インタビュー
小島プロダクションの新川洋司アートディレクターに,「新川洋司展 - THE ART OF YOJI SHINKAWA -」開催の経緯からブックレットの解説まで,いろいろな話を聞いてきた
今回4Gamerでは,KONAMI(小島プロダクション)のアートディレクターである新川氏にインタビューする機会を得た。オープニングイベントでのライブアートやサイン会の感想をはじめ,さまざまな話を聞かせてもらったので,興味のある人はぜひ最後まで読み進めてほしい。
なお,展示会会場であるコナミスタイル 東京ミッドタウン店(公式サイト)では,新川氏が手がけた原画や造型物を間近で見られるだけでなく,以下のグッズが期間/数量限定で販売されている。なお商品の詳細については,小島プロダクションの公式サイトで確認してほしい。
また,開催初日となる1月15日のオープニングイベントで,新川氏が60号のキャンバスに描いた作品も展示中だ。こちらは,開催期間中に新川氏が不定期で店舗を訪れて手を加え,会期終了日の1月31日までに完成させていく予定とのことなので,店舗を訪れた際に,もしかしたら新川氏が絵を描いている姿を見られるかもしれない。
KONAMI「小島プロダクション」公式サイト
「新川洋司展 - THE ART OF YOJI SHINKAWA -」告知ページ
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは今回,展示会を開催することになった経緯を教えてください。
新川氏:
「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER」の発売に合わせて,2009年にパリで原画展を開催したのですが,その評判も良く「ぜひ日本でも」という声があったので,国内でも開催することになりました。
パリでやった原画展では,ジャンジャック(Jean-Jacque Launier)さんというキュレーターがセレクションしたものを展示していただきました。
彼は,サブカルチャーをアートに昇華させたいという考えを持っている人で,お話を聞いていて,すごく面白いなという印象を受けたんです。僕達はゲームを作るうえでの素材,設計図みたいな感覚でしかなかったんですけど,そういう捉え方をしてくれている人もいるんだなと。そこに感銘を受けたというか,「じゃあもっとやっていいんだ」という気持ちになったんです。
4Gamer:
パリの原画展との違い,今回の目玉はなんでしょうか?
今回は,今まで描きためた設定画が中心ですが,パリには持っていきたかったけど持っていけなかった,立体の造型物も展示しています。半分趣味で作ったものも置いていますけど(笑)。
4Gamer:
立体造形もゲーム開発中に作ったものなんですか?
新川氏:
ゲームを作るうえでの設定画とはちょっと違う「立体設定」という形で僕は捉えているんですが,紙の設定画と位置付け的には一緒なんですね。
最終的にはゲームの中でポリゴンとして立体化されるものなので,2Dで描いても伝わらない部分や,表現できない部分は,立体で作っちゃったほうがゲームを作るモデラーも理解しやすいんです。
たとえば,パワードスーツの装甲が腕に付いていたとして,ただのラインじゃなくて少しリズムを取るための凹みを入れたいとか,実際に紙で描くとなかなかニュアンスとして伝えるのは難しいんですね。
4Gamer:
なるほど。
新川氏:
2Dだと最低でも表裏の2枚は必要じゃないですか。
表裏を描いたんだけど数ミリずれるといったことがどうしても発生してしまうんですけど,実際に粘土をこねて造形してしまえばちゃんと伝わりますし,その面に対してどう入っていくのかといったディテールとかもクリアできます。
最終的に完成度が高ければ,たとえば「MGS4」のときのパワードスーツ(BB部隊)がそうなんですけど,直接スキャニングしたものをゲーム上でポリゴン化できます。
ポリゴンのモデリングを写真でキャリブレーションしているので,今回展示している立体の造型物は,ゲームに出てきたキャラクターとほぼ同じなんです。
4Gamer:
次に,オープニングイベントでライブアートを行った感想を聞かせてください。
新川氏:
言いだしっぺは僕なんですけど,言わなきゃよかったなと(笑)。
いつも描いているサイズと全然違うので,思った以上にコントロールできなかったんですけど,一生懸命やりました。
でも,来ていただいた人から「迫力があって楽しかったです」と言っていただけたので,やって良かったかなと思っています。
4Gamer:
今回,ライブアートをやろうと思ったきっかけを教えてください。
新川氏:
去年パリでやった原画展では,仕込みの部分が足りなかったという反省があったので,もうひとネタやりたいな,楽しんでほしいなと思ったんです。成功するかどうかは分かりませんでしたが,ちょっとやってみようと。
4Gamer:
ライブアートの参加人数が20人から300人に急遽増やされましたよね。前日の告知にもかかわらず,あれだけ人が集まるのはすごいと感じました。
新川氏:
本当に,寒いのにたくさんの方に来て頂いて感謝しています。
最初は,あの店舗のスペースだったら60号がサイズ感的に限界かなと思って,キャンバスサイズで描いたんです。けれども,前日に急に会場を変えることが決まって,新しい会場に置いてみるとけっこう小さくて,もっと大きいほうが良かったかなと。
ライブアートでは,薄い墨で影から描き始めたのに驚いたのですが,いつもああいった感じで描きはじめるんですか?
