インタビュー
もはや国民的ゲームとなった「モンスターハンターポータブル 3rd」が目指した境地とは――プロデューサーの辻本良三氏とディレクターの一瀬泰範氏へのインタビューを掲載
本作は,発売からわずか1か月で出荷本数が400万本に達し(関連記事),2011年2月13日までの集計データ(※メディアクリエイト調べ)では,約425万本の販売を記録。発売から2か月以上が経過した今なお,週間販売ランキングの上位に位置する,文字通りの“モンスター”ソフトである。
今回4Gamerでは,企画意図や開発時のエピソード,プレイヤーとして疑問に思ったことなどさまざまな話を,プロデューサーの辻本良三氏と,ディレクターの一瀬泰範氏に聞いてきた。
ナンバリングタイトルとしての新しい要素を加えるために
蓄積したノウハウを駆使して一から新しいシステムを構築
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは「3rd」で,開発の軸となった考え方を教えてもらえますか?
今回は,「3rd」というナンバリングタイトルとして「何をせなアカンのか」というところを詰め込もうと考えました。
「ポータブル」シリーズは,これまで段階を踏んでリリースしてきて,プレイヤーさんの数もそれに伴って増えています。皆さんの遊び方も広がっていますから,そこに対して何を提供していくのかというアイデアを,約2年半の開発期間の中でドンドン詰め込んでいったという感じですね。
4Gamer:
今回は,和風というか東洋風のデザインがビジュアル面で大きく押し出されている印象を受けました。この方向に決まったのはいつ頃だったんでしょうか?
辻本氏:
最初からですね。一瀬が「今回は“和”でいきたい」と。といっても“和”だけではなくて,さまざまな要素が入り混じった独特のテイストに仕上げています。
「モンスターハンター」では,シリーズを通じてさまざまな文化圏を取り上げてきましたが,“和”に関しては細かい部分だけで,メインモチーフにしたことはなかったんですね。また,企画当初,チームでアイデアを持ち寄ったときに,システム周りも含めて“和”の要素と相性のいいものが多かったんですよ。
4Gamer:
たとえば,集会浴場の温泉などですか?
一瀬氏:
ええ。“和”は皆が想像しやすいものですから,チームで開発を進める際の大きなテーマとして機能しました。
ただ,完全な“和”にしてしまうと,戦国時代や時代劇のようなイメージになりかねないので,ほかの要素を加えて“和”に寄り過ぎないようにすることも大きなポイントでした。「モンスターハンター」の世界観にどうやって落とし込むかは,かなり試行錯誤しましたね。
4Gamer:
「3rd」を最初にプレイしたとき,グラフィックスがすごく綺麗になったと感じました。そうした作り込みもまた,ナンバリングタイトルとしての意気込みの表れだったんでしょうか?
辻本氏:
もちろん,ナンバリングタイトルだからこれまでよりも綺麗にしようという大前提はありますが,その段階での最高のグラフィックスを実現しようというのは,毎回いろいろと試しているんです。
「2nd」と「2nd G」の間では,開発期間などの関係であまりチャレンジができませんでしたけど,「3rd」の場合は,一から新しいシステムを構築するという大きなチャレンジをして,いわば更地から積み上げることができたんです。
4Gamer:
システムを一新したからこそ,実現できた表現ということですか?
辻本氏:
一番大きな違いは,色数が増えたことですね。その分,鮮やかで綺麗に見えるというのが根本にあります。仮に「3rd」のグラフィックスと同じレベルのものを「2nd G」のシステムで実現しようとしたら,別の要素を削らないとできなかったことなんですが,今回,更地にしていろいろなことを検証した結果,実現ができたんです。
一瀬氏:
これまで「ポータブル」シリーズを開発してきて,長くPSPに携わってきた経験が大きく活きたといえます。経験があったからこそ,キャラクターにしろ背景にしろ,ソフト側でグラフィックスをより良く見せる提案ができたんですよ。
4Gamer:
「3rd」では,インタフェースは馴染み深いままグラフィックスが綺麗になったというイメージを受けたんですが,“更地にした”ということは,内部的にはかなり変わっているんですか?
