レビュー
デスクトップPC向けの新世代CPUに,Core 2から移行するだけの価値はあるか?
Core i7-870/2.93GHz
Core i5-750/2.66GHz
» 「新世代のミドルクラス〜ハイエンドデスクトップPC市場向けCPU」として登場した,「Lynnfield」ことCore i7-800&Core i5-700番台。そのゲームにおける性能を,宮崎真一氏が評価する。「手持ちのCore 2システムから,乗り換えるだけの価値はあるのか?」――この点が気になっているPCゲーマーは必見だ。
開発コードネーム「Lynnfield」(リンフィールド)として知られてきた新製品について,4Gamerでは別途,製品概要をまとめた記事や,CPUの基本的な特性を探るテストレポートを用意しているので,細かな話はそちらでチェックしてもらえればと思う。本稿では,PCゲーマー的に最も気になる「3Dゲームにおけるパフォーマンス」に絞って論じていきたい。
→[製品概要紹介]“Lynnfield”正式発表。新製品「Core i7-800&i5-700番台」をキーワードで理解する
→[テストレポート]特徴を徹底的に掘り下げるLynnfield基礎テスト。キモは「Turbo Boost」だ
オーバークロックテストでは
あっさりと空冷4GHz突破
今回入手したレビュワー向けサンプルは,「Core i7-870/2.93GHz」(以下,i7-870)と,「Core i5-750/2.66GHz」の2製品だ。また,比較対象としては,「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」(以下,i7-975)と「Phenom II X4 965 Black Edition/3.4GHz」(以下,X4 965),そして「Core 2 Quad Q9650/3GHz」(以下,Q9650)を用意している。
また,Core i7-900番台から,消費電力(と発熱)の目安になるTDP(Thermal Design Power)が引き下げられている点も,ミドルクラス市場を狙うPCとしては重要なポイントだ。
オーバークロック検証に当たっては,「BIOSからTurbo Boostを無効化し,ベースクロックを引き上げていく」方法を選択。4Gamerのベンチマークレギュレーション8.0で採用するベンチマークテストのすべてと,ストレステストツール「OCCT」(Version 3.1.0)のCPUテスト6時間が,いずれも完走したことをもって「安定動作」と認定することにした。限界を狙うのではなく,常用を想定したため,BIOS上の各種電圧設定は,すべて「Auto」だ。i7-870のHTTは有効になっている。
ただし,Intelの評価キットに付属するThermalright製の大型CPUクーラー「MUX-120」に換装すると,ベースクロックは190MHzにまで伸び,4.19GHzで安定動作。この結果から,大型CPUクーラーを用いるほうが,オーバークロック耐性は上がることが確認できたので,i5-750ではMUX-120搭載時のみでテストしたが,こちらはベースクロック200MHzの,動作クロック4.01GHzまで高めることが可能だった(※CPU内部のQPI速度も,それにつられて上がっている)。
CPUコア電圧は,i7-870が3.77GHz動作時に1.45V,4.19GHz動作時に1.46Vまで,また,i5-750が4.01GHz動作時に1.43Vまで上がったのを確認できている。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
ROG Connectについては,9月2日の記事でも概要を紹介しているが,要するに,付属する6ピンオス−6ピンオス仕様のUSBケーブルで,Maximus III Formulaと別のPCとを接続すると,別のPCから,Maximus III Formula上のBIOSを直接制御できるようになるというものだ。今回は,Intel製マザーボード「D975XBX」ベースのごくごく一般的な自作PCとつないでみたが,自作PCに専用ツール「RC TweakIt」をインストールしたうえで,Maximus III FormulaのI/Oインタフェース部に用意されたプッシュスイッチを押すと,動作クロックや動作電圧,温度のモニタリングや,アプリケーション実行中のリアルタイムBIOS設定変更が行えるようになった。
上位モデルや競合製品
“前世代品”と比較
テスト環境は表2のとおり。マザーボードはASUS製で揃え,かつ,できる限りDDR3環境で統一したが,本稿の主題でもある「Core 2からの乗り換え」という前提に立った場合,LGA775プラットフォームで大多数を占めるDDR2 SDRAM環境を無視するわけにはいかないため,Q9650のみ,DDR2システムとした。
また,オーバークロック時のスコア取得においては,動作クロックを「@〜GHz」で,搭載するCPUクーラーを[ ]書きでそれぞれ付記する。MUX-120を搭載して,4.19GHz動作させたi7-870だと「i7-870@4.19GHz[MUX-120]」といった具合だ。なお,定格クロック動作時のCPUは,各製品のリテールボックスに付属のクーラーを用いている。
