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[GDC 2010]制作期間は16か月。膨大な作業が必要なFF13のムービーシーンはどうやって完成させたのか
講演の題目は,「Real-Time Cutscene Workflow 〜The Making of FFXIII Cutscenes〜」というもの。FF13のカットシーン(=ムービーシーン)が出来るまでの制作過程を,事細やかに説明するという貴重な内容だ。世界屈指の大型タイトルでもあるFF13の開発体制とは,一体どのようなものだったのだろうか?
今回の講演は,そのなかでもとくにカットシーン周りの制作工程にフォーカスしたもので,主にモーション,カットシーン,VFX(ビジュアル・エフェクツ)の三つのチームの話となる。ちなみにグラフィックス周りだけで,開発人員は120人規模,うちカットシーンを担当したのが40人前後になるのだという。
カットシーンの制作に充てられた期間は,約16か月ほど。その期間のなかで,約6時間にも及ぶカットシーンを作らなければならない。時間的な猶予はあまりないため,複数のチームが並行して作業でき,なおかつ仕様変更による“後戻り”のないワークフローを,開発のはじめの段階で計画する必要性に迫られることになった。
よってまずは,シナリオを確定し,それに基づいて絵コンテを作成。そしてそれをもって,映画でいうところのプレビジュアライゼーション(プレビズ)ムービーを制作する。スクウェア・エニックス内では,これを「STEP1 Movie」と呼んでいたそうだが,このプレビズムービーを元に,関係する各部署が作業見積りを算出し,チーム編成や予算,スケジューリングなど,具体的な作業を行うフェーズへと落としこんでいくわけだ。これは,近年のハリウッド映画などで採られる手法とまったく同じやり方だ。
ちなみにFF13におけるムービー制作には,Autodeskの「MotionBuilder」を採用しているらしく,プレビズムービーも,このMotionBuilderを使って作成。スタッフの多くが使い慣れていた「XSI」からの乗り換えは大変だったが,作業全体の効率化を見越して,こちらへの切り替えを決断したのだという。
STEP1 Movieを元にして,モーションキャプチャデータなど,素材となるデータを収録していく。その際には,俳優をアサインして演技をしてもらうわけだが,より雰囲気を出すために,銃や乗り物を模した小道具を用意したりもしたらしい。
ともあれ,モーションキャプチャなどのデータが揃った段階で,より完成版に近いバージョンのムービーである「STEP2 Movie」を制作。基本的には,この段階でほとんどシーンやカットについては完全にFixとしてしまい,関連部署からもコミット(同意)を得ていくという。
キャラクターの“演技”を支える細やかなモーション作成
素材となるモーションデータを収録する「モーション班」,キャラクターの体の動きを担当する「ボディ班」,服や髪の毛の動きを物理演算ベースで肉付けしていく「シミュレーション班」,顔の動きやリップシンク(音声に合わせた唇の動作)を担当する「フェイシャル班」など,担当者それぞれが同時に作業を行っていく。
つまり,例えば主人公のライトニングが振り向きながら喋るシーンがあった場合,
- ボディのモーションデータ
- 服のモーションデータ
- 顔のモーションデータ
という三つのデータを統合して再生することで,ようやく一つのアクションになるというやり方だ。まぁ非常にややこしい作業内容なわけだが,この分業を実現するために,社内ツールで中間管理ファイル「Miga」(ミグエ)を用意したりと,細かい工夫も凝らしたらしいが,それでも田中氏が言うには,「これはこれで,ファイル数が膨大になるという悪夢が待っていました」とのことで,なかなか一筋縄ではいかなかったようだ。
また田中氏は,キャラクターの台詞に合わせたリップシンクの作成も,かなりの苦労を強いられた部分だったと振り返る。
というのも,モーションデータは当然モーションチームが管理しているのだが,その動きの元となるセリフ(音声データ)はサウンドチームが,セリフを言うタイミングを決めるのはカットシーンチームがなどというように,それぞれがバラバラに管理されていたのも,苦労が多かった要因の一つだ。最新のファイルがどれなのか,どのファイルがなんなのか。細かい間違いや勘違いが頻発する恐れがあった。
この問題に対しては,ブラウザベースの共通の管理システムを用意することで解決したという。一般的なゲームの開発環境でも,こういった部分はよく問題視される要素ではあるが,FF13もまた例外ではなかった(というか,大規模でファイル数が多いだけに深刻だった)わけだ。
分業体制で作られた各ファイルを統合し,ようやく「ムービー」に
また出来上がったシーンにしても,その都度実機(PlayStation 3)で動かしてみて,おかしいところがないかをチェックしなければならない。作業を行っているPCから直接データを送信し,リアルタイムに実機で再生するシステムも用意したとの話ではあったが,正直いって,気が遠くなるほどの作業量だろう。
ともあれ,一通りの解説が終わったところで,リードアーティストを務める小林氏が,今後の3Dグラフィックスの方向性,とくにリアルタイム3Dグラフィックスの可能性について言及。「技術の進歩は凄まじく,リアルタイム3Dの可能性はますます広がっていると感じます。ライティング技術にしても,今後はプロシージャル化が進んでいくことと思います。ただ,じゃあプロシージャル化を押し進めるべきかというと,私はそうは思いません。なぜなら,これに頼りすぎれば,どれも似たような絵になってしまい,差別化ができなくなっていってしまうからです。作り手の個性や感性が感じられる,手作りの部分も同時に活かしていくべきだと考えています」として,講演を締めくくった。
さて,このように大変複雑なワークフローを経て生み出されたFF13のムービーシーンであるが,冒頭でも書いたように,それが非常に高品質な点は,誰もが認めるところだろう。
しかし,デザイナーの田中氏に言わせれば,「今回は,どちらかというと速度を重視したため,ちょっとカッコ悪いと思っています。今回のノウハウを活かして,次ではさらに高いレベルを目指したい」とのことで,そのクオリティには,まだまだ満足していないようであった。
ゲーム大国日本。その中でも最新技術を誇る大手ゲームメーカーの威信にかけて,これからも妥協のないクリエイティブ活動に期待したいところ。今後のさらなるレベルアップ(そしてその結果生まれる製品)も大いに楽しみである。
- 関連タイトル:
ファイナルファンタジーXIII
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