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NVIDIA,クアッドCortex-A15+72 GPUの「Tegra 4」を正式発表。Tegra 4搭載のAndroidゲーム機「SHIELD」も公開
本稿では,プレゼンテーションに立ったNVIDIAの総帥,Jen-Hsun Huang(ジェンスン・フアン)氏が語った内容を中心に,その内容をまとめてみたい。
Cortex-A15の4-PLUS-1+72基のGPUコアを採用
カメラ周りにも独自の強化が入る
Huang氏はカンファレンスで,「モバイルにどれほどのコンピューティングパワーが必要なのだろうか?」と会場に問いかけ,クラウドの活用など,モバイルの応用が大きな変化を遂げている現状を示しつつ「もっとパワーが必要だ」と主張。今日(こんにち)のモバイル環境が要求するパワーを持つプロセッサがTegra 4だと続ける。
ブロック図が正しいものであれば,という前提条件は必要だが,Tegra 4の4-PLUS-1も,かなりの独自性を帯びたものになっている可能性が高そうだ。
また,ブロック図でその省電力CPUコアを左右から囲むように配されている小さなブロックはGPUコアで,その数72基。Tegra 3では12基だったので,その数は一気に6倍となったわけだ。Huang氏は今回のプレゼンテーション中,技術的な詳細を明らかにしなかったので,コアあたりの性能がTegra 3と同じなのか,動作クロックはどうなのかといったあたりは何とも言えないが,インパクトのある強化であることは確かだ。
そんなTegra 4はどれだけの実力を持っているのか。Huang氏が最初に示したのが,Webページの表示速度だ。25もの著名なWebサイトを順繰りに開いていくというベンチマークテストで,性能に定評あるSamsung Electronics製タブレット「Nexus 10」とTegra 4搭載の試作機を比較したところ,Nexus 10が処理を終えるのに50秒かかったところ,Tegra 4搭載機は27秒で済んだという。
このベンチマークテストで比較すると,Tegra 4搭載機は,北米市場で高いシェアを持つ「Kindle Fire HD」比で3.5倍の性能を持ち,第4世代「iPad」に対しても優位性を発揮するとのことだ。
Huang氏によると,従来のスマートフォンやタブレット内蔵のデジタルカメラでは,専用のイメージプロセッサで処理してメモリに取り込み,さらにCPUで加工するという処理がシリアルに行われていたが,CPAではその流れを全面的に見直して,並列処理を可能にしたとのこと。その結果,iPhone 5では2秒かかっていたHDR撮影が,Tegra 4では0.2秒で可能になったという。
もう1つ,先ほど示したTegra 4のブロック図で隣に示されていたように,今世代では,4G LTE対応のモデムチップ「i500 Soft Modem」(以下,i500)が提供されるのも大きな特徴となる。
i500は,NVIDIAが2011年5月に買収した英Icera(アイセラ)の技術を用いたもの。一部の処理にソフトウェアを用いることで,一般的なハードウェアモデムチップと比べて約40%もダイサイズを縮小できたというのが強みとなる。これまでNVIDIAは,Qualcommのように通信系チップをセットで提供できないことがモバイル市場における弱点の1つと言われてきたが,その弱点の大きな一部分がTegra 4世代では解消されることになるわけだ。
AndroidとPCの両方がターゲットとなる
NVIDIA製ポータブルゲーム機,Project SHIELD
Huang氏は,Tegraファミリーに最適化された新作タイトル「Dead Trigger 2」のデモを紹介してTegra 4のグラフィックス性能をアピールしたくらいで,Tegra 4自体の期待を煽るようなことはあまり述べていなかったのだが,大きなサプライズが最後に用意されていた。それが,ポータブルゲーム機開発計画,Project SHIELDだ。
Project SHIELDとは何なのか。端的に述べてしまえば,NVIDIAが密かに進めていた,Tegra 4搭載,Androidベースのポータブルゲーム機である。Huang氏が「ゲーマーにはコントローラが必要だよね」と語りつつ手に持ったProject SHIELDの実機は,正直,いかにもモックアップっぽかったのだが,その後,複数台の実動サンプルが登場したので,すでに完成度はかなりのレベルに達しているのではなかろうか。
Huang氏は,3Dでリアルタイムレンダリングされたデモを用いながら概要を語っていたので,デモのスクリーンショットを使いながら,順にポイントを以下のとおり紹介してみたい。
