レビュー
次世代グラフィックスが自慢の「クライシス」の続編
クライシス ウォーヘッド 完全日本語版
» 「クライシス」の続編としてエレクトロニック・アーツから発売された「クライシス ウォーヘッド」。特殊部隊ラプターチームのメンバー,サイコ軍曹としてエイリアンと北朝鮮人民軍(KPA)相手にハイテクスーツを使いまくって戦うFPSだ。クライシス発売後からずーっとやっているという松本隆一が,もう一つのクライシスに挑んでみた。
リンシャン島事件のもう一つの側面を描く続編が
完全日本語版で登場
サイクス軍曹――通称「サイコ」。イギリス人。
米国特殊部隊“ラプターチーム”に属する彼は,2020年8月のその夜,プロフェット隊長以下5名からなるチームの一員としてC-17輸送機からHALO(高高度降下低高度開傘)を行った。目標はフィリピン海に浮かぶリンシャン島。北朝鮮人民軍(KPA)が突然占領したその島から異常な電波が宇宙に向けて発信されていることをNASAとCIAが探知しており,また同島ではアメリカの考古学チームが発掘調査を行っていた。サイコらの任務は,KPAの意図を探り,おそらく捕虜になっているはずの考古学者達を救い出すことだった。
2007年にエレクトロニック・アーツから発売された「クライシス 完全日本語版」(以下,クライシス)は,ハンブルグに本拠を置くデベロッパ,Crytekが制作したミリタリーFPSだ。オリジナルの描画エンジンである「CryENGINE」のテクノロジーデモ的に制作されたタイトル,「Far Cry」(邦題,ファークライ 日本語版)の高い評価とヒットにより,トップデベロッパの一つに数えられるようになった。
その後,パブリッシャをEAに変えて制作されたクライシスは,パワーアップした「CryENGINE 2」のフォトリアリスティックな画面がPCゲーマーの間で話題になり,これまた高い評判を呼んだ。その続編として制作されたのが「クライシス ウォーヘッド 完全日本語版」(以下,ウォーヘッド)というわけだ。
制作は,Crytekのブダペストスタジオが担当している。ここはウクライナのキエフスタジオとともに,2007年5月に設立されたCrytekの新たな開発拠点だ。
ウォーヘッドの起動にはクライシスを必要としないが,価格は拡張パッククラスの設定で,北米では29.99ドル。日本ではオープン価格だが,EA STOREでは3980円(税別)で販売されている。
ウォーヘッドはクライシス同様,完全日本語版となっており,テキストだけでなく音声もすべて日本語に吹き替えられているので,日本語好きの人は安心だ。また,新しいゲームモードを含んだマルチプレイ「クライシス ウォーズ」が別のDVDとして同梱されているのも嬉しいところ。ちなみに,クライシスと同じく英語版のファイルも入っているため,インストール時に“English”を選択することでテキスト/音声が英語になる。ただし,MOD制作用ツールである「Sandbox 2」は(少なくとも日本語版には)含まれていない。
開発の正式発表は2008年6月だが,開発はクライシスの制作終了直後から始まっていて,同年7月の「E3 Media and Business Summit 2008」や8月の「Games Convention 2008」,そして「NVISION 08」のいずれでもかなり完成に近いデモが公開されていた。なんだか待たされまくった印象のあるクライシスと違い,リリースはほぼスケジュールどおりである。
さて,何度も書いたような気がしつつも繰り返すと,ウォーヘッドはクライシスの“もう一つの”ストーリーを描いたゲームである。つまり,前作の主人公であるノーマッド中尉がKPA/エイリアン相手に戦っていたとき,サイコ軍曹は何をやっていたかということ。
