インタビュー
モンスターハンターをもう一度見つめ直す――プロデューサー辻本良三氏とディレクター藤岡 要氏に聞いた「モンスターハンター3(トライ)」開発秘話
シングルモードはストーリーに重きを置きつつ
自然に操作を覚えられるように配慮
「モンスターハンター3(トライ)」のシングルモードでは,チャチャがお助け役として登場します。今回,奇面族の子供の一人という設定にしたのはどのような理由からなんでしょうか?
藤岡氏:
まず一つは,「モンスターハンター」というゲームは,一人でやるのと二人でやるのでは難度がかなり変わります。そこで,シングルモードで一緒にプレイしてくれるキャラクターを入れようと考えました。
辻本氏:
シングルモードをけっこう進めている方は,一度チャチャを連れずにクエストをやってみてください。チャチャのありがたみが分かると思いますよ。
藤岡氏:
また「3(トライ)」のシングルモードは,ストーリーの流れを重視しています。そこで,一通りストーリーを見たあとに記憶に残るような,遊んでよかったな,楽しかったなと思えるような仕込みをしたいと思ったんです。それでクエストでいろいろ助けてくれたキャラクターがストーリーに絡んでいれば,記憶に残りやすいんじゃないかと考えたんです。
途中には,チャチャのありがたみを感じさせるような展開も入れて,印象に残るようにしています。シングルモードの進行は,「ああ,あそこは苦労したね」「うん,あったあった」みたいな,記憶に残るものになるよう心がけました。
4Gamer:
チャチャが喋ったり踊ったりするのも楽しいですよね。
せっかく入れるなら,何かクセを持たせたかったんです。まず奇面族ですから,お面をキーにしました。チャチャはお面を探してウロウロしていたら迷ってしまって,村にやって来ます。チャチャ自身の目的はお面を探すことですが,ハンターとしてもチャチャのお面を付け替えることで,さまざまなメリットが得られます。
ハンターと同じようなことをやらせるのではなく,主にサポートをやってくれるというキャラ作りにしよう,と。そういったように,いろいろ考えた結果,今のチャチャができあがったわけです。
4Gamer:
そのほか,お二人が思う「ここはぜひ楽しんでほしい」というシングルモードのオススメポイントはどこでしょうか?
モガの森で,ゆっくりのんびりしてもらえるといいですね。これはシリーズの中でも「3(トライ)」にしかない特徴ですから。探索して採集してもらっていいし,資源を溜めたければ狩りをしてもらってもいいし,新しい武器を作ったときに試し斬りをしてもらってもいいし。大型モンスターに遭遇したらチャレンジしてもらってもいいし,また逃げてもらってもいいです。そうやって,思い思いに楽しんでほしいです。
辻本氏:
僕は,やっぱりストーリーですねえ。これはシナリオを見てくれという意味ではなくて,ストーリーに沿ったゲーム的な進行を見てほしいんです。
「3(トライ)」はアクションゲームなんで,進行させるためにはアクションでクリアしていかなあかんところがあります。そこで,ストーリーに沿って進行していく中で,いろんなことを覚えていけるよう,すごく丁寧に作っているんですよ。
たとえば水中にしても,いきなり「水中のモンスターを狩れ!」ではなくて,シングルモードでは段階的に覚えられるようになっています。まず水中の移動を覚えて,次は水中の基本動作をするモンスターが出て来て……という感じで,いつの間にか対応できているように作っているんです。そこを味わってほしいですね。
4Gamer:
確かに,序盤はいわゆるチュートリアル的な部分なのに,プレイしたときに「やらされている」感はあまり感じませんでした。
辻本氏:
ストーリーの進行と絡み合っているので,システマチックじゃないんです。ただストーリーを進めているだけで,自分のスキルがちょっとずつ上がっていく。その設計を見てほしいかな,と思いますね。
ストーリーといえば,村人がいろんなことを喋るので,ぜひ積極的に話しかけてほしいですね。ストーリが進行したら,たとえば子供にも話しかけてみてください。その瞬間にしか喋らないこともあります。その中で,「あ,この子はこんなこと考えてるんだ」と感じてもらえたら嬉しいです。
辻本氏:
あと,終盤に村長はすごくいいことをいいますよ。
4Gamer:
「3(トライ)」のストーリーは,非常にドラマチックな展開ですね。あとボリュームもかなりあるのに,流れはスムースに進行するのが印象的でした。
辻本氏:
分かりやすく作ることを心がけたんです。さまざまな部分にリンクするからこそ,分かりやすく。ぜひ楽しんでほしいです。
「面白そう」「できたらすごい」から始まった
Wiiリモコンとヌンチャクによる新感覚操作
4Gamer:
Wiiリモコンとヌンチャクでの操作方法は,仕様の決定まで相当苦労したんじゃないかと思うんですが,具体的にどのあたりが大変だったのでしょうか。
