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[TGS 2009]動物好きなら手放しでお勧め。世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた
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印刷2009/09/26 00:00

インタビュー

[TGS 2009]動物好きなら手放しでお勧め。世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた

 その幻想的かつ独特の世界感と,既存のゲームの枠に収まらないシステムやデザインなどで,高い評価を得た「ICO」「ワンダと巨像」。その開発者として知られる上田文人氏は,日本だけではなく,海外でも――いやむしろ海外でこそ――絶大な支持を誇るゲームクリエイターだ。今回4Gamerでは,そんな上田氏に,氏の最新作である「人喰いの大鷲トリコ」についてインタビューをする機会を得た。

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画像集#028のサムネイル/[TGS 2009]動物好きなら手放しでお勧め。世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた

 人喰いの大鷲トリコとは,現在,上田氏が中心となって開発を行っているPlayStation 3用の作品だ。どうもアクションアドベンチャーらしい……ということ以外は,ほとんど情報が公開されていない本作だが,Game Developers Choice Awardsなどを初めとして,これまでに数々の受賞歴がある上田氏率いる開発チームの最新タイトルということで,業界の内外,とくに海外での期待値が激しく高い。むろん日本で期待が低いという意味ではなく,海外での期待が“はちゃめちゃに”高いのだ。

 今回のインタビューでは,そんな人喰いの大鷲トリコに対するこだわりを存分に語ってもらった。強い口調は使わず,控えめに淡々と語る氏の語り口を文字にしてしまうと,パッと読んだだけでは分かりづらい内容もあるが,その尋常ではないこだわりと,氏のゲームに対する感性の「かけら」はご理解いただけるのではないかと思う。

 わずか20分程度というインタビューではあるが,筆者のように「トリコ」を心の底から待っている人であれば,ぜひ読んでほしい。また,今回初めてその名を聞く人は,記事を読む前に,公式サイトでぜひムービーを観ておいてほしい。

「人喰いの大鷲トリコ」公式サイト


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4Gamer:
 お時間をとっていただいてありがとうございます。さっきSCEの担当さんから「時間はほとんどないので巻いてください」って言われたので,がんばります。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ インターナルプロダクション部 チーフクリエイティブディレクター 兼 グラフィックデザイン部 チーフアートディレクター(長い!)の上田文人氏
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上田文人氏:(以下,上田氏)
 いやあ,答えられることがそんなにあるかどうか(笑)。

4Gamer:
 個人的には,この作品が出るからPS3を買う,とまで言い切れるキラータイトルなんですよ。

上田氏:
 それはありがとうございます。

4Gamer:
 実は国内での正式なお披露目は初めてですよね。

上田氏:
 そうみたいですねえ。

4Gamer:
 みたいですね,って(笑)。

上田氏:
 実はそういうことをあまり意識したことがなくて……(笑)。

4Gamer:
 E3で出てるので余計そうなのかもしれませんね。海外では相当な話題になってますよね。
 安易な言い方になってしまいますが,上田さんの作品共通の「特異なゲーム性」「どこか優しい感性」みたいなものが評価されているんだろうなぁ,と思っています。

上田氏:
 そうですね。これ(=人喰いの大鷲トリコ)はまだ分かりませんが,少なくとも前作(ワンダと巨像),前々作(ICO)に関して言うならば,海外の評価のほうが高いですね。売り上げ本数も海外のほうが高いですし。

4Gamer:
 あぁ,本当にそうなんですね。


この溢れんばかりの「生き物」のリアリティ
  ――それらはすべて,上田氏の経験から作られていた


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4Gamer:
 私,実はこの世で一番好きなものが「動物」なんですが,このあふれんばかりのリアリティには,素直に驚いて,かつ感動しました。実在しない生き物なのにも関わらず,文字どおりの意味での「リアリティ」にあふれてますよね。これはどういう具合に作ってるんですか?

上田氏:
 その質問は動物に関してですか? それとも全般的なリアリティ?

