インタビュー
プレイヤーとの約束は必ず守ります。新体制への刷新が行われた「FINAL FANTASY XIV」緊急インタビュー。FFXIVを託された吉田氏はどんな人物なのか
プロデューサー兼ディレクターに就任した吉田直樹氏は
ガチのオンラインゲーマーだった
では,吉田氏についてお聞きしたいと思います。これまで吉田氏は,「ドラゴンクエスト モンスターバトルロード」シリーズを担当していたそうですが,MMORPGを始めとしたオンラインゲームに,なんらかの形で関わったことはありますか?
吉田氏:
ええ,開発経験もあります。ただ,どちらかと言えば,オンラインゲームのプレイヤーとしての経験のほうが長いですね。プレイ歴13年くらいですから(笑)。
4Gamer:
ちょうどMMORPGのプレイ歴も教えてもらおうと思っていたんですが,少し詳しくお聞かせ願えますか。
吉田氏:
一番最初は「ディアブロ」で1年くらい,その後「Ultima Online」を2年半,その間には「Unreal Tournament」などのFPSも遊んでいました。FPS自体は今もですが。それから「ディアブロII」を拡張パックの「Lord of Destruction」を含めて1年半ほど遊んで,その後に「Dark Age of Camelot」を丸6年やってましたね。もちろん「Ever Quest」や「WoW(World of Warcraft)」もプレイしてました。
4Gamer:
意外と言ったら失礼かと思いますが,かなり年季の入ったオンラインゲーマーなんですね。それにしても,当時オンラインゲームにハマった多くの人と同じような道を,綺麗に辿っていますね。私も人のことは言えないのですが。
吉田氏:
はい(笑)。その後,2004年にスクウェア・エニックスに移ってからは,家庭用ゲーム機,そしてPS3/Xbox 360といった,HD機向けを主力に開発してくれというオファーがありました。さらにPCベースのアーケードの開発をやって,今はドラゴンクエストモンスターバトルロードシリーズが,スクウェア・エニックスでの表向きの代表作になっていますが,今後発表される作品に,僕の名前がクレジットされているものもあります。
4Gamer:
なるほど。その作品も気になりますが,そちらは発表に期待しています。
吉田氏:
プレイ暦のほうに話を戻すと,そうしてコンシューマゲームを開発することになったのですが,コンシューマゲームとMMORPGとでは,使われるテクノロジーが全然違います。そこで問題になるのが,僕のストイックな性格でして……(笑)。MMORPGをやり始めると,止まらなくなってしまうんですよね。何時間でも平気でプレイするし,計算式まで引っ張り出す,パラメーターをかき集めて自前のサイトを作り始める……そうすると,自然と僕の中にあるゲームを作る上で必要なテクノロジーや知識もそちらに引っ張られてしまいます。ですので,特に現世代機のコンシューマゲームの開発にあたって,そこでスパッとMMO断ちをしていました。
4Gamer:
コンシューマゲーム開発に影響を与えないように,MMOは止めていたわけですか。では,ここ最近のMMORPG事情については,ご存知だったりするのでしょうか。
最初に開発経験があると話したように,オンライン系の仕事をしていたこともあるので,基本的にローンチしているMMORPGに関しては,必ず調査します。例えば,「Tower of AION」などもそうですし,一通り動向は見ていますね。どちらかというと,これは趣味に近いですけど(笑)。
そんなところで,MMORPGを知る人ほど気になっているのは……そして4Gamerさんがお聞きしたいのは,おそらく僕がWoWに関して,どの程度知っているかだろうと思っています。違いますかね?(笑)
4Gamer:
やはり,世界でもっとも成功しているMMORPGですし,どうしても今後のFFXIVのことを考える上で,聞いてみたいんですよ。
吉田氏:
WoWについては,プレイという意味ではロンチから3か月,ドップリとやっていました。たかだか3か月かよと思われても仕方ないですが。ですので,WoWの立ち上げ当時の状況を良く知っています。例えば,サーバーがどれだけ落ちたとか。韓国なんかでは,ゲームサーバーのみならず,ファンサイトまで全落ちしているのもリアルタイムで見ていました(笑)。なぜ,3か月だったかというと,これが先ほどお話した,僕の仕事が,コンシューマゲームのほうに求められていた時期と完全に重なるからです。
4Gamer:
ちょうどそのタイミングで,MMO断ちをしたわけですね。
吉田氏:
こうなることが分かっていたら,意地でも続けていたでしょうが(苦笑)。ただ,MMORPGのプレイは断っていても,社内にはWoWなどのMMORPGをヘビーにプレイしている人間はいますので,MMO仲間としての情報交換をよくしていました。
