パッケージ
Xeon Phi
  • Intel
  • 発表日:2012/06/18
お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2009/12/12 14:28

ニュース

単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ

画像集#002のサムネイル/単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
IDF2009SFで,PCケースに入った状態ながら,実働デモが公開されたLarrabee搭載グラフィックスカード
画像集#003のサムネイル/単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
Intelの広報写真より。Larrabeeのウェハを持つ,Patrick P. Gelsinger氏(Senior Vice President and General Manager, Digital Enterprise Group, Intel ※写真公開時)
 Intelの次期グラフィックスチップ「Larrabee」(ララビー,開発コードネーム)が大きな壁に突き当たった。Intelは,並列コンピューティング性能にも優れた同チップを,単体グラフィックスカード製品として2010年に市場投入する計画を見直すことになったのだ。

 実際のところ,Larrabeeに関しては,2009年9月中旬に米カリフォルニア州サンフランシスコ市で開催された開発者向け会議「Intel Developers Forum 2009 San Francisco」(以下,IDF2009SF)開催中から,半導体業界関係者やグラフィックス業界関係者たちの間で,「計画がキャンセルされる」という噂が飛び交っていた(関連記事)。同会議では,Larrabeeを搭載したグラフィックスカードのエンジニアリングサンプルが披露されたにも関わらず,である。
 その背景には,Larrabee計画の旗振り役であったPatrick P. Gelsinger(パット・ゲルシンガー)上級副社長が突然退社したことと,ソフトウェア環境整備の遅れがあったようだ。


製品化見送りの要因はソフトウェア周りの遅延か


 Larrabeeは当初,2009年中にも,パフォーマンスグラフィックス市場へは「GeForce」や「ATI Radeon」対抗,並列コンピューティング市場へは「Tesla」や「FireStream」の対抗として,単体カード製品が投入される計画だった。
 しかし,45nmプロセス技術を採用して製造された初代Larrabeeは,その消費電力や発熱量の多さに対して処理性能が十分とは言えず,「演算処理性能でも一世代前のハイエンドグラフィックス製品に及ばない状態だった」と,同製品のエンジニアリングサンプルを供給されていた複数のデベロッパ関係者が証言している。

IDF2009SFで公開されたデモより。ネイティブコードを使って,Larrabeeが「Enemy Terrytory: Quake Wars」のリアルタイムレイトレーシング処理を行っていた
画像集#005のサムネイル/単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
 また,これら関係者によれば,最大の問題は,グラフィックスカードとして市場投入するには,DirectXのサポートなど,ソフトウェア環境の問題が山積していた点にあるとのこと。たしかに,2006年にLarrabee計画が発表されてから,何度かシミュレーションや実働デモが公開されてきたが,それらはすべてOpenGLかネイティブコードベース。一般的なグラフィックスアプリケーションが,公の場で動いたことはなかった。

 ただ,HPC(High Performance Computing)業界関係者が,「Larrabeeは,並列コンピューティング向けプロセッサとしては,決して失敗作ではない」と述べていることは押さえておきたい。
 Intelは,11月にオレゴン州ポートランドで開催されたスーパーコンピュータ関連の国際会議「SC09」において,4K×4Kの行列積演算性能を測るベンチマークテスト「SGEMM Performance Test」において,オーバークロック動作ながら1TFLOPSを超えるパフォーマンスを披露している。同テストを,GT200ベースのTeslaで実行すると370GFLOPS程度になるので,特定の演算性能だと,NVIDIA(やAMD)のGPUを超える面も見せていたことになる。

Larrabeeのブロックダイアグラム
画像集#004のサムネイル/単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
 これまでに明らかになっているとおり,LarrabeeはラスタライザやROP,テッセレータなどの固定機能ハードウェアを持たず――「Texture Logic」と呼ぶ,テクスチャフィルタリングユニットは例外的に内蔵するが――これらの機能は,Pentiumをベースに浮動小数点演算機能を高めたプロセッサコアで処理する手法を採用している。しかもその処理は,x86命令とその拡張命令となるLNI(Larrabee New Instruction)がハンドリングする。乱暴な言い方をすれば,Larrabeeは「ベクタ演算に最適化したCPUでグラフィックス処理をエミュレーションするようなもの」とも言えるのだ。