4Gamer:
 動物(大鷲)に関してです。やはりこの作品のリアリティは,大鷲の存在感あってのものだと思ってますので。


上田氏:
 うん,そうですね。もちろんそうだと思います。
 ……大鷲はですね,本当に細かな作業の積み重ねなんですよ。単に動かすだけなら,別に難しいこともなく簡単にできちゃいますよね。

4Gamer:
 ええ,そうですね。

上田氏:
 その上で,「あぁここはすごく不自然だな」と思える部分を徹底的に排除していく作業をしているわけです。

4Gamer:
 ブースで流れていたムービーでも,尻尾の挙動を細かく調整しているようなシーンがありましたよね。

上田氏:
 ええ。
 僕自身は,動物家族で育ったんですよ(笑)。家がたくさん動物を飼っていて。

4Gamer:
 そうだったんですね。

上田氏:
 なので動物の挙動やリアルさに関しては,特別に何かを調べたり調査したりとかいうことはしてないんです。なので「どうやってるんですか?」と問われると非常に困ってしまうというか(笑)。

4Gamer:
 なるほど……なんとなく合点がいった気がします。大鷲の挙動を見ていると,何かこう,学術的調査とか計算式とか,そういう部分から入ったものじゃない生々しさにあふれてますよね。

上田氏:
 うん,そうですね。なので逆に,そういう観点から見てしまうと,間違っている部分もたくさんあるんじゃないかなぁ,と思います。感覚的なリアルさ,とでもいいましょうか。

4Gamer:
 でもあれほどの存在感を打ち出せるのであれば,机上の話でおかしい部分があったとしても何も問題はないと思います。

上田氏:
 本当ですか? そう感じていただけると一番嬉しいです。

4Gamer:
 そう思っていただけるとこちらも嬉しいです。

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上田氏:
 今回一番やりたかったのはそこですから。
 もちろん,ゲームのやり応えであるとか,レベルデザインであるとか,ゲームそのものを構成する要素というのはいろいろとあると思うんですけど,今回一番やりたかったものは,新しい生物の創出,だったんですよ。

4Gamer:
 であれば,現時点ですでに確実にその目的は達成されつつあるんじゃないでしょうか。

上田氏:
 でも僕自身は,もっともっと,やらなければいけないことがあると思ってるんです。

4Gamer:
 まだありますか。

上田氏:
 まだまだありますね。不自然なところはもっと排除していかなきゃいけないですし,動物ならではの動きとか生態とか,そういったものも,もっと表現したいですし。


存在しない生き物をゼロから作る
       ――大鷲のオリジナルは猫だった


4Gamer:
 あぁこれは犬の挙動かな,これは鳥だな,とかいろいろと見ていて面白いんですが,大鷲を作っているときに,何か「想定」している生き物はありますか?

上田氏:
 一番近いのは猫ですかね。主にゲームデザイン的な整合性からくるものなんですけど,例えば本物の犬っていうのは,高いところにジャンプしたりできないじゃないですか。

4Gamer:
 あ,なるほど。ゲームの中に無理なく溶け込ませるためには,柔軟な動きができることがまず前提なんですね。

上田氏:
 そうです。猫のほうが好きとかじゃなくて,その元となっている動物の持つ身体能力的な部分によるところが大きいんです。

4Gamer:
 猫はそのあたり非常に高いですからねえ。

上田氏:
 ええ。もちろん鳥の要素とかもありますし,そういった「馴染み深い」生き物をいろいろとミックスさせている感じですね。

4Gamer:
 一挙手一投足が,どこかで見たような,リアリティあふれる,かつ愛らしい挙動になってますよね。ゲームをしない動物好きの知人にムービー見せちゃいました,思わず。

上田氏:
 今回のテーマは「動物」っていうのがまずあるんですけど,動物をテーマにすると,そういう部分ではアピールできるのは大きいですよね。

4Gamer:
 言われてみれば確かにそうですね。

上田氏:
 あまりゲームをやったことがない人もさることながら,ゲームは好きじゃないし動物も全然好きじゃない人っていうのは少ない……と思うんですよね。

4Gamer:
 おっしゃるとおりだと思います。

上田氏:
 とはいえ,存在する動物を表現しても,あまり面白くないと思うんです。この世界でしか存在できない,この世界でしか体験できない,そんな何かを提供したいな,と。