全部です(笑)。ボタンの配置から何から,今までのコントローラとは全然違いますから,どう落とし込んでいくか考えるのは大変でした。その半面,楽しかったといえば楽しかったですよ。どうしてもダイナミックに配置を変えなければならないので,それをどこまでやっていいのか考える必要がありましたし,作業が進んで「今までのシリーズもこれでプレイできるよね」という段階になったときはやったかいがあったなと感じました。
4Gamer:
大いに挑戦する価値のある仕事であったと。
藤岡氏:
最終的には「生理的な操作として覚えられるかどうか」という点で判断しました。僕個人は,かなりいい形に落とし込めたと思っています。……そもそもボタン数の違いが最初の壁なのですが,携帯ゲーム機用を作ったときも同じようなことから考えましたしね。
辻本氏:
「Wiiで出すから,無理にでもリモコンに対応させないとあかん」という話ではなかったんです。何となく「これで『モンスターハンター』を遊べたらすごいでしょう?」というレベルから始まって,今のところに落ち着きました。
僕個人から見ても,ヌンチャクの使い方はかなり完成度が高いと思いますよ。触ったときに「これすごく面白い!」と感覚的に思えましたし,モンスターハンターにおける新感覚を操作の面でも表現できるというチャレンジした甲斐のある仕事だったと思います。
4Gamer:
ちなみに今回は3種類の操作方法が用意されていますけれども,お二人はどれを使っているのですか?
辻本氏:
僕らは二人ともWiiリモコンとヌンチャクです。ボタンの配置さえ覚えてしまえば,それほど難しいものではないんですよ。ヌンチャクを使う左手だけで移動も採取もできますから,便利ですし。
4Gamer:
ヌンチャクだと適当に振れば採取できて楽ですね。コントローラだと必要がないのは分かっていてもついボタンを連打してしまうんですが。
辻本氏:
あと,最初は違和感があるんですが,両手を離せる“ラフさ”のおかげで,どんな体勢でも遊べるようになりますよ。
藤岡氏:
左手ではキャラクターを移動させながら,右手はある程度自由になりますしね。
辻本氏:
センサーもあまり使うわけではないので,常時画面のほうにリモコンを向けていなくてもいいですし。
4Gamer:
確かに疲れにくいと感じます。そのおかげで,ついつい長時間プレイしてしまうのですが……。
同時発売された「クラシックコントローラPRO」も使いやすいですよね。アナログスティックの位置も「クラシックコントローラ」とは変更してあって。
藤岡氏:
そうですね。軽いし,ボタンの押し心地もいいし。
4Gamer:
どの操作方法がオススメ,というのはありますか?
開発としては,オススメを出していないんですよ。僕らは個人的に合うからWiiリモコンとヌンチャクを使っています,というだけなんです。どの操作方法で遊んでいただいてもかまいません。ただクラシックコントローラでやってる人も,「やり尽くしてきたなあ,突き詰めてきたなあ」と思ったら,次はWiiリモコンとヌンチャクを持ってみてください。同じゲームを違う操作で遊ぶ感覚は,2倍面白い……というのは大げさですが,かなり楽しめると思いますよ。
4Gamer:
クラシックコントローラからWiiリモコンとヌンチャクに持ち替えたときは,違う武器を使っているような感触でした。
辻本氏:
それにWiiリモコンとヌンチャクは,Wiiに一番合ったコントローラですからね。また,今,僕らがこうして「フリースタイル操作」を選んでプレイしているってことは,チャレンジしてよかったということの証明でもあると思います。
4Gamer:
コントローラが違っても「モンスターハンター」なんだなあと感じましたね。
藤岡氏:
まったく触ったことないインタフェースで「いかに遊ばせたろか」みたいに考えるのは,やっぱり楽しいですよ。
辻本氏:
「難しい」「無理」じゃなくて,「やったら面白そう」というところから始まってますしね。……よう考えたら,これもだいぶ時間かかっていますよ。
4Gamer:
なんでも,東京ゲームショウ2008のプレイアブル出展直前まで調整していたとのことですが。
藤岡氏:
まさに直前までやってました。もうROM刷らないと間に合わないって言われているのに「ここ変えたい」って(笑)。
辻本氏:
ベースは大きく変わってないんですが,水中はメチャメチャ変わりましたね。
4Gamer:
やはり水中の操作に試行錯誤したわけですか。
藤岡氏:
けっこうダイナミックに変えたところもありました。陸上と水中で操作を共有しているので,水中操作が決まらないと全部が決まらないんですよ。
ネットワークモードでのイベントクエスト開催や
全国5都市で開催するモンスターハンターフェスタ’09など
発売後も継続して盛り上げていく
シングルモードとネットワークモードは,どのくらいの比重で遊ばれると想定していますか?