ちなみに画面サイズは5インチで,解像度は1280×720ドット(296DPI)。NVIDIAは「Retinal」ディスプレイだと主張している。
Tegra ZoneのゲームをProject SHIELDでプレイ。ディスプレイが4K解像度であることを強調していたが,ゲームそのものの解像度は4Kではないと思われる | |
Android版「HAWKEN」を用いたマルチプレイデモも行われた |
カンファレンスでは,無線LANで「GeForce GTX 680」搭載のデスクトップPCへProject SHIELDから接続。そのうえでPC版の「Need for Speed Most Wanted」と「Assassin's Creed III」をプレイして見せた。見る限り,遅延は若干あるようだったが,プレイアブルかそうでないかといえば,プレイアブルといえるレベルの滑らかさだった。
AndroidとPCという,オープンプラットフォームのゲームが,どちらも1台のデバイスで楽しめるというわけで,Huang氏は,「Tegra Zoneと,2000タイトル以上を取り揃えるSteam。2種類のオンラインゲームストアが使える」ことをアピール。さらに「好きなところで,好きなスクリーンで,さまざまなゲームを楽しめる。iPodが音楽を変え,Kindleが読書に変革をもたらしてきたが,(今度は)Project SHIELDがゲーマーに変革をもたらす」とまで述べていたので,相当に自信がある雰囲気だ。
NVIDIAはTegra 2〜3の時代にも,「PCをAndroidタブレットからリモートで操作することで,PCゲームをPCの外へ持ち出す」というアイデアに取り組んできたが(関連記事),ゲームパッドを標準搭載するProject SHIELDは,確かに大きなブレイクスルーとなるかもしれない。
ただし,Huang氏は,Project SHIELDがどのように市場展開されるのか,そもそも発売されるのかといった点について,一切語っていない。
市場において,ポータブルゲーム機は目下,スマートフォンやタブレットに押され気味であると伝えられている。Project SHIELDは従来のポータブルゲーム機と異なるコンセプトの製品ではあるが,だからといって,Project SHIELDの製造販売に手を上げるメーカーが出てくるかというと,正直,疑問だ。
そこで考えられるのが,NVIDIAの直接販売である。GPUメーカーとして,基本的にはOEMとの取引がメインとなる同社だが,これまでも3D Vision Kitを自社流通させてきた実績があるので,NVIDIAが自らゲーム機というか,ゲーマー向けAndroidデバイスのビジネスに打って出る可能性はゼロではないだろう。今後どうなるか,現時点ではっきりしたことはなにも言えないが,ぜひとも製品化してほしいマシンだといえる。
GeForce GRIDあらため(?)
NVIDIA GRIDのサーバーシステムを披露
さて,Huang氏が「世界で初めて,フルにGPUを組み込んだシステムを作り上げた」と述べつつ披露したのが,下のスライドで示されるサーバーシステムである。
サーバーラック1台で搭載できるサーバーグリッドは20台。20台で最大240基のGPUを収容するとのことなので,単純計算すれば,サーバーグリッド1台あたりのGPU数は12基ということになる。
その性能は「720台分のXbox 360に相当する」(Huang氏)とのことだ。
NVIDIA GRIDでは,ミドルウェアによる適切なロードバランシング(=負荷分散)などにより,非常に低レイテンシでゲームをサービスできるとのこと。
クラウドゲーミングの最大の利点は,性能がさほど高くないクライアントでも高精細のグラフィックスでゲームが楽しめる点で,デモでは実際に,LG Electronics製のスマートテレビや,単体GPUを保たないUltrabook上で「Trine 2」をプレイする模様が披露されている。
ちなみに,Hung氏はPCゲームが成長著しい分野と強調してはいたのだが,ゲームプラットフォームはスマートフォンやタブレットなど横方向への広がりを加速させている。PCゲームを中心にGPUを展開してきたNVIDIAだが,今後はPCゲーマー向けのGPUだけで戦うのが難しいことも認識しているはずだ。
今回のカンファレンスで紹介されたスマートフォンやタブレット向けのTegra 4,クラウドゲームサービスを実現するNVIDIA GRID,そして新たなゲームプラットフォームを提案するProject SHIELDは,いずれもこうした「横への広がり」に対応していこうとするNVIDIAの戦略を象徴するものといえるだろう。
2013年も,NVIDIAの動向からは目が離せそうにない。
Project SHIELD特設ページ(英語)
※20:40頃,詳報に差し替えました