レビュー
55ドルのATI Radeon HD 4000シリーズは,ゲームに使えるのか
ATI Radeon HD 4550リファレンスカード
» ATI Radeon HD 4000シリーズのローエンドモデルとして登場した,AMDによる想定売価55ドルの新製品を,宮崎真一氏が評価する。64bitメモリインタフェースということで,高い3D性能は望み薄だが,実勢価格1万円以下の市場において,どう位置づけられる製品だろうか。
今回4Gamerでは,AMDの日本法人である日本AMDより,HD 4550リファレンスカードの貸し出しを受けたので,同社の想定売価が55ドルとなるローエンドモデルが,どこまで3Dゲーム用として使えるのかを探ってみたいと思う。
Low Profile仕様のリファレンスカードは
アクティブクーリング仕様
ATI Radeon HD 3000世代の「ATI Radeon HD 3650」(以下。HD 3650)と,「ATI Radeon HD 3470」(以下,HD 3470)の間を狙ったようなスペック,ということもできるだろう。また,HD 4350の仕様は,メモリ周りを除くとHD 4550と同じで,HD 4550をベースに,よりコストダウンを進めたモデルと見るのが正しそうだ。
なお,注目の公称消費電力はHD 4550/4350とも20W以下。HD 4650の48Wと比べると,かなり低い。
※お詫びと訂正
初出字に,HD 4650の消費電力を59Wとしていましたが,48Wの誤りです。お詫びして訂正いたします。
GPUクーラーは小型のファン搭載タイプで,筆者の主観になることをお断りしつつ続けると,動作音はそれほどうるさくない印象。ちなみに,グラフィックスメモリ512MB版のリファレンスデザインは,パッシブヒートシンクを搭載する,大きめのファンレスタイプとなる。
GPUのダイサイズは実測で約8.9×8.3mm。同12.3×12.3mmだった,開発コードネーム「RV730」ことATI Radeon HD 4600シリーズと比べて,かなり小さくなった。
試用した個体が搭載するメモリチップは,Samsung Electronics製DDR3の「K4W1G1646D-EC12」(1.25ns品)で,同チップをカードの両面に2個ずつ搭載することで,容量256MBを実現している。
なお,原稿執筆時点では,TechPowerUp製のグラフィックスBIOS(VBIOS)編集ツール「ATIFlash」(Version 3.60)およびGPU情報取得ツール「GPU-Z」(Version 0.2.8)が,いずれも非対応だったことを付記しておきたい。
最新世代のローエンドGPUと比較
ドライバのバージョンには要注意
今回,HD 4550の比較に当たって用意したのは,先ほど示した表1から,HD 4350を除くすべてだ。まず,HD 4650については,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンより,搭載カード「R4650-D512」を入手。また,HD 3650については,Sapphire Technologyの販売代理店であるアスクの協力で,GDDR3搭載モデル,「SAPPHIRE HD 3650 512MB GDDR3」を用意した。
このほか,価格帯が近い製品として,独自にHD 3470と「GeForce 9400 GT」(以下,9400 GT)搭載カードを準備している。
SAPPHIRE HD 3650 512MB GDDR3 HD 3650定番の一枚 メーカー:Sapphire Technology 問い合わせ先:アスク(販売代理店) 実勢価格:9000円前後(2008年9月30日現在) |
このほか,テスト環境は表2のとおり。
今回注意してほしいのは,グラフィックスドライバのバージョンが統一されていないことだ。
ATI Radeonシリーズの検証には,AMDがHD 4550のレビュワー向けに配布した(ATI Catalyst 8.9ベースの)「8.531.1-080905a-069168E-ATI」を使うことにしているが,同バージョンがHD 4650をサポートしていないため,同GPUのみ,製品ボックス付属版で,ATI Catalyst 8.8ベースと思われる「8.523-080808a-068451E-MSI」を用いた。
また,9400 GT搭載カードの「EN9400GT SILENT/HTP/512M」は,シェーダクロックが1375MHzと,リファレンスより低くなっていたため,「NVIDIA System Tools」を用いて,1400MHzにまで動作クロックを引き上げている。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション5.2準拠。ただし,ローエンド向けということで,その非力さは容易に想像がつくため,パフォーマンスの違いが見えづらくなる「高負荷設定」のテストは省略し,「標準設定」でも,1920×1200ドットは割愛する。
HD 3470比でのパフォーマンス向上は著しいが
GDDR3版HD 3650には及ばず
まずは,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果から見ていこう。グラフ1は総合スコア「3DMark」をまとめたものだが,HD 4550のそれは,テストした全解像度でHD 3470を大きく上回り,9400 GTに対しても優位性を示している一方,HD 4650やHD 3650にはかなりの差をつけられている。3DMark06から推測する限り,HD 4550のポテンシャルは,HD 3470とHD 3650の中間程度の認識で間違いない。