ちなみにまあ,どうでもいい話なのだけど,サイコの階級は軍曹で,ノーマッドは中尉。いくら結びつきの強い特殊部隊とはいえ,サイコが二階級も上のノーマッドにタメ口ってのはどうなんでしょ。下士官が士官に「おーい,ノーマッド」はないと思うなあ。とはいえ,ノーマッドはノーマッドで隊長のプロフェットことバーンズ少佐に「サー」もつけず割とフランクに話しているし,チームメイトのジェスターがノーマッドに「おい,ちゃんと聞いているのかよ?」と文句を言っているのだが,そのジェスターにサイコが「あばよ,戦友」と声をかけたりして,ラプターチーム内の階級関係はいまいち不明だ。みんな仲よしなのだろう。
それはともかく,ウォーヘッドのスタート地点は,クライシスにおける埠頭ミッションが終了したところから。ガントリークレーン上に陣取ったサイコが狙撃支援を行う中,ストリックランド少佐の命令を受けたノーマッドがKPAの巡洋艦をマーキングし,飛来した戦闘機がそれを沈めるというあの派手なシーンですね。
その後,ストリックランドのアイダホ部隊とノーマッドはKPAとの大規模戦車戦に突入するが,サイコは彼らと離れてトラック部隊の護衛にあたる。直後,KPAの待ち伏せ攻撃を受けたトラック部隊はからくもVTOL機の助けで戦線を離脱するものの,KPAのミサイルが命中して機は墜落。サイコは単身,その場を脱出するのだった。と,ここまでが冒頭に出てくるカットシーン。
というわけで,ウォーヘッドは,ある程度クライシスの内容を知っている人を対象にしており,そうでないと話が見えてこなさそうだ。もっとも,プレイスタイルはクライシス同様,ウルトラハイテク戦闘服である「ナノスーツ」を使いこなして単身突撃するというランボースタイルなので,ストーリーを知らなくてもゲーム進行にそれほど差し支えはない。
というか,クライシスプレイヤーは物語にそれほど期待しないほうがよさそうである。冒頭,なにやら思わせぶりなセリフが流れたり,KPAが妙な動きをしていたり,さらには新たな敵としてリー大佐が出てきたりはするものの,まあ,詳細はご自分の目でご覧いただくとして,あくまでアナザーストーリーというスタンス。宇宙から来たエイリアンを子供達が守るとか,KPA兵士の一人が,実は生き別れたサイコの弟だったとかいう展開はないのである。
もっともクライシスのプレイヤーなら,「なるほど,島のこっち側はこんな状態になっていたのか」という新鮮な驚きはあるだろうし,おや,この爆風は? ははあ,ノーマッドのやつめ,今頃アレだな……みたいな面白さもあったりする。
サイコこと,サイクス軍曹が今回の主人公。荒事を好み,命令違反は日常茶飯事。だが,彼には彼のルールがある。悪いヤツらはオレがやる! |
前作同様,ハイテク装備である「ナノスーツ」を使った派手な戦闘が楽しめる。アクション,アクション,またアクションのつるべ落としだ |
こちらも前作同様,ハイレベルなグラフィックスが魅力の一つ。破壊できるオブジェクトも増え,爆発エフェクトなども迫力が増した |
カーチェイスにホバーチェイス。ビークルに乗っての追いかけっこや撃ち合いなど,前作に比べて展開がさらにスピーディになっている |
サイコ軍曹の個性そのままに,
何も考えずに暴れ回れるウォーヘッド
前作であるクライシスの評価は前半と後半で分かれがちである。ゲームの前半3分の2ほど,つまりKPAを相手に戦うパートは進行ルートの選択の幅が広く,スニークでいっても戦いに持ち込んでもオッケーという柔軟性がある。確実に敵を排除しながらメインルートをたどるのもいいし,ボートを強奪して目的地に突入しても構わないのだ。
だが後半――具体的にはエイリアンが登場してからは,アクションよりストーリーを見せることに重点がおかれ,展開は一本道になっていく。思わぬ動きをするエイリアンどもが妙に倒しにくいこともあって,これ以降のパートはあまり評判がよくない。私もエイリアンは苦手である。あ,また外れた。きー!