辻本氏:
もう全然違います。いってしまえば「2nd G」は,もうシステム的に限界で,それ以上のものは作れない状態だったので,「3rd」にナンバリングタイトルとしての新しい要素を加えるためには,どうしても更地から一つずつ積み上げていく必要がありました。
現場では,これまで培ったノウハウを踏まえて,新しい部分を作ったり要らない部分を削ったりと,いろいろとやり繰りをしていましたね。
新フィールド「渓流」を闊歩する“山の王”ジンオウガ
メインモンスターの必須条件“カッコよさ”を追求
4Gamer:
それでは,「3rd」のメインモンスターであるジンオウガについて教えてください。これまでのシリーズだと,メインモンスターは空を飛んだり水中を泳いだりというイメージがあったので,「3rd」のメインを張るジンオウガが,地に足をつけたモンスターだというのが意外でした。
メインモンスターを企画するとき,最初に考えるのは「新しいモンスターを作ろう」「看板になるようなビジュアルにしなければならない」という2点なんです。そこに加えるものとして,例えば空を飛ぶことによる面白いアイデアがあったなら,飛竜になっていたかもしれません。
4Gamer:
今回は,そうではなかったわけですね。
一瀬氏:
ジンオウガの場合は,カッコよくて“和”を連想させる生き物ということを考えて,狼をモチーフにしました。頭の角は,狼の耳にも鬼の角にも見えるようなデザインになっています。一方,顔や色味は,東洋の龍を思わせるアレンジを加えています。
イメージ的な部分では,例えばリオレウスなら“空の王者”,ラギアクルスには“海洋の王者”という二つ名がありますよね。
今回は,ちょうど新フィールドの「渓流」を闊歩するイメージとも重なりますし,“山の王”というテーマがいいんじゃないかというアイデアが出ました。そういったさまざまな部分を考えながら,ジンオウガの動きや遊び方を作っていったんです。
辻本氏:
メインモンスターに必要なのは,絶対に“カッコいい”ことなので,誰が見ても「カッコいい」「コイツがメインモンスターだ」と思うデザインと動きにしなければならないんです。
抽象的になってしまいますが,メインモンスターのコンセプトって,突き詰めると“カッコいい”に集約されるんですよ。
一瀬氏:
デザイン面に関してはもう一つ,シリーズのパッケージを並べたときに,違う印象を与えなければならないという事情もあります。「似たようなパッケージを見たことがある」となってしまうと,新しさが見えてきませんから。
なので,「ポータブル」シリーズでパッケージを飾ってきたリオレウスやティガレックス,ナルガクルガとは全然印象の異なるモンスターを意識しています。
4Gamer:
パッケージデザイン一つを取っても,考える部分はたくさんあるわけですね。
辻本氏:
もちろんです。タイトルロゴやパッケージビジュアルは,ソフトの顔にもなるものなので,かなりこだわりを持っています。
そういう意味では,イメージカラーも重視しています。
一瀬氏:
ゲーム全体は“朱”をイメージカラーにしているんです。
辻本氏:
シリーズを通じて,スタート画面の背景の色がイメージカラーなんですよ。
4Gamer:
そういえば,「2nd」は水色,「2nd G」は緑ですね。そういう部分に注目すると,また違った印象を受けますね。
モンスターの話に戻りますが,メインモンスターはどのタイミングで決定するんですか?
辻本氏:
一番最初です。メインモンスター,最終的にチャレンジするモンスター,序盤に出てくる教育役のモンスターは,ゲームの流れの中でポジションが決まっていますから,最初に決めます。
一瀬氏:
その3種類の中でも,メインモンスターは皆さんが一番遊ぶ機会の多いモンスターですから,何度遊んでも面白くなるように,最も力を入れています。
4Gamer:
でき上がるまで難産だったものなど,今振り返ると思い出深いモンスターはどれですか?
一瀬氏:
今回はジンオウガでしたね。一番苦労したのもジンオウガです。
4Gamer:
「3rd」では,新しい亜種モンスターも数多く登場していますが,通常種との差別化で苦労した部分はありましたか?