4Gamer:
 でも確かに,存在する動物を,徹底したリアリズムで再現してしまうと,どうしても細かなアラが目立っちゃって,作品に没頭できないかもしれませんね。

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上田氏:
 そうなんですよね。飼ってる人,知ってる人から見たら「ここはこうじゃないだろ」と言われてしまうようなものになってしまう。言うならば「正解」があるんですよね。それ以外は認められないというか。

4Gamer:
 つまり大鷲は「正解が存在しない生き物をゼロから作っている」わけですね。

上田氏:
 ええ。でも造形的にもまったく新しいものというのは,それはそれで実在感を感じられないんですよ。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。やはり「どこかで見たもの」じゃないと。

上田氏:
 なので大鷲は,実際に存在するものの要素を集めつつ,もっともリアルに感じられるものとしてデザインされているんです。


「大鷲」のコンセプトはE.T.と同じ
 ――作品の中で「生」を受けたもののリアリティについて


4Gamer:
 「ゲームの面白さにとってグラフィックスは本当に必要なのか」とよく自分に問いかけるんですが,私個人は「絶対条件ではない」という意見なのです。でもこういう作品を見ると,あっさりその言を撤回したくなりますね。

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上田氏:
 そこを追求しているので,そう言っていただけるのが一番嬉しいです。

4Gamer:
 どれくらいの紆余曲折を経ていまのデザインに決まったんですか?


上田氏:
 実は画面の中で動き出してからはほとんど変わってないんですよ。

4Gamer:
 あれ,そうなんですね。ちょっと意外でした。

上田氏:
 動き出すまでは,犬ベースだったり,ラクダベースだったり……。

4Gamer:
 ラクダ,ですか。

上田氏:
 そんないろんな動物をベースに作ってみて,その中でもっとも感情が表現できて,というものを。とはいえ,感情が表現「できすぎる」と,動物としての魅力は半減しちゃうんですけど。

4Gamer:
 そうですね。理解できます。

上田氏:
 そういった部分も含めて一番バランスが取れているもの。あとこれは細かいこだわりなんですけど,デザインとしての完成度をあまり高めたくない,という部分もありました。

4Gamer:
 感覚では理解できるんですが,それはどういった理由からなのかご説明いただけますか。

上田氏:
 そうですね……例えばドラゴン。ドラゴンって一般的に,デザインとしての完成度は高いですよね。

4Gamer:
 ええ,そうですね。

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上田氏:
 ああいうのは,僕自身は面白いと感じないんですよ。それよりは,デザインが未完成っぽく見えるもののほうが,魅力的に見えるんじゃないか,と。なので,その部分をあまり突き詰めていかないように,ほどよいバランスになるようにしています。

4Gamer:
 個人的には大変同意できるんですが,先ほどの話で言うなら,それは一般の方には理解されますかね?

上田氏:
 例えばE.T.って,すごく可愛らしいデザインかというとそうじゃないですよね。

4Gamer:
 確かに全然そういう方向性じゃないですね。

上田氏:
 あれはきっと,一つの作品の中での存在感を突き詰めた結果ああなったんじゃないかと思うんですよ。

4Gamer:
 あぁ……E.T.というのは非常に分かりやすい例えですね。

上田氏:
 パッと見はすごくグロテスクなんですよね(笑)。

4Gamer:
 そういう意味でも似ているかもしれません(笑)。

上田氏:
 そう。そういうものをも含んだ形での「物語表現」というものをやってみたいんです。


フォントがバラバラなのは意図的なんです
       ――統一感のないロゴに隠された真意


4Gamer:
 話は変わるんですが,ロゴも今回発表されましたね。

上田氏:
 ええ,決まりました。

4Gamer:
 フォントが全部違ったりして,とても「まとまりに欠ける」というのが第一印象なんですが。

上田氏:
 ええそうです。まさしくそれもさっきの大鷲のデザインの話と同じです。
 ミスマッチの演出という部分もそうですし,あとゲーム内に含まれているいろいろな要素を表現したといいますか。