というわけで,ウォーヘッドではリニアな展開を避けて,アクションに強くフォーカスした。ゲームは七つのチャプターに分かれているが,ほとんどすべてのマップがそれなりの広さと自由度を持っており,プレイヤーのスタイルに応じたさまざまな戦略が立てられるはずだ。「マキシマムストレングス」を使って障害物を跳び越え,油断しているKPA兵士の背後を襲って殴り倒したりとか,「クロークモード」で敵の車両を奪い,車載機関銃を撃ちまくるなど,アイデア次第で好きな戦い方ができる。
また,前作に比べてビークル類も派手にフィーチャーされている。クライシスにはVTOL機を操って敵の攻撃を切り抜け,島を脱出するシーンが登場したが,ウォーヘッドでは装甲車,ホバークラフト,そして軍用列車などに乗って戦うことになる(ホバークラフトは走るだけだが)。とくに,新型装甲車による敵中突破は迫力があり,搭載された徹甲弾はほんの数発でKPAのジープやトラックを面白いように吹き飛ばせる。前作であれだけ手を焼いたヘリコプターも屁のカッパで,高速で突っ走りながら,迫ってくる相手をどかんどかんやっつけていくこのシーンは,かなり爽快感が高い。
ただし,これはあくまで「Normal」モード以下の話で,「Realistic」モード以上になると操縦席から銃座を操作できず,いちいち席を替わって銃撃しなくてはならなくなり,難度が急に上がるとともに爽快感が激減する。このへんは,もうちょっと融通を利かせてほしかったところだが,もっとも,プレイ中にも難度の変更ができるため,高難度でのクリアを目指す人以外はそれほど問題ではないかもしれない。
新しい武器としては,ピストルの代わりに使える「AY69サブマシンガン」と,6連のグレネードランチャー「FGL40」,小物としては「対戦車地雷」と仕掛け爆弾「クレイモア」,そしてナノスーツの機能を一時的に停止する「ナノディスラプター手榴弾」が登場している。AY69はピストル同様両手持ちが可能で,マウスの右クリックで右の,左クリックで左の銃が火を吹く。クライシスではほとんど出番のなかったピストルだが,AY69では高速連射が可能になったため使用範囲がやや広がった。とはいえ,威力は控えめだ。
FGL40は一発の効果が大きく,スプラッシュ効果も期待できるため,敵が固まっているところに撃ち込むと甚大な被害を与えられる。装甲車両にもダメージを与えられて便利だが,リロード時間は長い。
とはいえ,前作もそうだったように,今回もFY71とガウスライフル,そして破片手榴弾という三点セットでゲーム全編に対応できるような気がするので「新兵器ならでは」といったシーンはそんなにない。
全体に,武器/兵器のバージョンアップはおとなしめだが,あんまりすごいものを出しちゃうと,なんで島の反対側でKPA(もしくはノーマッド)がそれを使わなかったのか? ということになるので,まあ仕方ない話でもある。
また,サイコのナノスーツには機能拡張が施され,新たなマキシマムなんとかが使えるという話もあったのだが,結果として基本の4種類に変化なし。とはいえ,ジャンプ力やスピードはいくらか向上している印象だ。
ナノスーツの威力は相変わらず圧倒的で,クロークモードを使えばたいていの局面はなんとかなる。敵の位置もミニマップに表示されるので,よほど無茶をしない限り,派手な撃ちまくりが堪能できるはずだ。ただし,敵の数がむやみに多いシーンもあり,しかも例によってAIのできがいいので,それなりに緊張感を持って戦う必要はあるだろう。
基本的にソロプレイのみで,前作同様タクティカルな要素はない。とはいえ,島に送り込まれていたほかのナノスーツチームやアメリカ兵と一緒に戦う場面は登場するし,一定時間,拠点の防衛を行うといったミッションも出てくる。単純な撃ち合いばかりにはしたくないという開発側の意向がよく伝わってくる。
さまざまなパーツを拾って武器をカスタマイズできる。戦闘中,うっかりカスタマイズボタンを押してビックリするのは筆者の得意技 |