新川氏:
いつもではないですね。
今回は何回か事前にテストしたんです。濃いほうを描いてから影を薄く入れたりすると,墨が流れ過ぎちゃうというのがあったので,フォルムをちょっと大きく取ってから描くという方法にしてみました。
4Gamer:
描いている間は,墨汁の滴りを拭き取ったり,そのまま残していたりしていましたが,あれは表現技法の一つだったんですか?
新川氏:
そうですね。墨は使っているけど,どちらかというと油絵的な描き方かなという気がします。
学生の頃にずっと油絵をやっていたので,本当に今回は懐かしいと思ったんですけど,油絵のテクニックとして,絵の具を強めに溶いて水彩画っぽく描いたり,ぽてっと乗せたりといった使い分けをしますから。
油絵だと,わりと必然性のない線から変なモノや面白い形が生まれたりしてくるので,今回のライブアートで垂れていた感じとかも,いい感じになっていると思います。
4Gamer:
ライブアートは“筆入れ”との話でしたが,完成作品といってもいいほど描きこまれたように思えます。ご自身では,何%くらいの完成度だと考えていますか?
今回は,実際にイメージを来場された方々と一緒に体験できたらいいな,と思っていたので,本当は会場で100%まで行きたかったんです。でも,思いのほかコントロールしきれていなかった部分があったので……。ただ,勢いという部分でいうと,あのまま置いておいてもいいんで,現段階ではあれが100%ですかね。
4Gamer:
ということは,追加で筆を入れたりしないんですか?
新川氏:
んー,どう持っていこうかなと。変にいじると怖いですよね。
それを含めてのライブということで楽しんでいただければと思います。まだ展示会に来て頂いていない方は,直接作品を見て頂ければと思いますし,一度来て頂いた人も,また来て頂いたら,もしかしたら何か変わっているかもしれません。
4Gamer:
もしかしたら(笑)。
新川氏:
気が向いたらやります(笑)。
4Gamer:
ちなみに新川さんは,普段はどういった感じで描くことが多いんですか?
新川氏:
んー,さまざまですかね。そのまま描くこともありますし,筆ペンを少し水に浸して墨汁を弱めて描き出したりとか。いつも本当に描きやすい感じで書いているので。紙は普通のコピー用紙を使っています。
……いつもの感じも披露すればよかったかな?
4Gamer:
ぜひ検討してください。動画で見たい人も多いと思います。
ライブアートのあとに行われたサイン会では,50人の参加者一人一人にイラストを描いていましたが,最初からイラストを入れるつもりだったんですか?
新川氏:
小島監督と一緒だと,サイン会を300人とか500人とかいった規模でさせて頂いたりするんです。今回は一人だったので自分のペースで進められるから,時間的には1時間という区切りの中なので一人1分くらいですが,一人ずつ何か絵が描けたらいいなと思ったんです。一人ずつ「何がいいですか?」ってお聞きして,皆さんそれぞれが好きなキャラクターをおっしゃってくださったので,それに応えて一生懸命描きました。
4Gamer:
一人当たり約1分という時間制限がある中で,筆がスムーズに進まなかったキャラクターはありましたか?
新川氏:
メタルギアREXを描いて欲しいという方がいたんですけど,けっこう大変で「だめだ,1分間じゃ終わらない」と(笑)。あと,「MGS3」のゼロ少佐を描いて欲しいという女性の方がいたんですが,一瞬思い出せなくてちょっと失敗しちゃいました(笑)。
4Gamer:
同じキャラクターでも構図を違えて描いていましたが,ああいった構図はその場での思いつきなんですか?
新川氏:
なんとなくは最初にぱっと決めますけど,同じようなものにならないようにするのが大変ですね。サイン会とかで皆さんが並んでいらっしゃるところで,同じ絵を描くと気まずいじゃないですか。「あ,また同じ感じだ」みたいな(笑)。
4Gamer:
リクエストはすごく多岐にわたっていましたが,過去タイトルのキャラクターを描くことって今でもあるんですか?
新川氏:
好きなキャラクターは,落書きみたいな感じでちょっと描いたりします。
あと,過去作品のフィギュアを出すタイミングなどでは,新たに設計しないといけない部分があったりするので,そういったタイミングで過去作を描くことがありますね。
たとえば,今回展示させていただいた海洋堂さんの「リボルテック・ジェフティー」だと,原型の山口勝久さんとやり取りする中で,途中から「もうちょっとこういう形で」とスケッチを送ったりして,それに応えて作ってもらいました。
4Gamer:
参加者について,年齢層や男女比率はどう感じましたか?
新川氏:
「ピースウォーカー」のおかげなのかなぁというのもありますけど,今日は若い方が多くて,女性の方も何人か来て頂いていて,年齢層的には,若干フレッシュな方が多かったですね。
あとはゲーム業界の方もいらっしゃいましたし,「MGS2」のときのサイン会に来たという方もいましたし,本当にさまざまだなと。
4Gamer:
では次に,展示会に合わせて販売される3冊のブックレットについて質問したいと思います。「vol.1」から,1冊ずつ見どころを教えてもらえますか?