一瀬氏:
そこはアッサリ……というわけでもないのですが,比較的,苦労はしませんでした。
通常種と亜種で生息地域を同じにしてしまうと,遊びの幅が広がりにくいので,生息フィールドを変えるなど,それぞれ手を加えています。
クルペッコ亜種 |
ロアルドロス亜種 |
「遊び方の幅を広げること」を常に考えて
新しい仕掛けでコミュニケーションのきっかけを
4Gamer:
「3rd」では,特定の条件を満たすと採掘や採取ができるモンスターが何頭かいますよね。この要素はどういった経緯で入ることになったんですか?
一瀬氏:
モンスターにダメージを与えるチャンスだけど,素材を入手するチャンスでもあって,どちらにするかは自分で選択できるといった,遊びの幅が広がるようなゲーム性の駆け引きを加えたかったんです。
4Gamer:
たいていは,物欲全開で素材を狙いに行っちゃいますね。間に合わないことも多いですけど……。
辻本氏:
それもまさにゲーム性の駆け引きですよね。欲を出して素材を取りに行ったら,逆にダメージを受けたり。
一瀬氏:
複数人で遊んでいるときなら,初心者は素材を取りに行って,上手い人がダメージを与えるという連携もできますし,そういったコミュニケーションの手段として使ってもらえるように意識しました。
たとえば,初めてドボルベルクのクエストに行ったとき,アイテムボックスにピッケルが入っていたら,「何で? 何かあるのかな?」と思いますよね。
4Gamer:
確かに。人と一緒なら「狩猟クエストなのに,なんでピッケルが入っているんだろう?」と,コミュニケーションのきっかけになりますね。
一瀬氏:
特定の属性ダメージで肉質が変化するモンスターがいるのも同じ理由で,「僕はこの属性を持っていくから,君は別の属性で頼む」といった,コミュニケーションが取れるように組み込んでいるんです。
4Gamer:
ゲームに慣れてくると,モンスターの弱点属性を突こうと考えがちになるところを,弱点属性以外の武器を持っていく意味が出たところは,特に新鮮に感じました。
辻本氏:
そうやって,常に遊び方の幅を広げようと考えているわけです。
4Gamer:
新しい遊びといえば「乱入クエスト」もありますよね。今回,こういった形式を取った理由を教えてください。
一瀬氏:
乱入クエストは,イビルジョーの特性をどうやって「ポータブル」シリーズに活かすかを考えた結果です。「モンスターハンター3(トライ)」だと,イビルジョーはクエスト中に乱入してくるのですが,「3rd」では仕様の都合で,同じ形式にできなかったんです。開発中に試してはみたんですけど,システムの都合上クエスト開始時点で乱入することが分かってしまうので,ドキドキ感がまったまったくなくなってしまいやめました。
4Gamer:
それで「狩猟環境不安定」という形で,乱入クエスト発生の可能性を匂わせる形にしたわけですね。
一瀬氏:
なので,どちらかというとボーナスクエストに近い位置付けにしています。
一つ目標を達成したら,さらに強いモンスターがやって来る。それにチャレンジしてボーナスを狙ってもいいし,村に戻って当初の報酬を得てもいい,という意味合いをプラスしました。
実はこの件に限らないんですが,基本的には「『3rd』として面白くするためにどうするのか」ということだけを考えて作っています。「『3(トライ)』や『2nd G』がこうだから『3rd』はこうした」という例はほとんどないんですよ。
辻本氏:
乱入でいえば,ジンオウガとの初対面に驚いてもらえただけでも大成功ですよ。今はもう,ご存じの方も多いでしょうが,最初の感動としてうまく印象づけられたと捉えています。
4Gamer:
最初はかなり焦りました……。
あと,小型モンスターに新しいものがいると新鮮に感じますね。
一瀬氏:
小型モンスターがいてこそ,大型モンスターの魅力が映えるという部分があります。たとえば,どのフィールドに行っても,アプトノスしかいないとなると少し寂しいですよね。新しいフィールドも増えたこともあって,今までと違う生態を持つ新しい小型モンスターを追加したんです。デザインも設定も,皆さんが世界観に沿って想像を膨らませる余地のあるものになるよう,心がけました。
辻本氏:
ガーグァは世界観的にも大活躍していますよ。至るところに出てきますし(笑)。
4Gamer:
攻撃したら卵を落とすとか,個人的には初対面のジンオウガ並みに印象に残っています(笑)。
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