 よく言えば,「CPU並の柔軟性を持つグラフィックスチップ」ということにもなるわけだが,問題は,その命令セットを活かすソフトウェア環境の整備が遅れたことに引きずられて,DirectXをはじめとするグラフィックスAPIへの対応が大幅に遅れてしまった点にある。とあるゲームデベロッパ関係者によれば,Larrabeeは,DirectX 10への最適化すら,十分とはいえない状態だったようだ。
 Epic GamesのCEOにして,Unreal Engineの開発者であるTim Sweeney氏が肯定的なコメントを残しているように,Larrabeeのプログラマブル性の高さそのものが,間違ったアプローチだったわけではない。むしろ,同製品の評価に関わった複数のゲームデベロッパは,口を揃えて,グラフィックス機能実装に向けたIntel側のリソースの少なさを嘆いていたので,この「ソフトウェア環境の整備遅れ」こそが,Larrabee製品化見送りの主要因になったと見ていいだろう。


2方向へ分岐するLarrabee計画


 とはいえ,IntelがLarrabee計画を断念したわけではない。Larrabee計画をよく知る人物は,「LarrabeeもTick Tock(チック・タック)モデルで開発が進められている。(つまり,今回の話は)最初のフェーズがキャンセルされただけだ」と語っている。

 IntelのLarrabee計画は,45nmプロセス技術で16コアを統合する「Larrabee1」(開発コードネーム)と,そのシュリンク版に当たり,32nmプロセス技術で最大24コアを統合する「Larrabee2」(同)が進められていた。IntelがIDF2009SFで2010年の市場投入を示唆していたのはLarrabee2であり,今回,計画が見直されたのも,このLarrabee2だ。
 さらに,Intelはアーキテクチャの拡張を施した「Larrabee3」(開発コードネーム)の開発も進めており,「その計画に変更はないと聞いている」(同関係者)とのこと。ただしLarrabee3は,グラフィックス処理用のGPUというより,並列コンピューティング処理性能を高めたHPC市場向けチップとしての色が濃いとされている。Intelは,このLarrabee3計画を,2010年中にも,開発者に向けて提示する意向のようだ。

IDF2009SFで公開されたSandy Bridgeのダイイメージ
画像集#006のサムネイル/単体製品投入見送りで仕切り直される「Larrabee」。HPC用プロセッサ&統合型グラフィックス機能へと2分化へ
 では,グラフィックス処理向けのLarrabeeはなくなるのか? というと,そうではなく,Intelは,Larrabeeベースのコアを“グラフィックス機能”としてCPUに統合する計画も持っている。
 当初,そのタイミングは,次世代CPUアーキテクチャ「Sandy Bridge」(サンディブリッジ,開発コードネーム),Sandy Bridgeをベースに22nmプロセス技術へとシュリンクする「Ivy Bridge」(アイヴィブリッジ,同)の後継,つまり,次次世代のCPUアーキテクチャ世代からになると見られてきた。Larrabeeで実装される16way(512bit幅)のベクタ演算拡張命令であるLNIは,Sandy Bridge世代で実装される8way(256bit幅)ベクタ演算拡張命令である「AVX」(Advanced Vector eXtentions)の延長線上にある命令拡張なので,このタイミングというのは不思議な話ではない。

 ただ,前述の関係者は,「自分が知る初期計画とは変わっているかもしれない」と断りながらも,「Larrabeeを簡略化したスモールコア計画も存在していた。そのコアなら,AVXでグラフィックス機能を実装することもできるはず」と述べている。つまり,最短では,Ivy Bridge世代でLarrabeeベースの新世代グラフィックス機能を統合してくる可能性も,ゼロではないというわけだ。もちろんこれには,AMDのFusion計画がアップデートされたことを受けて,Larrabeeベースのグラフィックスコア統合を急ぐ必要が生じてきたというのも,無関係ではない。
 ただ,統合計画の,前倒しが実現するかどうかは,あくまでも「ソフトウェア環境が予定どおり整うかにかかっている」(同関係者)。まだまだ不透明な状況だ。

 Intelに近い,複数の業界関係者は,「Larrabeeは(今後,)HPCと統合型グラフィックス機能としての開発が優先される」と見ており,それに合わせて,グラフィックスカード単体製品の投入は望み薄と見る動きが広がっている。いずれにせよ,製品開発表明から4年が過ぎたLarrabee計画が,今回の仕切り直しでどの方向に向かうのか,Intelの最終判断が明らかになるのは来年以降になりそうだ。
  • 関連タイトル:

    Xeon Phi

  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:12月17日〜12月18日