4Gamer:
 要素,ですか。

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上田氏:
 です。この「人喰いの」というところは大人っぽいイメージで,「大鷲」の部分はちょっとこう,活劇っぽいといいますか……。

4Gamer:
 なるほど。確かにちょっとひと昔前の活劇っぽいです。全盛期の日活っぽいというか。


上田氏:
 「トリコ」に関しては,ちょっとこう,女性的といいますか。
 そういういろんな要素を,このロゴから感じてもらえたらな,と思って決めました。

4Gamer:
 校正さんとかだと「フォント揃えろ」っていう指示が出る感じですね(笑)。

上田氏:
 あ,そうなんですね(笑)。
 僕自身も実は最初のころはちょっと気になって,いろんな人に「違和感ないですか?」って聞いてみてはいたんですけど,意外と大丈夫そうで。

4Gamer:
 でも確かに一見すると違和感はありませんね。

上田氏:
 この「人喰いの」という部分は,なんていうか,(大鷲が)そういうレッテルを一方的に貼られている存在だったりするんで,そういう部分のひっそりしたアピールでもあるんです。そんな部分も含めて,みなさんがいろいろなものを感じ取ってくれるといいんですが。


ゲームについても聞いてみよう
  ――細かいインタラクションが与える作品のリアリティ


4Gamer:
 ゲームの話をしないと読者のみなさんに怒られそうなので,そろそろそちらのほうも……。

上田氏:
 どうぞ(笑)。

4Gamer:
 例えば「ICO」は,すごくシンプルに言うと「女の子の手を引いて脱出するゲーム」で,「ワンダと巨像」は,巨大な敵によじ登って倒すゲームですよね。

上田氏:
 はい,そうです。

4Gamer:
 では今回の「人喰いの大鷲トリコ」は,同じようにひと言で言うならばどんなゲームになりますか?

上田氏:
 難しいですね……(しばし熟考)……あまりこういう言い方はしたくないんですけれど,いま例に挙げた2作品の二つの要素がミックスしたもの,というのが一番近いかもしれませんね。
 手こそ引っ張りませんが,それに近いようなインタラクションが取れますし,大鷲にはよじ登れますし。

4Gamer:
 なるほど。

画像集#018のサムネイル/[TGS 2009]動物好きなら手放しでお勧め。世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた

上田氏:
 インタラクションの情報量ということで言うならば,今回PS3になったことによって格段に増えました。「ワンダ」でも巨像によじ登れますけど,実はつかまってるポイントそのものは,ほとんど変化してないんです。
 でも今回は,つかまったら皮膚がちょっとズレたりしますし,羽根も動いたりしますし,そういう細かいことの積み重ねが,すなわちコントローラへの「感触」となってつながってると思うんですよね。

4Gamer:
 確かにそうですね。アクションゲームで言うなら「打撃感」というやつでしょうか。そういう部分での,目には見えないリアリズムの補助はとても大事な気がします。
 そんな風にインタラクション性を重視しているのはよく理解できたんですが,具体的にはどんなアクションがあるんでしょうか。

上田氏:
 ムービーでも見られますが,なでたり餌をあげたり,刺さってる槍を抜いてあげたりとか……でもまぁ分かりやすい要素として言葉にしてしまうとそうなりますが,単につかまったりよじ登ったりしても,大鷲のリアクションとしての「インタラクション」はちゃんとありますよ。

4Gamer:
 じゃあ例えば,キャラクターを操作して大鷲の周りを歩いたり,ちょっとぶつかったりしてもちゃんとインタラクションがあると考えてよい感じですか?

