとのことで,同じSoCで32bit版と64bit版を動作させた場合との性能比較結果も公表されている。下に掲載したスライドが,その計測結果だ。
実際にAtom Z3480を採用する製品が64bit版のAndroidを搭載するかどうかは,今のところはなんともいえない。しかしiPhone 5sが64bit対応SoCと対応OSを採用したことによって,それに対抗するためにハイエンドのAndroid端末では64bit対応が求められている,という話も耳にする。NVIDIAが2014年後半にリリースを予定している「Denver版Tegra K1」が64bit対応をアピールしているのも(関連記事),Appleに対抗するという側面があるという。
IntelがAtom Z3480で64bit対応の効果をアピールしてきたのも,そうしたハイエンドAndroid端末への採用を狙ったものといえるのではないだろうか。
LTEモデムチップセットも合わせて発表
Atom Z3400/Z3500に合わせて,Intelはこれらと組み合わせるLTEモデムと,2014年のロードマップも発表している。
Intelは現在,下り最大150Mbps(LTE Category 4)に対応するLTEモデム「Intel XMM 7160」を出荷中だ。この製品は,Samsung Electronics製のAndroidタブレット「GALAXY Tab 3」に採用されているほか,PC向けのPCIe M.2 LTEワイヤレスモジュールに搭載して出荷することが決まっている。
そして2014年第2四半期には,下り最大300MbpsのLTE Category 6に対応するLTEモデム「Intel XMM 7260」を出荷するという。Intel XMM 7260は2チップで構成され,専用のマルチモードRFフロントエンドにより,各国の通信事業者が使う23種類のバンド(周波数)に対応できると謳われている。
Intel XMM 7260 LTEモデムチップセットの概要。専用のRFフロントエンドにより幅広い国やキャリアに対応できるという |
LTE Category 6に対応するLTEモデムは,Qualcommも2013年に発表しており,IntelのIntel XMM 7260はそれに続く製品になる。Atom Z3400/Z3500と合わせてQualcommへの追撃がようやく軌道に乗り始めるのが,2014年ということになるのだろうか。
今のところ日本では,IntelのSoCを搭載したスマートフォンが通信事業者から販売されたことはない。ASUSTeK Computerから「Fonepad」シリーズが販売されている程度だ(関連記事)。そのため,Atom Z3400/Z3500が発表されたといっても,日本で合法的に利用できる端末が発売されるかどうかは,なんともいえない面がある。
しかし,Intelが優れた製造プロセスを武器に,スマートフォン向けSoCの分野でも足がかりを築こうとしているのは間違いなく,その実力を実機で試してみたいものだ。願わくば日本でも合法的に使えるAtom Z3400/Z3500搭載スマートフォンが登場してくることを期待したい。
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