4Gamer:
そこで最近のMMO情報も仕入れていたわけですね。
吉田氏:
そうです。だからMMORPGをプレイしていない間も,WoWの良さについては聞き及んでいました。もちろん,今の僕にとって,最大の仕事はFFXIVのクライアントを徹底的にプレイし尽くして理解することですが,同時に,プレイヤー数がもっとも多いMMORPGとして,WoWというコンテンツが今どうなっているのか,メリット/デメリットをちゃんと把握しなくてはいけないとも思っているわけです。もちろん,Dungeon Finderの仕組みや,Raidの今の状況なんかは,コアプレイヤーに手伝ってもらって,すでに勉強させていただいてます。
4Gamer:
では,最近の事情についてはよくご存じということですね。しかし,これだけコアに,それも欧米系のMMORPGを遊んでいたということは,コンシューマゲームとMMORPGの違いについては,考えるところがありそうです。吉田氏にとってMMORPGと,コンシューマゲームの違いは何だと思いますか。
吉田氏:
僕は,MMORPGとは“テーマパーク”であるという考え方を持っています。
4Gamer:
テーマパークですか。具体的に教えてください。
吉田氏:
例えば,コンシューマゲームは,“世界一距離が長い”ジェットコースターであったり,“世界一怖い”お化け屋敷だったりといった,一つの特化したアトラクションのようなものです。アトラクション一つでお客さんが呼べます。一方のMMORPGは,一般的なジェットコースターはもちろん,いろいろな乗り物など,たくさんのアトラクションを盛り込んでテーマパークのようなものという感じです。
4Gamer:
同じゲームというジャンルを作るにしても,そのアプローチは全然違ったものになると。では,吉田氏はテーマパーク……MMORPGを開発していくうえで,何を心がけたいと考えていますか?
吉田氏:
どこのテーマパークにも,ジェットコースターやコーヒーカップ,メリーゴーランド,お化け屋敷などの一般的なコンテンツが揃っています。
そこから先は,ディズニーランドであればシンデレラ城を作るとか,トゥーンタウンを作るとかになりますが,では富士急ハイランドであれば,お化け屋敷の最恐戦慄迷宮を作ろうかといったように,それぞれのテーマパークによって並べるアトラクションが違いますよね。つまり,差別化です。MMORPGも同じで,基本的なものがまずあって,そこから先にテーマがあり,多数のアトラクション=コンテンツが,そこへ向かっていくというのを大切にしたいと思います。
4Gamer:
つまり,すでにお話いただいているように,何よりまず,基本部分をしっかりと作りたいということですね。
吉田氏:
やはり,テーマパークの開園にあたっては,当たり前にあるコンテンツの準備を最初に行わないと駄目です。MMORPGの場合,とくに必要なのは経済だと思っています。つまり,必ず,生産と採取と消費のバランスが取れていることが大前提です。僕がMMORPGを開発し開園するうえでは,それに気をつけたいと思っています。
4Gamer:
たしかに経済面,お金やアイテムが,一連の流れで存在していることは重要ですね。
吉田氏:
そうです。例えば,戦闘,すなわちバトルは,アイテムを消費する場所であると同時に,モンスターからのドロップがあり,採取に関わっていく場所でもあります。そして,フィールドからさらに採取できるオブジェクトと組み合わせて,クラフターがアイテムを生産します。それをまた戦闘で消費していく。この流れの中に経済がちゃんと機能していないと,それぞれのプレイヤーがモチベーションを維持できなくなります。ですので,そこに重点を置いて,コンテンツを配置していくことになりますね。
4Gamer:
最後にこれは聞いておきたいと思っていたのですが,吉田氏にとって“ファイナルファンタジー”とはどういうゲームでしょうか。
難しい質問ですね(笑)。FFはシリーズごとに作っているスタッフが違うこともあって,作り手の数だけFFがあります。プレイヤーの一人一人にとっても,たぶん違うと思います。例えば,FFが好き? と聞くと,FFの“いくつ”が好きと答えますよね。だから,人によってその答えは異なるでしょう。ただ,共通して言えるのは,その“ファイナルファンタジーという世界”にハマれることかなとは思います。FFは,常々新しい世界観をという考え方で進んできているので,エオルゼアという世界をこれからどう楽しんでもらえるのか,そこを提示していくことが,FFシリーズとしての証になると思います。
4Gamer:
ちなみに,吉田氏はどのFFが好きですか?
