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海外ゲーム四天王 / 第40回:「NecroVisioN: Lost Company」
舞台は第一次世界大戦のヨーロッパで,相手は悪魔で,ポーランド生まれのPC専用タイトルで,ゲームシステムは近接戦闘が主体で……。うーむ,どこをとっても狙ったようにニッチな「NecroVisioN: Lost Company」が今週の「海外ゲーム四天王」のテーマ。最近のマイルドで,かゆいところに手が届くような北米産FPSタイトルとは一線を画す骨太さが魅力のこの一本に,胴回りはすっかり太くなったが,骨はあんまり太くない編集部の松本が挑んでみる。
ポーランドのデベロッパ,The Farm 51が制作し,2009年に発売した「NecroVisioN」は,第一次世界大戦に参加した一人のアメリカ兵が,その背後で戦われていた悪魔と吸血鬼の闘争に巻き込まれて最後は地球を救うという,そこだけ聞くとほとんどわけが分からないが,そんなストーリーのFPSだった。
前半は地上でゾンビのようになった兵士を相手に,後半は怪しげな魔界で異形のクリーチャーを相手に蹴って撃って手榴弾ドーン! の爽快な戦いを演じられたのだが,必ずしもトリプルAのタイトルというわけではなく,むしろアクが強すぎて,Metacriticsのメタスコアも63点と,メディアのウケも今一つだったりする。しかし,同時になんだか熱いファンも獲得してしまった模様で,ついに2010年2月,続編となる「NecroVisioN: Lost Company」(以下,Lost Company)がリリースされたのだ。今回の「海外ゲーム四天王」は,そんな異色すぎる東欧産FPSを紹介したいと思う。
英語には“Prequel”という便利な言葉があり,意味は続編の(時間的な)反対。とはいえ,日本語の前編では,あらかじめ二つ(ないし三つ)に分かれた物語の最初の部分という感じなのでちょっと違うかな。Lost Companyは日本語的に言うと,NecroVisioNのPrequel,つまり前の時代を描いた続編となる。
主人公はドイツ軍の兵士で,前作同様,この世の裏側で戦われていた戦争に巻き込まれていくわけだ。ネタバレ気味とはいえ,Steamのゲーム紹介のところにちゃんと書いてあるのでここにも書いちゃうが,彼の名前はZimmerman。分かる人には分かるが,やがて彼はネクロマンサーとなり,前作の主人公Simon Buknerと戦うことになるのである。というわけで本作は,いってみれば映画「スター・ウォーズ」のエピソード1〜3で描かれる,アナキン・スカイウォーカーのフォース暗黒面堕ちのような話だ。「今日から,ダース……えーと,ベイダーと名乗るがよい」というあの名シーンが思い出されてならない。
前作がコアなFPSファンを獲得した理由は,NecroVisioNには「かつてのFPS」の香りが濃厚だったからだ。最近の至れり尽くせりのFPS,例えば親切なチュートリアルや,プレイするにつれ段階的に学習できる練り込まれたレベルデザインなどに背を向け――って,制作者が意図したのかどうかは分からないけど――ともかく出てくる敵を撃って蹴って殴って倒していけばいいのじゃ,という雰囲気が懐かしくも不条理で面白い。
NecroVisioNシリーズの戦闘の特徴は,銃とメレーアタック(近接攻撃)が主体になることだ。銃撃とメレーアタックを組み合わせると“コンボ”が成立し,コンボを続けると画面に「Fury Level」が現れ,攻撃力がパワーアップ。さらにコンボを持続することでそのFury Levelが上昇し,パワーアップの持続時間がますます延長されるというダンドリになっているのだが,そのへんのことがゲームではまったく説明されず,メーカーからの情報でもほとんど分からないという非常に男らしい仕様になっている。私のようにSteamで購入した場合,マニュアルさえないのだ(※2010年4月16日追記。Steamフォルダのsteamapps/necrovision lost company/Binに,“manual.pdf”が入っています。お詫びして訂正します)。
さらに,Fury Levelをすばやく上昇させるシークレットアイテム「Vampire Artifact」(マップの隠し部屋などで見つかる)についても,当然説明されておらず,そのせいで,やたらと難しいゲームになっていたりする。で,それをゲーム中でいろいろと試すなりネットで調べるなりした「選ばれし勇者達」が,一般人は何も知るまいウフフという感じでファンになっているようなところもあり,要するに,制作者の思う壺なのかも?
今回のLost Companyも前作と同様のシステムが採用されているが,敵がかなり強くなっており,コンボのつながり難さがファンの間で指摘されている。コンボをつなぐためには,敵が一度にたくさん出てこなくてはならず,その一つ一つが固くなってしまったので爽快感に欠けるのだ。もっとも,私は前作でも指さばきがうまくついていかず,あまりコンボがつながらなかったので,気にならないといえば気にならなかった。操作が巧みであることは,必ずしも幸せなことではないと思う。
そういえば,「Wolfenstein 3D」だって「DOOM」だって「Duke Nukem」だって,説明なんかなしでいきなり最前戦。これってどうやるの? どう戦うの? という議論からファンのコミュニティができあがり,情報交換を重ねるにつれてうまくなり,やがてハマっていったという経験をしたオールドゲーマーも多かった。ネットで手軽に検索ができ,難しいと思えばやめ,たっぷりある別の手軽なゲームを遊ぶという現在の状況とは異なるわけだが,まあ,昔の話はともかく,そんな突き放したあたりにNecroVisioNシリーズの魅力があるのではないだろうか。違ったらごめんなさい。
第一次世界大戦というシチュエーションの珍しさもあるし,グラフィックスはさすがにちょっと古いかもしれず,そのへんだけはなんとかしたほうがいいんじゃないかという気はするものの,これもまた味かも知れないという気持ちもあったりして,なんにせよ「キミって普通じゃないね」と言われやすい人は挑戦してみるべし。
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