画像集#023のサムネイル/[TGS 2009]動物好きなら手放しでお勧め。世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた
上田氏:
 そうですね。……例えば動物って,目と耳は独立した動きをするじゃないですか。目は飼い主を見ているけど,耳は違うところを注意している,みたいな。犬とか猫とかそうですよね。その例で言うならば,この作品も耳と目を分離して制御してるので,そういう部分までキチンと再現できてると思いますよ。

4Gamer:
 でも別に育成ゲームとかじゃないですしね。

上田氏:
 ええ。餌上げてパラメータあげて,みたいなものじゃないです。そう思われるのは本望じゃないですし。


4Gamer:
 上田さんの作品でそれを想像する人はいないと思いますが……。

上田氏:
 さっき例に出たようなインタラクションを通じて,この世界を,この生き物を感じ取ってほしいという願いからくる演出の一つですね。

4Gamer:
 そのお言葉から察するに,例によってパラメータのたぐいは隠すんですよね。

上田氏:
 そうですね。これまで同様です。数字とかテキストとか,そういったものは使いたくないですね。


変わりゆく表現方法をどんどん取り入れたい
     ――あくなき進化を目指す,氏の開発思想


4Gamer:
 動物を――これが動物かどうかという問題はさておき――ここまでリアルに再現したゲームは,私は初めてみました。

上田氏:
 本当ですか? これからもっともっと頑張っていきたいですね。

4Gamer:
 いえ本当に……。なんていうか,軽々しく「リアリティの追求」とか言ってる人達にぜひ見てほしいですね。実在しないものをリアルに表現できているこの作品こそが,真の「リアリティ」だと思います。

上田氏:
 ……(何かをいいかけてやめる)

4Gamer:
 なんでしょう?

上田氏:
 いえ,そういえばまだあまり言えないんでした(笑)。

4Gamer:
 残念。次はいつごろお話が聞けそうですか?

上田氏:
 いつになるでしょうね。それすらも実はまだよく分からないんです。

4Gamer:
 まだ何もかもが未定である,と。それはFixしていない,ということですか?

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上田氏:
 Fix……とはちょっと違いますね。
 何かを表現しようと思ったときに,その表現がベストな方法になるかどうかというのが重要なんです。

4Gamer:
 なるほど。現時点での予定を話しても,それはまったく確約できるものではないので……ということなんですね。

上田氏:
 そうです。

4Gamer:
 あとこういう場所で口に出してしまうと,それに縛られかねないですし。って私が言うことじゃないですが。

上田氏:
 そういう部分も否定はできませんね(笑)。
 まぁでも。表現力が固定されているメディアでの作品であれば問題はないんです。でも例えば今回のPS3のようなものになると,コーディングによってはもっとより良い表現になる可能性があるわけですよね。

4Gamer:
 なるほど,表現環境そのものが変化していくわけですからね。

上田氏:
 そうです。どんどん成長していくので,その成長に合わせたベストな表現を選択したいんです。


表現するうえで,この大きさが必要だった
       ――本当はいない「真の生き物」を目指して


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上田氏:
 そんなわけで,動物を動物らしく表現する,というのは,たぶんこの先もずっとやっていくと思うんですよ。

4Gamer:
 それを聞いてとても嬉しいです。

上田氏:
 レベルデザイン……いや,それだけに限った話ではないですが,この作品においては,あらゆる部分にこの動物(=大鷲)が絡んでくるわけですよね。そんな状態で,どこかで大鷲にリアリティがない,大鷲が自然じゃない,っていうことになると,そこでほころびが出てしまうんです。
 なので,その作業はこの先もずっと続くと思うんです。そこがすべてと言ってもいいかもしれませんし。

4Gamer:
 いま判明している情報からの判断に過ぎませんが,とても大変そうな作業ですね。このお家芸ともいえる「大きさのギャップ」から来る表現もそうですが。

上田氏:
 大きいからこそ出せる情報っていうものもありますしね。

4Gamer:
 逆に大きいからこそ個々の細かい動きが目立っちゃうとも思います。

上田氏:
 確かにそうですね。小さいなら目立たないようなものも,大きいと非常に目立ちますしね。
 ただ僕自身は実はあまり大きいと思ってないんです。実際の動物が持つ表現力を再現しようと思ったら,どうしてもこれくらいの大きさは必要になるんです。実際の猫とか犬の大きさにしてしまうと,情報量がまったく足りなくてリアルに感じられないんです。