新川氏:
ブックレットは紙質もかなり厚めのものを使っていますし,僕が載せたいなと思ったものをチョイスしてレイアウトしてもらっています。ナンバリングらしいナンバリングはされていないんですけど,実は裏を見ると「!」が1個ずつ増えているんですよ(笑)。
4Gamer:
イラストは全部,新川さんのチョイスなんですか?
新川氏:
そうです。僕の気に入っているものだけ載せています。
「vol.1」は,主に「メタルギア」シリーズのイラストだったり設定画だったりですが,「MGS3」はなぜか設定資料集を出しそこねちゃったので,多めにイラストと設定画をチョイスしています。
4Gamer:
「vol.1」の中で,一番思い入れのあるものはどれですか?
新川氏:
やはり,最初に作った「MGS」のメタルギアREXの模型ですね。1994年に作ったものが,まだ綺麗な感じで残っていますから。
「vol.1」に載せているのは,そのとき作ったものに,ちょっとエフェクトを掛けて何かしたいな,と思って撮りためていた写真なんですよ。
当時はまだ,Photoshopではいい感じのエフェクトがなかなか出せなかったので,8mmカメラで撮影した模型の映像をブラウン管のモニタに映して,そのブラウン管モニタを撮影するという,アナログな手法でした。
4Gamer:
「vol.2」はいかがですか?
基本的には「メタルギア」以外の,「Z.O.E」「ANUBIS」あとは「ゴジラ FINAL WARS」のときにスケッチした物などが主に掲載されています。立体の部分では「メタルギア」の物も入っていますけど。造形物をこういう風にちゃんと撮影して掲載したことは,今まであまりなかったので,見所の一つじゃないでしょうかね。
あと,趣味で作ったガレージキットとかも載せています。ワンフェスに行って買ってきたやつとか(笑)。
4Gamer:
載っている「Z.O.E」のJEHUTYの模型は,彩色が独特ですね。
新川氏:
最初は普通に塗ろうかなと思ったんですけど,設定通りに塗っちゃうとプラモデル感が抜けないというか,わりとオモチャ感が出ちゃうんですよね。エジプトのお土産でもらったアヌビスの置物みたいな感じが出たらいいなというイメージにしたんです。
4Gamer:
「vol.3」は,基本的に初公開のイラストばかりということですが,
新川氏:
ノリ的には同人誌っぽい感じですけど,どれも今回の展覧会のパンフ的な位置づけですね。
本当にゲームキャラクターのアイデアソースみたいな部分でもありますし,もしかしたら,このまま何かのゲームに使うかもしれませんけど(笑)。
4Gamer:
ということは,新川さんの15〜16年分くらいの蓄積が詰まっているんでしょうか?
新川氏:
そこまで古いのはもしかしたらないかもしれませんけど,5〜6年前の絵とかはありますね。あと「ラブプラス」は今回のための描き下ろしです(笑)。
4Gamer:
載っている順番は,時系列とかは関係ないんですか?
新川氏:
順番は雰囲気で並べています。
落書きをとっておいて,引き出しに入れているんですけど,けっこういい感じで描けたものをときどき出してちょっといじったりとか,そんな感じのものばかりです。コミケで売ってもいいんですけど,怒られちゃうので(笑)。
4Gamer:
(笑)
今回の展示会とは少し話題が離れるのですが,新川さんがこれまで作品や人物で影響を受けたというものはありますか?
新川氏:
「MGS」のときに出した設定画集で一度対談をお願いして,実際にいろいろお話を聞かせていただいたんですけど,天野喜孝先生が,僕の中では影響が大きいですね。
子供の頃に見ていたタツノコプロのアニメも小説の挿絵もそうですし,僕が一番好きなイラストレーターです。
4Gamer:
先日,小島プロダクションの人材募集が始まりましたが,アートディレクターとして求めている人物像などを聞かせてもらえますか?
新川氏:
絵が上手いとかよりも,アイデアが素晴らしいという人が,僕の一番の希望ですね。
僕自身,そんなに絵が上手いつもりは全然なくて,そこをどうやってカバーしようかと,いつも四苦八苦している感じなんです。
ゲームでは特に,動いてどう見えるのかとか,ゲーム的なキャラクターのデザインが求められるので,そういった部分が想像できる人がいいですね。
4Gamer:
では最後に,2011年の抱負を聞かせてください。
新川氏:
今回の展示会に来た方が,すごく楽しんで下さったということで安心しているんですが,やはり僕自身も楽しくないとダメなんだなという気がしています。
なので今年の抱負としては,楽しんで色々とやっていきたいなというところです。そうすれば,ユーザーの方も同じように,楽しんでくれるんじゃないかなと期待しています。
4Gamer:
ありがとうございました。
冒頭でも書いたが,「新川洋司展 - THE ART OF YOJI SHINKAWA -」が開催されているのは,1月31日まで。筆者も新川氏の作品を見たが,やはり原画や造型物は,実物はひと味もふた味も違う迫力だ。会場に足を運べる人は,ぜひ実物をその目で確認してみてほしい。
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