テスト方法は,先ほども触れたが,4Gamerのベンチマークレギュレーション8.0準拠。ただし,グラフィックス描画負荷が大きく,CPUの差が見えにくくなる「高負荷設定」は省略し,「標準設定」(※「バイオハザード5」は「低負荷設定」)のみでテストを行う。また,グラフが大きくなりすぎたため,記事中のグラフは,1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの3パターンのみを表示する。1920×1200ドットのデータを含む完全版は,各グラフ画像をクリックすると,別ウインドウで表示するようにしたので,興味のある人は参考にしてほしい。
プロセッサナンバーに沿った順当な結果
HTTは無効のほうがよいケースも
というわけで,まずは,定番の3Dベンチマークソフト「3DMark06」(Build 1.1.0)から。グラフ1を見てみると,i7-870(HTT ON)は,i7-975にこそ低解像度を中心に置いて行かれるものの,X4 965と同等以上,Q9650よりは間違いなく高いスコアを示している。また,マルチスレッド処理に最適化されている3DMark06ではHTTの効果も大きく,i7-870(HTT OFF)はスコアを落とした。一方,i5-750は,Q9650とほぼ同じレベルだ。
オーバークロックによる性能向上はかなりあり,i7-870@4.19GHz[MUX-120]が,1024×768ドット解像度において,唯一の20000超えを果たしている点は注目しておきたい。
グラフ2は,3DMark06のデフォルト設定である,1280×1024ドット設定時のCPUスコア「CPU Score」を抽出したもの。ほぼグラフ1を踏襲した印象だが,i5-750@4.01GHz[MUX-120]がi7-975に届いていないなど,若干の違いも認められる。
しかし,上でも述べたように,実際のゲームタイトルで,3DMark06ほどマルチスレッドに最適化されたケースはまれである。この点を踏まえて,実際のゲームタイトルを見ていくことにしよう。
グラフ3は「Crysis Warhead」の結果をまとめたものだが,本タイトルはグラフィックス描画負荷が極めて高いため,CPUの性能差が表れづらい。実際,スコアは横並びで,動作クロックの違い,HTTの有無,Turbo Boostの効果などは,何も見えない状況だ。
続いてグラフ4は「Left 4 Dead」の結果だが,ここでは,1024×768ドットで,CPUごとの違いがはっきり出た。i7-870(HTT ON)は,i7-975から10%程度置いていかれるが,一方,X4 965やQ9650には20%前後の差を付けている。また,若干ではあるものの,i7-870(HTT OFF)のほうが,i7-870(HTT ON)よりスコアは上だ。
オーバークロック設定時は,HTTの有無だけでなく,ベースクロックもスコアを左右する一因になっているようで,ベースクロック200MHzのi5-750@4.01GHz[MUX-120]と,同190MHzのi7-870@4.19GHz[MUX-120]のスコアが並んでいる。
レギュレーション8.0採用するタイトルのなかでは,圧倒的に負荷が低く,かつマルチスレッドへの最適化も進んでいないため,大多数のオンラインゲームにおけるパフォーマンスの指針としても機能する「Call of Duty 4: Modern Warfare」のスコアがグラフ5である。
ここでも,Crysis Warheadと同様,CPUの性能差はあまり出ていない。むしろここで見えてくるのは,負荷の低いゲームをプレイするなら,CPUにハイエンドクラスを選ぶ必要はない,ということだろう。
グラフ6は,CPU負荷の高いTPS,「バイオハザード5」の結果だが,ここで最初に注目したいのが,i7-870(HTT OFF)とi7-870(HTT ON)のスコアである。ご覧のとおり,HTTを無効化したときのほうが,平均フレームレートが高いのだ。
この理由を探るべく,米田 聡氏がテストレポート用に作ったツールでTurbo Boostの効き具合を探ってみたところ,動作クロックは,HTT有効/無効時を問わず3.20GHz程度。“Turbo Boostの効き具合”に差が出ているわけではないので,HTT処理自体のオーバーヘッドが出ている可能性を指摘できそうである。
続いて,グラフ7に示した「ラスト レムナント」では,HTTの効果は見られない一方,Turbo Boostの効果が強く出ており,1024×768ドットでは,i7-870(HTT ON)およびi7-870(HTT OFF)がi7-975のスコアを上回った。i5-750も,i7-975に迫るスコアを示している。動作クロックの高さが要求される場合には,Core i7-800&i5-700番台の新型Turbo Boostが有効に機能するようだ。
もう一つ,“Intel Microarchitecure(Nehalem)組”最下位のi5-750と,Q9650の間に,1024×768ドットで25%もの差があることも指摘しておきたい。i5-750のTurbo Boost有効時における最大クロックは3.20GHzで,Q9650との動作クロック差が最大でも200MHzしかないことを踏まえると,メモリ周りが影響している可能性が高そうである。