4Gamer:
 小さいのであれば,そもそも「リアル」である必要すらないと思うんですよ。記号化されてデフォルメ化されたアクションさえあれば。あごの下をかいてる「っぽい」とか,耳を動かして喜んでる「っぽい」とか。
 今回のムービーに,耳の下あたりをかいているシーンがありますが,そのときの尻尾の動きであったり,体全体の小刻みな動きであったり,もうああいうところから全然違いますね。いままでの動物ゲームとは。まぁそんなところ見てるのはもしかしたら私だけなのかもしれませんが……。

上田氏:
 (笑)
 でもみなさん,注意して見てはいなくても,意識のうえではちゃんと見て判断してますよね。動物の動きは「全体」で感じられると思うんです。そこを強く信じています。

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リアルにしたいから言葉は使わない
  ――上田氏の考えるエンターテイメント


4Gamer:
 安易な言い方ですごく恐縮なんですが,この「トリコ」に限らず,上田さんの作品を見ていると,エンターテイメントとしてのコンピュータゲームにはまだまだ展開できる余地があるんだなぁ,ということを思い知らされます。

上田氏:
 「ICO」のときはコンピュータエンターテイメントを作りたい,と思っていて,「ワンダ」のときはアクションゲームとして完成度の高いものを作りたい,と思って。今回は両方の要素があるんですけど,どちらかと言われれば,「コンピュータエンターテイメントをもう一回やってみたい」という思いのほうが強いですね。「ICO」のときに実現できなかったものを含めて。

4Gamer:
 その場合の「エンターテイメント」は,総合的な意味を含んでるわけですよね。

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上田氏:
 もちろんです。
 ゲームのボリュームであったり,なんたらシステムを採用したりとか,そういうものもゲームの面白さの一つではあるし大事だと思いますが,そういうものをもすべて内包した意味での「エンターテイメント」です。

4Gamer:
 ではゲームを「エンターテイメントのメディア」として見た場合に,そうですね……例えば映画と比べてこれは有利,という部分はなんだとお考えですか。先ほどから述べているような,都度都度リアクションがある圧倒的な情報量,とかですか。

上田氏:
 難しい質問ですねえ……。まぁ普通によく言われるのは,自分で操作することによる感情移入度,とかですよね。操作することによって臨場感をより多く得られて,その臨場感から,より大きく感情移入できる,みたいな。

4Gamer:
 体験型メディア,ってやつですね。

上田氏:
 僕自身も,いまのところをそこを強く感じてますね。先ほどから言っている物語表現,とかっていう部分になると,ビデオゲームにはまだまだ足りない部分が多いんですが,このモニターの中にある世界っていうものをリアルに感じられるという部分においては,映画には勝るんじゃないかな,と思っています。

4Gamer:
 映画や物語との比較なのでいっしょに聞いておきたいんですが,上田さんの作品は基本的に言葉を発さないですよね。これって意図的なんですか? 意図的,っていうのは,例えばワールドワイドの展開を見据えて,みたいな。

上田氏:
 ワールドワイド……は,ごめんなさいあんまり考えてません(笑)。まぁでもそういういい方向での側面っていうのは確かにありましたね。でも元々の理由は,やっぱり「リアリティの追求」からきたものですね。言葉が通じてしまうと,いろいろな問題が出てきてしまうんです。

4Gamer:
 すごくよく理解できます。イメージの固定であったりとかっていうのもその一つだと思いますし,そういうものを筆頭に「逆に意図したように伝わらない」っていう問題はありますよね。

上田氏:
 そうです。より実在感を出すための選択は(言葉にするのとしないのと)どっちだろうと考えて繰り返して検討していった結果,僕は言葉を発さないほうを選んだんです。
 例えばICOで,実際に言葉で,日本語でしゃべって「キミはそこで待ってて。僕はあっちに行くから」っていうのを,リアリティを感じられる状態で演出する方法が,自分にはどうしても捻出できなかったんです。言葉が通じないから手を引っ張る――というか,手を引っ張るしかない――というのが,僕の出した結論なんです。


エンディングは上田氏にさえハンドリングできない
     ――表現の「プロ」だからそ選ぶべき選択肢


4Gamer:
 あとすいません,動物好きとしてとても気になってることが一つありまして……。

上田氏:
 なんでしょう。

4Gamer:
 悲しいエンディングじゃないですよね?

