レビュー
シリーズ最高傑作の呼び声が高い第1作が,PSP版となってさらにパワーアップ
グローランサー
PSP版では,新たなキャラクターや新ルート/新エンディングが追加され,ボリュームが大幅にアップしているほか,携帯ゲーム機用ソフトならではのチューニングも施されている。
本稿では,新たに生まれ変わったグローランサーの魅力について,さまざまな角度から語っていこうと思う。PlayStation版をリアルタイムで楽しんでいたという人も,PSP版で初めて知ったという人も,ぜひ目をとおしてほしい。
■ストーリー■
かつて,人々が住んでいた世界は魔法エネルギー「グローシュ」が満ちていた。
人々は大気中に浮遊するグローシュから魔法を使い,生活していた。
しかし、ある時から太陽が異常をきたし、大地は徐々に死へと向かった。人々は時空融合計画を行い別の世界と「重ね合わせ」ることで生き延びた。だがその結果グローシュは失われ、魔法を使うためには2つの世界の歪みからもれる僅かなグローシュを使うほかになかった。
そしてしばらく後…、この大陸にはローランディア王国、バーンシュタイン王国、ランザック王国の3つの国が栄えていた。
ローランディア王国は,隣国バーンシュタイン王国と共同で魔法学院を創り,平和的に魔法を活用しようとしていた…。
ローランディアの宮廷魔術師サンドラに拾われた少年は「世を滅ぼす闇となる」「世界を救う光となる」と,相反する2つの暗示を受ける。
彼の将来を案じたサンドラは,自立できる年齢になるまで彼を王都の外へださず,外界との接触も持たせぬようにしてきた。
そして,少年が17歳になった朝,彼女は彼に告げた。
旅立ちの日が来たこと,自分の目で世界を見てくるようにと…。
少年は初めて王都を出て,外の世界へ旅立つ。
それが,すべての始まりであることを知らないまま…。
RPGというよりはセミリアルタイムストラテジー?
戦略性/戦術性に富んだRMC戦闘システムが熱い
このRMC戦闘では,戦闘シーンに敵と味方だけでなく,その場に居合わせた人も,戦闘に巻き込まれる形で登場することがある。つまり,戦闘が発生した場所が街なら,戦闘画面に市民なども登場することがあり,か弱い市民や,あまり強くはない兵士などを守りつつ,敵を殲滅するといったミッションも発生するわけだ。
ちなみに,敵はマップ上にシンボルエンカウントとして表示されるので,ザコ戦であれば,ある程度戦闘の頻度をコントロールできる。
戦闘システムそのものは,一般的なRPGというよりはシミュレーションRPGのそれに近く,誤解を恐れずに言えば“コマンド選択式のセミリアルタイムストラテジー”のような印象だ。
守るべきか弱いキャラクターが存在することも多々ある,戦術性の高い戦闘システムが搭載されているだけに,本作の戦闘難度は決して低くはない。実際,筆者が初めてグローランサーをプレイしたときには,序盤のザコ敵にあっさりとやられてしまったほどだ(筆者がヘタなだけという話かもしれないが)。
だが,それは決して理不尽な高難度というわけではなく,しっかりとした戦略/戦術が要求される,本作ならではの魅力でもある。とくに,特定のクリア条件が定められたイベント戦闘では,キャラクターの配置/移動ミスや,ちょっとした判断の遅れがゲームオーバーに直結するのだが,逆に知恵を絞れば,一見「無理でしょこれ」と思える戦闘でも,何とか勝利を収めることができる。
仮にある場面で行き詰まってしまっても,キャラクターがレベルアップしたときにボーナスポイントを任意に振り分けて,スキルや魔法を覚えさせることができるので,状況に応じた,あるいは想定されるその後の展開に対応するためのキャラクターを育てることも可能だ。
ともあれ,「序盤でこの難度!?」と,何度か心が折れそうになったりもしたが,それだけにクリアしたときの達成感は格別であった。ボタンを連打しているだけでは戦闘に勝利できない,手応えのある戦闘に興味があるというRPGファンは,ぜひ一度本作のRMC戦闘に挑戦してみてほしい。
まさにノンストップドラマチックRPG!
