レビュー
製品ラインナップにひっそりと追加された「SE」モデルの存在意義は?
GeForce GTX 460 SE
(Palit GeForce GTX 460 Smart Edition(NE5X460EFHD02))
グラフィックスメモリ768MB版GTX 460(以下,GTX 460 768MB)と同価格帯――北米市場におけるNVIDIAの想定売価でいえば169ドル程度――に位置づけられた新モデルだが,実際のところ,GTX 460 768MBとGTX 460 SEは,市場でどのように位置づけられるべきなのだろうか。
Palit Microsystems(以下,Palit)の販売代理店であるサードウェーブから,GTX 460 SE搭載製品「GeForce GTX 460 Smart Edition」(型番:NE5X460EFHD02,以下便宜的にPalit GTX 460 SEと表記)の貸し出しを受けることができたので,今回はGTX 460 SEというGPUの特性を明らかにしてみたいと思う。
Palit製GTX 460 768MBカードと外観はまったく同じ
BIOSには「GeForce GTS 455」との記載が
「そもそもGTX 460 SEとは何なのか?」というところから話を進めよう。
簡単にいえば,これは,「グラフィックスメモリ1GB版のGTX 460から,CUDA Coreを48基削減して288基としつつ,さらに動作クロックを若干抑えたモデル」だ。
ただ,ROP数やメモリインタフェースはグラフィックスメモリ1GB版のGTX 460(以下,GTX 460 1GB)と同じ。そのため,価格設定がほぼ同じGTX 460 768MBと比べた場合,「CUDA Core数は48基少ない一方,メモリ周りの仕様では上回る」ということになる(表1)。
その外観は,Palit製のGTX 460 768MB搭載カードと同じ。Palit製GTX 460搭載モデルの特徴である,リファレンスデザインよりも短い,実測188mm(※突起部含まず)のカード長も変わっていない。
そこで今回は,GPU-Zと同じくTechPowerUp製となるGeForce専用のVBIOS書き換えツール「NVFlash」(Version 5.100.0.1)を用いて,GeForce GTX 460 1GB Sonic(NE5X460SF1102)のVBIOSをPalit GTX 460 SEに書き込んでみたが,結果はNG。OSが起動するところまでは行くものの,グラフィックスドライバを読み出すタイミングで画面が乱れてしまった。
ただ,この試みのなかで,NVFlashがPalit GTX 460 SEを「GeForce GTS 455」と認識していると判明したのは収穫だったといえそうだ。おそらく,Palit GTX 460 SEのVBIOSには,GeForce GTS 455という型番が刻まれているのだろう。
※注意
グラフィックスカードのVBIOS書き換えやVBIOS設定変更は,メーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードが動作しなくなる危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてVBIOSの書き換えやVBIOS設定変更を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
GTX 460 768MBとの比較を中心にテスト
ドライバは製品ボックス付属のものを利用
今回のテスト環境は表2のとおり。比較対象としては,同価格帯となるGTX 460 768MBから,先ほど紹介したGeForce GTX 460(NE5TX460FHD79),下位GPU「GeForce GTS 450」(以下,GTS 450)搭載モデルからはMSI製の「N450GTS Cyclone 1GD5/OC」をそれぞれ用意した。
前述のとおり,Palit GTX 460 SEは,リファレンスクロックよりもコアで2MHz,シェーダで4MHzだけ低いが,パフォーマンスに大きな影響はないと判断し,出荷状態のままテストを行う。一方,N450GTS Cyclone 1GD5/OCはメーカーレベルのクロックアップ設定が行われたモデルのため,こちらは動作クロックをリファレンス相当にまで落としている。
テストに用いたグラフィックスドライバ「GeForce Driver 261.01」は,入手したPalit GTX 460 SEの製品ボックスに付属するものだ。北米時間11月22日付けで,GTX 460 SEに対応した公式最新版ドライバ「GeForce Driver 263.09」が公開されているのだが,テストを開始した20日時点では手に入らなかったこと,当該時点における公式最新版「GeForce Driver 260.99」がGTX 460 SEに対応していなかったことから,製品ボックス付属版を用いた次第である。
もっとも,GeForce Driver Release 260世代は,260.99〜263.09で,GPU新製品の対応を除くと,目立った機能追加や最適化,バグ修正は行われていないので,261.01版でも大きな問題はないと考えている。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.1準拠。ただし,テストスケジュールの都合もあり,「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」と「バイオハザード5」,それに「Colin McRae: DiRT 2」のテストは省略している。また,GeForce GTX 400シリーズの新製品ということもあって,テスト解像度は1680×1050&1920×1200ドットの2つとした。
足周りのよさで粘りを見せるものの
絶対性能ではGTX 460 768MBに水をあけられる
ではさっそく,「3DMark06」(1.2.0)の結果から見て行こう。
グラフ1は総合スコアをまとめたものだが,GTX 460 SEのスコアは「標準設定」でGTX 460 768MBより7〜9%低い。「高負荷設定」になると,メモリ周りの優位性からかGTX 460 SEが盛り返し,その差は5%程度にまで縮むものの,「GTX 460 768MBに敵わない」という点では同じだ。
グラフ2〜6は,3DMark06のデフォルト設定となる1280×1024ドット,標準設定で実行したFeature Testの結果だ。
