テストレポート
「ROG ALLY」の実機をチェック。携帯型ゲームPC市場に殴り込んだASUSの隠し球の実力は?
2023年4月1日の発表時(関連記事)から話題となっている本製品だが,PC業界の大物であるASUSが手掛ける初の携帯型ゲームPCは,どのような仕上がりになっているのか。今回,国内発売に先駆けてROG ALLYの上位モデルを借用する機会を得たので,その実力を検証してみたい。はたして,すでに多数存在する競合製品を押しのけて「定番」になれるのだろうか。
長い時間をかけて作り上げられた筐体
まずは,ROG ALLYのデザインから紹介しよう。
ROG ALLYの本体サイズは,実測で280(W)×111.5(D)×21.2〜32.4mmと,最近の携帯ゲームPCとしては,大きめの部類に入る。普段から「GPD WIN 4」といった小さい製品を見ていると,余計にROG ALLYが大きく見えてしまう。
重量は実測で約614gと,標準的といったところか。重量バランスがいいからか,同じ600g前後のGPD WIN 4と比べて,手に持ったときに軽く感じる。
筆者としては,小さくギュッとまとまった製品のほうが好みで,ついついそちらを選ぶことが多いのだが,ROG ALLYを使ってみて,このサイズならではの使いやすいさを体験した。
たとえば,ゲームパッドの使いやすさが挙げられよう。筐体サイズが小さい製品だと,各ボタンやスティックの間隔が狭く,使いにくいことがある。また,左アナログスティックとD-Pad,右アナログスティックと[A/B/X/Y]ボタンが縦に並ぶレイアウトが苦手という人もいるだろう。
それに対して,ROG ALLYは,一般的なゲームパッドに近いレイアウトで使いやすい。ボタンも大きく,ストロークも深めの調整となっている。
筐体正面に設けたスピーカー孔を,手でふさぎにくいのもポイントだ。小型筐体の場合,親指の付け根付近でスピーカー孔をふさいでしまって,音がこもることがあり,持ち方を工夫しなければならない。その点,ROG ALLYでは,筐体の側面からスピーカー孔まで十分な距離があるので,そうした問題は起こりにくい。これも筐体スペースに余裕があるからと言えるだろう。
ASUSによると,ROG ALLYの開発には,5年もの時間を費やしたという。筐体設計に力を入れており,製品版に至るまで多くの試作を繰り返したそうだ。とくにASUSが強くアピールするのが持ちやすさだ。筐体を見ると,前面パネルの左右端は,側面に向かってゆるかな傾斜となっており,自然な形で左右から保持できる。
前面パネルと背面パネルは,ざらざらとした手触りに加えて,細かな溝が刻まれて,これが滑り止めとして機能する。ボタン操作が忙しい場合でもしっかりと持っていられるだろう。
持ちやすい筐体だが,個人的残念なのは,本体にスタンドがないこと。製品パッケージに簡易的なスタンドが付属するものの,本体と一緒に持ち歩くのはちょっと面倒だ。
インタフェース類は,上側面にまとめられており,指紋認証センサー内蔵の電源ボタン,音量調整ボタン,ASUSのノートPC向け外付けGPUボックス「XG Mobile」との接続コネクタとUSB 3.2 Gen 2 Type-C,microSDXCカードスロット,4極3.5mmミニピンヘッドセット端子が並ぶ。
気になるのは,USBポートが1基しかない点だ。このUSBポートは,充電端子も兼ねているので,充電中はふさがってしまう。充電しながら,USBポートを使うには,USBハブやドックが別途必要になるわけだ。
ASUSもその点は考慮しているようで,ROG ALLY向けの周辺機器として,HDMI出力端子とUSB Type-Aポートを備えたACアダプタ「ROG Gaming Charger Dock」を用意するとのこと。これを利用すれば,充電しながら外部ディスプレイへの映像を出力できる。
また,XG Mobileは,HDMI出力やDisplayPort出力,計4基のUSBポート,有線LANコネクタを備えており,ドックとしても利用可能だ。
リフレッシュレート120Hzのディスプレイを搭載
ROG ALLYのディスプレイは,7インチサイズで,解像度1920×1080ドット,最大リフレッシュレート120HzのIPS液晶パネルである。光沢のあるグレアパネルだが,パネルの輝度が,500cd/m2と高いのと,光の反射を抑えるコーティング技術「DXC」により,映り込みが気になりにくい。日差しのある屋外で使っても,画面が見やすそうだ。
ROG ALLYのディスプレイで,触れておきたいポイントが2つある。1つめは,液晶パネルの向きだ。携帯型ゲームPCの場合,縦長の液晶パネルを採用したうえで,ソフトウェア側で表示を回転させて横長の液晶ディスプレイとして使うものがほとんどである。ただ,縦長ディスプレイでは,古いゲームをプレイする場合や,排他的フルスクリーンを利用するときに表示が崩れるという問題があった。横長ディスプレイを採用するROG ALLYでは,そうした問題は起こらない。
もう1つは,最大リフレッシュレートだ。競合製品が,最大リフレッシュレート60Hzのディスプレイを採用するなか,ROG ALLYの120Hz表示対応というのは非常に珍しく,見どころと言っていいだろう。実際のゲームで120Hz表示を生かせるかどうかは,後ほどベンチマークで検証したい。