辻本氏:
難しいですね。「モンスターハンター」は,シングルモードもネットワークモードも,基本終わりがないゲームです。さらに今回はモガの森があります。モガの森は極めて自由度が高く,人によって遊び方が全然異なります。そういう意味では,比重を想定するのは難しいです。まあ,両方満足していただけるくらい,としておきましょうか(笑)。
4Gamer:
Wii本体は無線LANがIEEE 802.11b/g対応,有線LANアダプタは10BASE-T相当と,いずれの接続方法でも帯域がそれほど広くはありません。このことでネットワークモード制作時に苦労したことはありますか?
藤岡氏:
そもそも送信量は大きくならないように気を使っていますから,基本的にはどちらでも大丈夫です。あまり環境に左右されないよう意識しています。
辻本氏:
有線を選ぶ方は,安心感を求めるからでしょうね。個々の環境にもよると思いますが,僕個人は無線LANを使って問題なく遊べていますよ。
4Gamer:
インターネット接続は個々の環境による部分も大きいでしょうけど,帯域がそれほど広くなくとも十分なやり取りができるというわけですね。
藤岡氏:
一緒にプレイしている人全員で情報を共有するのが楽しいゲームですから,それを損なわないようにいろいろと配慮しています。通信待ちでスムースなアクションができないようでは,ゲームとして成立しませんから。
辻本氏:
ネットワークの取り組みは初代からずっと積み重ねているものなので,「3(トライ)」になったから特別に何かしたというわけではないんですよ。これまでのノウハウをすべて集約して爆発させた感があるんです。今のところ,大きなネットワークトラブルもないですし,今までの経験が活きているといえるでしょう。
4Gamer:
ネットワークモード上のコミュニケーションについて,配慮したところはありますか?
コミュニケーションは非常に重要な要素と捉えていますので,今回はクエスト中の人ともチャットができるようにしたりとか,そういった部分でも変更しています。今までは遮断されていた部分も,今回は開放してみました。
4Gamer:
今後,ネットワークモードでどんなイベントクエストが開催されるのか教えてください。
辻本氏:
各種のコラボレーション企画や,クエストとして面白いものなどを配信していきます。長期間に渡って提供していきますので期待してください。
藤岡氏:
ネットワークモードでは,全国5都市で開催される「モンスターハンターフェスタ’09」に向けた闘技大会クエストの開催も行っていますので,練習していただけたらと思います。
それでは次に,闘技つながりでオフラインの闘技場モードについてお聞きします。今回,Wiiリモコンでデータを持ち運べますが,これはどういった意図で企画したのでしょう?
藤岡氏:
これは友達の家で闘技場モードを遊んだときに,そこで得た結果を持ち帰るという意図です。遊んでもその場限りだったらちょっと寂しいじゃないですか。「一緒に『3(トライ)』でもやる?」となったら,Wiiリモコンも一緒に持っていけば一緒に遊んだ結果も持って帰れますよね。一緒に遊ぶことを躊躇させたくなかったのと,遊びに広がりが出るといいなあくらいの気持ちで入れてみました。
4Gamer:
闘技場モードは,シリーズ初の画面分割対応になりましたが,開発で苦労した部分はありましたか?
