レビュー
前作から10年,ご立派に成長したアメリ姫が大活躍
キングズ バウンティ アーマード プリンセス 日本語版
正統派ファンタジーシミュレーションRPGに最新作が登場
ズーから3月19日に発売された「キングズ バウンティ アーマード プリンセス 日本語版」は,ロシアのKatauri Interactiveが開発した,ファンタジーベースのシミュレーションRPGである。2009年5月にリリースされた「キングズ バウンティ ザ レジェンド 日本語版」の続編にあたり,各種ゲームシステムのボリュームアップと共に,細かい部分がブラッシュアップされ,さらに遊びやすくなっている。
本作でプレイヤーは指揮官となり,さまざまな種族の軍隊を率いて,世界各地を巡りさまざまなクエストにチャレンジしていく。フィールドエリアを移動しながらの冒険はリアルタイムで進行し,そこでモンスターと接触すると戦闘モードへと切り替わる。戦闘モードはヘックス状のマップにて,ターン形式で行われる。シミュレーションRPGとしては,おおむね昔ながらのオーソドックスなスタイルといえよう。
今回の主人公は“アーマード プリンセス”ことアメリ姫。前作ではよちよち歩きの子供だった彼女だが,こんなにたくましくなった |
フィールドエリアでは,シンボルエンカウント形式で戦闘が発生。一時停止も行えるので,美しいグラフィックスを存分に堪能できる |
プレイヤーが率いるユニット数は,100〜200以上は当たり前といった規模で,かなり大規模なバトルが展開される。とはいえ,掲載したスクリーンショットを見れば分かるが,戦闘モードでプレイヤーが操っているキャラクター数は5体程度。このキャラクター自体が多数のユニットによって構成された“兵団”を表しており,何百もの軍勢を率いるとはいっても,操作自体が複雑になったり,多岐にわたったりということになるわけではない。
本作には90種以上のユニットが登場し,兵士や魔法使いなどといったオーソドックスなタイプから,スケルトンやドラゴンなどといったモンスターさえも陣営に加えられる。もちろんユニットは種族によって,レベルやステータス,そして使用スキルなど各種能力が大きく異なる。クエストや冒険の目的に応じて,軍隊のユニット構成を調整することで,さまざまな戦術が可能となるのだ。
戦闘モードはターン形式で進行する。イニシアチブが訪れたユニットは,1ターンごとに移動と攻撃を行うオーソドックスなタイプだ |
世界各地を巡り,NPCから受けたクエストを遂行していく。ストーリーは全体的に落ち着いた雰囲気 |
プレイヤーが扮する“勇者”(主人公)は,軍隊を指揮するという立場であり,戦闘モードで直接剣を振るったりはしない。その代わり,軍隊全体に対して魔法などによる支援行動が可能だ。また,レベルアップや装備品などといった,勇者自身の成長システムがあり,それらも戦力に影響を及ぼしていく。このRPG的なエッセンスが,本作をただの“シミュレーションゲーム”には留まらせない魅力となっている。
ターン制シミュレーションゲームに,キャラクターの育成要素をうまく取り入れているのが,本作の一番の魅力だ。この魅力的なゲームシステムと,昨今では目にすることが少なくなってきた“古き良き正統派ファンタジー”の世界観を思う存分楽しめるのが,「キングズ バウンティ アーマード プリンセス 日本語版」というタイトルなのである。
クエストの種類は非常に多く,一回のプレイではすべて達成できないかも。育成パターンも豊富で,繰り返し遊べる内容だ |
グラフィックスの描き込みには定評のあるシリーズ。ユニットの動きにも躍動感があり,見ていて飽きない |
前作から10年が経過した世界
今度の主人公は戦うお姫様だ
ゲームの舞台となるのは,前作と同じ世界「エンドリア」で,あれから10年が経過したという時代設定である。前作の主人公「ビル・ギルバート」は,かつてこの世界に平和をもたらした英雄として,現在も語り継がれる人物となっている。今回「アーマード プリンセス」でプレイヤーが操るのはビル・ギルバートではなく,エンドリアにおける唯一の王位継承者「アメリ姫」だ。
キービジュアルが,前作と比べてグッと購買意欲をそそるものになったのは確かだが,しかしなぜ,王位継承者であるアメリ姫が自ら冒険へと出かける必要があるのか。