ゲームパッドだけで操作が完結
ディスプレイの左右に備えたゲームパッドは,左奥に左アナログスティック,右手前に右アナログスティックを備えたXbox風レイアウトを採用する。外観デザインの紹介でも触れたように,操作感は非常によい。また,ASUSによると,[A/B/X/Y]ボタンとD-Padは1000万回,アナログスティックは200万回転の耐久試験をクリアしたそうだ。
また,Xbox純正ゲームパッドと同じ[ビュー]ボタンと[メニュー]ボタンに加えて,設定用ソフトウェア「Armoury Crate SE」や,ゲーム内で呼び出せる設定メニュー「コマンドセンター」を起動する独自ボタンも備えるのもポイントと言えよう。
ディスプレイ左側は,上から[ビュー]ボタン,コマンドセンターの起動ボタンが並ぶ |
右側には[メニュー]ボタンとArmoury Crate SEの起動ボタンを配置する |
背面には,拡張ボタンの[マクロ1/マクロ2]ボタンを搭載しており,Armoury Crate SEから,キーボードやマウスのボタンを割り当てられる。さらにマクロボタンとゲームパッドのボタンを組み合わせて,スクリーンキーボードの表示や,スクリーンショットの撮影といった機能も設定可能だ。
Webブラウザなど,ゲーム以外のアプリケーションを利用するときは,自動的に右スティックにマウスポインターを,右ショルダーボタンに左クリック,右トリガーボタンに右クリックが割り当てられているので,基本的な操作はだいたいゲームパッドで完結できるはずだ。
ボタンだけでなく,特定の機能を指定して割り当てられる |
どのキーを割り当てたいのか直感的に分かる |
Armoury Crate SEも合わせて紹介しておこう。Armoury Crate SEは,ASUS製ゲーマー向けノートPCではお馴染みの統合設定ソフト「Armoury Crate 」を,ROG ALLY向けに最適化したものだ。ボタンへの機能割り当てだけでなく,PC内にあるゲームのランチャー機能,CPUの動作モード変更,LEDイルミネーションの設定などを行える。
既存の携帯型ゲームPCでも,メーカー独自,あるいはサードパーティ製の設定ソフトウェアを備えているが,そのどれよりも,Armoury Crate SEは,高機能かつ分かりやすい。ローカライズもしっかりしているので,設定方法で迷うことが少ない。この点は,大手のPCメーカーならではのポイントと言えるだろう。
Armoury Crate SE独自の機能として,ゲームのプレイ中に呼び出せるコマンドセンターを搭載するのも見どころの1つだ。これは,ゲーマー向けスマートフォン「ROG Phone」に搭載する設定パネル「Game Genie」に似た機能だが,いちいちゲーム画面を切り替えることなく,さまざまな設定を変更できる。
標準でCPUやGPUの利用率,画面のフレームレートなどを表示する「リアルタイムモニター」といった便利な機能を備えている点もポイントだ。
ROG ALLYの性能を検証
Ryzen Z1 Extremeの実力はいかに
続いては,ROG ALLYの基本的なスペックを紹介しよう。搭載SoC(System-on-a-Chip)の「Ryzen Z1 Extreme」は,AMDが携帯型ゲームPC向けに開発した製品で,CPUにZen 4アーキテクチャのCPUコアを,GPUにはRDNA 3アーキテクチャを採用したのが特徴だ。
CPUは,8コア12スレッドで,ブースト最大クロックは5.1GHzとなる。統合GPUには,Compute Unit数が12基のRadeon Graphicsを組み合わせている。AMDによると,統合GPUの演算性能は,最大8.6 TFLOPSにも達するという。
メインメモリ容量は16GBで,内蔵ストレージ容量は512GBだ。最近の大作ゲームは,ファイルサイズが非常に大きいため,512GBだとこころもとない。ストレージ容量は,せめて1TBにしてほしかったと思う。
試用機のスペックは,表のとおり。
CPU | Ryzen |
---|---|
メインメモリ | LPDDR5 16GB |
グラフィックス | Radeon Graphics(統合GPU) |
ストレージ | 容量512GB(PCIe接続)×1 |
液晶パネル | 7インチ液晶, |
無線LAN | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) |
Bluetooth | 5.2 |
有線LAN | 非搭載 |
外部 |
USB 3.2 Gen 2 Type-C |
キーボード | 非搭載 |
スピーカー | 内蔵2chステレオ |
インカメラ | 非搭載 |
バッテリー容量 | 40Wh |
ACアダプター | 定格出力65W(20V 3.25A) |
公称本体サイズ | 約280(W)×111.38(D) |
公称本体重量 | 約608g |
OS | 64bit版Windows 11 Home |