藤岡氏:
技術的には難しいものではないのですが,初めてのことなので,意外とやらないといけないことが多いなあというのが本音でした。
辻本氏:
「モンスターハンター」は画面全体を使って情報を表示していたので,まず,画面分割時のインタフェースレイアウトを考え直さないといけませんでしたね。
藤岡氏:
二人同時プレイなので音の鳴り方とかも苦労しましたね。あとは,闘技場モードは装備選択式なので,実際の作業では「この装備なら,このくらいの遊び心地がいいよね」といったバランス調整にも時間をかけました。
辻本氏:
最終的に上下分割になりましたが,左右分割を試したこともあります。左右に視点を動かすことが多いんで,横が狭いと閉塞感が強くて駄目でしたけど(笑)。
4Gamer:
細かい話ですが,今回,セーブデータをハンター3人分×6ファイル登録できますよね。
辻本氏:
これは,家族で遊ぶ人達のために多めにしました。Wiiはリビングに1台というイメージですし,誰かがやりたいからといって,一部でも自分のデータが消されるのは嫌じゃないですか。
今は遊んでいるのが一人でも,そのうち家族の誰かが始めたいとなったら,自分専用のデータを作ってもらえればと思います。
4Gamer:
なるほど。それでセーブデータそれぞれに名前を付けられるんですね。
そろそろ時間も迫ってきてしまったので,「3(トライ)」の今後の展開についてお聞きします。「3(トライ)」を海外でもヒットさせていくとのプランが明らかにされていますが,実際のところ,ヒットさせるにはどのような点が重要だと考えていますか? また,海外向けのカスタマイズなども視野に入れているのでしょうか?
「3(トライ)」はチャンスのタイトルかなあと捉えています。というのは,僕の知っている海外の人達は,「3(トライ)」の生態系表現に関して,ものすごく興味を抱いてくれているんです。あとは,そういった人達がどれくらいいるんだろうというところですね。
「3(トライ)」の海外発売については先日発表しましたが,内容を海外向けに大きくカスタマイズするつもりはありません。それよりも,どこに対してアピールしていくかということを考えて,まず「モンスターハンター」を知ってもらうところから始めるというのが,今の状況ですね。
4Gamer:
なるほど。
辻本氏:
あと,これは海外だけでなく日本もなのですが,初めて「モンスターハンター」に触れる人にとっては,Wiiリモコンとヌンチャク操作が入りやすいんじゃないかと思っています。最低限の覚えるボタン数も少ないですし,熟知していなくても,基本的な動作さえ覚えれば,それなりに“爽快感”が出ますから,そこで面白いアプローチができないかと考えています。
4Gamer:
海外展開の面でも,「3(トライ)」がWiiというプラットフォームで発売されたのは,いい機会になったわけですね。
それでは最後に,直近の展開も含めて,日本で「3(トライ)」をどう盛り上げていくのかを教えてください。
直近では,8月23日から始まる「モンスターハンターフェスタ’09」ですね。まず大きなコンテンツとして,全国5都市を回って「狩王決定戦」をやります。10月25日に決勝を行うのですが,これは,一番「3(トライ)」が上手いのは誰なのかを決める直球の大会ですね(笑)。「この人スゲーなあ」というのを,ぜひ生で見てほしいですし,そのクエストの配信も行います。
さらに今回は,今まで以上にモンスターハンターシリーズとしてのお祭り感を出したいと思っているので,ゲームだけではなく屋台もありますし,メインステージではないところで催し物をやったりもします。そのほかの展開でも,Webラジオなどもやってますし,ただ知ってもらうだけではなく,より入り込んでもらえるようにしています。
藤岡氏:
フェスタは入場するぶんには無料なので,ぜひフラッと遊びに来てほしいですね。よろしくお願いします。
4Gamer:
「3(トライ)」の今後の展開にも期待しています。本日は,ありがとうございました。
「モンスターハンター3(トライ)」をすでにプレイしたなら同意できる人も多いと思うのだが,インタビュー中で話に出たとおり,プレイヤーはシングルモードのドラマチックなストーリー展開の中で,ゲーム内のさまざまな状況に対応する「狩猟」の方法を覚えていく。さまざまな配慮が施されているおかげで,実に自然に進んでいくのだ。また,非常に凝ったモンスターの生態系をはじめとした表現が,フィールドという狩場の臨場感を際立たせている。
……いささかほめ過ぎな気もするが,一人のプレイヤーとしては,「モンスターを狩るハンターとして生活を送る」というコンセプトに興味を持ったなら,プレイしないともったいないと感じたタイトルであり,今回辻本氏と藤岡氏に直接話を聞いたことで,その思いはより強くなった。
発売後もネットワークモードでのクエスト配信や「モンスターハンターフェスタ’09」,Webラジオの配信や公式ファンクラブ「モンハン部」など,さまざまな形での展開が行われていく。海外発売も決定した「モンスターハンター3(トライ)」の勢いは,今後も要注目であるのは間違いないだろう。
- 関連タイトル:
モンスターハンター3(トライ)
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