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[CEDEC 2011]女子ゲーに大事な9要素。農園ゲームをやめた「農園ホッコリーナ」が女性ランキング1位になった理由とは?
現在入社2年目の山口氏は,ゲーム業界に入ったのがDeNAが最初で,企画としての業務経験もまったくなかったという。いわばド素人として入社し,当時業績が芳しくなかったソーシャルゲーム「農園ホッコリーナ」を引き継いだのだ。「いわゆる普通の人が実践できた,主に女性をターゲットとしたソーシャルゲームの育て方をシェアします」という山口氏の言葉で当講演はスタートした。
ソーシャルゲームと農園ホッコリーナ
最初に話されたのは“ソーシャルゲーム”とは何か,という点についてだ。これは,どこに重点を置くのかでも異なってくるだろうが,山口氏の考えとしては「仲間と協力して進めることが前提のゲーム」であるという。ソーシャルゲームは,ゲーム自体の進行だけでなく,仲間との交流そのものも楽しみの一つとして利用されているのは周知の事実。「友達と一緒に遊ぶ楽しさや,小さな達成感を積み重ねる快感がユーザーに支持されるポイントです」と山口氏は語る。
そもそもソーシャルゲームというのは,本当に“ゲーム”なのか,と感じる人もいるだろう。山口氏としては「コンシューマゲームをいわゆるゲームとすれば,ソーシャルゲームはゲームではないと思っています。ちょっとした息抜きや,ちょっとした元気をもらったりするためのツールに近いものではないでしょうか」と考えているようで,「既存のコンシューマゲームと比較するものではないはず」と続けた。
本講演のテーマでもある,女性とソーシャルゲームの関係についても語られた。
ソーシャルゲームを大きく分けると,男子型ゲームと女子型ゲームの2種類に分けられるという。怪盗ロワイヤルに代表される男子型ゲームは,男性的な負けず嫌いの性格が反映されてか「課金力」が高いのが特徴で,例えるなら短距離走型ゲームといえる。対して女子型ゲームは,ゆっくりゆっくり好きになってくれる人が多いため継続率が高い傾向にあり,例えると長距離走型のゲームだという。女子型ゲームを制作すれば,寿命の長いゲームを作れるというわけだ。
このゲームの基本コンセプトは,かわいいものを育てたり飾ったりして”ほっこり”できること。タイトルから野菜や家畜を育てる農業系ゲームであると思われがちだが,実はかわいいものを手軽に育てられる”アプリ”なのである。農業のリアルさやゲーム性は捨て,育てたくなるようなかわいらしさを追求しているというわけだ。
なお,農園ホッコリーナは2011年9月時点で,Mobageの育成系ソーシャルゲーム1位。月間ユーザー数100万人に対して,女性62%,男性38%という数値が出ている。プレイヤーを年代別に見ると20台後半から30台にかけてが一番多いことから「忙しい社会人女性の,ほっこりしたいニーズに応えた」と山口氏。
農園ホッコリーナが女子ゲーになるまで
現在は女子型ソーシャルゲームとして人気を得ている農園ホッコリーナだが,現在の地位に至るまでさまざまな出来事があったという。
1年前は,mixiの「サンシャイン牧場」,Facebookの「FarmVille」が大人気で,当時中途半端な立ち位置だった農園ホッコリーナが遊ばれる理由はまったくなかった。「想定プレイヤーは課金力のある30台男性?」「方向性は機能が豊富でやり込める農園ゲーム?」といった感じで,明確なコンセプトもない状態であったらしい。
そこで大幅な改革を行うことになるが,まず山口氏が行ったことは,プレイヤーのデータを徹底的に調査・分析すること。その結果,プレイヤーの6割が女性であることが判明し,「農園ホッコリーナは女性にとって刺さるポテンシャルが高いことが分かった」(山口氏)という。
結論は,怪盗ロワイヤルに勝ってPR力を獲得する,ということ(なにやら本末転倒な気はするが)。怪盗ロワイヤルは人気だがどうやら男性プレイヤーのほうが多いらしい,ならば女子向けに振り切れば農園ホッコリーナにも勝ち目はあるのではないか,と山口氏は考えた。女性ランキング1位になれば,CMを打たなくてもmobage以外の媒体からの集客機会が見込める,という農園ホッコリーナ成長のシナリオがここで生まれたのだ。
すべての判断軸を女子向けゲームと決め,さらにリサーチを続ける山口氏。「ケータイを開いて,さくっとかわいい動物や作物を育てたい!」そうしたプレイヤーの意見を具現化するようなゲーム作りを開始することに。多機能なゲームや農業のリアル性については,女性は求めていないとの判断だ。
想定プレイヤーを20台後半〜30台前半の,日々にほっこり感じを求める女性と定め,方向性は農業ゲームであることより「かわいい」ことやコミュニケーションを取りやすいことに重点をおくことに決定。そう,農園ホッコリーナは農園ゲームであることをやめたのである。その結果,女性のユニークユーザー数で怪盗ロワイヤルを超えることに成功したのだ。
女子ゲーに大事な9要素
続いて山口氏は,自身の考える“女子ユーザーにとっての嬉しいこと”を基盤に,女子ゲーで大事となる要素をていねいに解説してくれた。
1:ユーザーの利用シーンとゲームをずらさない
「ゲームであること」にこだわるあまり,ユーザーの求めているものとズレが生じてしまうことがある。やりがいのあるゲームか,ちょっとした息抜きか,そのどちらが求められているのかを把握すること。生き抜きで楽しもうと思ったのに,説明文を読むことすら面倒なようではダメ。また難解な攻略要素も敬遠される。“やらされる”のは嫌がられるので,ユーザーが自分から能動的に行動できるようにすることが大事。
2:なにをやっても嬉しくなれる?