ここからは,ベンチマークテストで,ROG ALLYの性能を検証していこう。ROG ALLYは,Armoury Crate SEから,「Windows」「サイレント」「パフォーマンス」「Turbo」という4つのプリセット動作モードと,ユーザーがカスタマイズできる「手動」モードの計5つから動作モードを選択できる。今回は,標準設定の「パフォーマンス」と,最も性能重視の動作モードである「Turbo」を選んだ。なお,CPUのTDPは,パフォーマンスが15W,Turboが30Wだ。
まずは,グラフィックスベンチマークの定番である「3DMark」から,DirectX 11テスト「Fire Strike」と,統合GPU向けのDirectX 12テスト「Night Raid」,Vulkanベースのクロスプラットフォームテスト「Wild Life」で測定を行った。グラフ1は,総合スコアの結果をまとめたものだ。以後,グラフでは,パフォーマンスを15W,Turboを30Wと表示する。
どのテストでも,TDP 15WとTDP 30Wのスコア差は約10%で,想像よりも動作モードによる差は出なかったという印象だ。とはいえ,ゲームによっては,少しでも性能を絞り出したいこともあるので,快適なプレイを目指すのであれば,動作モードをTurboに設定すると良いだろう。
続いては,「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(以下,FFXIV暁月のフィナーレベンチ)の結果だ。グラフィックス設定のプリセットで「最高品質」および「標準品質(ノートPC)」を選択し,フルスクリーンモードで実行している。結果をグラフ2にまとめた。
最高品質はもとより,標準品質(ノートPC)でも,4Gamerベンチマークレギュレーションで,FFXIV暁月のフィナーレを快適にプレイできる目安としている「8000」を下回った。一世代前のCPUである「Ryzen 7 6800U」を搭載した製品でも,8000を超えるケースがあったので,この結果は意外だった。原因として,メインメモリ容量が影響しているかもしれない。
ROG ALLYのメインメモリ容量は16GBだが,他社製品では容量32GBのモデルもある。統合GPUは,メインメモリからグラフィックスメモリを確保するため,プレイするゲームによっては,メモリの少なさが性能にキャップをかけてしまうケースはありそうだ。
続いては,「モンスターハンターライズ サンブレイク」(以下,モンハンライズ:サンブレイク)でテストしてみた。グラフ3がグラフィクス設定「低」のテスト結果,グラフ4が「高」の結果である。
グラフィックス設定「低」では,TDP 15Wと30Wのどちらも,快適なプレイの目安である平均80fpsを超えた。グラフィックス設定を落とせば,ROG ALLYの120Hz表示ディスプレイが生きる場面もあるわけだ。
最後に,「Fortnite」の結果をグラフ5に示す。TDP 30Wでは,快適なプレイの目安として定める70fpsを超えている。Fortniteは,TDP 15Wと30Wの差が大きく開いており,動作モードの切り替えが有効なケースといえるだろう。
ROG ALLYのテスト結果からは,Ryzen Z1 Extremeが相応の性能を備えていることが分かった。ただ,携帯型ゲームPCの性能評価でよく出てくる「画質設定を落とせば」という前提を覆すまではいかないようだ。メモリ容量といった理由から,十分な力を発揮しきれていない可能性も考えられる。
ノートPC向け「Ryzen 7000」シリーズと大容量メモリを搭載した製品が登場すれば,このあたりの懸念もはっきりしそうだ。
ROG ALLYは携帯ゲームPCの入り口に最適な製品だ
ROG ALLYの場合,ASUSが力を入れた筐体だけでなく,設定ソフトウェアのArmoury Crate SEが便利だ。とくにゲームパッドへの機能割り当てが分かりやすい。もちろん,ROG ALLYは後発製品で,最初から洗練されていることもあるが,やはり,ASUSがこれまで培ってきた技術が生きているという印象を受けた。
使いやすさは評価できるだけに,競合製品の上位モデルと比べると,メインメモリ容量やストレージ容量が控えめなのが,少し残念なポイントだ。ストレージは,microSDカードでなんとかできるかもしれないが,メインメモリはそうもいかないので,容量32GBモデルも用意してほしかったと思う。一方,スペックを抑えたからこそ,税込10万9800円という,比較的手に取りやすい価格が実現できたとも言えるわけで,悩ましいところではある。
ASUSによると,大手の家電量販店を中心に,ROG ALLYを試せる場所を用意するとのことで,携帯型ゲームPCが気になっていたという人や,ちょっと触ってみたいという人は,一度手にとって見ると良さそうだ。
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ASUSのROG ALLYティザーサイト
ASUS日本語公式Webサイト
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(C)ASUSTeK Computer Inc.