グラフ2に示した「Fill Rate」(フィルレート)を見てみると,CUDA Core数と動作クロックでともにGTX 460 768MBを下回るGTX 460 SEのスコアは順当に落ちている。「Multi-Texturing」で,GTX 460 768MBとGTS 450のほぼ中間というのは,VBIOSに刻まれたGeForce GTS 455という型番らしい結果といえるかもしれない。
続いて,「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)のテスト結果をグラフ3,4で確認してみるが,ここでも,GTX 460 SEのスコアはGTX 460 768MBとGTS 450のほぼ中間といった位置に収まっている。GTX 460 SEという名称ながらも,GTX 460 768MBからのスコア低下はかなり大きい印象だ。
Shader Model 3世代における汎用演算のポテンシャルを見ることもあって,ピクセルシェーダとメモリ周りの性能がスコアを左右しやすい「Shader Particles」(シェーダパーティクル)だと,256bitメモリインタフェースに容量1GBのメモリインタフェースが奏功し,GTX 460 SEがGTX 460 768MBを逆転(グラフ5)。その一方,長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)の結果をまとめたグラフ6だとGTX 460 SEはGTX 460 768MBからスコアを大きく落とした。
Feature Testの結果を見る限り,GTX 460 SEがGTX 460 768MBより高い性能を発揮することはあり得るが,その条件は極めて限定的と理解しておくのが正しそうである。
では,実際のゲームではどうかということで,「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)から見ていきたい。
その結果をまとめたものがグラフ7だが,全体の傾向は3DMark06の総合スコアとよく似た印象だ。GTX 460 SEのスコアはGTX 460 768MBに届いていないものの,高負荷設定や高解像度ではその差が縮まっており,負荷の高まりに連れてグラフィックスメモリへの転送データ量が増大し,GTX 460 SEの持つメモリ周りの強みが出てきている,というわけである。
もっとも,強みが出てきたところで,GTX 460 SEとGTX 460 768MBの差は最小でも6%程度ある点は押さえておきたい。
グラフ8に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,GTX 460 SEのスコアは対GTX 460 768MB比86%前後と,あまり芳しくない。グラフィックス描画負荷の低いCall of Duty 4のようなタイトルでは,CUDA Core数(≒テクスチャユニット数)とGPUの動作クロックがそのままスコアに影響を及ぼしているということなのだろう。
メモリ周りの性能がスコアを左右しやすい「Just Cause 2」の結果がグラフ9だが,ここでもGTX 460 SEとGTX 460 768MBの力関係は3DMark06やBFBC2と同じだ。描画負荷が高くなるテスト条件でGTX 460 768MBとの差を詰めるものの,それでもスコアは1割以上低い。
消費電力はGTX 460から据え置き
温度もGTX 460から変わらずか
テストにあたっては,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ10のとおりで,やはりというかなんというか,GTX 460 SEの消費電力はGTX 460 768MBとほぼ同じ。やはり,消費電力の低減は図られていないようである。GTX 460 SEは,GTX 460の下位モデルと位置づけられながらも,6ピンの補助電源コネクタが2系統のままであり,公称最大消費電力もGTX 460 768MBと同じ150Wなので,消費電力は据え置きと考えたほうがよさそうだ。
最後に,室温20℃の環境でバラックにシステムを置き,GPU-ZからGPU温度を取得した結果をお伝えしたい。ここではアイドル時に加えて,3DMark06を30分間連続実行したときを「高負荷時」として,それぞれの時点における温度をスコアとして取得し,グラフ11にまとめているが,同じカードデザイン,同じGPUクーラーを採用することもあって,GPU温度もGTX 460 SEとGTX 460 768MBで大差がなかった。
なお,高負荷時の温度を見たときにGTS 450がかなり低いのは,冷却能力に定評あるMSI独自のGPUクーラー「Cyclone」を搭載しているためである。
GTX 460 768MBの下位モデルとして価値はあるが
価格設定が現時点では絶対的におかしい
ただ,そういった解釈を難しくしているのが価格設定である。冒頭でも述べたとおり,NVIDIAはGTX 460 SE搭載カードの想定売価をGTX 460 768MBと同じレベルに位置づけているのだが,同じコストをかけるならGTX 460 768MBを選べばよく,わざわざGTX 460 SEを選ぶ必要がないのだ。
これは筆者の想像の域を出ないのだが,GTX 460 SEというGPUは,GTX 460シリーズ全体の歩留まりを上げるため,“GTX 460として動作できなかったチップ”の再利用として投入されたものではなかろうか。そういった性格のチップだとすると,カードベンダーがGTX 460 SEのために新たなカードデザインを起こしたりせず,既存のGTX 460 1GB用基板にそのまま搭載して製品化してきたことも頷けそうだ。公称最大消費電力がGTX 460 768MBと同じ150Wなので,新規にデザインを起こせるなら,(補助電源コネクタ1ピン版など)新たな価値を生み出せるかもしれないが,そこまでのコストを割けるようなシロモノではない,ということなのだろう。
いずれにせよ,現時点ではGTX 460 SEを購入する理由が見いだせない。Palit製グラフィックスカードを国内で独占的に販売しているドスパラの通販サイトを見ると,Palit製GTX 460 768MBカードが1万3980円(税込,2010年11月26日現在),リファレンスクロック仕様のPalit製GTS 450カードが1万980円(同)なので,いまこの瞬間について話をするなら,Palit GTX 460 SEは,1万2500円前後の価格なら妥当といえるかもしれない,といったところである。
……仮にその価格設定であっても,1500円足してPalit GTX 460 768MBを選ぶほうが得策なのは言うまでもないのだが。
ドスパラのPalit GTX 460 SE販売ページ
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