新登場のグレネードランチャー。全体に武器弾薬はかなり多めに配置されており,特定のマップ以外,弾不足に陥ることはまずない。撃ちまくれ! |
別のナノスーツチームと一緒に戦うシーンも登場する。命令は下せないが,優れたAIのおかげで,彼らの行動に不自然さはあまり感じない |
「ファークライ」以来,Crytekのトレードマーク(?)ともいえるジャングル戦。敵の姿が見えにくく,かなりの緊張を強いられる |
最適化されたグラフィックスと,新兵器
そして「クライシス ウォーズ」
最適化を進めたCryENGINE 2によって,より低スペックのPCでも快適な動作が可能になったとされているが,起動に要求される最低動作環境にとくに変更はなく,それなりのPCが必要だ。グラフィックスそのものは,クライシスに比べてやや落ちる印象。緻密に描き込まれて端正な雰囲気を持った前作に比べ,テクスチャがやや粗くなり,画面のコントラストも強くなったような感じを受ける。なんとなく,コンシューマゲームっぽくなった。
まあこのへんは,個人の感じ方の部分もあるだろうし,好き嫌いもあるのでなんともいえないところ。いずれにせよ,相変わらずグラフィックスはスゴイといっていいだろう。爆発のエフェクトも派手になったし。
一部を除き,マップは非常に広い。歩いているだけでも疲れそうだが,さまざまな戦略を立案/実行可能なのだ。この手がダメならあの手を使おう |
同梱されている「クライシス ウォーズ」は,ウォーヘッドのマルチプレイパートだ。
前作クライシスには,マルチプレイモードとして「インスタントアクション」と「パワーストラグル」の二種類が用意されていた。前者はいわゆるデスマッチだが,後者にはやや面倒なルールがあり,私はあまりよく把握していない。私のほかにもそういう人が多かったのか,クライシスのマルチプレイはあまり人気がなかった。
その状況を打破するために力を入れて作られたのがクライシス ウォーズというわけだ。ゲームモードとしては,要望の多かったチームデスマッチが「チームインスタントアクション」として追加された。
新たに追加された7種類のマップを含む,21種類のマップが用意されており,うち9種類がパワーストラグル用で,残りがインスタントアクションもしくはチームインスタントアクション用になっている。従来からのマップも見直しが図られ,それ以外にも搭乗兵器のダメージシステムの変更,個人携行兵器の追加,そしてルールの改善など,かなり細かい見直しが図られている。詳しくは,CrytekのCEOであるCevat Yerli氏がやっているmycrysis.comの「こちら」を参考にしよう。
とはいえ,原稿執筆時点の10月6日の様子を見る限り,サーバーも満員盛況という感じではなく,参加者の数はそれほど多くないように見える(GameSpyの統計データでも600人程度で,それほど多くない)。また,マップの自動ダウンロード機能とアンチチートツールが競合してプレイヤーがサーバーからキックされるという問題もあるようだ。客観的に見て,かなり楽しめるレベルのマルチプレイに仕上がっており,当然ながらグラフィックスも優れているので,もっと参加プレイヤーが増えてほしいと思う。
というわけで,クライシスのプレイヤーにとって待望の続編が登場したわけだ。広いマップや,いろいろなハイテク機能を持ったナノスーツなど,自由度の高いプレイが楽しめる本作。前作に比べて爽快感優先で作られているため,「あまり凝ったタイトルは勘弁だが,何か適当なFPSがやりたい」というPCゲーマーは検討してみる価値があるだろう。
ストーリーは比較的シンプルだが,前作をプレイしていないと「おや?」と思うところもあるはず。まあ,進行の問題になることはないけど |
音声,テキストとも完全日本語。ただ,インストール時に英語版も選べるので,雰囲気重視の人は,二週目以降,英語でプレイするのもいい |
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