一旦は平和になったエンドリアだが,長らく封印されていた魔王バールが突如として蘇り,世界中へ進軍を開始する。バールの軍勢はエンドリア城の目前まで迫ってきており,かなり緊迫した状況だ。しかも英雄ビル・ギルバートは,すでにエンドリアを去ってしまっているのだ。
そこでエンドリアの王は,アメリ姫を魔法によって一旦脱出させ,軍勢を揃えて救いに戻るという重大な任務を与える。エンドリアを単身脱出したアメリ姫は「ティアナ」という別世界へと降り立ち,姫という肩書きをも失った一人の冒険者として,一から軍隊を築き上げていかねばならないのだ。
少しだけネタばらしをすると,アメリ姫はほどなく,ティアナの一地方を治める「フレデリック王」の信頼を勝ち取ることに成功する。フレデリック王のもとで軍隊を編成しつつ,ティアナの各地へと足を運び冒険を繰り広げる……,というのが大筋のゲーム展開だ。当面の大きな目的として,この世界に八つある「ティアナの石」を集めることになる。
ゲーム開始直後のアメリ姫は,指揮官としてはほとんど何も知らない状態である。そのため最初は,フレデリック王に指揮官としての基礎を叩き込まれるわけだが,これがいわゆるチュートリアルに相当する。したがって,前作のプレイ経験がなくても,まったく差し支えはない。
クエストの攻略を見据えて兵団を編成しよう
兵団を揃えるにはいくつかの方法があるが,最もオーソドックスなのは,世界各地にいるNPCを通じてユニットを雇用することである。それぞれの地域に即したユニットが雇用可能で,場合によっては事前にクエストの達成が必要になることもある。もちろん,先のエリアへ行くにつれ,次第に強力なユニットを雇用できるようになる。アメリ姫の活動範囲が広がるとともに,よりバリエーションに富んだ,強力な軍隊を率いられるようになるというわけだ。
各キャラクターの下にある数字が,現在兵団に所属しているユニットの数を示している。数十〜百人以上の兵団を操ることも |
NPCからユニットを購入しているところ。ゲームの序盤はヒューマノイドが多いが,次第にモンスターなども雇えるようになる |
ただし,ユニットが強くなるほど,兵団として雇用できる数は少なくなっていく。逆に1体1体が貧弱なユニットでも,数を揃えることで強力な兵団にできなくもない。またユニット間には戦闘時の相性が生ずるなど,各ユニットには得手不得手が存在するのだ。プレイヤーは冒険先に出現するモンスターや,クエスト内容などに応じて,兵団構成のアプローチを試行錯誤していく必要がある。
本作では「上位のユニットさえ揃えれば無敵」といった安直な展開にはなりにくく,この兵団の構成を試行錯誤していくプロセスは,プレイしていてなかなか面白いところだ。
フィールド上でモンスターのシンボルに接触すると,戦闘モードに切り替わる。先述したように戦闘はターン形式で,敵味方のユニットが順に(交互に,ではない)行動していく。アクションゲームのように反射神経を必要とするシーンはないので,落ち着いてバトルすることが可能だ。一般的なシミュレーションゲームの経験があれば,このあたりはすんなりイメージできるだろう。
クエストを達成することで,新たなユニットが雇用できることも。マップ画面にそれらしきキャラクターを見かけたら,積極的にクエストを行ってみるとよい |
手持ちのユニットによって,得意/不得意な相手や,戦術などが大きく違ってくる。目的に応じて兵団のラインナップを調整しよう |
今回,本シリーズを久々にプレイしてあらためて驚かされたのは,戦闘モードにおけるユニットの滑らかな動きである。前作もグラフィックスの描き込みには定評があったが,今回はその魅力がさらに増している。プレイ中は「ほかのユニットはどのような動きをしてくれるのだろう?」と,つい次々と新兵団を雇ってしまうほどだった。この手のシミュレーションゲームとしては(比較対象はあまり多くないにせよ),本作のグラフィックスは最大級の評価を与えても良いのではないだろうか。
グラフィックスだけでなく,ユニットの種類の多さにも注目したい。登場するユニット数は90種類以上で,それぞれ0〜2個くらいずつ,固有のアクティブスキルを持っている。簡単に例を挙げると,以下のような感じだ。
・インクイジター:死亡した兵団を蘇らせる「復活」
・マローダー:死亡した兵団から金銭を獲得する「物色」
・ゾンビ:味方の兵団を1ターン内で再行動させられる「パス」