最後に,マルチスレッドへの最適化が比較的進んでいる「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果をグラフ8にまとめたが,ここではほぼ,プロセッサ・ナンバーごとにスコアが並んでいる。同時に,上位陣のスコアはほとんど変わらない一方,i5-750とQX9650の差が最大で約15%あるのは,なかなか興味深い。
TDP 95W&チップセットの1チップ化で
消費電力は大幅に低減
TDPがCore i7-900番台の130Wから95Wに下がり,しかも組み合わされるチップセットが1チップ化した,Core i7-800&i5-700番台。気になる消費電力もチェックしてみよう。
今回は,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,OCCTのCPUテストを30分連続実行した時点を「高負荷時」とし,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を測定する。アイドル時については,CPUの持つ省電力機能「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST)および「Cool'n'Quiet」のオン/オフ両方でスコアを取得することをお断りしつつ,スコアをまとめたのがグラフ9だ。
ご覧のとおり,i7-870とi5-750の低さが目立つ。i7-975とはアイドル時に40W前後,高負荷時に80Wと,圧倒的に低いが,これは,CPU間にある35WというTDPの違いや,TDP 24.1WのX58 IOH,そしてメモリモジュール1枚分を超えているので,マザーボード設計の違い,もっというと,ASUSが「自信を持っている」という,Maximus III Formulaの16+3フェーズPWM回路によるところが大きそうだ。
グラフだけ見ると,i7-870やi5-750はQ9650よりも高負荷時に10W程度低いが,この程度だと,搭載するチップセット――今回は,TDPの高いX48 MCHを利用しているが,Core 2をサポートするチップセットのTDPには,TDP 10W台前半から30W程度まで幅がある――の差は,マザーボード設計で吸収できてしまう。よって「i7-870やi5-750は,Q9650よりも消費電力が低い」と,必ずしもいえるものではないので,この点はくれぐれもご注意を。
最後にグラフ10は,室温22℃の環境において,PCケースに組み込まず,バラック状態のまま検証したグラフ9の時点におけるCPU温度を,参考程度にまとめてみたものだ。
温度測定に用いたのは「HWMonitor Pro」(Version 1.06)。CPUクーラーの回転数はいずれもPWM制御させているので,定格動作時の温度は,「リテールクーラを搭載したときどうなるか」の参考値として参照してほしい。ひとまず,i7-870やi5-750のリテールクーラーが,まずまずの冷却能力を持っていることと,Core i7プロセッサが,おおむねプロセッサ・ナンバーどおりになっていることと,MUX-120のほうがDHA-Aよりも冷却能力が確実に高いことは確認できよう。
ゲーム用途でHTTは不要か
i5-750が価格的にお買い得
以上,i7-870とi5-750のテスト結果は,いずれもプロセッサ・ナンバーどおりになったといえるだろう。ただし,9月8日の販売開始直後における実勢価格は,i7-870が6万円前後に対してi5-750は2万〜2万2000円程度で,差はおよそ4万円。ほとんどのCore 2ユーザーにとって,Core i7-800&i5-750への買い換えが,マザーボードとメモリモジュールの買い換えともほぼ同義であることを考えると,この価格差はかなり大きい。
しかも,4万円(弱)の“内訳”は,266MHz程度の価格差と,Turbo Boost 1段階分,そしてゲームでは有効化することによってむしろパフォーマンスが低下する可能性すらあるHTTのみであることを考えると,選ぶべきはi5-750のほうではないだろうか。むしろ,倍率が比較的低めのため,ベースクロック引き上げ式のオーバークロック設定を行いやすく,浮いた予算で冷却性能の高いCPUクーラーを購入すれば4GHz常用も夢ではないという点に,惹かれる人もいると思う。
なお,Core 2システムからの買い換えという観点から見ると,Call of Duty 4のスコアを見る限り,オンラインゲーマーはまだまだCore 2でいいように思う。3Dゲームにおけるパフォーマンスの向上を図るのであれば,グラフィックスカードに予算を割いたほうが,幸せになれるはずだ。
一方,最新タイトルのうち,CPU処理が比較的高いタイトルでは,新世代CPUに相応の効果も見込めるのも確か。「Windows 7合わせで,Core 2のデビュー直後に導入した搭載システムを刷新したい」という場合には,i5-750は有力な選択肢として考慮に値するだろう。
- 関連タイトル:
Core i7&i5(LGA1156,クアッドコア)
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