連載
【ヒャダイン】人生は選択の連続だ。
ヒャダイン / 音楽クリエイター
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第66回「人生は選択の連続だ。」
ども。最近ゲームが良作ラッシュで困っちゃいますね。圧倒的に時間と気力が足りない。どうすりゃいいんでしょう。
そんな中,テレビ東京系列で大好評放送中「ポケモンの家あつまる?」の住人でもある私ヒャダインは「ポケットモンスター Let's Go! イーブイ」でモンスターボール PlusをTVに向かって投げまくっております。ポケモンの原点回帰的な作品で,より一層ポケモンのことが愛おしくなっております。イーブイをブイブイなでると可愛いんだわ。
が,一方で私の感情をブンブン回しして,仕事の〆切りをいくつか伸ばさせた鬼のようなゲームがありまして。
それが「Detroit: Become Human」でございます。洋ゲーですよ。人間がアンドロイドに奉仕をさせている近未来の世界で,アンドロイド達が自我を持って行動を始めるというストーリーで,3人の主人公を操っていくアドベンチャーゲームなのですが,まず映像レベルがただのハリウッド映画! これはもうCGというより実写そのものだよね。ゲームをやっているという感覚はないです。
だけど,そんなことはどうだっていいんだよ! その映像的な凄さにいちいち驚いていられないぐらい,ストーリーと,その進め方がエグいんですよ!
簡単に言ってしまえば,昔からアドベンチャーゲームではおなじみの“選択肢を選んで物語を進める”ものなんですけど,多くの場合,正しい選択をすればクリアできて,間違った選択をしたらゲームオーバー。途中からやり直すしかない……みたいな感じじゃないですか。でもそれで「ま,ゲームってこんなもんだよね」という諦念と予定調和の安心に包まれるわけです。ミスったところをやり直せば,とりあえずクリアにたどり着けるしな,って。
だけどもDetroitは違います! 人生と一緒の構造になってるんですね。一つ一つの選択によってフローチャートが異なるものになり,物語の結論すら変わっていきます。「バタフライエフェクト」なんて言葉もありますが,右を選ぶか左を選ぶか,それだけで我々の人生は全然変わるんです。今このコラムを読むのをやめるかやめないかでも,きっとあなたの人生は変わっていくんですよね。
でね。このゲームの恐ろしいところは自分の選択が他人の人生をも変えていくってところなんです。主人公は3人のアンドロイドなんですが,そもそも互いに知り合いでもなんでもない。でも,そのうちの1人の選択によってほかのアンドロイドの運命が変わっていくんです。
これって我々の人生でもまったく同じじゃないですか。自分の選択で自分の人生が変わることは当然として,その変わった結果としてほかの人の人生にも何か影響を与えている。自分なんてちっぽけで,いてもいなくてもいい存在,微細なものだなんて思っている人がいるかもしれませんが,各人が世界を,地球を,宇宙を揺るがしている存在なんですよねえ。
先に言っておきますが,変な宗教にのめりこんでいるわけでもないし,病んでいるわけでもないです。なんですが,最近,人間って宇宙だな,て思うんですよ。小さい存在だけど,この46億年続く歴史のうねりを一人一人が支えて変化させてねじまげていく。どんな偉い人も,集まって騒ぐだけが生き甲斐のパリピも,大きなうねりを作っているんですよね。始まりで終わり。闇であり光。そんな歌詞を最近書きました。まさにこのゲームの影響です。でんぱ組.incの「太陽系観察中生命体」という曲の歌詞です。ちょうど今日(2018年11月30日)にミュージックビデオが解禁されたので,ぜひご覧下さい。素晴らしいMVとなっております。
さて,本筋に戻りますね。人生はDetroit。選択の連続です。その選択が正しかったか間違えていたかなんて分かりません。まあ,Detroitはフローチャートを確認したうえで,別ルートを選んでいくというリプレイ機能もあるので,別の人生も分かっちゃうんですが。
牛丼屋に入るか自炊をするか,これのどちらが正しいかなんて誰にも分からないんですよ。だから時々,すごく不安になります。だって正しい道のほうを選びたいじゃないですか。ハッピーエンドになりたいでしょ。だから正しいルートを知りたいんだけど分からない。ほんと,選択って困る。
きっと太古の昔から,人はそういう不安を抱えていたんでしょう。だからきっと,選択の苦しみを神様へ委ねてきたんですよね。誰かに,何かにもたれかかって生きるほうが時には楽なものですから。
人間が友達や家族で群れるのも,この選択の苦しみを分け合うため,という側面があることだって否定できないと思います。友達とアミューズメントパークに行ったらまずどの乗り物に乗るか,みんなで決めますよね。誰か一人の独断とかありえないわけで。でも一人だったら自分で決めなきゃいけない。最初にジェットコースターに乗ったら気持ち悪くなるかもしれないし,パレードを見ようとしたら待ち時間で体が冷えちゃうかもしれない。そういう風に,悪いことが起きたときの,全責任が自分にあるのはつらい。
一方みんなで行ったら何が起ころうとまあ責任は分割できますよね。それが支え合うっていうことだと思う。人っていう漢字は支えあうことだって金八も言ってましたよね,金八も。
正直言うと,ゲームというエンターテイメントの世界で現実世界におけるMOST OF つらい“選択の責任”をプレイヤーに背負わせるなんて,残酷だなぁと思うところはありますよ。Detroit,選択を間違えると主人公なのにも関わらず死んでしまうんです。主人公なのに! ゲームだから主人公補正があるだろう,なんて思っていたら大間違いでした。死ぬもんは死ぬ。そして,主人公の死後も物語は続くんです。
これって人間の弱点を突いているなぁとも思います。というのも,我々,自分に主人公補正が効いていると勘違いしていると思うんです。とんでもないアクシデントに巻き込まれているのに,のんきに動画を録って「やばいやばい」とか言ってたり,ひどい自然災害があったのに他人事でまったく備えをしなかったり,治安が悪い国だって情報は知っているのに夜中に歩き回ったり。自分だけは大丈夫,もし何かが起きたとしても何とか助かるだろうと思っているんですよ。
でもそれって大間違いで,被害にあうときはあうんです。たとえそれが理不尽な結果だったとしても。理不尽な目にあうことを肯定したくないから,勝手に主人公補正をかけるのかなあ,なんてことも思います。Detroitはその現実を,ゲームながらに突きつけてくるんですよねー。ああ怖い。
さらに,シンギュラリティ,という近々の人間社会で起こるアンドロイド問題もリアルに描いています。絶対こういうふうに隷属的に使っちゃうよね。さらに今までの負の歴史,奴隷問題やホロコースト,貧困や薬物汚染などを想起させるシーンもていねいに描いています。だからプレイしているうちに,なんだか苦しくなってくるんですよね……。
ほんと,なんだこの作品。もはやゲームじゃない。映画でもない。2018年の我々にさまざまな警鐘をならす注意書きのような,最終警報のような……。かなりメンタルが持っていかれますが,ぜひ皆さんこの最高傑作に触れてみてください。
■■ヒャダイン(音楽クリエイター)■■ ヒャダイン氏は,2019年1月2日23:30〜24:30にNHK Eテレ「平成ネット史(仮)」(前編),翌3日23:00〜24:00に「平成ネット史(仮)」(後編)に出演予定。このほかにも年末年始の特番にたくさん出るようです。 |
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