盛り上げ方や伏線の回収が巧みなストーリー展開
本作のストーリー展開については,ネタバレの絡みもあるので詳しくは触れないが,先の展開が気になってしょうがないストーリー運びや,やり込んだ人ほど感心してしまう巧みな伏線の配置/回収などには,プレイしていて何度も感心させられた。その,物語るRPGとしての完成度の高さを語るうえで,戦闘中や移動中などにも積極的にドラマ性を盛り込む,ノンストップドラマチックシステムの存在は欠かせないものだといえよう。
また,ストーリーを盛り上げる装置の一つである,“休暇システム”の存在も忘れてはならない。
ストーリーが進むと,主人公達は王宮に仕官して,さまざまな任務をこなすようになる。そして任務終了時には“休暇”が与えられ,そのタイミングで仲間達との絆を深めることができるのだ。
休暇中,プレイヤー(主人公)がほかのキャラクターに対して取る言動が,個々のキャラクターの感情に影響を与え,その後のゲーム進行(イベントやエンディングなど)にも変化を及ぼす。うるし原氏が描く魅力的なキャラクター達と親睦を深められるというだけでも魅力的だが,こういった,一見“お遊び要素”のようなシステムが,ストーリー性に大きく関わっているという点からも,開発陣の徹底したこだわりが感じられて好印象だ。
PlayStation版のコアプレイヤーも見逃せない
PSP版ならではの新要素/システム改良
ここからは,PSP版「グローランサー」ならではの魅力について紹介していこう。PlayStation版を遊んだことがある人にとってまず気になるのは,何といっても新規キャラクターの追加だろう。
もちろん,キャラクターの追加に伴い,新規のイベントルートも用意されている。それらのイベントには,新たに描かれたCGイラストが用意されているので,それらをすべて閲覧することも,古くからのファンの目標になりそうだ。
ほかにも,アメリア役の田村ゆかりさんと,メルフィ役の富田麻帆さんがそれぞれ歌うオープニングテーマ(二種類あり)とエンディングテーマ(こちらは富田さんが歌っている)が新たに追加されているほか,戦闘のテンポが改善されている点も見逃せない。ここは,PlayStation版の戦闘でストレスを感じていた人にとっては,非常に嬉しい改善だろう。
キャラデザやグラフィックスで敬遠していた人にこそ
プレイしてもらいたい,意外なほどの名作
加えて,新キャラクター関連のイベントや休暇などでボイスの入りが中途半端な点も,(とくにPSP版を楽しみにしていたPS版の)プレイヤーの感情移入を妨げる一因になっていると感じられた。もし,グローランサーシリーズが今後もリメイクされるのであれば,そういった部分をぜひとも改善してもらいたいなぁと,一プレイヤーとして強く願う。
しかしこれらの不満点を考慮しても,本作は間違いなく良作の部類に含まれると筆者は思う。ストーリー展開のうまさや戦術性の高い戦闘システムなど,実際にプレイしてみなければなかなか理解できない部分が魅力であるため,本作は“隠れた名作”というポジションに甘んじていたような印象があるのだが,10年振りくらいに再び遊んでみても,やはり本作は“名作”だった(この際,隠れている/隠れていないは置いておいて)。それなりにボリュームのあるゲームだが,クリア後も2周,3周と遊びたくなるくらいの魅力を,本作は備えている。
「RPGは食傷気味だ」という友人が,久しぶりにRPGを遊んでみたくなったとしたら,筆者は迷わずPSP版「グローランサー」をオススメするだろう。リハビリにはちょっとヘビーなゲームかもしれないが,プレイヤーをぐいぐいと引っ張ってくれるストーリー展開や,試行錯誤が楽しい戦術的な戦闘システムなどが,RPGの面白さを再認識するきっかけになると確信できるからだ。
- 関連タイトル:
グローランサー
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