上田氏:
 あぁ……。海外の人にも同じことを聞かれました。
 うーん,どうですかねえ(笑)。

4Gamer:
 いやあ,なんていうか,なんともいえない優しい絵柄と「子供と動物」というあたりで,すごく悲しい最期を想像してしまって,もうそれだけで勝手に沈んだ気持ちになってるんです。
 今までも,ちょっと悲しげな感じのエンディングだったり,悲しい出来事があったりとかしますし。

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上田氏:
 僕個人としては,そういうものに抵抗したいと思ってるんです。そもそも,普通に考えるとそういう風に想像できますもんね。

4Gamer:
 ええそうですね。いま出ている素材を見ても,槍が大鷲の体に突き刺さってたりとかして,それだけで「もう勘弁してください」と言いたい気分でいっぱいです。

上田氏:
 いやあ,分かりますよ。
 そうですねえ……僕はやっぱり「意外性」を出したいと思ってるんですよ。なので,その多くの人が想像するであろう方向性にはあらがっていきたいなぁ,と考えています。

4Gamer:
 上田さんの現時点での意図として,ですか。

上田氏:
 ええ。その悲しいエンディングという方向性を避けるように頑張っていきたいと思っています。

4Gamer:
 上田さんが決める立場なのに「頑張っていく」というのはどういう意味なんでしょうか。

上田氏:
 頑張って頑張ってそうならないようにはしますけど,最終的にそれが「ベストな方向」なんだと思ったら,それを選択することになると思うんです。

4Gamer:
 なるほど,表現の「プロ」として選ぶ,ということですね。

上田氏:
 そのとおりです。
 あとまぁなんというか,みなさんの「想像どおり」っていうのもつまらないですよね。やはり物語には意外性を求めたいです。そういうものも含めて「いいエンディング」になればいいな,と思っています。

4Gamer:
 ぜひその方向でお願いします……。
 では最後に,「大鷲」を楽しみに待っている4Gamer読者にひと言お願いします。

上田氏:
 みなさんの期待を裏切らずにそれを越えるものにするために,もう少し時間がかかりそうです。どうか期待して待っていてください。

4Gamer:
 ……いま開発進行度って何%くらいなんですか?

上田氏:
 ちょっとまだ言えない感じで……。

4Gamer:
 心から楽しみにしています。ありがとうございました。

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 むろん日本でも十二分な知名度を誇る氏と氏の作品だが,氏とそのチームが成してきた実績を考えると,まだまだ知名度が低すぎる,というのが筆者の個人的見解だ。それを氏が喜ぶかどうかは別として,もっと評価されて然るべきである。
 直接お話を聞けたのは,恥ずかしながら今回が初めてなのだが,静かな,ときどきこちらに問いかけるような語り口,それとは裏腹に,中に強く持つこだわり/思想などを鑑みるに,海外の開発者で無理矢理例えるならば,ピーター・モリニュー氏に近いという印象を受けた。
 ゲームシステムこそとくに現時点では何も明かされていないが,氏の作品のファンであれば,ムービーを見るだけであれやこれやと想像がふくらんでいることだろう。今回のインタビューでも具体的なことは明かされなかったが,おそらくは私やみなさんの考えている方向性というのは,そう間違えたものにはならないだろう,という印象だ。

 ともすれば,見ているだけで悲しくなってくる,たまらなく優しいゲーム内世界の「空気」。実在しないにも関わらず,あふれんばかりのリアリティに満ちてそこに存在する「大鷲」。ムービーを見るだけで想像ができる,悪者のレッテルを貼られた大鷲と,少年との交流。
 「架空だからこそ徹底的に表現できるリアル」をどこまでも追求する,上田氏の思想/コンセプトの一端でも読者に伝わるのであれば,これ以上嬉しいことはない。

 生き物への愛情,エンターテイメントへの愛情,そして自分の作品への愛情。その三つを強く感じることができるこの作品が,いわゆる「ゲーマー」と呼ばれる層以外への広がりを見せ,氏の功績が広く世に認知されることを願ってやまない。そう素直に思えたインタビューだった。


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