・スケルトンアーチャー:敵のバフを消し去る「暗黒の矢」
・ソーン(植物のモンスター):隣接マスに自らと同じ兵団を作り出す「種まき」
ただ,新たなユニットを雇用したときに,これといった説明がないこともあり,初プレイで各ユニットのポテンシャルを100%引き出すのは難しいかもしれない。本作では,AI操作による「オートバトル」が便利なので,慣れないうちは積極的にこれを使っていくのも一つの手だ。相手との位置関係など,特定状況下において威力を発揮するスキルもあるが,オートバトルでは,そういうスキルも積極的に使ってくれる。「へぇ,こうやって使うんだ」と目からウロコが落ちること請け合いで,そこから新たな戦術が閃くこともあるだろう。
使い方によっては戦局をひっくり返せる“魔法”と“ドラゴン”
兵団の管理は重要だが,指揮官たるアメリ姫の行動も,同じくらい重要である。とくに戦闘モードにおける,「魔法の詠唱」および「ドラゴンへの命令」は,ときとして戦局をひっくり返せるほどの威力を秘めている。
魔法は,前作に登場したものと基本的には同じシステムで,主に味方ユニットへの回復/補助や,敵ユニットへの攻撃/弱体化などが行える。ヘックス上では直接見えないアメリ姫が魔法を繰り出す様は,いわゆるゴッドパワー的なものをイメージすると近いかもしれない。
フィールド上にはさまざまなアイテムが落ちている。敵から逃げ回りながらフィールドを探索しているだけでも,いつの間にか結構強くなっていたりする |
アメリ姫は1ターンに1度,魔法が使える。ファンタジーRPGでは見慣れたものだが,戦闘におけるアメリ姫自体の立ち位置が特殊なので,魔法も特別な存在だ |
続いて紹介するドラゴンだが,これは前作にはなかった最大の新要素の一つである。アメリ姫はティアナへ降り立ってから間もなく,とあるクエストを通じて,子供のドラゴンと冒険を共にするようになる。見た目は可愛らしい普通のペットなのだが,実はこのドラゴン,戦闘モードでは五つの兵団と共に戦ってくれる頼もしい存在だ。
ドラゴンは7種類いて,最初にいずれかを選べる。それぞれの違いは外見の色と,習得していくスキルだ。ドラゴンの攻撃力は非常に高く,ゲーム序盤からそこらの兵団よりも断然活躍してくれたりする。しかも特筆すべきは,ヘックスに関係なく行動できることで,例えばキャスター系やボスなどが敵陣の一番奥に控えていても,ドラゴンならいきなり狙い撃ちすることが可能だ。
レベルアップすると兵団のキャパシティが増え,より大規模の軍隊を形成できるようになる。また,ルーンを取得することで新たなスキルの習得が可能だ |
ぺットドラゴンのレベルアップ要素もある。直接攻撃タイプがとくに強力だが,それ以外にも個性的なスキルが揃っている |
「ドラゴン」は,アーマード プリンセスで加わった重要ポイントの一つ。全部で7種類の中から選べ,レベルアップ時にスキル習得が分岐していく |
画面の左上に,赤いドラゴンが座っているのが分かるだろうか。普段は大人しくしているが,命令を与えるとヘックスに関係なく強力な攻撃を繰り出してくれる |
ただし,魔法詠唱およびドラゴンへの命令は,いくつかの条件がある。まず,両方とも1ターンにそれぞれ1回ずつしか行えず,さらに前者はアメリ姫の「精神力」,後者は「憤怒」のリソースが必要となるのだ。リソースを蓄積する方法も対照的で,精神力はフィールド上での非戦闘時に,じわじわと増えていく。そして憤怒は,味方の兵団が攻撃を受けることで増え,逆に非戦闘時は次第に減っていってしまう。
そのため,戦闘の序盤では魔法が,中盤以降ではドラゴンが,戦局を大きく分けることになりやすい。とくに,敵からの猛攻を耐え抜いたあとに(=憤怒が溜まる)繰り出すドラゴンの一撃は,一発逆転のカタルシスのようなものがあり,プレイしていて実に痛快だ。
一般的なシミュレーションゲームにおける必殺技クラスの能力を,このドラゴンは毎ターン繰り出してくれる,と言えば少しは伝わるだろうか。ドラゴンを使っているだけで,前作と比べて戦闘モードの展開がスピーディになっている印象を受ける。
比較的早い段階で,船による移動手段が可能になる。冒険できるエリアは相当広く,ゲームとしてのボリュームはたっぷり |
フィールド上で海図を獲得すると,新たな広域エリアへと移動できる。世界各地に散らばったティアナの石を探しに行くのが当面の目標だ |