繰り返し失敗体験を積み重ねるのはみんな嫌で,頑張ったら前に進みたいと思っている。例えば,10分おきに開けられる宝箱から1/10の確率で宝物がもらえるとしよう。ハズレが8回連続とか出ると,その80分間,気分が滅入ってしまう。そこで,100分に一度10個分の宝箱を一気に開けられるようにすると,計算の上では10分間隔で開けていくのと変わらないが確率上はなにかが当たっていることが多いので,「宝が当たった」という気持ちが,次に宝を開けるときまで続くというわけだ。
3:そのかわいいに意味はある?
かわいいは大事だが,それだけではダメ。人に自慢できたり,ユーザーにとって良いことがあるように。例えば,期間限定でかわいい牧場動物をプレゼントしたとして,ただ育てて収穫するだけでは,嬉しい気持ちはすぐに終わってしまう。育てて収穫すると,オマケがもらえるようにすると,期間限定の牧場動物を“ほしい”という気持ちがより増加するのだ。
4:詰まないようになってる?
仲間の協力を得たり,課金アイテムを購入したりすることで救済されるようになっていることが大前提。自力で解決しないとクリアにならず,運頼みというパターンにはしないこと。
5:基本サイクルの延長で遊べる?
イベント時に急に違うゲームシステムなっていないかをチェックすること。日常とイベントがかけ離れすぎているとゲームをやめるきっかけになってしまうことも。いつもの農園を遊ぶサイクルの延長でイベントも楽しめるように。もし新しいことをやりたいのであれば,ベースから分離させること。
6:あざといと天然を使い分ける
あざといかわいさは,「記号的にかわいいもの」「特殊な語尾」「ぶりっ子」といったイメージで,天然のかわいいは,動きや見た目を含めてかわいいが,突っ込みどころもあるもの。ユーザーの好み次第ではあるが,あざとすぎるとユーザーが引いてしまう危険性があるので注意。
7:思わず出てしまう男性視点に注意
極端なゲーム性やアクション性,攻略要素を詰め込んで面白そうと思ったら要注意。男女で求めるものに差異があることを忘れないように。男性ならば複雑なやり込み要素や格好良いもの,アクション性の高さも喜ばれるが,女性にはサクっと達成感が得られ,かわいく操作が簡単なものが好まれる傾向にある。
8:対同業者ではなく,ユーザーを見る
システム的に高機能かどうかではなく,遊びたいものとしての欲求が満たされるかどうかが重要。限られた小さな畑しかないゲームの場合,育てられる作物が少なくて不満が出そうと感じるかもしれない。だが,畑が小さいからこそ短時間で操作が終われて気楽に遊べる,そういう見方もあるといいうことだ。
9:普通でも嬉しい。課金したらさらに嬉しい
課金アイテムを購入しないとクリアできないと分かった時点で遊ぶ気がなくなってしまうので,課金せずとも努力で何とかなる調整をすべき。課金すると手間がスキップできたり,より気持ちいい感覚を味わえるように。課金しないとほぼ当たらない確率だったり,無理な制限時間がついているとユーザーとしては辛い。
プレイヤー中心で考えないと,誰も喜ばないゲームになってしまいかねない。農園ホッコリーナが農園ゲームであることをやめたように,「ときには自己否定をしてでもユーザーに喜ばれるような方向性進んでいけるのが一番」との言葉で,山口氏は講演を締めくくった。
ターゲットとなるユーザー層を絞り込み,そのユーザー層にとって最善と思える方策を施す。結果,開発・運営サイドが目指すものと,ユーザーが求めるもののズレを正すことができた農園ホッコリーナの実例である。同種の他ゲームの動向や流行に流されず,コアユーザーである女性に必要なものだけを提供したのが,モバゲー女性ランキング1位になれた理由なのだろう。ゲーム業界に限ったことではないが,顧客を徹底的にリサーチすることの重要さをあらためて認識させられる講義であった。
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