続いてグラフ2〜4は,解像度1280×1024ドットで,3DMark06の「Feature Test」から,フィルレート(Fill Rate),ピクセルシェーダ(Pixel Shader),頂点シェーダ(Vertex Shader)のテスト結果だが,ここではグラフ4に注目したい。フィルレートとピクセルシェーダで,HD 4550はHD 3650に準じるスコアを見せているのに対して,頂点シェーダテストの「Simple」では,HD 3470にすら一歩譲るスコアとなっているからだ。
たしかに,ATI Radeon HD 4000シリーズはピクセルシェーダ性能重視のチューニングがなされているが,それが,ローエンドでは顕著な弱点として露呈してしまった印象を受ける。
以上を踏まえて,実際の3Dゲームにおける性能考察に移ろう。
グラフ5はFPS「Crysis」のGPUベンチマーク「Benchmark_GPU」実行結果となるが,一言でまとめるなら,3DMark06の総合スコアと似た傾向だ。HD 3470と比べて,3D性能の大幅な改善が見られ,9400 GTとの比較でも有利なHD 4550であるものの,HD 3650にはまったく歯が立たない。
「Unreal Tournament 3」(以下,UT3),「Half-Life 2: Episode Two」(以下,HL2EP2)でも,傾向自体はCrysisと同じ(グラフ6,7)。しかし,両タイトルのように,描画負荷が低い場合には,HD 4550とHD 3650,9400 GTの差が縮まっている。
続いてはTPSの「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」(以下,ロスト プラネット)。ロスト プラネットは,グラフィックスメモリ負荷の高いタイトルとして知られているが,果たして実際のゲームプレイに近いスコアが得られる「Snow」の結果をまとめたグラフ8では,まず,同じ128bitメモリインタフェースを採用するHD 4650とHD 3650で,メモリクロックで大きく上回る後者(※前者は動作クロック1GHz相当,後者は同1.6GHz相当)が,前者のスコアを上回っている点が興味深い。
翻ってHD 4550に目を移すと,やはり64bitメモリインタフェースというハンデが影響してか,9400 GTとほぼ同程度のスコアしか得られていない状況だ。
最後は,RTS「Company of Heroes」。グラフ9を見るに,やはりその実力は,HD 3470とHD 3650の間,ということになりそうである。
「公称消費電力20W以下」も
期待ほどは下がっていない
そこで今回も,電力変化のログを取得できるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を測定することにした。OSの起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,スコアをまとめたものがグラフ10だ。
これを見てみると,HD 4550搭載システムの消費電力は,各ゲームアプリケーション実行時にざっくり140W前後。対するHD 4650は150W前後で,その差は10W程度だ。最大消費電力での比較となる以上,「48-20=28」という単純な計算式にならないのはやむを得ないが,それでも,20Wというスペックに,あまり大きな期待はしないほうがよさそうである。
さて,3DMark06を30分間連続実行した時点を「高負荷時」とした,GPUの温度測定も試みた。測定に当たっては,室温24℃の環境で,PCケースに組み込まないバラックの状態にテスト環境を置き,GPU温度表示機能を持つ「HWMonitor Pro」(Version 1.02)を利用している。
9400 GTとHD 3470はファンレス仕様であるなど,GPUクーラーが異なるため,横並び比較にはあまり意味がないが,それでもグラフ11を見ると,そんなファンレスの9400 GTよりも,ファンを搭載するHD 4550のほうが温度は高く,HD 4550リファレンスカードが搭載するクーラーの,冷却能力不足を見て取れよう。
消費電力の測定結果からして,HD 4550の発熱量は下がっているはずなので,これはカードベンダー各社のオリジナルクーラー搭載モデルに期待したい。
ちなみに,HWMonitor Proによると,HD 4550のGPUコア電圧は,高負荷時に1.1Vなのが,アイドル時には0.9Vへと下がっていた。
UVD2を生かしたムービー再生用と見るのが妥当
ゲーマーはあと数千円足してHD 4670を選ぶべき
最近のAMD製ローエンドGPUは,UVD(&Avivo HD)を生かした,ビデオ再生用としてのニーズのほうが大きいが,UVD2を搭載するHD 4550も,その路線の製品と見るべきだろう。
あと数千円足すだけで「ATI Radeon HD 4670」搭載カードを購入できる事実を踏まえるに,3Dゲーム用途でHD 4550は選択肢とはなり得ない。1万円前後の投資でコストパフォーマンスを重視するのであれば,積極的にHD 4670を選びたいところだ。
- 関連タイトル:
ATI Radeon HD 4500/4300
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