また,アメリ姫自身に関する成長システムもいくつかある。例えば,戦闘を経てレベルアップすることで,「統率力」のパラメータが上昇し,一つの兵団に所属させられるユニットの上限が増えていく。また,世界各地のフィールド上に点在している「ルーン」を集めることで,ツリー形式でパッシブスキルを習得できる。さらにはアイテム装備のシステムもあり,それによって指揮する軍隊に微妙な影響を与えられるのだ。
ちなみにゲーム開始時,アメリ姫のクラスを「ウォリアー」「パラディン」「メイジ」の3種類から選べる。アメリ姫は直接戦闘に参加しないため,どれを選んでも大きな影響が出るわけではないのだが,ウォリアーは「統率」「憤怒」パラメータが上昇しやすい,メイジは「精神」パラメータが上昇しやすい,パラディンはその中間,といった特徴を持っている。まあ,それぞれ別のビジュアルが用意されているということのほうが重要かもしれない。
シミュレーションRPGの得意/不得意に関係なく
ファンタジー好きに広くオススメ
ゲーム難度は,開始時に4段階の中から選べるほか,プレイ中さらに微調整が可能となっている。ゲーム自体は極端に難しくはなく,簡単というわけでもないバランスとなっている。
このゲームでは,一度倒したフィールドモンスターはリポップせず,仮に敗退した場合も,軍資金を手に再挑戦できる。また,フィールド上にはルーンをはじめとしたアイテム類が多数散らばっており,宝探し感覚でくまなく探索して入手していけば,相対的なゲームの難度は緩くなる。逆に,簡単だと思ったら先を急ぐようにプレイすれば,次第に手ごたえが感じられるようになるはずだ。
グラフィックスはユニットから細かなオブジェクトに至るまで,とても丁寧に描き込まれている。プレイ中は終始,どことなく安心感のようなものがあった |
各クラスは軍隊の指揮と魔法習得のバランスが異なる。より多くのユニットが雇用できるウォリアー&イージーモードなら,シミュレーションRPGが苦手な人でも大丈夫 |
ストーリー的には前作からの続きということになっているが,10年も後の世界ということもあり,前作のプレイ経験が必須ではないのも好印象だ。前作と比べると,本作はチュートリアルの出来が大分良くなっており,ドラゴンの導入により戦闘にメリハリが利いているため,未経験者に向けても十分にオススメできる。
もちろん前作のプレイ経験があれば,ストーリーをより深く堪能できるだろう。例えば,風景やクエストなどで触れるエンドリアの世界観は前作そのままだし,何よりアメリ姫とビル・ギルバートとの関係には興味津々である。
これが前作の主人公の“ビル・ギルバート”。彼が今回,ゲーム内に登場することはあるのだろうか? |
ゲームを進めていくと,アメリ姫にとっての“パートナー”を選ぶことができる。ストーリー上の変化があるのか気になるところだ |
例えば,アメリ姫にとってビル・ギルバートとは,世界を救った英雄であるだけでなく,個人的には剣術の師匠でもある。そして今回アメリ姫は,エンドリア王から,ビル・ギルバートの探索も命じられているのだ。果たして,本作のストーリーを進めることで,その目的が達成される日は来るのか,そしてもしそうなった場合,「パートナーシステム」で彼を選ぶことはできるのだろうか? 本稿の執筆時点では,まだエンディングまで到達していないので,そのあたりも含め,じっくりと確かめていきたい。
「キングズ バウンティ アーマード プリンセス 日本語版」は,シミュレーションRPGのファンのみならず,落ち着いた雰囲気のファンタジー作品に興味がある人全般に向けて,自信を持ってオススメできる。あたかもファンタジー小説を読み進めるような感覚で,クエスト一つ一つを噛み締めるようにプレイしたくなるタイトルだ。
4Gamerに以前掲載した前作のレビュー記事や,アーマード プリンセスの英語体験版記事へのリンクを用意しておくので,興味を持った方はそちらもどうぞ。なお,今回の「アーマード プリンセス」と前作「ザ レジェンド」がセットになった「キングズ バウンティ ゴールド エディション 日本語版」(1万3440円・税込)も発売されているので,両方欲しくなった方はそちらをどうぞ。
「King's Bounty: Armored Princess」英語体験版
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