吉田氏:
僕はFFVIIですね。あのパワフルな感じはMMOに近いと思います。メインストーリーやミニゲーム,キャラクターの導線まで,凄まじい力の集結を感じます。北米,欧州の方々と話していても,あのインパクトは忘れられないと言ってますね。そんなパワフルなコンテンツを,エオルゼアの中にキチンと作っていければ,FFXIVがMMORPGとして確固たる地位を築けると思っています。
4Gamer:
一方で,FFXIVには,世界観としてまだFFが感じられない部分が多い気がします。魔法の名前などは,たしかにFFなのですが,全体を通して,チョコボにしても,飛空艇にしてもそうです。まだまだ,FFたり得てないかなという気持ちがあります。
吉田氏:
たぶん,プレイヤーにFFらしさについて聞くと,メテオだったり,飛空艇だったり……チョコボがいて,チョコボには乗りたいと思いますよね。だから先ほどの話になるんです。どのお客さんでも普通に遊んでもらえる,最低限の準備が必要ということに。
FFとして最低限,共通言語になっているものは,もちろんきちんとコンテンツに反映したいとは思っています。それらと,ほかのタスク,どちらの優先順が高いかを,まさにいま考えているところです。
4Gamer:
まずは,すでにお約束していることをというのが先ですよね。
吉田氏:
はい,年内はとくにそうです。
4Gamer:
ちなみに,いまクリスマス……じゃなかった,星芒祭イベントをやってますよね。今後も,こういったイベントで盛り上げていこうというのは考えていますか?
吉田氏:
ええ,イベントは大好きなので考えています。MMORPGはサービス業ですよ。お客様の声を聞かないサービス業なんてありえないですよね。僕らも楽しいし,プレイヤーも楽しい。僕らが楽しんでいるから,プレイヤーも楽しんでくれている。そういう関係をちゃんと作るためにも,インゲームのイベントは大事だと思っているので,積極的に展開したいと思っています。
4Gamer:
3D系のMMORPGでは,どうしても季節系のイベントになるのかなとは思うのですが,どんなものが展開されるのでしょうか。
吉田氏:
そこはまだ詳しくは言えないですが,お楽しみにと(笑)。
4Gamer:
ちなみにすでに手を付けていたりします?
吉田氏:
まだ何とも言えないですね。きちんとしたコスト管理や,作る物のコスト計算,それを整理した上で,僕ももっと未来の話をしたいところなのですが。
いま,新しい体制になった直後なので,これからのFFXIV対してのプレイヤーの期待感は高いと思っています。ただ,ネットや,コミュニティを冷静に分析していますが,これから我々がやることを冷静に見ていこうと,プレイヤーはそう受け止めてくれているように感じています。
この状態で,僕が未来ばかり語っていて,それが達成できる時期がどんどん後になると,今まで以上に失望感が強くなると思います。体制が変わっていろいろ言っていたのに,何もできてないじゃないかと。それではダメですよね。もちろん,それができる体制になれば,先のこと,それこそ2年くらい先の話もしていきたい。
そのために,まず準備をきちんとすること。そして自信をもって,こういうことを続けます,四半期に1度こうします,1年後にはこうなりますと言っていきたいので,まずはその体制を作ることがなによりかなと思います。
4Gamer:
分かりました。では,4Gamer読者へのコメントをお願いします。
吉田氏:
今まで以上に,FFXIVは4Gamerさん(のユーザーレビュー)に寄せていただいているご意見を吸収したうえで,私達はこう考えていますというのを,きちんとコミュニケーションをとっていきたいと思っています。その点で,我々がどういう動きをするのか,どういう発表を行うのか,ぜひ注目していただけると良いなと思います。まずは,MMORPGとして当たり前のことを,一つずつ,一歩ずつ,お約束を守りながら進んで行きたいと思います。そして,今後はより強く,みなさんとのコミュニケーションを積極的に取っていきたいと思っていますので,これからも是非,「FINAL FANTASY XIV」をよろしくお願いします!
とにかくMMORPGに対する熱い思いを話してくれた吉田氏。そんな氏が,FFXIVをどう導いていくのかは,個人的にも興味深いところだ。ちなみに,筆者自身がとあるゲーム内の氏を知っていた(というか,この席でわかって驚いた……)ので,そのストイックさや,MMORPGに対する知識に納得している。
もちろん,MMORPGが好き,やり込んでいれば,面白いMMORPGを作れるかと言えばそうではないだろう。しかし,吉田氏には,プレイヤーからの大きな期待が掛けられることは間違いないし,これまでのMMORPGに対する知識がいかんなく発揮され,FFXIVが生まれ変わっていくことにも期待したくなる。
そんな吉田氏の話で出てきた一つ一つの言葉は,実のところ,当たり前であるべきことも多い。FFXIVという巨大コンテンツの前に,その当たり前がなされる環境が,できていなかったことが,今の評価に繋がっているのは明白だろう。
当然だが,新体制に変わったからと言って,1日,1週間,1か月では,その変化を感じられるはずもない。今は長いスパンで,その動きを見守り,そして対話(フィードバック)していくことが未来に向けて必要なことだ。まずは,その一つめの動きになりそうな,1月1日に出るというコメントに注目しておきたい。
「FINAL FANTASY XIV, The Lodestone」公式サイト
「FINAL FANTASY XIV」公式サイト
――2010年12月20日収録
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FINAL FANTASY XIV(旧)
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ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア
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